Text by Jun Fukunaga
Interview (machìna, 北村蕗) by Takazumi Hosaka
eyedとは何者か、漆黒のモードスタイルに身を包んだ5人
モノトーンを基調とした個性的なビジュアルと、ダンスの現場でも認められる表現力で注目を集める5人組グループ・eyedが、10月21日(水)にシングル“silence”をリリースした。
eyedは今年3月と4月に国内のダンスイベントに出演し、そこでのパフォーマンスがSNSで話題を呼んだが、当時はグループ名すら公表されておらず、謎めいた存在だった。そんな彼女たちが初めてグループ名を公表したのが、6月の『DANCE HOLIC 東北の陣 at SENDAI』だ。その後、夏には「プレビューパフォーマンス」として全国各地のダンスイベントに出演。それらのステージでは、KATSEYEのダンサーとしても活動するMEIや、藤井風のアジアツアーでダンサーを務めたKouら、第一線で活躍するダンサーたちと共演し、目の肥えたダンスファンの前でその実力をアピールしてきた。
今回の“silence”は、本格デビューに先駆けたプロローグシングルの第1弾にあたる。本稿では、まだ多くを明かしていないこのグループの魅力を紹介する。あわせて文末には、同曲の制作を担ったmachìnaと北村蕗へのミニインタビューも掲載している。
eyedは、kate、fuka、liliko、yuria、kyokaの5人からなるavex発のダンス & ボーカルグループ。グループ名には、自分を証明するための「ID」と、自らの視点を意味する「eye」が重ねられている。そこに込められているのは、「グローバル」や「世界基準」が掲げられるほど画一化していくアイデンティティに対して、他者への自己証明だけではなく、自分たちの視座から世界を捉え直そうという意思だ。
そして、その根底には日本的な「引き算」の美意識が息づいている。いわゆる「盛る」ことが日常のなかで当たり前になった今、個性を出すために足すのではなく、あえて無駄なものを削ぎ落とす。このアプローチは、かつて黒一色の装いで既成の美の基準を揺さぶった日本のモードデザイナーたちによる、「時代の空気へのカウンター」的な表現にも通じるものがある。
そうした姿勢がよく表れているのがビジュアル面だ。華やかな装飾や色を抑えたモノトーンの世界観のなかで、黒髪の5人が漆黒のモードスタイルに身を包む。その姿は一見、現行の流れに逆行するようにも映るが、だからこそ新鮮で、見る者に「これから何をみせてくれるのか」という期待を抱かせる。
フロア仕様のハードテクノナンバー“silence”
そんなeyedのもうひとつの大きな特徴が、その「引き算」の考え方を反映した、ソリッドかつダンサブルなサウンドだ。所属するavexは、90年代からダンスミュージックとポップスをかけあわせ、多くのアーティストを日本の音楽シーンの真ん中へと送り出してきたことで知られる。eyedもその伝統を受け継ぐ存在だが、テクノとハウスを軸に据えるという点で、方向性は従来とは大きく異なる。
さらに特筆すべきは、eyedが取り入れているのが、テクノのなかでも、とりわけ重く硬質なサウンドを特徴とするハードテクノだという点だ。このジャンルは、その特性ゆえにJ-POPの領域ではこれまでほとんど扱われてこなかったが、eyedはあえてそこに焦点を当てている。ダンス & ボーカルグループとしては、きわめて実験的な音楽性だ。
そして、この音楽性を最初に形にした楽曲が“silence”だ。トラックを手がけたのは、東京とベルリンを拠点に活動する韓国出身のアーティスト、machìna。ミニマルテクノの重鎮・Richie Hawtinの欧米ツアーに参加し、「テクノの教会」という異名で知られるベルリンの名門クラブ「Berghain」への出演や、老舗テクノレーベル〈Tresor〉30周年記念コンピレーションへの楽曲提供など、テクノシーンで実績を重ねる実力者で、eyedの楽曲を手がけるには、うってつけの存在だといえる。
一方、トップラインと作詞を担当した北村蕗は、『FUJI ROCK FESTIVAL』や『SXSW』(アメリカ・テキサス州)への出演を重ねるシンガーソングライター。2024年の1st EP『500mm』では「ダンスミュージック」をコンセプトに掲げ、作詞/作曲に加えてプロデューサーとしての確かな手腕も示している。
