FEATURE

INTERVIEW | Mandark


2つのバンドとソロで活躍する才媛。台南から台北、そして世界へと広がる音楽の旅路

2024.12.17

台湾のMandark(マンダーク)は、可憐な佇まいとは裏腹にエネルギッシュな進化を続ける存在だ。

アーバンポップバンド・Sweet John、ドリームポップバンド・I Mean Usのメインボーカリスト/キーボーディストとして頭角を現した後、2021年にソロ活動をスタート。その音楽性は最新アルバム『BADA88』(2023年)でさらに深化し、R&Bとエレクトロニックミュージックを融合させ、未来へ広がる独自のサウンドに至る。新たなライブ体験のためにダンスを取り入れるなど、常に新境地を求める姿勢も魅力だ。

DÉ DÉ MOUSEやTokimeki Records、jeanとのコラボレーションを通じ、日本の音楽シーンにも積極的に関わってきたMandark。今回の来日を記念したインタビューでは、アーティストを志したきっかけや、日本での活動について率直な思いを語る。アジア音楽フェス『BiKN shibuya 2024』(※1)出演を終えた彼女の、台湾から日本へと広がる音楽の旅路について訊いた。

※1:『BiKN shibuya 2024』:2024年11月3日(日・祝)に開催。アジアのアーティストが多数出演した音楽フェスティバル。Mandarkがボーカルを勤めるSweet John、I Mean Usの両バンドが出演した。

Interview & Text by Megumi Nakamura
Interpeter Taichi Tagawa
Photo by アーティスト提供


台南から台北へ、アーティストとしての第一歩

――Mandarkさんは、大学を卒業するまでロックミュージックをほとんど聴いたことがなかったそうですね。

Mandark:はい、高校卒業後は國立臺南藝術大學の応用音楽学科に入学し、クラシックの楽器演奏に根ざしたスタイルではありましたが、主にコンピューターを使った音楽制作を学びました。大学時代にもインディーズ音楽を聴いていないわけではなかったのですが、当時はCheer Chen(チアー・チェン/陳綺貞)やAnpu(安溥)などアコースティックギターと女性ボーカルで構成されたインディフォークが流行っていたように思います。

――芸大のご出身だったんですね。卒業後の生活はどのようなものでしたか?

Mandark:大学卒業後は台南から台北へ引っ越し、ある会社で素材用音楽のクリエイターとしておよそ5年間ほど働いていました。クリエイターと言っても求められるのは広告などに使われる楽曲で、制作のプロセスはまるで「工場式」(笑)。働き方は、さながら「オフィスレディ」のようでした。仕事の合間にこっそり自分の曲を作ってSoundCloudにアップする、という生活を送っていました。

※I Mean Usの人気曲“Søulмaтe”は、MandarkがSoundCloudにアップしたデモver.が原型となっている。

――バンドでの音楽活動はいつ頃、どのような形で始まりましたか。

Mandark:I Mean Usのギタリスト・Vitz(楊永純)が大学の同級生で、卒業後、2015年にバンドを組まないかと誘ってくれたんです。その後、Sweet Johnへの加入も決まりました。ロックをほとんど聴いたことがなかったので、バンドメンバーが色々教えてくれて。たとえばI Mean UsのメンバーからはMy Bloody Valentine、Sweet Johnのメンバーからはtoeなどのマスロックを教わりました。そこから徐々にインディロックを聴き始めたんです。

――アーティストとして生きることを意識しはじめたのはいつ頃でしょうか?

Mandark:バンド活動が軌道に乗り始めて、徐々に「もしかしたら、私はアーティストに向いているかもしれない」と思えるようになったんです。特にSweet Johnのデビューアルバム『Dear』(2017年)が『第29回 Golden Melody Awards』(GMA / 金曲奨 ※2)の最優秀バンド部門にノミネートされたときのことはよく覚えています。ノミネートされたことを最初知らなくて、同僚から教えてもらったとき、本当に驚きました。

※2:Golden Melody Awards:中華民国文化部が主催する音楽アワードで、中華圏の音楽シーンに絶大な影響力を有し、最も栄誉のある賞と言われる。

――客観的な評価が自己肯定につながった。

Mandark:そうですね、家族や周りの人の理解が得られたことで、徐々にバンド活動にかける時間や、チャンスも増えていきました。


I Mean Us、Sweet Johnとソロ活動、それぞれの音楽制作

――2つのバンドとソロプロジェクトで精力的に活動されていますが、それぞれの制作プロセスを教えてください。

Mandark:I Mean UsとSweet Johnの制作プロセスはかなり異なっています。Sweet Johnは全員で創作するスタイルです。たとえばデモが完成すると、グループで話し合い、洗練させるためにミーティングをしたり、クラウド上でファイル交換したりします。

一方、I Mean Usではリードボーカル兼ギターのOhan、ギターのVitz、そして私の3人が主に創作を手がけていて、楽曲を洗練させる前に、ほとんどのアレンジをその3人のうちひとりが単独で手がけることが多いです。最近では、台湾のバンドオーディション番組『一起聽團吧』への参加など、機会に合わせた曲作りも行っています。

――オーディション番組では、ドリームポップとストリートダンスを融合したパフォーマンスを披露していましたよね。

Mandark:番組収録期間、I Mean Usではこれまで機会のなかったパフォーマンススタイルに挑戦することを目指していました。私にはバンドをやる以前、ストリートダンスのコミュニティに友人がたくさんいたので、ふと思い立って、その中の何人かに声をかけて、今までやったことのないパフォーマンスを試してみたんです。

――ユニークですね! ソロの楽曲は、どんなアプローチで作っているんですか?

