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INTERVIEW / TOSHIKI HAYASHI (%C)


chelmico、パ娘。、JBHFCらを支えるビートメイカー/DJが新作をリリース。シーンで暗躍する彼のこれまでのキャリアを追う

2017.11.12

神奈川発、行き先不明多国籍ヒップホップ・グループ・HOOLIGANZのメンバーとしても活動し、昨今ではパブリック娘。、chelmico、JABBA DA HUTT FOOTBALL CLUBなどのバックDJも務めるなど、国内ヒップホップ・シーンで暗躍する実力派ビートメイカー/DJである%C(パーシー)ことTOSHIKI HAYASHIが10月25日(水)に3rdアルバム『THREE』をリリースした。

〈OMAKE CLUB〉からのリリースとなった本作は、鈴木真海子(chelmico)やCBS、TOKYO HEALTH CLUBといった親交の深い面々から、Kan Sano、JJJ、CHIYORIといった初絡みの豪華な面々をフィーチャーした、ポップに開けた作品となっている。間にインスト楽曲を挟みつつも、これまで以上に広い層へとアプローチし得る可能性を大いに抱いた傑作だ。

そもそもビートメイカーとして様々なアーティスト、グループへのビート/トラック提供を長年行ってきた彼は、これまでどのようなシーンを渡り歩いてきたのか。今回はそんな彼にインタビューを敢行。これまでの道のりを追いかけつつも、今作制作の裏側を探ることに。

Interview & Text & Photo by Takazumi Hosaka


――今作『THREE』の話をお伺いする前に、まずは%Cさんのキャリアについてお聞きできればと思います。Bandcampでは2011年5月にリリースされたビートテープ『About 1 Percent』が一番古いリリースになりますよね。

HAYASHI:そうですね。あとは同時期にHAIIRO DE ROSSI & TAKUMA THE GREATの『HISTORY』(『Forte Presents “HISTORY” mixed by DJ %C』)っていうミックスCDも出していて。

――%CさんはHOOLIGANZのメンバーとしても活躍しつつ、今おっしゃったミックスCDもそうですが、2013年には1stアルバムとなる『Pct.Pepper’s Lonely Beats Club Band』もHAIIRO DE ROSSIさんが主宰する〈FORTE〉からもリリースしています。彼らとはどのようにして繋がったのでしょうか?

HAYASHI:地元が相模原なんですけど、ちょうど今から10年くらい前にNORIKIYOさんの1stアルバム『イグジット』とかTKCさんの『百姓一揆』、サイプレス上野とロベルト吉野さんの『ドリーム』とかがリリースされたタイミングで、同じ高校のヒップホップ好きなやつに教えてもらって、そこからヒップホップを熱心に聴き始めました。それが高校2年くらいでしたね。最初はグラフィティとかを見に行ったりしてただけだったんですけど、その時よく一緒に行っていたのが今tajima halっていう名前でビート作ってるやつで、後に彼にビートメイクを教えてもらいながら、町田 West VOXっていうクラブでライブやDJをするようになり。それくらいの頃に丁度HAIIRO DE ROSSIさんが出てきたんですよね。池袋のCOLOR(DJ Bar Color)だったかな? そこら辺のクラブに観に行こうってなって。そこでやってる”Rainy Channel Posse”のイベントや、Eccyさんとかがやってた新宿MARZの”ECSTASY TRAIN”っていうイベントとかによく遊びに行くようになり、そこからHAIIRO DE ROSSIさんのバックDJをやるようになり。

――何度か遊びに行くうちに、面識が出来て?

HAYASHI:そうですね。元々ビートとかも作っていたので、その流れでHAIIRO DE ROSSIさんとかのアルバムにも参加するようになって。その後、彼が〈FORTE〉を作るっていう時くらいに、HOOLIGANZも結成して……っていう感じですかね。今に至る最初のキッカケは。

――さっきおっしゃったNORIKIYOやTKCは、%Cさんにとってはやはり特別な存在だったのでしょうか?

