SSW、MoMoが2nd EP『FlowinTokyo』を7月24日(水)にリリースした。
単身で渡米しバークリー音大で学んだ他、海外でのライティングキャンプにも参加しながら自身のアーティスト活動をスタートさせたMoMo。以降も国内外のアーティスト/プロデューサーとのコライトを重ね、R&Bを軸に洗練されたサウンドを届けてきた。
そんな彼女の最新作となる『FlowinTokyo』は、自身が育った街・東京での苦悩から生まれた、未来に向けてポジティブな気持ちを綴った一作。制作陣にはJhené AikoやChildish Gambinoなどの作品を手がけるプロデューサー・Julian Le、Snoop DoggやDr. Dreなどの演奏も務めるBubby Lewis、シカゴ出身のラッパー/プロデューサー・Ace Hashimotoといったグローバルな面々も参加しており、現在進行系のオルタナティブなR&Bとも共鳴する快作だ。
今回のインタビューではMoMoのこれまでの足取りを振り返りつつ、最新EPが生まれた背景について存分に語ってもらった。(編集部)
Interview & Text by Shiho Watanabe
Photo by Shimizu Elio
衣装協力:SOLE CAKES
「毎日泣いていた」──留学時代の辛苦
――歌手を志したきっかけなどはありますか?
MoMo:父親が車の中でよく音楽を流していたんです。洋楽のヒット曲を集めたCDとか、尾崎豊さんや宇多田ヒカルさんの曲とか。私もそれをよく聴いていたし、ピアノも習っていたんです。あるときヤマハ音楽教室の前を通ったときにもらったパンフレットにボーカルレッスンのことが載っていて、「やってみたい!」と思って。それがきっかけでしたね。そこからちゃんとしたスクールに行くようになりました。
――ピアノではなくボーカルに魅力を感じたのはどうしてでしょう?
MoMo:元々、父親が私を英語に触れさせたいと思っていたみたいで、よく教会に連れていってもらっていたんです。麻布の教会なんですけど、そこで歌っている聖歌隊の人たちは黒人が多くて。そこで初めて生でブラックミュージックを聴いて、衝撃を受けたんです。そのあと、ガチでやりたいと思うようになって、高校2年生くらいのときにはアメリカの音大に行こうと決めて準備をしていました。そのあと、バークリー音楽大学に編入したんです。
――バークリーは名だたるミュージシャンを輩出している名門校ですが、どんなことを学んでいたのでしょうか。専攻は?
MoMo:ボーカル専攻で入学して、パフォーマンスがメインのプロフェッショナルミュージックだったり、そのほかにもミュージックビジネスや作詞のクラスなど、色々受けたりしていましたね。ジャズの理論や歴史も習いました。最初は英語もそんなに喋れなかったし、いきなり寮に入ってアメリカ人の生徒2、3人とルームシェアをしていたんですけど、毎日泣いていました。6ヶ月くらいしたら耳が慣れてきてちょっと楽になった、みたいな。
――留学経験とアメリカの滞在を経て、MoMoさんが得たものは何でしたか?
MoMo:アメリカっていろんな価値観、宗教の人たちが集まっているので、そういった環境で揉まれて暮らしていく中で、自分の意見をちゃんと持てるようになったし、自分にしかない個性を、歌を通じてどうやって表していくかっていうことを学びました。
――留学中、すでに自分のキャリアについても具体的に考えていた?
MoMo:「(これから)どうしよう?」とは思っていて。バークリー時代はボストンにいたんですけど、レコーディングの際にエンジニアと話して、もっとエンジニアリングの知識を身に付ける必要性を感じました。たとえば「このボーカル、もっと響き渡るような感じにして」って言いたくても、専門用語などを知らないと上手く伝えられないんですよね。だから、オーディオエンジニアの資格を取って、また東海岸に戻り、オーディオエンジニアとして一年働いてから日本に戻ってきました。かなり大変な経験でしたね。
――その時代、自分を支えてくれた楽曲って何かありますか?
MoMo:なんだろう、清水翔太さんの“HOME”はよく聴いていましたね(笑)。結構、アッパーな曲だとDestiny’s Child“Survivor”も。「こんな状態で負けて帰ったらダメだ!」って自分を鼓舞していました。
――帰国後も、試行錯誤して今のキャリアに?
