Text by Hiroyuki Suezaki
Photo by Ayaka Horiuchi
“さくらびより”でのメジャーデビューから14年。当時はカタカナの「ルンヒャン」名義だったが、ZIN、菅原信介、Shingo.SとのユニットであるTOKYO CRITTERSでの活動を始めた2016年頃から名義は英文の「RUNG HYANG」に変わった。そして近年は、原点である弾き語りに回帰したライブや作品、在日コリアン3世というルーツに立ち戻る活動や楽曲などに加え、DRAMATIC SOULの面々(竹本健一、MARU、Hiro-a-key)との久々の共演やPARK(claquepot、向井太一とのユニット)としての3年ぶりのステージなど、多くの盟友たちとの再会を楽しんでもいる。
そんななか発表されたEP『Legassic』は、自身の2026年のテーマであるという「レガシック」の名が冠された。曰く、「今の自分をつくり上げてくれたもの(=レガシー)への感謝とリスペクト」であり、それはただ過去を振り返るという後ろ向きなものではなく、「未来へ向かうための作業」。この「レガシック」をまさに体現したライブが6月19日(金)、東京・恵比寿BLUE NOTE PLACEにて行われた。
元は工場であるレンガ造りの風格ある建物からして、レガシーやクラシックを未来につなぐ「レガシック」な雰囲気が漂い、一夜限りの貴重なスペシャルライブの会場にふさわしい。2つのステージで構成されたこの公演は、最新EP収録曲を中心とした「現在」のRUNG HYANGが、スペシャルゲストと「過去」を振り返りながらも、過去・現在と地続きの「未来」を見据えているような夜だった。
1stステージは、世間の評価とは距離を置き、日常にある自分だけの小さなきらめきを見つめる“tiny shine”で、穏やかながらソウルフルに開幕。続けて“Legassic”、“Let’s beat it”と『Legassic』なモードで会場を緩やかなグルーヴで包む。
そしてスペシャルゲストとして呼び込まれたのは、朝鮮の民族弦楽器ソヘグム(小奚琴)の演奏家である河明樹(ハ・ミョンス)。1stステージは「Asia monsoon」と名付けられていたが、これは2人が2009年に共同名義で発表したアルバムのタイトルだ。砂山淳一がウッドベースに持ち替え、さきほどの雰囲気とは一転、ジャジーな色に会場を染める。始まったのは、00年代ネオソウル風にアプローチしたジャズブルース“Blue bird”。小林岳五郎・砂山淳一・白根佳尚の勝手知ったるプレイヤーたちと河明樹のソヘグムが融合し、後半のトライバルな展開でRUNG HYANGの歌も熱を帯びていく。
続けて、RUNG HYANGの3rdアルバム『MOMENT』(2025年)収録の“ウリアリラン”を披露。「私たちのアリラン」を意味するこの曲は、在日コリアンとして若い頃に自身が経験した迷いや葛藤を歌うとともに、母や祖母の子守唄のように、コリアンであれば誰でも知っている(そしてBTSが復帰作のタイトルにしたことも話題となった)伝統民謡の“アリラン”を口ずさむ構成の楽曲で、本人もレコーディングでは「音楽制作の作業を超えた体験」をしたという、特別な1曲だ。20歳の頃からの付き合いだという河明樹とのコラボレーションにこれほどぴったりな選曲はない。音源ではRUNG HYANG自身が歌っていた“アリラン”のメロディを河明樹のソヘグムが担うこの夜限りのアレンジは、その旋律がただ優美というだけでなく、楽曲そのものの持つ魂がより高次元で可視化されたような美しさがあった。
浄化されるような“ウリアリラン”の共演から一転、今度はRUNG HYANGがピアノに移動し、ピアソラの名曲“Libertango”の情熱的なパフォーマンスで会場のボルテージを一気に上げる。かと思いきや、今度は『Asia monsoon』から“春と月”を披露し、しっとりとクラシックな雰囲気に。この静と動のパフォーマンスは、河明樹とのステージだからこそ表現できた「ルンヒャン」の一面といえるのかもしれない。