HAYASHI:それまではFヨコ(FM yokohama)とかで流れてきたOZROSAURUSさんとか、あとは普通にメロコアとかをチェックしてたんですけど、さっき上げた作品とかは、ジャケ写とかで使われている写真とか、MVの舞台が普通に自分の家の近くだったりしたんです。『イグジット』のジャケは自分が通っていた高校の裏のゴミ廃棄場みたいなところだったりとかして、すごく身近に感じられて。

――自分でラップしようっていう方向にはいかずに、最初からDJやトラックメイクの方に進んでいったんですね。

HAYASHI:そうですね。なんでなのかは自分でもわからないですけど。

――HOOLIGANZの結成は2011年頃となっていますが、メンバーとも現場で知り合ったのでしょうか?

HAYASHI:TAKUMA THE GREAT、万寿はそれぞれ別で活動していたんですけど、僕がレギュラーで出演していた渋谷FAMILYでのイベントに一緒に出ていて。それが出会いですね。RHYMAHOLIKSがやっていた”MOMENT”っていうイベントで。僕が20歳くらいの時ですね。

――同時期に、先述したビートテープ『About 1 Percent』をリリースすることになりますね。

HAYASHI:この頃はそういうのがすごい流行ってたんですよね。ビートテープをBandcampでリリースするっていうことが。ちょうどそういうシーンみたいなところにも友達がいっぱいできて。bugseedとかPigeondustとかILL.SUGIとか、とにかく色々なビート・メイカーが活躍していて、そういうやつらと一緒にイベントもやったりしていましたね。
その後、2013年に1stアルバム『Pct.Pepper’s Lonely Beats Club Band』を出すんですけど、今見ると結構おもしろいメンツといっしょにやっていて。

――そうですね。DJ 松永さんもいますし、HOOLIGANZやHAIIRO DE ROSSIなどはもちろん、CBSともこの頃から一緒にやっていますね。

HAYASHI:山口のラッパー・BUPPONさんもこの時から参加してくれていて。今年6月に『LIFE』っていうアルバムをリリースされたんですけど、そのアルバムにも僕がトラックを2曲提供していて。CBSとはどこで知り合ったんだっけな。確かbashoさんとは高2くらいの時に会ってて。相模原に横山公園っていう大きい公園があるんですけど、そこで僕がBMXをやってたら、近くスケートをやってたbashoさんに話しかけられて友だちになり。その後橋本でデカいイベントがあって、そこでbashoさんと再開したんですよね。それから一緒に遊ぶようになり、CBSにも繋がりました。厳密に言うとこのアルバム(『Pct.Pepper’s Lonely Beats Club Band』)をリリースした時はCBSのメンバーとは会ってないんですけど。でも、この頃から彼らもBandcampでリリースしていたんで、作品を聴いて、一緒にやりたいっすって言って。

――続く2014年には〈LAZY WOMAN MUSIC〉から2ndアルバム『b(ackr)oom sounds』をリリースしています。

HAYASHI:あれはレーベル主宰の方が声かけてくれたので、「じゃあ出します!」っていう感じで作ったやつですね。レーベル自体がインストゥルメンタル・ビート・ミュージックに焦点を絞ったところなので、これは完全にインストで。

――ちなみに、以前パブリック娘。にインタビューした際、彼らのバックDJをするようになったのが2011年の川崎クラブチッタという話でしたよね。それを契機に、ここまでお話頂いた界隈とはまた少し異なるシーンとも繋がり始めたという感じなのでしょうか?

