INTERVIEW

Nai Palm

「極私的な日記みたいなもの」と語るソロ作に込められた想い。そしてDavid Bowieの遺族とのやり取りとは

Hiatus Kaiyoteの紅一点・Nai Palmが昨年リリースした初のソロ・アルバム『Needle Paw』を引っさげ、東京・京都で来日公演を開催した。

『Needle Paw』は、Hiatus Kaiyoteの緻密かつ複雑な構成とは一線を隠す、パーソナルな雰囲気に包まれた作品だ。ギターなどのシンプルな演奏をバックに、Nai Palmのボーカルと、多彩なコーラスといった「生身の歌声」を何よりも大事にしたかのような、神秘的でもあり、どこかセンチメンタルな感情すらも想起させる、不思議な魅力を放っている。

そんな初のソロ・アルバムを引っさげて来日したNail Palmに対面インタビューを敢行。短い時間ながらも、本作に込められた想いや、その制作秘話。そして、David BowieやRadioheadの楽曲をカバーするまでの経緯など、いくつもの貴重な話を聞かせてくれた。

Interview by Takato Ishikawa、Takazumi Hosaka
Interpreter by Kazumi Someya
Text by Takazumi Hosaka
Photo by Yuki Kuroyagani


――以前から東京のお気に入りのスポットとして、原宿のアパレルショップ「dog」を挙げていたと思います。今回の来日ではもう行かれましたか?

Nai Palm::イエス! 毎回行くわ。そこで買ったヘッドドレスを明日のショウで被る予定なの。あと、作業着とか足袋とか、ワーク用品を売ってる萬年屋も好き。日本の人はあれを見てもカッコいいと思わないのかもしれないけど、私にとっては最高にクールに見えるわ(笑)。


――今回も日本をすごい楽しんでるようですね(笑)。それでは、早速音楽の話に入らせていただきたいと思います。あなたの音楽活動の根底には、家族やベッドルームのような、安息できる聖域的感覚を作りたいという動機があると別のインタビューで拝見したのですが、初のソロ・アルバム『Needle Paw』は、そのような作品ができたと思えますか?

Nai Palm::今まで以上にそういった条件を満たせたんじゃないかって思う。すごく親密感があって、ある意味優しい作品になったし、これはヘッドホンで聴くタイプのアルバムだと思う。私はDeerhoofから宮城道雄のような琴で奏でられる音楽まで聴くし、そのくらい極端な振り幅があるの。だから、今回は私の中の物静かで内省的、そして色彩感覚豊かな方向に振り切れた作品ね。

――アルバムの最初と最後には、アボリジニーの聖地と呼ばれるアーネムランド原住民の儀式曲を引用しています。そういったアイディアはなぜ生まれたのでしょうか?

Nai Palm::1969年まで、オーストラリアにおける原住民というのは法的には人間ではなく、動物として扱われていたの。世界のその他の土地では、原住民と移民が折り合いをつけて書面上で合意し、原住民の権利も守られていることが多いけれど、オーストラリアのアボリジニーはそうじゃなかった。そんな状況において、私のようなオーストラリアのアーティストは、アボリジニーの人々が持つ豊かな美しさを多くの人々へ伝えていく、分かち合っていくということがひとつの責任であり、名誉ある行為なんじゃないかって思う。
それをなぜ1曲目に持ってきたかっていうと、おそらく普通の人はアルバムを1曲目から聴くでしょ。なので、1曲目に入れることでよりたくさんの人々に聴いてもらえるんじゃないかっていう単純な理由がひとつ。Drakeが「Free Smoke」でやったことと同じ理屈ね。実は時期的に同じくらいだったので、私たちもそういう方法がアリなんじゃないかと思って。

Nai Palm::もうひとつの理由は、あの儀式曲を歌っているJason(Jason Guwanbal Gurruwiwi)と、たまたまその時期に出会えたということ。もちろん彼が背負っているものというのは、何千年もの歴史の中で、大勢のアボリジニーの方が口頭で伝えてきたことの集積なんだけど、そんな人物とこのタイミングで出会えたということは素晴らしいことだし、だからこそ、それを皆とも分かち合いたいと考えたの。

――なるほど。アルバムはHiatus Kaiyoteのサウンドとは大きく異なるもので、ギターと自分の声、そしてコーラスを軸としたシンプルなものになっています。そういった構成にしようと考えたのは一体なぜなのでしょうか?

