2025年、ボーカリストの脱退によって転機を迎えた新東京。約1年にわたる準備期間を経て、2026年1月、新ボーカル・金山仁を迎えた新体制で再始動した。
だが、この1年は単なるメンバーチェンジのための時間ではなかった。彼らは新たな歌い手を探しながら、自分たちがどこを目指し、どんな音楽を鳴らしたいのかを改めて問い直していたという。新体制初のEP『新東京 #6』には、その内省を経て辿り着いた現在地と決意が刻まれている。新ボーカル加入の裏側から収録曲に込めた思い、そしてギターレスバンドとしての進化まで、メンバー4人に話を聞いた。
Interview & Text by Chinami Hachisuka
Photo by fukumaru

「今までの新東京とはまた違った、新しい側面が見えた」──新ボーカル加入の経緯
――2025年4月に前体制でのラストライブを開催し、その後、新体制の準備期間に入った新東京。準備期間における最大の課題は、新たなボーカリストを見つけることでした。資料によるとメンバー、スタッフ全員でライブハウスや路上ライブに足を運び、インターネットもくまなくチェックしたそうですね。自分たちで探しに行くのではなく、公募するという方法もあったかと思いますが。
田中:オーディション番組も流行ってますからね。周りの人からもたくさん言われました。「オーディションをやったらいいんじゃない?」「いろいろなところから応募してもらった方が、絶対いいボーカルが見つかるって」と。だけど、それよりかは自分たちの目で、自分たちの感性に合う人をゼロから見つけたかったんです。「自分たちの今の音楽はこれだ」と提示できる状態で、ファンのみなさんの前に出ていけるようになりたいなと。なので、オーディションのような形は選びませんでした。
――金山さんのことは、Instagramで見つけたそうですね。
田中:前のボーカルの脱退が決まった段階で探し始めていたんですけど、なかなか見つからず。仁のことを見つけるまでに半年以上かかりました。今まで作ってきた曲も大切にしたいので、既存の曲を歌っても違和感がないような……もっと言うと、自分のものにできる人がいいなと思ってたんです。仁はInstagramに弾き語りの動画を上げていたんですけど、歌声に芯があっていいなと思って。新東京らしさを踏襲してくれそうな感じもありつつ、エモーショナルな部分もあって素敵だなと。
金山:初めて会ったのは、夏の終わり頃でしたよね?
田中:そうそう。確か9月に初めて連絡して、まずはここ2人(田中と金山)ですぐ会いましたね。その後4人で話して、スタジオに入ってセッションしました。
――金山さんは当時、どんな状況だったんですか?
金山:音楽を本気でやっていこうという思いはありつつも、SNSで発信する以外のことはできてなくて。そんなガチガチな感じではなかったです。その時点ではいろいろな可能性を考えながら動いてたんですけど、弾き語りでひとりでやっていくのが僕の場合はいいのかなと、当時はなんとなく思ってました。
――それはなぜ?
金山:高校のときに文化祭レベルのバンドを組んだことがあるんですけど、技量や熱量の違いで上手くいかなくて。そういうので一回一回萎えるんだったら、ひとりでやった方がいいのかなと思ったんです。
――だけど、ある日、新東京から連絡が来たわけですよね。
金山:まず「なんかすごい連絡が来たぞ」「新手の詐欺かな?」と思いました(笑)。そこから「どんなバンドなんですか?」って聞いたら、すごく熱量のある文章が返ってきたので、じっくりお話してみたいなと思って。最初にトシさん(田中)と2人で会ったときは、メンバー紹介をしてもらって、「どんな活動をしてるんですか?」って聞いて……。そんな感じでしたよね?
田中:うん。あとは、「高校のとき何やってた?」「そのバンドはどんなバンドだった?」「兄弟いる?」とか他愛もない話をして。そのあと4人で、イタリアンに行ったんだよね。
大蔵:あー、そうだった! 思い出してきた!
田中:4人で会ったときも雑談を……好きなアーティストとか好きな映画の話をして。翌日にスタジオに入りました。
――何の曲を合わせたんですか?
田中:“36°C”と“Cynical City”です。この2曲を歌えるようにしておいてくださいって、仁にお願いして。
金山:最初は音源をめちゃくちゃ聴いて、バンドに合わせた歌い方をしようと思っていました。でも、それだと自分を殺して歌うことになるなと途中で気づいて。原曲のいいところを踏襲しつつ、「自分が歌うならこういう解釈で、こういう歌い方がいいな」というところがあれば、それを混ぜるようにして歌うようにしました。
田中:レコーディングのときとバンドと一緒に合わせたときでは声の出し方って変わるものだから、それぞれどういう感じなのか聴きたくて。最初、2人でレコーディングしたよね?