ゲストの河明樹が退場すると、『Legassic』のステージが再開。“春と月”のムードを引き継ぐように、春に亡くなった祖父のことを歌った楽曲“memento”がピアノ弾き語りで歌われた。「いなくなっても、前よりむしろ大きな力でそばにいる」という実感が込められた言葉が、会場に響く。そして、「静寂がうるさいな」という歌詞が、まるでこの1stステージの静と動の激しさを表現したようでもあった“Lull you”でこのステージの幕は静かに閉じた。
「This is Tokyo!」と題された2ndステージも、開幕が“Lull you”という違いはあったが、“Legassic”、“Let’s beat it”と続く『Legassic』な流れは1stと同様。ただ、ある種の緊張感がピンと張っていた1stとは違い、“Let’s beat it”では歌詞を忘れるひと幕もあったりと、「友人たちとのパーティ」感に満ちた緩さがあり、そんなパーティを期待する会場の熱量も早くも上昇。
その熱量が最高潮となったのは、やはりスペシャルゲストであるZINと菅原信介(そして3度にわたって呼び込みを忘れられたShingo.S)の登場だろう。7年ぶりだというTOKYO CRITTERSのステージは、“WHAT’S UP”からスタートし、“LOVE”で見事なハーモニーを聞かせたかと思うと、“DANCER”であっという間に終了。本当に短い時間だったが、3人の個性が爆発しつつも、ギリギリでバランスが保たれていて、まさに「奇跡」のコラボレーションだったのだと、改めて実感させられた貴重なひとときだった。7年前よりもさらなる爆発力を見せつけた彼らの再集結が、またいつか実現することを願わざるをえない。
TOKYO CRITTERSの熱波も冷めやらぬなか、再び『Legassic』の時間軸に戻った2ndステージは“tiny shine”と“memento”で終幕――とは、当然ならないだろう。アンコールの声に応えたRUNG HYANGは、河明樹を呼び込み、人気曲“Blue bird”を再演。1stステージを見られなかった人たちには嬉しいサプライズとなったはずだ。そして、この日のラストを飾ったのは、RUNG HYANGのライヴの定番であり、自身のテーマとして掲げる「大人たちこそ遊べ、楽しんでいる姿を子どもたちに見せよう」というメッセージが込められた“オトナの時間”。会場全員が立ち上がり、TOKYO CRITTERSの面々もステージに上がって、パーティは大団円を迎えた。
現在地の『Legassic』から、これまでのルンヒャン/RUNG HYANGを築き上げた過去を慈しみつつ、その辿った奇跡がBLUE NOTE PLACEという場所で交差し、新たな道を照らす――。レガシックと題されたこの夜は、つまるところRUNG HYANGというアーティストの新たな出発点だったのだと、5年後、10年後に振り返ることになりそうだ。
1. tiny shine
2. Legassic
3. Let’s beat it
4. Blue bird (w/河明樹)
5. ウリアリラン (w/河明樹)
6. Libertango (w/河明樹)
7. 春と月 (w/河明樹)
8. memento
9. Lull you
▼2nd stage ‘This is Tokyo!’
1. Lull you
2. Legassic
3. Let’s beat it
4. WHAT’S UP (TOKYO CRITTERS)
5. LOVE (TOKYO CRITTERS)
6. DANCER (TOKYO CRITTERS)
7. tiny shine
8. memento
En1. Blue bird (w/河明樹)
En2. オトナの時間
【イベント情報】
『RUNG HYANG SPECIAL LIVE “Legassic” in BLUE NOTE PLACE』
日程:2026年6月19日(金)
会場:東京・恵比寿 BLUE NOTE PLACE
-1st Asia monsoon-
OPEN 18:00 / START 18:45
Special Guest:河明樹(Sohegum)
-2nd This is Tokyo!-
OPEN 20:15 / START 21:00
Special Guest:TOKYO CRITTERS(ZIN、菅原信介)
[BAND MEMBER]
小林岳五郎(Key.)
砂山淳一(Ba.)
白根佳尚(Dr.)
[Dress Code]
tiny shine
















