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Contour / Hearing Voices


“L.A. リベリオン”の意思を継ぐ者が打ち出した、今日的なブラック・アート

2022.10.19

Text by Yuki Kawasaki

第90回アカデミー賞(2018年3月)では、実に素晴らしい映画がショウレースを彩っていた。ギレルモ・デル・トロの『シェイプ・オブ・ウォーター』やマーティン・マクドナーの『スリー・ビルボード』が作品賞を争い、『ダンケルク』や『ファントム・スレッド』、『レディ・バード』が広く話題を集めた。人種間の対立が潜在的にはらむ問題をサプライズ・スリラーとして描いた『ゲット・アウト』も喝采を浴びた。

この年に名誉賞を受賞した、アフリカ系アメリカ人の映画監督がいる。それがチャールズ・バーネットだ。UCLAで映画制作を学んだ彼は、在学中に60年代後半に端を発する“L.A. リベリオン”グループの一員として、ハリウッド映画とは異なる新しい“ブラック・シネマ”を模索した。当時のUCLAは圧倒的に白人優位で、映画業界全体で考えても有色人種の姿は極端に少なかった。今でも「#OscarsSoWhite」のような運動が起きるぐらいなので、当時の様子は推して知るべし。2019年にNetflixが制作した『ルディ・レイ・ムーア』(70年代に活躍したアフリカ系アメリカ人のコメディアンを描いた映画)を観ても、その不均衡な状態が確認できるはずだ。コメディアンとして年季の入ったルディよりも、UCLAに通う学生の方が「映画」を知っている。

この時期に見過ごされてきた傑作は多く、先述したチャールズ・バーネットはアカデミー賞だけでなく、ニューヨーク・タイムズにも「全米で最も知られていない偉大な映画監督」と評されている。

2022年に入り、“L.A. リベリオン”の意思を継ぐ者がサウス・カロライナから現れた。ミュージシャン、作曲家、映画やラジオのプログラマー、モデルなど、多面的な活動をしているContour(コントゥアー)である。

彼は、10月7日(金)にリリースしたアルバム『Onwards!』において、ソウル、エレクトロニクス、アーカイブ(サンプリング)を核に、ブラックアーツムーブメントの記録音声や参考文献を介し、先人たちとの対話を試みている。本作は、「Black Lives Matter」や先述した「#OscarsSoWhite」のように、“対ソサエティー(社会)”をはっきりと打ち出しているわけではない。ここで描かれているのは、とりわけコミュニティーである。小津安二郎でいうところの、“小市民映画”的な原風景だ。下町情緒あふれるフッド(地元)の営みである。それはまさしく、これまでチャールズ・バーネットらが表現してきたアフリカ系アメリカ人の姿だ。

Contourが“L.A. リベリオン”について言及するのは、確認できる限りでは本作『Onwards!』が初めてだ。しかし彼の眼差しは、以前からコミュニティーに向いている。2017年に『Softer』というショート・フィルムをリリースしているが、彼はここでもフッドを映していた。

昨年、MadlibがFour Tetと組んで『Sound Ancestors』をリリースし、途方もない時間の流れと多様性を作品として具体化することに成功した。Contourはそこに映画的なアプローチを加えている。『Onwards!』発売に際し、上に貼った「Repossess」を含めた2本のMVが公開されているが、いずれも映像に一貫性がある。そこで描かれているのは、“彼ら”が先人たちから継承した営みそのものだ。

そして奇しくも、2022年の日本ではチャールズ・バーネットの上映企画「This is Charles Burnett チャールズ・バーネット セレクション」が3月と10月に行われている。


【リリース情報】


Contour 『Onwards!』
Release:2022.10.07(Fri.)
Label:Touching Bass
Tracklist:
1. From Exile (3rd Ward)
2. Trench Prayer
3. Nigga Won’t Reach Mars
4. Hearing Voices
5. You’d Do Well to Pack Light
6. Skin Closure
7. Babe Brother
8. Freedom Facade
9. Eke No More
10. Repossess (feat. Semiratruth)
11. Crowded Afternoon
12. At All

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