金山:うんうん。しかも2回も(笑)。
田中:そのあとみんなでスタジオに入ってバチッと合わせたら、もうビビッと来て。「これだ!」っていう感じがあったよね。
保田:そうそう。実はその段階では他にも何人か候補がいて。その人たちともスタジオに入ったんですけど、彼が一番いいなと思いました。
大蔵:曲とのマッチング感がありましたね。これまでの新東京像をいい意味で踏襲しつつ、今まで以上にエモーショナルで。
田中:“36°C”のCメロからサビにかけての、一番盛り上がるところがあるじゃないですか。あそこで仁が声を張り上げたときに「この曲ってこんなふうにもなるんだ」と思って。今までの新東京とはまた違った、新しい側面が見えたんですよね。
休止期間を経て変化したバンドのビジョン
――そうして新ボーカルが金山さんに決定し、今年3月には新体制初のワンマンライブが行われました。金山さんはそれまでの間に、いろいろな楽曲を歌えるようになっておく必要があったわけですよね。
金山:そうですね。最初は音源を聴いて歌うっていうのを繰り返して。答えがわからないなかで正解を探す作業をひとりでしていました。みんなの意見はスタジオで聞こうと思ってたので、それまではひたすら我慢というか。まずは自分の中の正解を持つことが大事なのかなって。
田中:とはいえ、ほぼ完璧に仕上げてきてくれたので、「もうちょっとこうした方がいい」とか、僕らから何か指摘するとかは全くなく。なんなら僕らの方がブランクもあったし(笑)。
保田:確かに(笑)。
田中:一番びっくりしたのは、彼(大蔵)が“Rally Call”を弾けないと言い出して(笑)。
大蔵:1回目はね、弾けませんでしたね……。
田中:“春”とかも「これ人間の弾く曲じゃねえよ」って言っていて。
大蔵:まあちょっとね、場を和ませようかなって。
田中:そういう意図?(笑)
保田:素晴らしい配慮。
金山:確かに、おかげでリラックスできて、僕はずっと楽しく練習できました(笑)。
――ライブ当日はいかがでしたか?
田中:やっぱり仁くんのステージングが気になってたんですけど……びっくりしました。会場に入ったときからずっと楽しそうにしてたんですよ。
大蔵:さすがに緊張してた?
金山:いや、楽しみでしかなかったです。
田中:それにびっくりして。「なんなんだ、こいつは?」と。今まではインスタでフォロワー500人に向けて弾き語りしてたわけだけど、絶対にステージに立つべき人だと思いました。自分だったら緊張しまくってガチガチになって、歌詞とか全部飛ぶ気がする。
保田:そうそう。だからすごいなって思いました。俺より4個下なのに。
金山:そこ?(笑) 自分でも不思議だったんですよ。ひとりで弾き語りライブをするときは緊張してたのに、今回は緊張しなかった。やっぱり、一緒に音楽をやる仲間がいるからっていうのが大きな要因なのかなって思います。あとは、ライブが楽しみすぎて、自分が緊張していることを認識できてなかったのかもしれない(笑)。
保田:すげーな。
金山:ワンマンライブって、自分たちの演奏を目当てに来てくれる方ばかりじゃないですか。100%受け入れてもらえる場所で歌えるっていうのは、すごく嬉しいことだったので。
田中:あと、その前に出した“Rally Call”の反響がよかったのもあるよね。
金山:確かに。
――“Rally Call”は今回のEPにも収録されていますが、EPに先駆けて今年1月7日に、新体制初の楽曲として配信リリースされました。
田中:新体制に向けてどんな歌詞を書こうか、というところから始まった曲だったと思います。これから先、僕らがどんなふうに新しい新東京を表現していくかを歌詞にできるタイミングだと思い、気合いが入って、ちょっとメタ的に書いてみました。
――新体制一発目の楽曲がかなり攻めた曲だったのが痛快でした。「そうだよ、こんな新東京が聴きたかったんだよ」と思わせてくれるような。
大蔵:活動休止前の『新東京 #5』を出した段階では、自分たちのやりたいこととマスに向けることの間に乖離があるなと思っていて。その差に対して、「売れるためには、もう少しマスに寄せた方がいいんじゃないか」という意見が優勢だった時期もあったんです。
田中:とはいえ、そういう意見がありつつも、実際に行動に移せていたわけでもなくて。そんななかで、そもそもの目指す場所が変わったんだよね?
