INTERVIEW

Noga Erez

「このアルバムは“あなた”へのもの」――イスラエルで生きるNoga Erez、パーソナルな体験、思い出を込めた『KIDS』を語る

衝撃的な1stアルバム『Off The Radar』からおよそ4年の月日を経て、イスラエルを拠点に活動するNoga Erezが待望の新作『KIDS』を前作と同じくドイツの名門レコード〈City Slang〉より3月にリリースした。

彼女のことを知ったのは前作に収録されていた「Dance While You Shoot」がきっかけだった。日本に生まれて、社会で息苦しいと感じることはあっても命を脅かされるようなことを日常で感じることはなかった私は、不穏なビートに乗せて《Can you dance while you shoot?》(あなたは銃を撃ちながら踊れる?)と歌いながら踊る彼女にとてもショックを受けながらも魅了され、一度目のインタビューを行ったのが2017年。戦争や暴力を身近に体験している彼女の生きている世界、見えている景色の違いに圧倒されながら、彼女の発する強い言葉に、“音楽は世界を変えることができるのかもしれない”という幻想を抱いてみたくなった。

Noga Erezは今作『KIDS』でも私たちに容赦なく現実を突きつける。《Peace is dead, now rest in peace》(平和は死んでいる、今安らかに / KIDS [feat. Blimes])――暴力は永遠に存在し、平和は来ることはない、と。音楽を通じて社会問題を訴る彼女の音楽に対する姿勢は全くブレていない。また、前作からの実験的なエレクトロニック・サウンドのスタイルはそのままに、この社会の混沌を反映するかのようなダークネスを含みながらも、さらにポップで踊れるサウンドへと進化。自分の過去と現在、取り巻く人間関係にも向き合いった本作は、ミュージシャンとしても人間としても大きな成長を感じさせる作品だと言えるだろう。

今回もイスラエルを拠点とする彼女にオンラインでインタビューを敢行。イスラエルの現状、世界で起きている問題だけでなく、アルバムで歌われるトラウマを残した支配的な関係、私生活でも音楽制作においてもパートナーであるOri Roussoとの関係、両親との思い出など、彼女のパーソナルの話をじっくりと訊くことができた。そして、またしても彼女の音楽に込める強い想いに圧倒されてしまった。

(※取材日:2021年4月21日)

Interview & Text by Aoi Kurihara
Photo by Shai Franco


「もっと多くの人々に訴えかけるような強い曲を作りたかった」

――こんにちは。あなたにもう一度取材することができてとても嬉しいです!

Noga Erez:ハーイ。日本は今どう?

――感染者が増えていて自粛要請はあるものの、海外のようなロックダウンではないので夜でも出掛けること自体はできて、お店によっては開いているところもありますね。イスラエルはどうでしょう。

Noga Erez:こちらはすでにお店だけでなくライブ・ショーも開催できていて、通常通り出かけられます。みんな完全に昔の自分に戻っていますね。ワクチンはもう打ちましたか?

――いえ、日本はワクチンの提供がとても遅れていて。イスラエルはワクチンが早く提供されていましたよね。

Noga Erez:ええ、大半の人がもう摂取したんじゃないかな。日本よりも小さな国なので、ワクチンをみんなに提供することが早くできたんだと思います。

――そういえば、先日はパリに行ってたようですね。仕事でしょうか? フランスの番組でのライブ・セッションを観ました。

Noga Erez:はい、今は帰ってきているのですが、数週間前にパリを訪れていました。音楽番組のライブ・セッションや取材などの仕事のためにね。

――4月1日、2日に開催したアルバムのリリースを記念したライブ配信ではたくさんのダンサーとのパフォーマンスが素晴らしかったです。迫力があって本当のライブを観ているみたいで感激しました。ぜひ今度は生で観てみたいです。あのライブ配信の準備にはどれくらいの期間を費やしたのでしょうか。

Noga Erez:ありがとう。私たちの熱意が伝わったようで嬉しいです。リハーサルには2ヶ月ほどを費やしました。このショーの具体的なアイディアについてはリハーサルの1ヶ月前ぐらいからディレクターや照明などのメイン・クルーと話し合って作っていきました。でも、このショーをやろうと思い始めたのはもっと前からで、このような状況だからこそ、オンラインで自分たちのエナジーを伝えたいと考えていたんです。

――さて、新作『KIDS』がリリースされました。前作から4年ほどの月日が経っていますが、このタイミングになったのは何か理由が?

