シンガポールを拠点とするClarence Liew、Auzaie Zie、Marc Lianの3人から成る新鋭R&Bバンド、brb.。2019年発表のAmPm「Sorry That I Love You feat. brb. & Chocoholic」に参加し、同年に初来日も実現。日本のリスナーからも認知と支持を得てきた。
彼らはその後もコンスタントに作品を発表。今夏、7月には新作EP『fleur』を、そして9月末にはJimmy Brownとのコラボ曲「your love」をリリース。メロウなR&Bを基調としながらもビート感の強いトラック、どこかエキゾチックさを湛えたメロディなど、グローバルなトレンドとも共鳴しながらオリジナリティを発揮。この2作で改めてそのポテンシャルの高さを世界にアピールした。
今回はそんなbrb.にメール・インタビュー。先述の2作の制作背景を訊いた。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Official
――EP『fleur』は2021年1月よりリリースしてきたシングル曲を中心としたEPですが、何かコンセプトやテーマはありましたか?
Zie:僕たちが考えていたテーマは、グループとしての“成長”や“転機”です。インスト・バンドとして活動を始めた僕らですが、徐々にメンバー個々のボーカルパ・ートを加えたボーイズ・グループへと変化していっています。このテーマは、アートワークで繰り返し使っている“花開く”モチーフにも実は表れています。
――1曲ずつ制作プロセスと、歌詞がどのようにして生まれてきたのか教えて下さい。1曲目の「juice」はモダンなヒップホップの要素も取り入れた軽快な1曲です。歌詞に出てくる“Doctor Seuss”とは?
Marc:ボサノバのグルーヴを曲の中に取り入れたいと思っていて、そのアイデアから生まれたのが「juice」で、アルバムの中でも特にシンプルで気持ちの良い曲です。僕らが歌詞を書くときには、特定の韻律に従うことが多いのですが、“Dr. Seuss”のアイデアもその一環です。また、「juice」の韻を踏むのに最適な言葉でもありますし、サビの部分で表現したかった自由で開放的なイメージも表現しています。
Clo:Dr. Seussは、90年代に私たちが子供の頃に親しんで読んだアメリカの児童文学作家です。教育的な本であることはもちろん、寝る前に読むほど好きでした。「juice」では優しくて心安らぐ人の存在を表す文脈で使われています。そのため、次の「Ain’t no Monday blues」というセリフに繋がり、一緒に時間を過ごすことで持続する幸せを表しています。
――「honeymoon」はどこかレゲエやダブの要素も感じさせる陽性のサウンドに、甘い感情を綴ったかのような1曲です。しかし、最後の一節《If we stay stuck in this garden/We ain’t gonna blossom》は少し不穏なイメージも感じさせます。
Marc:「honeymoon」の構成は、2つのパートに分類できると思っています。レゲエ・ダブのアウトロに入る前までは物事は順調に進んでいるように見えますが、歌詞を深く読むと、それほど単純な話ではないという疑問が残る。リアルの世界で経験するいわゆる“蜜月のフェーズ”も、幸せ過ぎてむしろ現実味がないですよね。アウトロではその疑念が最終的に引き継がれ、ほろ苦い現実と折り合いをつけています。最後の一行は僕らのお気に入りで、花のモチーフが変身と成長を意味するという、アルバム全体のテーマにも結びついています。
Clo:目的を達成するための手段を表現しています。この曲は、ほぼ全てのカップルが経験する“ハネムーン(蜜月)のフェーズ”をテーマにしています。しかし、実際には誰もがハッピー・エンドを迎えるとは限らない。一人の人間として成長・開花するために、お互いに関係を断ち切ることに合意する過程を歌っています。
――「move」はアフロ・ビートのような跳ねるビートが印象的です。リリックはどのようなイメージで書いたのでしょうか?
Marc:最初は催眠術のようなトリッピーなビジュアルが頭に浮かんでいました。曲を書いていくうちに、自分自身を解放することがテーマになりました。他の人の意見に惑わされず、自分を貫くこと。
――「saint」はギターのリフからアイディアが生まれたそうですね。そこからどのようにして膨らませていったのでしょうか? また、歌詞には“God”、“Sinner”、“Saint”といった宗教的なモチーフも感じられます。
Marc:ギターのコードからインスピレーションを得たので、歌詞のアイデアも簡単に出てきました。この曲では、教会のような雰囲気を出すためにボーカル・クワイアを使っています。最初に浮かんだ歌詞のアイデアのひとつに、《We pray to God like he’s real and that》(まるで実在するみたいに神様に祈る)というフレーズがありました。これが曲の雰囲気にぴったりだったので、そのまま宗教的なモチーフを参照していきました。
――EPの制作タイミングはコロナ禍と被っていたと思われますが、制作や活動へはどう影響しましたか? また、コロナ禍に伴う外出制限で、音楽制作におけるインプットが減少、もしくは変化したという話もよく聞きます。その点も合わせていかがでしょうか?