大蔵:そうそう。当時は音楽業界のこともわかっていなかったから、わかりやすく「売れている」状態を目指した方がいいのかなと思っていた。でも、休止期間中にサポートの仕事をしたり、いろいろなライブを観に行ったりするなかで、別にそれだけが全てじゃないっていうことがわかった。
例えば会場の大小関係なくライブを堅実に成功させて、熱量を持ったリスナーがちゃんとついている状態ってカッコいいなと思うし。共同体としてはそっちの方が理想的だな、と。それを目指すなら、マスに寄せるよりも尖りというか、自分たちのオリジナリティを出していった方がいい。だから、休止期間を経て、最近はあまりポップさなどは考えなくなりました。
田中:時代によって流れってあるじゃないですか。僕たちのありのままの感性が、いつかマスに届く可能性もなきにしもあらずだと思うし。もしそういう機会があるのであれば、ちゃんと出ていきたいと思いますね。
シンセ解禁で拡張された楽曲の幅
――マスに寄せず尖っていこうという話でしたが、その空気感が“Rally Call”にも反映されていますね。
田中:そうですね。試行錯誤はめちゃくちゃありました。メンバーから「もっとこうしたらいいんじゃないの?」みたいな指摘を受けて、作り直して、また持っていって……みたいな。で、最後の最後にサビのリズムや歌詞もガラッと変えて。
金山:レコーディングに行ったらサビが変わっていて、びっくりしました(笑)。事前にもらっていたデモからリズムが変わって、サビが食ったリズムになってたんです。
田中:どうしても食わせたかったんだよね。ギリギリで気づいたけど、絶対こっちの方がいいって。
保田:マジでそう。あれは絶対にやってよかった。
田中:この曲に求めていたのは、爆発力だったんですよ。2025年12月31日まで、僕らはSNSも一切動かしていなくて。定期的にエゴサなどはしていたんですけど、「もうこのままなくなってしまうのかな」「メンバーそれぞれ別々でもいいから活動してほしい」というようなコメントが来るくらい、ファンのみんなからすると希望がなかったのかもしれない。
そういった反応に対しては申し訳ない気持ちと同時に「しめしめ」とも思いながら、地下で爆弾を作っていたような感じ(笑)。アー写もジャケ写もMVも撮り終えて、全部準備した状態で2026年1月1日を待って。「新しい新東京でぶちかます」みたいなイメージで動いていたんですよね。
――その気概は伝わってきました。実際この曲を聴いて食らった人は多かったと思います。
田中:爆破成功。
金山:やったね!
――でも爆弾のような曲は、“Rally Call”だけじゃないですよ。
金山:“Vanishing”とか、すごいからなあ。
――そう。1曲目の“Vanishing”、すごかったです。この曲の発端は?
田中:人力ドラムンベースをやりたいとずっと思っていて。これまではセクションやメロディにマッチするドラムを後からつけていく作り方が多かったんですけど、今回はそうではなく、まずはビートが土台にあるという曲を作りたかったんです。最近、ドラムを目立たせたい欲があって。うちのバンドはベースが目立つんですよ。プレイもそうだし、見た目的にも(笑)。だけど、ドラムもカッコいいんだということをこのタイミングで出したかったので、ドラムが一番目立つ曲を作りました。
――3曲目の“Baptism”は、ベースでカッティングしてますよね?
大蔵:ああ、そうですね。
――普通だったらギターでやるようなことを、新東京はギターレスなので、ベースがやるという。理屈はわかるけど、それにしても……と思いますよ(笑)。
大蔵:「やってください」と作者から言われたのでやりました(笑)。やってと言われたら何でもやりますよ。
田中:彼が一番素直なんで(笑)。
大蔵:でも、ベースがカッティングしたら、「低域はどうするんだ?」とは思ってましたけどね。そしたら彼(田中)がシンセベースで担ってくれたので、じゃあ大丈夫かと。心配だったのはそれくらいですかね。
――新東京はギターレスバンドとしての可能性を、結成以来ずっと追求してきたバンドだと思います。新体制になって、その追求がより鋭くなった印象を受けますが、作曲者としては意識していますか?
田中:目立たせたい部分は楽曲ごとに違うんですけど。全体的に、新東京というバンドの今の形によりフォーカスして楽曲を書くようになったなと感じています。あと、僕がシンセを使うようになったんです。これまではピアノ、エレピ、オルガンにこだわってたんですけど、アナログシンセならいっか、って(笑)。
保田:なるほど。アナログならいいんだ(笑)。
大蔵:じゃあ、外すべきはNordだろ(笑)。あんなデジタルの塊みたいなものを……。
田中:そこは許してほしい(笑)。グランドピアノとかローズは、さすがに持ち歩けないから。
――シンセがアリになったことで、思い浮かんだアイデアもあったのでは?