Noga Erez:リリースは2021年になってしまったけれど、実は作品自体はもっと前からできていました。ところがパンデミックの影響で延期に延期を重ねて、結局このタイミングになってしまいました。大体のミュージシャンはアルバムをリリースしたらツアーを開始したいと思うのだけど、パンデミックの状況でツアーやライブは難しくなってしまった。その関係でタイミングを見極めるのに思ったよりも長く時間がかかってしまったんです。

――前作は社会問題や暴力に対しての怒りと憤りが込められていた作品でしたが、今作はもっと前向きで、あなたのパーソナルな体験も込められていますよね。サウンド的には引き続きエクスペリメンタルなエレクトロニック・サウンドを軸にしつつ、さらにポップになった印象も受けました。前作と比較して今作がどのように変化した作品か教えてくれますか。

Noga Erez:先ほど話したように前作から長い時間を経てリリースされた作品になります。その間ミュージシャンとして多くの経験をしました。たくさんツアーをして、たくさんのバンドやミュージシャンの演奏を観たり、いろんな人と出会い、多くの曲を聴きました。そして人間としても様々な経験を経て成長したと思います。4年前と比較して自分の考え方や物の見方が大きく変わった。同時に、もっと人々とコミュニケーションを取ることができれば、と思うようになっていきました。

だから、歌詞では人との関係性を歌ったものが多くなり、そしてサウンドとしては、あなたの言う通りエクスペリメンタルなのだけれど、もっと多くの人々に訴えかけるような強い曲を作りたかった。多くの年月をかけて、このアルバムに辿り着きました。


「今作は、もう私だけのものではないと思った」

――「End of the Road」ではあなたのお母さんの声をサンプリングが使われていてとてもクールでした。お母さんとは仲がいいのでしょうか。

Noga Erez:イエス、母親は私が世界で最も敬愛している人物で、私にとって絶大なインスピレーション源です。なぜなら、彼女はいつも真実を語ってくれるから。女性にとって母親との関係というものは興味深いものだと思います。

Noga Erez:それと、ちょうど『KIDS』を制作しようというタイミングで、私のパートナーであるOri Roussoの母親が癌で亡くなって。私たちにとってとても辛い時期でしたが、同時に母親を亡くした彼を見ていて、自分自身の母親に対する感謝の気持ちをより強く自覚したんです。

――「Knockout」では、《But mommy I’m sorry I’m such a shitty child》(だけどママ、こんなひどい子供でごめんね)と歌っていますよね。これは実際にあなたが母親に対して思っていること?

Noga Erez:このセンテンスについて言及してくれて嬉しいです。自分にとって大事なセンテンスなのだけれど、今まで誰もこの言葉について質問したことなかったから。私が思うに、親と子どもの関係というのは一方的なものです。子どもは親から命を与えられ、その後もいろんなものを与えられて、与えられて、与えられます。

でも、私は長いこと“自分がこの世に生まれたいと願ったわけではないのに”と思っていたんです。だから、親に何か言われたときに、「聞いてよ、私はあなたたちにこの世に生まれたいとお願いしたわけじゃない。私が今ここにいるのはあなたたちのせいでしょ!」と言ってました。今思えば、親に対して恩知らずで、とても酷い態度を取ったりしていました。でも、今は母親に、「今よりもマシな娘になりたいと思っている」と言えるようになりました。これは自分にとってとても重要なことです。

――今話してくれたように、今作が親との関係、親への気持ちを込めた作品なのであれば、タイトルは『MOTHER』とか『PARENTS』にもなり得たのかなと思いました。今作のタイトルを『KIDS』とした理由は?