Nai Palm::Hiatus Kaiyoteは私にとって初めてのバンドだったのだけれど、それがとてもいい形で勢いに乗って、ツアーに次ぐツアーという生活の中で少しブレイクが欲しくなったということもあったし、そうしないと、今後も楽しく音楽活動を続けていけないんじゃないかって思ったの。私たちはハイパー・クリエイティブなアーティスト集団だから、それを機械的な状況でやっていくというのはなかなか堪え難いものがあるし、皆に与える側でいるためには、自分たちもどんどん吸収していく作業が必要なの。
今回、私が最大限の誠意を込めて世に送り出したソロ・アルバムは、極私的な日記みたいなもの。「私の姿を見て」っていう作品であり、私が作曲家としてどのように音楽を作っているかを、小窓から覗き込んでいるような、そんな内容になっていると思う。だから、そういった繊細なメッセージを伝えるには、人間の声が一番だと思って。シンプルではあるけれど、人間の声の持つパワーは何にも勝るものだと思っているし、感情や想いを一番直接的に伝えてくれるツールでもある。
もちろん、Hiatus Kaiyoteでも生身の声で歌っているけど、その他の楽器が非常にカラフルなだけに、声の美しさが埋もれてしまう部分がどうしてもある。そこでは見えてこなかった繊細な部分や脆い部分を、今回のアルバムでは伝えられているんじゃないかなって思うわ。

Nai Palm::人間って誰しも自分の感情は自然と声に出てしまうものでしょう。例えばチェロを一生懸命感情を込めて演奏しても、それはやはり楽器の音なので、その音がどういう表現なのか解釈するのは、聴き手にある程度任されてしまう。けれど、人間の声は、例えばこうやって会話する中でも、その人がどういう想いで喋っているのかは、声だけでもかなり伝わってくると思う。そういった感情を直接声に乗せて、余計なものを削ぎ落としたサウンドの中で響かせることによって、自分自身を見つめ直す機会にもなったと思う。

……あとは、Hiatus Kaiyoteの中では自分が唯一の女性メンバーであって、そのことが原因で音楽を作る側における自分の役割というものが過小評価されているように思えて、それに対してちょっと嫌気がさしているの。もちろんHiatus Kaiyoteは皆で作品を作っているのだけど、インタビューを受ける際には、音楽の質問は男性メンバーの方で、私のところにはファッションの質問が回ってくることが多い。たぶん、これは私が女性だからだと思うのだけど、私だってこういう風に曲を書いて、バンドに貢献してるんだってことを見せてやりたいっていう気持ちがあったことも確かね。

――今作収録曲に「Haiku」、Hiatus Kaiyoteの作品にも「Laputa」という曲があります。あなたは宮崎駿のことが好きという話もお聞きしたのですが、そういった日本のカルチャーはいつ頃から意識されていたのでしょうか?

Nai Palm::そう、宮崎駿が大好きなの。ジブリ・ミュージアム(三鷹の森ジブリ美術館)に行きたかったんだけど、ここから遠くてなかなか…。次回は行きたいと思ってるわ(笑)。

最初に日本のカルチャーを意識し出したのがいつかはわからないんだけど、インターネットのある時代に育ったからだと思う。検索すれば何でもそこにあるでしょう。でも、実は俳句の存在はちょうどこの曲を書き始める頃に知ったの。私の恋人がライターで、毎日11時11分に俳句のやりとりをメールでしようって言い出して。私自身は孤児だったこともあって、引っ越しが多くて学校でまともに勉強をしていないから、そんなカルチャーがあることを知らなかったのだけど、彼が教えてくれて。そこから「ふたりで練習しよう」って言ってくれて、私の誕生日にはそれまでにやり取りしたものを全てタイプアウトしてまとめてくれたりして。「Haiku」の歌詞は、その中でも特にお気に入りの3つの句でできているの。