田中:そうですね。シンセがあることによって“Vanishing”のドラムンベースに踏み切ることができました。“Baptism”も、ピアノやローズだけだと少しローが弱いけど、シンセがあることで、ベースがカッティングすることも可能になった。かなり分厚いローも鳴らせるので、幅が広がりましたね。今後も大蔵くんが上音でいろいろ遊べるように、僕はシンセで土台作りを頑張ります。
「これからも僕らは、僕らなりの音楽を作っていきたい」
――4曲目の“Afterglow”は歌詞が美しいですね。
金山:“Afterglow”は歌い甲斐がありますね。僕はメロディより歌詞重視。自分なりに解釈して、落とし込んで歌う作業が好きなので、こういう歌詞に出会えると気持ちが高まります。
――金山さんは今回、4曲のレコーディングを経験して印象に残っていることはありますか?
金山:“Vanishing”と“Afterglow”のレコーディングはもう、トラウマ的に覚えてますね(笑)。
――トラウマ(笑)。さぞ強烈だったんでしょう……。
金山:ライブの遠征から帰ってきた日の夜に、トシさんに「2曲一緒に録るからね」と言われて、さすがに冗談だろと思ったんです。でも本当だった(笑)。最初に“Afterglow”を録ってヘトヘトになって、ちょっと休憩したら「よし、次は“Vanishing”いくか」って。夜11時からのレコーディングだったので、僕は終わったあとに松屋で豚汁だけ飲んで、そのまま大学に行きました。あれは忘れられないです。
大蔵:今回もいつも通り、スケジュールが詰め詰めだったなと思います。
田中:本当に申し訳ない……。
金山:(3人に向けて)いつもこんな感じなんですか?
大蔵:そうね。だから素直さがないと、新東京のメンバーは務まりませんよ(笑)。議論してる場合じゃないんで。
金山:確かにそうですね。上手く歌えるかな……とかじゃなくて、「歌う」みたいな(笑)。
大蔵:弾けないじゃなくて、弾く!
――コンポーザーである田中さんの脳内も、目まぐるしかったのでは?
田中:元々、作詞の7~8割は前ボーカルがやってたけど、それが全部僕になったんですよ。今までは歌詞の素材が揃った段階で曲を作り始めるという順番だったんですけど、今はフェーズの境界が曖昧になって。作詞作曲とアレンジ、ミックス/マスタリングとMVの構想、ジャケ写の構想などなど……全部同時進行という感じで。
大蔵:エグイな。
田中:曲を作りながらMVのことを考えたりもしてます。だから、曲作りが終わったタイミングで歌詞を全部差し替える、みたいなことも起こり得るっていう。
金山:3人の姿を間近で見て、やっぱりスゲーなと。簡単な言葉に聞こえちゃうかもしれないけど、「魂削ってるな」ってめちゃくちゃ感じました。3人のレベルが高いから、ボーカルが変な浮き方をしないように、自分も頑張らなきゃなって思いますね。みんなで高め合っていきたいです。
大蔵:仁くんはこれから慣れると思うけど、僕ら2人はこういう感じももう慣れっこですよ。
保田:これで5年やってます(笑)。今回のEPに対して感じるのは、新東京らしさが全部出てるなってことで。
田中:仁にとって初めてのEPということで、ボーカルがちゃんと立っている曲もあるし。ファンのみんなをお待たせしたので、新東京らしさも特に意識して、新体制一発目として相応しい作品ができたのかなって。意図して作ったものが、さらに別の光を発してるような気もします。
保田:さっきお話したように、活動休止中に聴きやすい音楽をやっていく方向にシフトしそうなときもあったけど、そうならなくてよかった。変わらなくてよかったなと思ってます。
田中:これからも僕らは、僕らなりの音楽を作っていきたい。新東京の音楽をより多くの人に聴いてもらえるように頑張っていきます。
――リリース後には、新体制初のツアー『NEOSPHERE』も控えています。
金山:新体制でのライブをまだ観てない人もいると思いますし、そういう人に向けて「ああ、始まったんだな」「戻ってきてくれて嬉しいな」と思ってもらえるようなライブにしたいです。僕にとっては初めてのツアーということもありますし、楽しみに待ってくれている人の前で歌えることが、ただただ楽しみですね。
【リリース情報】

新東京『新東京 #6』
Release Date:2026.05.27 (Wed.)
Label:新東京合同会社 / ArtLed
Tracklist:
1.Vanishing
2.Rally Call
3.Baptism
4.Afterglow
作詞作曲:田中利幸
【イベント情報】
『新東京 One Man Tour 2026 “NEO SPHERE”』
2026年6月11日(木)大阪・梅田 Shangri-La
2026年6月12日(金)愛知・名古屋 CLUB UPSET
2026年6月13日(土)静岡 UMBER
2026年6月18日(木)東京・渋谷 WWW
















