カナダ出身、日本人の血も引く音楽家、Koganeが1stアルバム『All Together』を7月16日(金)にリリースした。
ノスタルジックかつセンチメンタルな音風景、そして温かみのあるオーガニックなサウンドを特徴とするKoganeは、これまでにRyan Hemsworth主宰レーベル〈Secret Songs〉からいくつかのリリースでも注目を集めた。今作『All Together』には日本からtsvaci(辻林美穂)、petitotoに加え、シアトル拠点のプロデューサー・Shelf Nunny、そして先述のRyan Hemsworthも参加。ノスタルジックな感情、心象風景を描いた全9曲が収録されている。
今回はそんなKoganeにメール・インタビューを実施。ポストロック、フォークトロニカ、アンビエント、ダウンテンポなどからの影響も感じさせつつも、いずれとも絶妙な距離感を置いたサウンド・スタイルのルーツ、そして今作の制作背景などを訊いた。
Text & Interview by Takazumi Hosaka
Photo by Official
――アルバムのリリースおめでとうございます。今作『All Together』をご自身ではどのように捉えていますか? これまでの集大成的作品なのか、それとも一側面、ある特定の時期のあなたを切り取った作品なのか、それともそのどちらにも当てはまらない作品なのか。
Kogane:ありがとうございます! このアルバムは集大成的作品です。この後で詳しくお話しますが、僕の様々な想いがアルバムに詰まっています。
――アルバム通してのテーマやコンセプトがあれば教えてください。
Kogane:“これまでの大切な思い出”がテーマになっています。一見明るい曲が多く楽しかった思い出を表現しているように思えますが、その中にも寂しさや葛藤など様々な感情も含まれていて、複雑で奥深いんです。
――完成までに2年費やしたとのことですが、コロナ禍も含むこの2年間は、あなたにとってどのような期間だったと言えますか?
Kogane:この2年間でおもしろい経験をしたと思います。父と過ごしたメキシコでの生活、親友とのシェアハウス、大切な人との出会いなど、今までしたことがない経験をしました。本当は、2020年に日本へ行く予定でしたがコロナの影響で実行できなかったのが残念です。
――「Lights and Music」のインタビューでもおっしゃっていた通り、今作はこれまでの作品と同じくノスタルジックな感情を想起させる楽曲が多く収録されています。あなたが音楽を制作するとき、過去へ思いを馳せるのはなぜだと思いますか?
Kogane:僕はいつも感動や苦しみといった僕自身の感情を素直に音楽にしています。例えば、“大切な人を失い、切なくて苦しい”、こういった感情を音楽にするのです。“幸せな気持ち”といったポジティブな感情も同様です。だからそれは、おのずと過去へ思いを馳せることになるのだと思います。Koganeの音楽は僕そのものなんです。
――また、そういったノスタルジックな景色は、アルバムのカバー・アートワークでも表現されているようです。アートワークを手がけるblac beanとは、どのようなやり取りを経て、作品を提供してもらっているのでしょう?
Kogane:アルバム制作を初めてから長い期間アートワークをお願いするための画家を探していました。そんな時にblac beanの作品を見つけました。彼の作品と僕の曲の音には何か通じ合っているものがあると直感的に思ったんです。なので、僕からアートワークのお願いをしたところ快く引き受けてくれました。
――アルバムに参加しているtsvaci(辻林美穂)、Shelf Nunn、Petitotoについて教えて下さい。それぞれどのように出会い、コラボへと至ったのか。
Kogane:辻林さんの存在を知ったのは、僕が尊敬しているアーティスト、Tomgggの曲に参加していたからです。その後日本で、あるアーティストのライブを観に行った際にゲスト出演として辻林さんの歌を生で聴いた時からずっと僕の音楽に参加して欲しいと思っていました。今回「Around You」にシンガーとしてオファーしたところ引き受けて下さり、本当に嬉しかったです。
Shelf Nunnyとは、2020年2月に僕が出演したシアトルでのライブで出会いました。その後、何曲かコラボをしていて、そのうちの1曲が「Interstate 5」です。僕たちのコラボ曲を初めてリリースできることが嬉しいです。
Petitotoとの最初の出会いはSNS上でお互いにフォローしていただけでした。ずっと彼女の曲が気になっていたのですが、特にやり取りもなく3年ほど経ち、やっと今回初めて僕から連絡をしたところコラボに至りました。
――tsvaciさんが参加している「Around You」は“自分の周りにいる大切な人を思い浮かべる”というテーマのもと制作されたそうですね。普遍的なテーマのようにも感じますが、こういったテーマで曲を作ろうと思ったのにはなにかきっかけがあったのでしょうか?