HAYASHI:違う界隈で〜というよりかは、単純に同い年の友達とやり始めたっていう感じですね。それまでは先輩たちと一緒にやるっていう感じだったんですけど。もちろんパブリック娘。のメンバーも僕と同じようにルーツに先達の日本語ヒップホップがありつつ、その上で、何ていうか平成生まれっぽい感じを出してるのがおもしろいですよね。

――彼らとの出会いが、後のJABBA DA HUTT FOOTBALL CLUBやchelmico、そして今回のアルバムのリリース元でもある〈OMAKE CLUB〉と繋がってくるんですね。

HAYASHI:そうですね。2013年頃にパブリック娘。の”オールスター感謝祭”っていうイベントがあって、そこでCBSの面々がパブリック娘。と初対面を果たして。あの時はジャバやchelmicoはいなかったですけど、後に”NEW VACANT STORE”(JABBA DA HUTT FOOTBALL CLUBも所属する〈NXNG〉主宰のイベント)で集まるようなメンツの土台がその頃からできてきたような感じもしますね。

――そういう意味では、”NEW VACANT STORE”はその辺りの若いメンツを、わかりやすい形でまとめて提示してくれる存在でしたよね。

HAYASHI:はい。TOKYO HEALTH CLUBや〈OMAKE CLUB〉もジャバと知り合ってから話すようになった気がしますし。今回の作品の前に、インストのビートを集めた『Soso』っていうアルバムを〈OMAKE CLUB〉から配信リリースしているんですけど、あれもTSUBAMEさん(OMAKE CLUB主宰/TOKYO HEALTH CLUB)が2016年に僕がBandcampでリリースした『karakusa』を気に入ってくれてたみたいで、それがキッカケでリリースすることになったんです。

――リリース・ペースはかなり早いですよね。

HAYASHI:基本的にビートは常に作っているので。ただ、今回のアルバムに入っているものは、作り溜めて置いたものではなく、ここ最近に作ったものばかりですね。

――今回のアルバム『THREE』は2ndアルバムや先述のビート・テープ的な作品から一転、参加ゲストもとても豪華ですし、グッと華やかに、そしてポップな作品となった印象を受けます。

HAYASHI:聴きやすい、わかりやすい、っていうのは心掛けました。インストだけでは届かない層にもアプローチしたいっていう思いもあります。単純に、普段あまりヒップホップを聴かないような人にも聴いてほしいんですよね。それこそ僕が大好きだったKan Sanoさんとかもゲストで参加してくれていますし。

――Kan SanoさんとJJJさんが同じ曲で共演しているのもすごいことですよね。

HAYASHI:普通だったらありえないですよね(笑)。これは実はTSUBAMEさんのアイディアで。Kan Sanoさんと作ってる段階で聴かせたら、「ラップを入れたほうがいいんじゃないか」って言われて。
(JJJは)僕と同い年なんですよね。前々から親しかったわけではないんですけど、STUTSとかもそうで、渋谷NO STYLEとかでやってたイベントによく出てたメンツとして、20歳くらいから知ってて。あと、MGFは1010っていうやつがいて、(パブリック娘。)の清水と友達だったというのもあって、昔から仲良くしていて。MGFのパーティとかにもDJとして呼んでくれたりしてたのでそういった繋がりで今回参加してもらいました。

HAYASHI:今作に参加してくれているメンツで、昔から知ってる人でいうとJ TEMPLEもそうですね。これはPODくんっていうやつと、Kanomakerくんと、veehesっていうtajima halの別名義からなるユニットです。ちなみに、今回ミックスを手がけてくれたのが〈Pistachio Studio〉のryo takahashiさんなんですけど、その辺も信頼できる人に頼むことができたなって思いますね。

――ラップやフックのリリックなどは、基本的に客演陣が担当を?

HAYASHI:そうですね。曲の雰囲気やイメージを伝えることもありますけど、基本はお任せしてますね。タイトルも結構決めてもらったものが多くて。客演なしのインストの曲はメキシコのプロレスラーの名前です(笑)。

――「Niebla Roja」、「Atlantis」、「Mistico」の3曲ですね(笑)。

HAYASHI:曲名決めるのが苦手過ぎて、自分の好きなメキシコのプロレスラーから取ってきちゃいました(笑)。

――今回、%Cさんが投げたビートに対しての返しで、一番驚きがあったのは?