MoMo:今とは別のマネジメント会社に所属していたんですけど、(日本に)帰国後もいきなり海外へ送られて。ライティングセッションに参加するために、イギリスやタイに行っていました。そのタイのスタジオはイギリス人が所有していて、ビーチの真ん前にあるんです。そこにアジア人は私だけ。他はメジャーレーベルが招聘したソングライターやプロデューサーの人たちが集まって。時間制で交代しながらひたすら曲を作っていく、と。
――ソロシンガーとしてのデビュー前に、そうしたキャリアも積んできたんですね。
MoMo:はい。なので、世に自分の曲が出たときは嬉しかったですね。それまでに結構時間が空いてしまっていたので。
東京という街での変化、成長を表現した最新EP
――最新EP『FlowinTokyo』についても聞かせてください。普段の制作のプロセスはどんな感じですか?
MoMo:時と場合によるんですけど、大体プロデューサーがいて、私の他にコ・ライター(共同作曲者)がいる時もあります。それで「いっせーのせ!」で作る。もしくは、私がリファレンスの曲を用意して、「こういう曲を作りたい」という場合もあるし、私が自分でコードを弾いて「ここからビートを作ってください」と依頼するときもあります。
――今回のEPの制作はどのように進んでいったのでしょうか?
MoMo:“FlowinTokyo”と“I Can’t Stop”の2曲は、野沢温泉に行って作った曲です。2月の中旬にスノボ兼音楽制作の合宿を自分で開催したんです。そのときたまたま来日していたアメリカ人のプロデューサー・Julian Leと、もうひとりバークリー出身のギタリストであるNozomi Yamaguchiと一緒に雪山に籠もって、半日スノボして半日楽曲制作するというスタイルで作りました。
――東京を離れた場所での制作ということで、いつもと違うインスピレーションはありましたか?
MoMo:ありましたね。自分のもっと深いところを表現できたというか。普段、スタジオにいると「早く完成させなきゃ」みたいな感じで、焦ることもあるんですけど、雪山の中にいると、リラックスしながらありのままのストーリーを書こう、みたいな感じで進めることができたんです。一番表現したかったことが書けたと思います。
――EP全体のコンセプトも、その場で思いついたものですか?
MoMo:そうですね。何もアイディアを持って行かず、全部そこ(野沢温泉)で作り上げました。
――都会的なタイトルがとても印象的だなと感じたのですが、MoMoさんは東京のご出身ですよね。ご自身にとって、東京とはどんな街ですか?
MoMo:東京は生まれ育った故郷だけど、やっぱりすごく揉まれる場所でもあるんですよね。夢を目指しながら上京してくる人もいるし、いろんな困難や試練があるけど、その挫折を乗り越えて、諦めなかった人だけが夢を叶えていく場所だなと思います。タイトルの「flow」というフレーズには、自分の成長や変化という意味も込めていて、「東京の中で変化、成長していく」という意味も含めて作った曲です。
――かつてアメリカから帰国して、改めて東京に戻ってきたときに感じたギャップなどはありましたか?
MoMo:ありましたね。自分が思っていることをあんまりみんなに言わない方がいい、とか。そういうところで苦戦はしました。アメリカには5年くらいいたんですけど、その土地に適応していくっていうか、性格も変わっていくじゃないですか。だから、日本ではどういうふうに表現すべきか、とかそういうところで苦労しましたね。
――EPの一曲目である“FlowinTokyo”はゴスペルのような雰囲気も感じました。サウンド面で意識した点などはありますか?
MoMo:基本的にサウンド面はプロデューサーさんに任せているので、自分自身はあまりプロダクションには関わっていないんですけど、今回は結構ピアノを使っているんです。生音に近いものを使いたくて。メロディはプロデューサーさんが作ってくれた18小節くらいの音に合わせて、3、4テイクくらいフリースタイルで歌います。それで自分のよかった部分をどんどん編集していって「こういう形で行こう」みたいに進めていく。考えるというより、自分の感情をとりあえずアウトプットしていく。考えたら負けなんです。いいものはできてこない。それこそフロウですよね。言葉も適当に発していく。テーマや単語をとりあえず書いていって、自分で歌いつつフリースタイルで作曲をしていくんです。
――歌詞がとても詩的だなと思っていて、エモーショナルだけどドラマチックな雰囲気を感じます。
MoMo:今回は結構、自分の痛みや弱い部分を見せたんです。こういうことは今まであまりしてこなかったけど、今回はすごく意識的に行いました。それと、歌詞には日本語も入れています。元々、曲を書き始めた頃は全部英語で歌詞を書いていたので、日本語で表現することに抵抗があったし、ちょっと恥ずかしい気持ちもあったんです。でも、“FlowinTokyo”の中に出てくる《涙こらえている now》という歌詞は、「私、このままどうなっていくんだろう?」っていう実体験に基づいた言葉なんです。だから、こうした言葉を直接的に入れるようにしました。
――自分の弱い部分を直接的に歌詞にするという点において、痛みや葛藤みたいなものはありましたか?
