台湾・高雄出身の4人組バンド、Shallow Levée(淺堤)。ボーカル・Yi-Ling Tsai(依玲/イーリン)の優雅なボーカルと各パートの技術が調和するフォーキーなサウンドを主軸に進化し続け、コロナ禍のなか『不完整的村莊 The Village』(2020)、『婚禮之途 Endless Playlist』(2021)の2作のアルバムを発表。国内外からの注目を集めている。
11月3日(土)に開催されたサーキット・イベント『BiKN shibuya 2023』(以下、BiKN)でおよそ5年ぶりの来日を果たした彼らに、バックステージでインタビューを敢行。今注目している音楽やバンドのサウンド・メイクについて訊いた。
Text by Megumi Nakamura
Photo By Shallow Levée、筆者撮影(一部)
――お久しぶりです! 2018年の日本ツアー以来5年ぶりの来日ということで、自己紹介も兼ねて、最近聴いている音楽を教えてください。
Yi-Ling(Vo., Gt.):ボーカルとギターのYi-Lingです。Shallow Levéeの作詞・作曲は主に私が担当しています。音楽性で影響を受けているのはシカゴのWilco。オルタナティブ・ロックとシカゴ土着のフォーク要素のバランスが好きです。
Patrick(Ba.):ベースのPatrickです。自分は2019年に地元の高雄から台北に引っ越して、バンド活動の傍らフリーランスで台湾のライブハウスやコンサート・ホールでサウンド・エンジニアとして働いています。『BiKN』にも出演したSorry Youth(拍謝少年)のライブで裏方をしたこともあります。台湾のロックを聴くことが多くて、最近のリリース作品ではMidnight Ping Pong(午夜乒乓)のアルバム『心建築 Heart Reconstructs』が最高ですね。感情に溢れ、心臓の音までもが伝わってくるようで。それから、I’mdifficult(我是機車少女)も好きです。
Hong-Cha(Gt.):ギターのHong-Chaです。自分はフィッシュマンズ、The Strokesの子どものような遊び心が好きです。大人になった今も(笑)、学ぶことがとても多いです。
Sam(Dr.):ドラムのSamです。僕は創作のインスピレーションを求めて音楽を聴くことが多いです。最近はToto、Steely Dan、Stevie Wonderなど80年代の音楽のプレイリストをよくシャッフルしてる。同じリズム・パターンの繰り返しの中でボーカルの魅力をどう引き出すか、というテーマを日々研究中です。
――今日はそんな4人のサウンドについてお聞きしたいと思います。まず、近年の大きなトピックといえば、ドラマーがTu(Chia-Chin Tu/涂嘉欽、現在はElephant Gymの活動に専念)からSamに代わったことが挙げられると思います。それによってどのような変化が起きましたか? プレイスタイルは少し影響を受けてるのかなと思ったのですが。
Yi-Ling:Tuは繊細にディテールを作り込んでいく感じだけど、Samはもともとパンク・ロックをやっていたので、より骨太な感じ。2人のルーツは全く違うけれど、似ているとしたらなんだろう……。
Sam:実はTuとは高校の同級生であり、ライバル的な存在でもあるんです。自分では影響を受けている自覚はないですね(笑)。強いて言うなら、大きいライブハウスでも小さいライブハウスでも、あるいはアコースティック・ライブでも気持ちよく聴いてもらえるようなフレーズを作るということ。ライブではドラムを叩く強弱をそのステージに合わせて抑制するようにしているんです。スティックを当てるときの力をコントロールすることを意識しています。
――その力の抑制の部分が、Tuの繊細さを思い出すのかもしれません。でも、ルーツは違うんですね! ライブを観ていて、バンド全体のエンジン役を担っているのはPatrickのベースなのかなと思うのですが、その点はどうですか?
Patrick:そうですね……(しばらく熟考)……わかった! 自分にとって理想のベースはリズムとコードが調和して響き合うことだと思っていて、そういうプレイスタイルを自然と意識しています。なので、どこか華に欠けるかもしれないんだけれど(笑)、リズム隊の呼吸を合わせることに重点を置いています。ドラマーがトゥにせよSamにせよ、呼吸が合ったなぁって実感できるまでには結構時間がかかったのだけど……。
――なるほど。ちなみにYi-Lingの声を活かすために、Hong-Chaが考えていることはありますか?