私は日本に限らず様々な国のカルチャーに興味があるんだけど、特に日本の文化は素晴らしいなって思うの。何ていうのかしら、品があるというか、深みがあるというか。こうやって日本でインタビューを受けていても、ゼロから説明しなくても、私のことをよくわかってもらえているような感覚があって。詩を理解する、そういう感覚のようなものが、日本のみなさんには自然と備わっているように思えるの。あとは、トラディショナルなものと、ハイパー・ニューなもの、その相反するふたつが調和しているような感じにも興味を惹かれるわ。……それに、食べ物も美味しいしね(笑)。

――今作にはDavid Bowie「Blackstar」のカバーも収録されています。聞くところによると、アルバム『Blackstar』の楽曲は、遺族の意向で誰に対してもカバーの許可を認めない状態だったという中、あなたはどうしてもカバーしたいがために、遺族に手紙を送ったと聞きました。そこにはどのようなことを綴っていたのか、差し支えなければ教えてもらえますか?

Nai Palm::大前提として、私はDavid Bowieのことも、そして『Blackstar』も大好きなの。私のアルバムはテクニカルな作品ではないけど、とても苦労して完成させた作品で、制作中には大好きな人の死別があったり、厳しい冬を越えて完成までた辿り着いた。だから、『Blackstar』はそういった時期の辛い思いを重ねて聴いていた、私にとってとても大事な作品なの。それに、本当に遺言のような作品だったから、もちろん遺族の気持ちは尊重したい。でも、私にとってもすごく大切な曲だから、ダメ元で連絡してみたの。そしたら、「ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど、あなたひとりだけに特別許可することはできません」って返信がきて。わかってはいたけど、やっぱり落ち込んだわ。

Nai Palm::そしたらある日、David Bowieのマネージャーととても親しいUSソニーのスタッフが、「手紙を書いて渡してみたら?」って勧めてくれて。「彼(David Bowie)が私にとって、そして世界にとってなぜ大切なのか」とか、とにかく感謝の気持ちを綴って、遺族の方に渡してもらったわ。アルバムがほぼ完成する頃だったんだけど、改めてその手紙を書くことによって、『Blackstar』がどうしてこんなにも私にとって大事なのか、より深く理解することができた気がする。そうしたら、「あなたの手紙がわたしたちの心を動かしました」って言ってくれて。私の境遇も理解してくれて、特別に許可してくれたの。本当に今でも恐縮してるわ……。
『Needle Paw』のブックレットの裏には「Your pain is the breaking of the shell that encloses your understanding」(あなたの痛みは、思い込みの殻を破る時に伴うもの)という詩を載せているんだけど、これは私の人生哲学なの。今回も障害を乗り越えたからこそ、よりDavid Bowieや彼の作品に対する愛が深まったような気がする。

Nai Palm::(同じくアルバムでカバーしている)Radioheadにも手紙を書いたのよ。彼らの作品も、ライセンスのこととかに関する条件がとても厳しくて。私は何も知らずに最も難しい2アーティストの曲を選んでしまったことになるわね(笑)。
それで、一向に返事が返ってこなかったから、誠意を込めた手紙を書いたの。そしたら……(手でグッドサインを出す)OKもらえたの! 最高にクールよね(笑)。


【リリース情報】

Nai Palm 『Needle Paw』
Release Date:2017.10.20 (Fri.) ※全世界同時発売
Cat.No.:SICP5606 (CD)
Prie:¥2200 + Tax
Tracklist:
1. Wititj (Lightning Snake Pt.1)
2. Atari *
3. Crossfire / So Into You (Tamia Cover)
4. Haiku
5. Mobius *
6. Molasses *
7. Electric Ladyland (Jimi Hendrix Cover)
8. Atoll
9. When the Knife *
10. Blackstar / Pyramid Song / Breathing Underwater (David Bowie / Radiohead / Hiatus Kaiyote)
11. Borderline With My Atoms *
12. Homebody
13. Wititj (Lightning Snake Pt.2)
14. You Send Me (Sam Cook Cover) ※日本盤ボーナス・トラック

*Hiatus Kaiyote Cover

※原盤レーベル:ソニー・ミュージックマスターワークス

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