Noga Erez:ここでの“KIDS”はリスナーたちを差していて、“You guys”(みんな)を意味しています。つまり、このアルバムは“あなた”へのものなんです。今作は、もう私だけのものではないと思ったから。私だけではなくて聴いてくれるリスナーみんなに向けたものです。私、あなた、両親、パートナー、この世に生を受け生きているみんな……と、もっと大きなスケールでアルバムを提供して、自分の感情や体験を共有したいと思った。だから、“みんな”という意味で“KIDS”と付けました。

――なるほど。「YOU SO DOWN」はあなたの10年前のトラウマとなったトキシックで暴力的な関係を歌った最もパーソナルな曲だそうですね。なぜこのタイミングでこの体験を書こうと思ったのでしょうか。

Noga Erez:このことについて語るのに時間がかかってしまったのは、それがトラウマだったからです。今もまだその傷が完全に癒えたとは言えなくて、常に自分の人生や人との関係に影響しています。今のパートナーであるOriは音楽活動でも相棒であり、親友でもある人ですが、彼に対してもこの過去のトラウマによってよくない態度を取ることもありました。なぜなら、私にとって人を信頼するということがとても難しくなっていたから。

でも、あの時から10年経ったんです。突然この物語を発信する責任があると感じ、歌詞を書き始めました。このような暴力は身近に存在するということを他の人たちにも理解してもらいたかった。性暴力や家庭内暴力が常に存在する世の中ですが、経済的な暴力、支配関係などの警察に行っても証明するのが難しいような暴力も存在しています。自分の受けた体験を他の人にも知って欲しくてこの物語を書いたのです。

――一方で、「Story (feat. ROUSSO)」の基になっているのはOriとの関係ですよね。パートナーとの喧嘩についてだそうですが、先ほどの曲で書かれた関係と比較すると健康的でポジティブな関係の曲と言えるでしょうか。

Noga Erez:あなたがこの2曲に共通性を見い出してくれたことが嬉しいです。同じアルバムの中で「YOU SO DOWN」が先に来て、次に「Story (feat. ROUSSO)」となるようにしたかった。この2曲は一見似たような物語のように見えますが、前者は私が若かった頃のトラウマ的な体験で大きな傷を残しました。この傷は今の関係にもまだ影響を及ぼしています。今の相手は過去の相手と真逆です。

でも、相手がどうであれ私の過去のトラウマによって上手くいかなくなることがあって喧嘩になってしまうこともありました。それが後者の曲です。過去のトラウマの相手は常に私の中にいて、自信を失わせ、怒りを感じさせます。でも今は前よりも大丈夫になってきたと思う。

――辛い過去について話してくれてありがとうございます。話は変わりますが、「NO news on TV (feat. ROUSSO)」は《Man, I am so bored》(あぁ、とても暇だ)という歌詞から始まります。この曲はパンデミックにおけるステイホーム期の自分の体験ともリンクしました。実際のところ、どのような感情で書いたのでしょうか。

Noga Erez:指摘してくれた通り、この曲はパンデミック・ソングです。最初のロックダウンが始まってから数週間後に書いたものですね。ロックダウンが始まって、突然静けさを感じました。実は私にとって、この静けさは心地よくも感じられて。テレビにはニュースがなくて、(外出規制によって)誰かが傷つけられるようなこともなくて、まるで楽園のように思えたんです。

――あなたが大きな城で熊に捕らわれるMVは、『美女と野獣』をコンセプトにしているのかなと思いました。熊がドラムを叩くシーンはとてもキュートです(笑)。

Noga Erez:それもあります。たぶんアイディアとしては近いですね。でも、歌詞に反してビデオの中で私が演じるキャラクターは、家の中で怯えています。変なビデオですよね(笑)。


「基本的に平和は死んでいると思う」

――MVに関連して、「End of the Road」も不思議な映像ですよね。ビデオの中で歌うあなたの周りにいるオーディエンスは、あなたのライブに来るような若い世代ではなくて、親とか祖父母ぐらいの年上の人々に見えます。これは何を意味しているのでしょうか。

Noga Erez:「End of the Road」は“死ぬときに何が起こるんだろう”という疑問をテーマにしてます。これは私たちが抱える、でも一生知ることのできない疑問です。これについて考えることは楽しくないですが、私は近い人の死から、このことについて考え始めました。人生は短い旅だと思います。だから私たちはこの旅を祝わなければいけない。このビデオの中のオーディエンスは、旅に終わりがあること、そしてそれが近づいていることに気づいている人たちです。

――あなたを初めて知ったきっかけでもあった「Dance While You Shoot」で歌われる《Can you dance while you shoot?》(あなたは銃を撃ちながら踊れる?)という歌詞がとてもショッキングでした。今作に収録されている曲にも、“bombs”(爆弾)や“gun”(銃)というようなキーワードが歌詞に含まれています。前作から4年経った今でもあなたは日常的に暴力や戦争といった体験を身近に感じているのでしょうか。もしくは以前よりもよくなったと感じる?

