Text by Tsuyachan
Photo by Jun Yokoyama
2026年8月9日、LaLa arena TOKYO-BAY。最寄りの千葉県・南船橋駅を降りると、すぐ近くには巨大なショッピングモールがある。駅からアリーナへ向かう一帯も、大型商業施設や駐車場によって形作られた、いかにも郊外らしい風景だ。ショッピングモールを自分たちのルーツとして掲げ「Mall Boyz」を名乗ってきたTohjiが、当初ラストライブとされていた公演を行う場所として、これほど似合う景色もない。
会場へ向かう道中では、たくさんのラッパーを見かけた。さらに、アーティストやフォトグラファー、デザイナー、スタイリスト――なのだろうか、とにかく何かを作っている気配をまとった人たちがそこかしこにいて、彼らが醸し出す独特の熱気がアリーナへ流れ込んでいく。ひとりの人気アーティストの単独公演というより、この数年でTohjiの周囲に広がってきた文化圏が一夜だけ南船橋に集結したような異様な光景だった。

場内へ入ると、巨大なウルトラマンが宙に浮かんでいる。開演を待つアリーナには「トージ! トージ!」というコールが響き、オープニングムービーを経てTohjiが登場。“I’m a godzilla duh”からライブは始まった。ウルトラマンから発される光に照らされながらゴジラを歌うTohji。巨大な特撮ヒーローと怪獣、アリーナという途方もないスケールが、Tohjiの少年性とそのまま接続しているような、実に彼らしい光景だ。続く“oh boy”では空気が変わる。仲間と孤独をめぐる切ない歌声が広い会場へ静かに染み渡り、この夜が別れを前提にした時間でもあることを確かめてしまう。
そこからは、怒涛の勢いで曲が披露された。この日の公演はトータル46曲。序盤にはLootaが登場し、“Aegu”、“Yodaka”、“Naked”、“Errday”、“Iron D**k”、“Oni”と、Tohji、Loota、Brodinskiによる2021年のアルバム『KUUGA』から立て続けにパフォーマンスした。Lootaが退くと、“Tenkasu”、“sugAA”、“My Swag”へ。“GOKU VIBES”は異なるバージョンを連ね、“Twilight Zone”、“Aglio e olio”、“ULTRA RARE”、“Super Ocean Man”、“HANABI”、“カモメ”、“Amelie”と畳みかける。一つひとつを名曲や思い出の曲として丁寧に置いていくというよりも、これまで作ってきた音楽を巨大な塊のまま客席へ浴びせていくような構成だ。アリーナの各所には次々とモッシュピットが生まれ、曲が切り替わるたびにキッズたちが押し寄せる。これが最後だから悔いがないようにと、観客もまた、持っているエネルギーを全てこの場所へぶつけようとしている。
中盤でムービーを挟むと、ステージはMall Boyzの時間へ。戦隊ものを思わせるような衣装で、広いステージの左右にTohjiとgummyboyが立つ。“bird freestyle”、“My Life”、“mango run”、“Intro”、“MとBを”、“fuck it up”、“fa”、“ベーブルース男”、“YRB 2026 MB mix”、“U my energy”と盛り上がる曲が次々とプレイされる。LaLa arenaという巨大な空間を支配してもなお、Mall Boyzには2人で遊び始めた頃のような私的な小ささが残っていて、その小ささと会場の大きさの落差が妙にカッコいい。その後、2人の輪はどんどん拡大し、これまで築いてきた人間関係を辿っていくような賑やかさを見せていった。
“246”ではBIMとkZm、“mutant ninja turtles”ではralphとJUMADIBA、“GYAL IS EVERYTHING”ではTRIGA FINGA、kZm、ZENDAMANがステージへ。客演がひとり増えるたび、曲の景色が変わり、フロアの盛り上がり方も変わっていく。ここまで来ると、冒頭で南船橋へ向かう道中に感じた「文化圏が集まっている」という感覚が、今度はステージの上でも体験できるようだ。Tohjiの名前を冠した公演なのに、Tohjiだけが中心に立ち続けることで成立するライブではないというのが興味深い。
驚いたのは、リリースされたばかりの最新作『Mall Tape 3』からの楽曲も、すでに過去の代表曲に劣らない熱狂を生んでいた点。特に“GYAL IS EVERYTHING”や“MとBを”といった楽曲の反応は凄まじかった。長いキャリアを振り返る公演でありながら、昔の曲だけが特別に歓迎されるわけではないのだ。観客は新曲のノリやMVで提示されてきたムードまでを早くも身体に入れ込み、ステージと同じ速度で騒いでいる。活動の終わりを意識させる夜なのに、ライブそのものは決して懐古的ではない。むしろ、加速していくスピードが最高潮になろうとしている、まさにその瞬間を切り取ったようなライブなのだった。