HAYASHI:やっぱり「little life (feat. Kan Sano & jjj)」ですかね。最初にお渡ししたのはシンプルなビートだったんですけど、その上に声とキーボードを乗せてくれて。これが自分の想像以上にバッチリ過ぎて、流石だなって思いました。
MGFが参加してくれた「like a plane (feat. MGF)」も、MGF節全開というか。メロディアスに歌ってくれて、すごいよかったすね。返ってきた素材を元に、展開は少し自分でイジったりもしましたけど。あと、「金木犀 (feat. 鈴木真海子)」は最初、違うトラックの予定だったんですよ。でも、いざレコーディング当日に「最近こういうビート作ったんだよね」って聴かせたら、「こっちのがいい」って言い出して。その場で全部作り直して、録りました(笑)。

――では、一番難産だった曲は?

HAYASHI:「平和 (feat. TOKYO HEALTH CLUB)」ですかね。これは結構作り直しをしましたね。テーマは最初から「平和」だったんですけど、ラップを大幅に変えたり、サビとかも二転三転した感じですね。

――%Cさんの現在のトラック作りのプロセスはどのような感じなのでしょうか?

HAYASHI:前はMPCを使っていたんですけど、今は「Ableton」(DTMソフト「Ableton Live」)ですね。ネタは相変わらずレコードから持ってきます。ディスクユニオンとかに行って、安い中古コーナーとかを漁って。

――今後の展望として何か考えていることがあれば教えてください。

HAYASHI:ひとりのラッパーとガッチリ組んで一枚のアルバムを作ってみたいですね。誰とやりたいかとかはまだ全く考えてないですけど。これまでのビート・テープとかアルバムでは、ひとつのテーマやコンセプトを掲げて作るっていうことがなかったので、そういうのをやってみたいんですよね。やっぱり、ビート・メイカーのアルバムって色々な人が客演するのが当たり前なので、一貫性を出すのはなかなか難しいんですけど。Kendrick LamarとかRhymester、あとはQUASIMOTOみたいに一貫性のあるアルバムにも挑戦してみたいんですよね。

HAYASHI:ビートやトラックの作り方に関しては、サンプリングだけじゃなくて、弾いてもらったりして作ってみたいですね。もちろん自分でも弾けるようになれればいいんですけど。最近、弾いてもらった音をサンプリングするっていう方法も試してみているんですけど。今作で言えば「Remind (feat. CHIYORI)」とか「like a plane (feat. MGF)」でそういう作り方をしていますね。SR23さんっていうHOOLIGANZとかのエンジニアとかをやってくれている方にお願いして。今回は何か、色々な人を絡めてみたかったというか。前作(『b(ackr)oom sounds』)は逆にほぼひとりで作っていたので。結果、やり取りとか諸々含めて結構大変でしたけどね(笑)。

あと、鈴木真海子とはもっと一緒に曲を作ってみたいですね。彼女のソロ作『DEEP GREEN』でも「Blue」っていうMVになっている曲と、リミックス(「Contact TOSHIKI HAYASHI(%C)remix」)で関わっているので。もちろんHOOLIGANZとしての活動も続けていきたいと思ってます。今年5月にも『Tune Up Holiday』っていうアルバム出してるので、ぜひチェックしてください。


【リリース情報】

TOSHIKI HAYASHI (%C) 『THREE』
Release Date:2017.10.25 (Wed.)
Label:OMAKE CLUB
Cat.No.:CD_TO079
Price:¥1500 + Tax
Tracklist:
1. like a plane (feat. MGF)
2. Bubblicious (feat. J TEMPLE)
3. Niebla Roja
4. 金木犀 (feat. 鈴木真海子)
5. little life (feat. Kan Sano & jjj)
6. Atlantis
7. Remind (feat. CHIYORI)
8. Ready or not (feat. CBS)
9. Mistico
10. 平和 (feat. TOKYO HEALTH CLUB)

■TOSHIKI HAYASHI (%C) SoundCloud:https://soundcloud.com/pcskiiler


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