Mandark:(ソロプロジェクトは)バンド活動よりも後から始めたことなので、「新しいを要素入れたい」という気持ちがあります。バンドサウンドと差別化するために、主にエレクトロニックミュージックに重点を置いています。ビートから曲を作っていったり、「このフレーズを言ってみたい」というインスピレーションを、スマートフォンのメモ機能に書き留めて、そこから膨らませていくようなアプローチを取ることが多いです。

――ソロ作品は、基本的に〈Fortune Coookie Records〉(福祿壽音樂)からリリースされていますが、どんなレーベルなんですか?

Mandark:台湾のプロデューサー・Howe Chen(陳君豪)、Gummy Bear Man(韓立康:HLK)と、ミキシングエンジニア・Ziya Huang(黃文萱)の3人が立ち上げたレーベルです。彼らは裏方として、aMEI(アーメイ/張惠妹)、Jolin Tsai(ジョリン・ツァイ/蔡依林)、Cheer Chen(陳綺貞)、LaLa Hsu(ララ・スー/徐佳莹)など著名な女性アーティストに作品に関わり、『Golden Melody Awards』の受賞歴もあるような制作集団で。

――中華圏を代表する女性歌手を手がけているんですね。どんなきっかけでつながったんですか?

Mandark:最初のつながりは、私がフリーランサーだった頃に、彼らのプロジェクトにアレンジャーやミュージシャンとして様々なプロジェクトに参加させてもらったことでした。そんな〈Fortune Coookie Records〉に楽曲をプロデュースしてもらうというのは、滅多にない贅沢な機会で。1stアルバム『BADA88』は、合計6日間を2回に分けたデモ制作合宿でデモを完成させて、その後1年かけて、パズルのように1曲ずつつなぎ合わせながら、ゆっくりと曲を完成させていきました。


『BiKN』を振り返って

――MandarkさんはX(Twitter)のプロフィールに「赤字商品になりたくありません」と書いてありますけど、これはどういう意味なんですか?

Mandark:このプロフィールを書いたのが『BADA88』のリリース時期で、〈Fortune Coookie Records〉というビッグなクリエイターの方々が関わってくれたので、心から「赤字商品にしたくない」という想いがありました。元々日本語を参考にしたのではなく、中国語から自分で翻訳したんですけど、変ではないですか?

――全く違和感ないですよ(笑)。それ以外にも、Mandarkさんは2.5次元的なアプローチをされたり、これまで日本のアーティストとコラボ作品やMVを発表していますが、日本の文化はお好きなんですか?

Mandark:漫画は大好きです!『葬送のフリーレン』(日本テレビ系)、『負けヒロインが多すぎる!』(TOKYO MX)をよく観ていて、コスプレにも挑戦しています(笑)。それから、最近よく女性のヒップホップを聴くんですが、日本のアーティストなら、ちゃんみな、Awichが好きです! 私は内向的なので、強い女性に憧れるのかも。

――今回『BiKN shibuya 2024』で来日し、Sweet JohnとI Mean Usのメインボーカリストとして参加されましたが、改めて感想を教えてもらえますか?

Mandark:まず、『BiKN』の運営チームは本当に素晴らしいと思います。そもそも日本には多くのアーティストやバンドがいて、競争が激しい環境ですよね。そんな中でも、『BiKN』のブッキングチームは日本だけでなく、海外のアーティストをいろいろ観ているんだろうなと、ラインナップをみて感じました。チケットのセールス目的だけでなく、忖度なくしっかりした基準を持ってオファーを出されているんだなって。

そして、海外のアーティストにこういった機会が設けられることは本当に素晴らしいことだと思います。

――最後に日本のファンへメッセージをお願いします。

Mandark:スマホのメモに作ってきたので、見てもらっていいですか? ──とても光栄なことに、『BiKN』で演出できただけでなく、2つのバンドが一緒に東京に来られたことは本当に貴重な機会でした。日本のファンに会えて、とても感動しました。すぐにまた会いたいと思っています。応援、サポート、そして暖かいおもてなしをありがとうございます! 日本が大好きです。

――ありがとうございました! ソロでも来日ライブを観られる日を楽しみにしてます!

■Mandark:X(Twitter) / Instagram


Spincoaster SNS