そんなふたりを迎えて制作した楽曲は、ビートを鳴らさず、タイトルどおり「静寂」を感じさせるエクスペリメンタルなシンセパッドの広がりとともに幕を開けるが、20秒ほどたつと、ダンスフロアを揺らすハードテクノならではのランブル感のある激しいキックが入ってくる。そこからは細かいリズムやサウンドエフェクトなどの抜き差しと音像の広がりだけで緩急がつけられていく。まさにフロア仕様のテクノらしい構成に仕上がっている。
また、その音数を絞ったミニマルなトラックの隙間を埋めるように、リレー形式で重なっていくのが、リヴァーブの効いた5人のボーカルだ。浮遊感を漂わせつつも、絶妙にメロディックなこのパートは、トラックがシンプルな分いっそう際立つ。さらに、海や鏡のイメージを重ねながら、外のノイズから内側の静けさへと向かっていく歌詞も、グループ名に込められた「eye」の思想と響き合い、楽曲にヒプノティックな効果をもたらしている。こうした「引き算」の美学に沿った構成が、この曲にポップスとしての独自の強度を与えているように思えてならない。
まるでロングミックスのような、謎めくSNS発信
プロローグシングルのリリースに向けたeyedの発信についても振り返っておきたい。
グループ名を公表したあとも、eyedは全体像を明かさず、仙台でのお披露目の直前に開設されたInstagramとTikTokの公式アカウントも、当初は情報を極力抑える形での運用が続いた。そこに変化が訪れたのは今年9月だ。同月1日に「into the silence」という言葉とともに、モード感のある衣装に身を包んだ人物が森を駆けるモノトーンの映像をSNSに投稿すると、21日にはプロローグシングル2作のリリースを告知し、メンバーのソロショットを順に公開した。
さらに10月に入ると、渋谷の街角でテクノに乗せて踊る姿や、メンバーがDJを務め、その音に合わせて別のメンバーが踊る練習風景を投稿。彼女たちは5月ごろからクラブイベントでDJとしても活動しており、こうした投稿からは、歌って踊るだけにとどまらないeyedの一面が浮かび上がる。
また、同月なかばからはMVのティーザー動画の公開も始まった。筆者の見立てだが、こうして情報を少しずつ明かしていく手法は、曲同士をじわじわとつなぎ、展開を作っていくテクノDJのロングミックスにも通じる。このようなSNSでの発信スタンスもまた、eyedがテクノと紐づいていることをうかがわせ、彼女たちへの興味をかき立てる要素になっている。
ふたつの「序章」を経て、本格デビューへ
こうした発信を重ねて迎えた10月21日(水)、“silence”の配信が世界各地でそれぞれの現地時間0:00から順次スタートし、MVも日本時間0:00に公開された。グループのビジュアルイメージを踏襲したモノトーンの本MVは、eyedの世界観を色濃く体現している。ハイブランドのコンセプトムービーを思わせるスタイリッシュな仕上がりのなかで描かれるのは、移ろい続ける世界で、自分自身の輪郭を確かめる時間だ。砂漠のような広大な風景を歩く5人の姿や、呼吸や重心を共有するかのようなグループダンスは、静寂を分かち合う存在としてのeyedを映し出す。
一方、メンバーそれぞれのシーンでは、花や蝶、そして髪が枝へと変わっていく姿といった有機的なイメージと、無機質なコンクリートの空間が重なり合い、溶け合っていく。歌詞と同じく、外のノイズから内側へと向かう旅の模様をたどるこの映像には、見終えたあとに思わず息が漏れるほど、見る者をその世界へ深く引き込む力がある。
続く11月21日(土)に配信される“shock”を含めたふたつの「序章」を経て、eyedは本格的なデビューへと向かう。ビジュアル、サウンドの両面で独自の美学を掲げる彼女たちの視線の先には、どんな景色が見えているのか。“silence”を通じて、その「視点」を確かめてほしい。
machìna ミニインタビュー

――ご自身のDJやプロデュース作品と比べて、ダンス & ボーカルグループの楽曲として、トラック制作で意識したこと、あえて変えたこと、逆に譲らなかったことは何ですか?