Noga Erez:『Off The Radar』の時ほどは感じていません。あの頃は戦争を身近に感じることがありました。自分の家で暴力や恐怖を感じるようなことはないので、当時と比較すると暴力は自分から遠ざかった。でも暴力は未だに存在します。イスラエルの状況は決してよくなったとは言えず、今もパレスチナ人との問題がある。この国の政治家たちは本当に酷いです。きっと日本にはいい政治家がいるでしょう? こっちの政治家はクソなやつばかりです。

――うーん、それはどうでしょう。長い話になってしまうのでここで議論はできないですが、日本の政治家には高齢の人が多く、女性も少ない。今回のパンデミックでの対応も決してポジティブに評価できるものではなく、あなたの国よりもいい政治家がいると言えるかはわからないですね。

Noga Erez:なるほど。でも、確かに何が最悪で最良かというのは私にもわからないかも。例えば私たち女性にとって、男性よりも生きづらいというのは明らかなのかもしれないけれど、その国によって状況のレベルは違う。だから、国同士で比較するのは確かに難しいですね。

――アルバムのタイトル・トラック「KIDS (feat. Blimes)」で歌う《Peace is dead, now rest in peace》(平和は死んでいる、今安らかに)というこのフレーズは、まさに本作であなたが伝えたいことを上手く表した一言ですよね。

Noga Erez:まさしく! 私は平和の概念とともに育ってきたと思います。子どもの頃からこういった会話をしてきました。どのようにしたら平和になるのか、世界に平和は訪れるのか、何かの努力の結果なのか……でも、そう考えていたのはとっても純粋だった時。人間の対立から平和という言葉を使うことをやめました。基本的に平和は死んでいると思うから。

――前回取材をした時に、あなたにとって「音楽は世界を知るプロセス」だと語ってくれました。今日改めてあなたから話を伺って、あなたのこの考えは、今作でも生きていると感じています。

Noga Erez:そう、私にとって世界を処理する方法で、外で起こっていることを理解するためのもの。音楽は常に現実を知るためのプロセスなのです。

――あなたの最近のファッション・スタイル――ジャケットとパンツのセットアップにシルバー・アクセサリーの重ね付けなどがとてもクールだと思います。何かファッションのお手本やインスパイア源はありますか。

Noga Erez:実は日本のファッションが大好きなんです。とてもクレイジーで、日本のファッションをチェックするのはすごくおもしろいです。素晴らしいデザイナーがいますよね。自分のこのセットアップのスタイルについて言うと、特に意識している何かがあるとかではないのだけれど、子供の頃の体験が元になっています。5、6歳の頃に父親が仕事に出かけるのにスーツを着ているのを見てクールだと思って、父が部屋にいないときにこっそりクローゼットに忍び込んでスーツを着てみました。そしたら私は小さくて、スーツが大きすぎた。でも、クールだと思いました。

――あ! もしかして今作のアルバムの写真はその体験から?

Noga Erez:はい、実はそうです。私はその時の思い出をオマージュしたかった。

――このアルバムには母親への思いだけでなく、父親との思い出も込められていたのですね。最後の質問です。イスラエルは徐々に元の生活が戻ってきているようですが、世界が通常に戻ったら何をしたいですか?

Noga Erez:ツアーをしたいです。あとは質問の回答と少し違うかもしれないけど、新しい音楽を作るために、早くスタジオに入りたいです。多くの人が大変な状況にいると思いますが、私は新しい音楽を制作することを楽しみにしています。あとは日本にも行けたらいいですね。どうやったら日本でのライブが実現するんでしょう?


【リリース情報】

Noga Erez 『KIDS』
Release Date:2021.03.26 (Fri.)
Label:City Slang
Tracklist:
1. KTD
2. Cipi
3. VIEWS (feat. Reo Cragun & ROUSSO)
4. You So Done
5. End Of The Road
6. Bark Loud
7. Kids (feat. BLIMES)
8. Story (feat. ROUSSO)
9. Knockout
10. No news on TV (feat. ROUSSO)
11. Fire Kites
12. Candyman
13. Switch Me Off

Noga Erez オフィシャル・サイト

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