Kogane:その曲の制作時期は、ちょうどコロナが流行し始めた時で世界中の人が辛い思いをしていたからかもしれないです。“自分の周りにいる人は当たり前ではなくて、もっと大切にしなきゃならないんだ”ということを自分に言い聞かせるつもりで、大切な人達の顔を思い浮かべながら曲を作っていました。
――普段、作曲におけるインスピレーションはどのような物事から受けることが多いですか?
Kogane:“何をした、どこへ行った、誰と過ごした”といった、僕の様々な経験自体がインスピレーションとなっていると思います。
――また、改めてあなたのキャリアについてもお聞きしたいです。Ryan Hemsworthと出会い、〈Secret Songs〉からリリースすることになった経緯は?
Kogane:SNSで僕の曲を評価してくれた人がいて、それ見たRyanが僕に連絡をくれたんです。「いつかSecret Songsから曲をリリースしたかったら、ぜひしましょう!」って。すごく嬉しくてすぐに返事をしました。何よりもずっと尊敬していたアーティストが僕の音楽に興味を持ってくれたことが本当に嬉しかったんです。
――あなたの音楽的ルーツを教えて下さい。ご自身を形成するにあたって重要な3枚のアルバム、もしくは3人のアーティストを挙げるとしたら?
Kogane:15歳から始めたギターとキーボードが音楽との出会いです。その後、20歳になると周りに音楽を作っていた友達が多かったこともあり僕も音楽を作り始めました。そんな僕にとっての大切なアルバムがこちら。
●Galileo Galilei 『PORTAL』
高校生の時に毎日のように聴いていた僕の青春が詰まったアルバムです。
●We Are the City 『Violent』
2015年にリリースされたアルバムで、これを聴くと今でもその当時のバンクーバーを思い出します。それがもう7年前なんて信じられないですね……。
●Machinone 『Tokyo』
2014年にリリースされていますが、実際僕が知ったのは2017年です。このアーティストの作品に強く憧れているという理由で選ばせてもらいました。
――Koganeという日本語を想起させる名前は、何に由来しているのでしょう?
Kogane:約5年前の日本旅行で北小金駅(千葉県松戸市)が僕にとって思い出深い場所となりました。宿泊先が近かったことから頻繁に利用した駅なんです。漢字は異なりますが、その思い出深い北小金駅から「黄金」という名前を取りました。さらに、僕の好きな本『The Outsiders』の一説に“Stay gold, Ponyboy”というのがあります。意味は“何があっても自分を信じ、必ず乗り越えて”です。この大切な場所である北小金(黄金)と大切な本の一説のgold(黄金)が同じであるから、“Kogane”という名前にしました。説明するのが難しいんですけどね(笑)。
――2018年から1年間日本に住んでいたそうですが、特に記憶に残っている出来事をいくつか教えて下さい。
Kogane:今までオンライン上でしかやり取りが出来ていなかった同業の友人達、Ryan Hemsworth、Nuum、Grynpyretなど、ここに書ききれないくらいの人たちに初めて日本で出会えたのが印象深いですね。特に記憶に残っている出来事は、Nuumが僕の部屋で一緒に生活していたことです。その当時シェアハウスに住んでいたので、僕の部屋はすごく狭くて、2人で寝ると歩くスペースもなくなっちゃうんです。でも僕たちはいつも賑やかだったし、シェアハウスの人たちとも仲良く過ごしていました。この時の思い出を振り返ると笑っちゃいます。
――音楽家としての目標、夢などがあれば教えて下さい。
Kogane:バンドとしてライブをしたいです。以前観に行ったShugo Tokumaru(トクマルシューゴ)のライブのようにやってみたいからです。そして、今回のアルバムではたくさんの方々との初めてのコラボが実現しました。本当に有難いです。他にも尊敬するアーティストがたくさんいるので、その方々と一緒に素晴らしい音楽を作り続けたいです!
【リリース情報】
Kogane 『All Together』
Release Date:2021.07.16 (Fri.)
Label:Secret Songs
Tracklist:
1. All Together (ft. Petitoto)
2. Around You (ft. tsvaci)
3. Waterfront Station
4. Grandview Heights
5. Arguments (ft. Ryan Hemsworth)
6. Aquarium
7. Long Distance Calls
8. Himawari
9. Interstate 5 (ft. Shelf Nunny)
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