Hong-Cha:音作りという点では、演奏中にYi-Lingの声と被らないようにイコライザーをやや低めに設定しています。それから、昔は好きなアーティストの動画をたくさん観て勉強していたかもしれない。技術を吸収して、試してみるんです。でも最近は、自分のプレイのビデオを見直して、お客さんの反応を見ることが多いです。ステージに立つときはいつも集中して、その瞬間を楽しむように努めています。それが僕にとって最大の挑戦なんですけど、上手くいったときの満足感は何物にも代えがたいんです。
――皆のその歩み寄りによって、個性が異なるプレイヤー同士が絶妙に調和してるんでしょうね。
Yi-Ling:実はこの5年間の大きな変化はもうひとつあって、このバンドがもっと大きな存在になっていけるように、バンドのための会社をつくって、まるで正社員のように音楽活動に専念してきたんです。
――それで2作のフルアルバムを2年連続でリリースできたんですね。『BiKN shibuya 2023』でも、1バンド目だからお客さんの入りはどうかな、と思っていたけれど、全然そんな心配要らなかったですね。
Yi-Ling:5年前に来てくれたお客さんとはじめて私たちを観るお客さんが両方来てくれてすごく感激しました。本当によかった。
Hong-Cha:それから、お客さんの音楽に集中して聴いてくれる姿勢にも改めて感激しました。台湾だとスマホ片手が前提になっているから。
――台湾のミュージシャンは皆同じようなことをおっしゃっていました。実際、どう感じていますか?
Sam:台湾にいるとそれが当たり前になっていて違和感もないけど、日本でこんな風に真剣に音楽を聴いてもらえるんだなって。
Patrick:お客さんの音楽に向かう情熱もありがたいし、バンドの演奏技術もスタッフのみなさんも本当にレベルが高いですよね。日本のライブハウスへのリスペクトは尽きません。
――そういえばPatrickさんはもうひとつ、台北のユニット・塑膠Boy(s)のプロデューサーという顔もあるんですよね。バンド活動に活かせてることはありますか?
Patrick:実は僕には元々、サイケデリック・ロックやサーフ・ロックをやるという夢があったんだけれど、台湾にはそうしたジャンルを好きな人がまだ少ないので、実現できなかったんです。でもプロデューサーとして塑膠Boy(s)の作品に関わることで、その夢を叶えられました。サウンドをどのようにアレンジすればより良いものになるかを考えるという視点は、Shallow Levéeの活動にも活かしていきたいと思っています。
――『BiKN shibuya 2023』は“アジアの連帯”をテーマにしたショーケース・フェスなので、アジアの中の台湾のバンドとして、いま思うことを教えてください。
Sam:これまでを振り返ると、コロナ禍の期間中は台湾でライブと制作に専念していたんですけど、みんなが“正社員化”したことで作品やライブも本当に安定してきて、やりたいことに踏み出す環境が整ってきたんです。今後は海外でもたくさん演奏したいし、将来的にはアジアの重要なバンドのひとつに数えられるようになれたらと思います。
Hong-Cha:実は日本に来る前に、久しぶりのアジア・ツアーから帰ってきたばかりのところだったんです。今回のツアーで回りきれなかった、インドネシア、カンボジアなどアジア圏内でまだ行ったことがない国にも素敵なバンドがたくさんいるので、機会があればぜひ行ってみたいです。
Patrick:来年もアジア・ツアーを計画しているので、可能だったら日本でまだ行ったことのない都市に足を運びたいです。大阪とかでもライブができたらいいな。それから、来年は新しいEPのリリースも予定しているので、日本のみなさんにも聴いてもらいたいです!
――最後に、この5年間を振り返ってどのように感じますか? また、バンドの行く末についても教えてください。
Yi-Ling:1st EP『湯與海 Soup and Ocean』(2017年)の頃は社会や故郷の高雄が創作の原点になることが多かったけれど、1stアルバム『不完整的村莊 The Village』(2020)『婚禮之途 Endless playlist』(2021年)のテーマは“自分自身との対話”に重点を置いています。メンバーも30歳を超えたし、自分と改めて向き合おうって。高雄から台北への移動中、湧き上がる想いにインスパイアされることも多かったです。
サウンド面では、これまでのShallow Levéeはリズムが軽めのものが多かったけれど、来年リリース予定のEPはよりアップビートに変えていこうと思っています。今からリズムの感覚を調整するところです!
――ありがとうございます。では来年も日本でお待ちしてます!
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