brb.:僕らはロックダウンの数週間前にデビューEPをリリースしましたが、パンデミックへの対応と、失った機会への折り合いをつけることが個人的に大きな課題でした。大規模なツアーを予定していたのですが、一夜にしてすべてがキャンセルされてしまいました。
また、作曲に関してもいくつかの困難に直面しました。どんな機材が必要なのか、どのプラットフォームを使えばいいのか、どうすれば制作に集中する気分になれるのかなど。また、昨年は世の中全体にネガティブな要素が多く、ポジティブになるのが難しかったですね。しばらく時間がかかりましたが、なんとかコツをつかむことができました。
――ニュースなどを見ていると、シンガポールは今、感染者が減少傾向にあるようですが、実際はどのような状況ですか?
brb.:現在、1日に約100人の患者が発生していますが、ワクチン接種率はほぼ50%に達していると思います。トンネルの終わりに光が見えてきました。
――シンガポールの音楽シーンについて教えて下さい。結成当時と、今現在のシーンのトレンドなどについて、あなたちはどのように感じていますか?
brb.:シンガポールは本当に小さな国で、歴史がとても浅く、若々しい国でもあります。文化の面では、まだまだ成長の余地があると感じています。今のシンガポールと、私たちが育った頃のシンガポールを比べるだけでもとても大きな違いがあります。
より多くの若者が芸術や文化を受け入れ、発展させているのを見て、とても心強く感じています。これからも成長を続けてほしいです。
――シンパシーを抱く同郷のアーティスト、バンドなどをいくつか教えてもらえますか?
brb.:シンガポールには、素晴らしいソングライターやミュージシャンが多くいますし、尊敬している人は何人もいます。真っ先に思い付くのはCharlie Lim、Linying、Gentle Bonesなどですね。
――結成からこの3年ほどで、自分たち自身にはどのような変化が起きたと思いますか? サウンド面でも、パーソナルな部分でもいいので、特に変わったと思う部分を教えて下さい。
brb.:特にライブやツアーをしているときは、たくさんの成長を感じることができましたが、コロナ以降、もっと落ち着いた生活に戻ってしまいました。最初の頃は少しペースを落とすのもいいかなと思いましたが、今はまたツアーに出たくてウズウズしています!
――2019年にはAmPm、Chocoholicとのコラボ作も発表しましたが、日本の音楽シーンをどのように見ていますか? また、気になる、もしくはコラボしたいと思うアーティストなどはいますか?
brb.:素晴らしい質問ですね。すごくたくさんいますSIRUP、Shin Sakiura、Kan Sano、春野、iriなどにとても魅力を感じています。近いうちに彼らの何人かと一緒に曲作りができたらなと思っています。
――9月にリリースされた「your love」は韓国のアーティスト、Jimmy Brownとの共作曲ですが、彼との出会い、そして今回のコラボレーションに至る経緯を教えて下さい。
brb.:出会いはオンラインです。ファンの方が彼の音楽を薦めてくれて、Instagramで繋がって、一緒に作曲することになりました。
――Spotifyのリスナー・データによると、Jimmy Brownの音楽はタイ、インドネシア、シンガポールなどで最もよく聴かれているようです。彼は東南アジアではよく知られている存在なのでしょうか。
brb.:色々な見方ができると思います。アルゴリズムは、アーティストやSpotifyにとって便利なツールですが、これらのリスナーをどれだけ本当のファンに変えられるかに本質があります。東南アジア圏で広く“聴かれている”ことは、事実だと思います。
――楽曲制作において、Jimmy Brownとはどのようなやり取りしましたか? また、楽曲のコンセプトやテーマを教えて下さい。
brb.:いくつかトラックを彼に送ったところ、「your love」のトラックを一番気に入ってくれて、その日のうちにいくつかのバージョンを送ってくれました。彼は素晴らしいソングライターです。何度かセッションをして、比較的早く曲を完成させました。この曲のストーリーを端的に説明すると、恋愛関係において明らかに問題や欠陥があるにもかかわらず、絶望的なまでに恋をしているという状況を描いています。どんなことがあっても“あなたの愛には特別な何かがある”ということです(笑)。誰もが経験したことのある状況ではないでしょうか。
――brb.の今後の展望を教えて下さい。
brb.:今後もいい作品を作って、素晴らしいアーティストとコラボレーションしていきたいと思っています。日本のアーティストとのコラボレーションも間もなく発表される予定です。楽しみにしていてください。また、早く日本でショーができることを望んでいます。
【リリース情報】
brb. 『fleur』
Release Date:2021.06.25 (Fri.)
Label:brb.
Tracklist:
01. juice
02. honeymoon
03. move
04. saint
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brb. & Jimmy Brown 『your love』
Release Date:2021.09.24 (Fri.)
Label:brb.
Tracklist:
1. your love