machìna:今回の“silence”は、私が先にインストゥルメンタルのトラックを制作し、その後にeyedのボーカルメロディーが加わる形で完成していきました。
そのため、最初からガールズグループの楽曲として何かを大きく変えたというよりも、普段の自分の音楽制作と同じ感覚で、まずはトラックそのものが持つ強さや世界観を大切にしました。
特にこだわったのは、ミニマルな構成の中で、一つのキックだけでも音楽として成立するような存在感を持たせることです。低く響くランブルと、ポイントを絞ったシャープなシンセサイザーによって、音数が少なくても奥行きのあるサウンドを目指しました。
一方で、自分とは異なる方向性や世界観を持つメロディーが加わることで、トラックに新しい感情や表情が生まれたことは、とても面白い経験でした。
――ハードなテクノがポップスの領域で鳴らされることは珍しいと思います。テクノのプロデューサーとして、この試みをどう見ていますか?
machìna:最近は韓国のポップスから、よりアヴァンギャルドなポップミュージック、さらにはMadonnaのようなメインストリームのアーティストまで、モジュラーシンセサイザーを思わせる音や、ハードウェアならではの質感を耳にする機会が増えたように感じています。ジャンルの境界を越えて、さまざまなサウンドや音楽的なアプローチを取り入れる試みは、以前からとても興味深く感じていました。
machìna:単に今あるトレンドを追いかけるのではなく、こうした異なる音楽の組み合わせを通して、新しいエネルギーや表現をリスナーに届けられることは、音楽家として純粋に嬉しいです。
この試みがこれからどのように広がっていくのか、とても楽しみにしています。
――eyedはメンバー自身がDJ活動も行っています。“silence”をクラブで、あるいは彼女たち自身にプレイしてほしいとしたら、どんな場面や流れで鳴らしてほしいですか?
machìna:個人的には、フロアのエネルギーが少しずつ高まっていく時間帯に聴いてみたいです。大きな展開で一気に盛り上げるというよりも、ミニマルなキックの反復と、その奥で静かに動いているハーモニーによって、気づかないうちに深いところへ引き込まれていくような感覚を楽しんでもらえたら嬉しいです。
北村蕗 ミニインタビュー

――“silence”は英語と日本語が行き来する構成ですが、どちらの言語で書くかはどう決めていきましたか? 特に日本語にしたフレーズ(「見つめてる内側のeyes」など)に込めた意図があれば教えてください。
北村蕗:どちらの言語で書くかを決めていた訳ではないですが、英語の方がハマるメロディが多かったので英語をはめていくことのほうが多くなりました。
どのように外界との距離を測り、自分の内側の精神世界を見つめていくかということを考えながら書いていきました。
――machìnaさんのトラックを受け取ったとき、最初にどんな景色や感覚が浮かびましたか? また、トップラインを乗せるうえで引っ張られた要素などはありますか?
北村蕗:キックとベースのバランスがとても好みでした。インダストリアルな硬い質感のサウンドでダンサブルでもありながら、深海に潜っていくような静けさも感じられました。柔らかなシンセサイザーの上物からスケールを持ってきて、歌心があり上品に聴こえるようなトップラインになるよう意識しました。
――ボーカルディレクションやレコーディングで、eyedのメンバーとのやり取りの中で印象に残った場面や、想定を超えたと感じた瞬間はありましたか?
北村蕗:eyedの皆さんの声質が一人一人違った魅力がありました。私が仮歌を入れたところも、少しニュアンスを変えて歌ってもらった方がハマる箇所も多かったです。一人一人違った声の魅力を持ちつつも、グループで聴いた時にそれぞれの帯域が上手く重なるようなバランス感で、最後に全員の声とコーラスを追加して聴いた時に、一つの世界観が立ち上がったように感じました。
【リリース情報】

eyed『silence』
Release Date:2026.10.21 (Wed.)
Label:avex trax
Tracklist:
1. silence
2. silence – Instrumental
3. silence – Extended Mix