MoMo:ありましたね。でもやってみないとどうなるかわからないし、一度書いてみようということで。みんなに聴かせたら「いいじゃん」って反応だったので、「行けるな」という手応えはありました。
――実際に、夢を追いかける中で自分の弱さに気がついたり、挫けそうになったりする時もあった?
MoMo:ずっと歌をやってきても、実っていないというか開花していない。「あとどれくらい経てば自分は成功するんだろう?」っていう先が見えない中、「走り続けていって大丈夫なのかな」と感じることもあります。そういう、自分にしかわからない不安というか。みんなそれぞれあると思うんですけど、その孤独さっていうのも、“FlowinTokyo”に込められているなと思います。
誰かの救いになることを願って
――EPに収録されている他の楽曲についても教えてください。
MoMo:“The Weekend”は、イギリスのソングライターの子とオンラインでセッションしながら書きました。Zoomを繋ぎっぱなしにして、Google Docsでお互い編集しながら、お互いのいいとこ取りみたいな感じで進めていくんです。
MoMo:“DARKROOM”は去年発表した曲なんですけど、せっかくだからEPに入れようということで収録しました。日本人のMONJOEくんというクリエイターが参加してくれた曲で。彼とは元々慶應大学で一緒だったという繋がりもあって、制作することになりました。
――今回が『JADED』に続く2作目のEPですが、これまでと違うリアクションなどはありますか?
MoMo:MoMo:今回のEPは日本語でも歌っているので、国内のオーディエンスから今までよりも多くの反応を感じています。プレイリストにもいつも以上に取り上げてもらっている感じもありますし。
――R&Bに根差したオーガニックな雰囲気、もしくは都会的な雰囲気を感じる曲が多いと思うのですが、曲を書くときにジャンルやカテゴリーは意識していますか?
MoMo:意識しないです。これまではR&Bとかわかりやすいポップスに寄せていたんですけど、今はもっと自由に、自分がそのとき感じた心地よさをもとにして音楽を作りたいんです。
――それはここ最近の発見ですか?
MoMo:はい。野沢温泉での合宿に来ていたJulianはJhené AikoやChildish Gambinoといったトップアーティストを手がけて来た人なんですけど、彼に「行き詰まるときがあって……」とか、いろいろと相談していたんです。そうしたら、「ジャンルとかは一回置いておいて、自分が表現したいことを表現したらいいよ」って背中を押してくれた。私、自分ひとりで歌詞を書き上げることが怖かったんです。だから「自分だけじゃまだ歌詞は書けないと思う」と言ったら、「いや、それは自分がそう思っているからだ。絶対に書けるから、まずは一回やってみろ」って。
Julianは大先輩だしレジェンダリーな人とも一緒に制作している。その助言で、自分の中のルールみたいなものがなくなりました。結果、自分で全部歌詞を書くことができた。制限がなく、リミッターが外れたような感じ。彼がそれを取っ払ってくれたというか。
――今後の活動においても大きな契機になるような出来事ですよね。
MoMo:もう、自分を信じるしかないと思っていて。Julianが言っていたように、書けないと思ったら本当に書けない。ずっとできないと思ってたけど、やってみたらできた。言霊って本当だなって思いましたし、「絶対にどうにかなる」って前向きになりました。“FlowinTokyo”を書いてから、自分の考え方も変わりましたね。
――普段のMoMoさんがよく聴いているアーティストは?
MoMo:RAYEやSnoh Aalegra、Anne-Marieとか。もちろんAdeleも大好き。特にRAYEはSSWとしてすごく自分の軸を持っていて、譲れないことがすごくはっきりしているアーティストなんです。書いている作品ごとに彼女が経験してきていることが反映されているというか、共感もできる。声もやっぱり素晴らしいし。第二のAmy Winehouseのような存在かなって思います。
――アーティストとして活動していく上で、MoMoさんが一番大切にしていることって何でしょうか?
MoMo:自分のために歌うんじゃなくて、そのストーリーを誰かに共感してもらいたくて歌っています。私も小さい頃やボストンに留学していた頃、大変なこともあったけど、その度に音楽に救われてきた。だから、オーディエンスにも、私の音楽を聴いて救われてほしいというか、楽しんでほしい。それが皆さんの体験になってほしいなという思いで歌っています。
【リリース情報】
MoMo 『FlowinTokyo』
Release Date:2024.07.24 (Wed.)
Label:SHINPAINAI RECORDS / WARNER MUSIC JAPAN
Tracklist:
1. FlowinTokyo
2. I Can’t Stop
3. The Weekend
4. DARKROOM
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