後半では、“nap”、“Ridin’”、“一等”、“Salvage”、“Black Hole”と、Tohjiがさまざまな時期に関わってきた楽曲を連投。Fuji Taito、Kamui、釈迦坊主、Kaine dot Coらが次々に登場し、ライブは単なるキャリア総括というより、ここでも、Tohjiの周囲に生まれてきた関係を一つずつステージへ呼び戻すように進んでいった。振り返れば、この日のライブには、Tohjiひとりを観ているという感覚はほとんどなかったことに気づく。通常、ラストライブはひとりのアーティストへと収束していくものだ。代表曲を振り返り、キャリアを総括し、最後にはその表現者の輪郭がくっきりと浮かび上がる。ところがTohjiの場合は逆だった。Lootaが現れ、gummyboyが現れ、たくさんの遊び仲間が次々と現れる。キャリアを振り返れば振り返るほど、Tohjiの周囲にいた人たちの姿が見えてくるのだ。
考えてみれば、Tohjiは最初からそうだった。Mall BoyzもTohjiとgummyboyだけではなく、DJや映像、写真といった様々なクリエイティブを包含したクルーとして活動してきたし、それらが近い距離で作られ、その感覚がライブの観客にまで伝わっていく。この夜、ステージと客席の双方を見ながら感じたのは、Tohjiが曲と同時に、人と人との関係や、その周囲に生まれるノリまでを作ってきたのではないか、ということだ。
そういった感覚は、この日のステージを彩るモチーフにもよく表れていたと思う。宙に浮かぶウルトラマン、戦隊もののように並ぶMall Boyz、観客も含めたファッション、スクリーンに映し出される車や海、キャラクターを思わせるイメージ。Tohjiが少年の頃から好きだったもの、こだわってきたもの、思い入れのあるもの。それらを長い時間をかけて音楽や映像、衣装へ落とし込んできた美意識が、巨大なアリーナの隅々まで広がっている。
そして何よりおもしろいのは、それを観客がただ眺めているだけではないことだ。“GYAL IS EVERYTHING”や“MとBを”で起きた熱狂を見れば分かるように、彼らはTohjiが提示してきたノリを自分たちなりに解釈し、すでに身体で表現するようになっている。ライブとは、その感覚がもっとも大きなスケールで可視化される場所なのだろう。さらに客席を見渡せば、その美意識に感化され、服を作り、映像を撮り、音楽を始めた人がきっと大勢いるのだろうと思えてくる。なぜなら、Tohjiのライブを体験していると、無性に誰かと何かを作りたくなるからだ。
だからこそ、Tohjiが音楽活動を終えても、彼が作ってきた美意識まで消えることはないと感じられる。それを受け取った人たちが、それぞれのやり方で次の表現へ変えていく――Tohjiから始まったものは、すでにTohjiの手を離れ始めているのだ。それはもう、Tohjiだけのものではない。
終盤、SEEDAを迎えた“Cool running”を経て、“Mallin’”、“pink hoodie”、そして“MB Forever”。多くのゲストが登場した長い夜の最後にTohjiとgummyboyが並ぶと、ここまで広がり続けてきたライブが、いったん2人の場所へ戻っていくように見えた。Mall Boyzとは、Tohjiが作ってきたものの最小単位なのだと改めて感じる。2人から始まった小さなモデルが、人を巻き込み、美意識を共有しながら、ひとつの巨大な文化圏を形成し10年近い時間をかけて巨大化していく――そのひとつの到達点として、この日のLaLa arenaがあったのだ。
けれども、その拡張はここで終わらない。“MB Forever”を終えたあと、スクリーンに映し出されたのは、東京ドーム公演『Tohji Last Live “TOKYO MALL”』の開催告知。8月9日まで最後のライブパフォーマンスとされていた物語に、11月17日という新たな最終地点が加わった。
もちろん、この日最後に演奏されたのは、Mall Boyzの“Higher”。Tohjiは《東京ドームの上で歌ってる 見知った顔ばっかの客席》と歌い、こう語った。
「ダラダラ過去の感じをやってる姿よりも、普通に新しいことに挑戦する姿を見せる方が、俺なりのみんなに対してのリスペクトの示し方かなって思うし、俺も自分に対してリスペクトを示したいから、そういうやり方が一番しっくりくるかなって思ってて。だから別に、全然悲しいことじゃないっていうか、結構ポジティブ」
成し遂げて、死ぬ。
成し遂げて、死ぬ。
次の東京ドームを最後に、TohjiはTohjiを葬り、新たな道を歩みはじめる。
【イベント情報】

『Tohji Last Live “TOKYO MALL”』
日時:2026年11月17日(火) 開場16:00/開演18:00/終演20:30
会場:東京ドーム
企画制作:株式会社CANTEEN
















