なんてあたたかい音楽だろう。陽の光のように柔らかいサウンド、星の様に瞬く打ち込みの音、そよ風のように心地よい歌声。そこに忍ばせる未来への提案……Homecomingsからの便りはいつもこうだ。メジャー1stアルバム『Moving Days』には、日々の生活をちょっとだけより良くするヒントが詰まっている。
メンバーの引っ越しが作風に影響したという、凛々しく、朗らかな音と言葉で彩られる新作である。テーマは“変化”と“優しさ”、「社会に対して少しでも作用するものを作りたかった」という本作には、作り手の願いや眼差しが確かに反映されているように思う。
この作品をもって、ポニーキャニオン内のレーベル〈IRORI RECORDS〉に所属することを発表したHomecomings。制作がリモートになったことで開けた可能性と、『Moving Days』に込めたメッセージについて、畳野彩加と福富優樹のふたりに話を聞いた。
Interview & Text by Ryutaro Kuroda
Photo by Official
「僕らの音楽には“タウン”という言葉がしっくりくる」
――アルバムとしては2年7ヶ月ぶり、『Cakes』から数えても2年のスパンが空いての新作です。いつ頃から『Moving Days』の制作は始まっていきましたか。
福富:2020年のはじめ頃です。その頃から、「次のアルバムではソウルっぽいものをやってみたいね」って話していました。
――ソウルに着目したのはどういう理由から?
福富:海外のシーンでは2018年頃から、インディ・ロックとソウルのちょうどいい塩梅の音楽が出てきた印象で。たとえばRex Orange CountyとBenny Singsのシングル(「Loving is Easy」)も象徴的でしたし、そういう音をバンドでやってみたい気持ちがありました。
――福富さん以外のメンバーも、そうした音楽がしっくりきていたんですか?
畳野:2020年にラジオをやっていたのが大きいですね。そこで4人が好きな曲をかけるんですけど、その中でちょっとずつみんなが寄せてきて、“ソウル”ってワードが浮かび上がってきていたのかなと思います。
福富:ドラムの石田さん(石田成美)は元々そういう音楽が好きな人ですし、ベースのほなちゃん(福田穂那美)はK-POP経由でHONNEとか聴いていて、彩加ちゃんはもうちょっとオーセンティックというか、60年代とか70年代のソウルを聴いていたのかな。なので、ソウルと聞いて思い浮かべるものはそれぞれ違っていたと思うんですけど、なんとなく共通項として見えてくるものがそうした音楽でした。
――なるほど。
福富:あと、彩加さんは通販で財布を買った時、ミックスCDが付いてきたのもきっかけだったよね?
――そんなことがあるんですか?
畳野:お店の人が好きみたいで、ソウルのプレイリストを送ってくれたんです。それを聴いたこともあって、徐々に自分の身体に馴染んでいった気がします。
――そうしたキーワードがある中で、作曲者として意識したことはありますか?
福富:ピアノで曲を作ることを考えていました。「Good Word For The Weekend」や「Herge」など、今回は半分くらいをピアノで作っています。
――その中で特に契機になったような楽曲は?
福富:一番最初にピアノでソウルっぽいものを作ってみようって言ってできたのが、「Moving Day」です。自分たちも初めてやる作り方だったので、誰かに手伝ってもらいたいと思ってYOUR SONG IS GOODのジュンさん(サイトウ“JxJx”ジュン)に参加してもらっています。
――音楽性に対し、歌詞のイメージはすぐ出ててきましたか?
福富:『WHALE LIVING』を出してから4人とも引っ越しを経験していたので、それをテーマにアルバムを書きたいと思っていました。タイトルは前から温めていたものなんですけど、「Moving Day」は始まりの曲として、作品のテーマ性を表す曲にしたいと思って書きました。
――アルバム全体では夜明け前に始まって、朝を迎える作品になっているのかなと思います。
福富:作品の情景としては、新しいカーテンだけがかかっている空っぽの部屋で、その窓から見える風景を定点で撮ってるイメージです。そこで朝から夜にかけて景色が巡っていくところを映した作品で、ローファイ・ヒップホップのYouTubeチャンネルみたいな画のイメージもありました。僕自身2019年の後半に東京へ引っ越してきて、風通しのいい2階の部屋なんですけど、そこで感じる生活感と作品のイメージが合致したところがありますね。
――「Blanket Town Blues」はしっとりとした音やタイトルから、街に包まれるような印象を受けまいした。
福富:今住んでいる街が好きなんですよね。夜に散歩していたら丘の上に立っている家の灯りが見えたり、静かに電車が走っていたり、「Blanket Town Blues」はそうした街を見ている時に思いついた言葉です。そして、ここで思い浮かべていたことって、“生活”というよりは“暮らし”ってイメージなんですよね。優しい街の景色を表現しようと思って付けているんですけど、どこまで行っても“シティ”ではないというか、僕らの音楽には“タウン”という言葉がしっくりくる。それがHomecomingsを表す言葉でもあるなと思って、イベントのタイトルにもこの名前を付けました。
――佳曲の多いアルバムですが、中でも1曲目の「Here」は本当に素晴らしい楽曲です。シンプルな8ビートが心地よく、アルバムに開放的なムードを与えているように感じました。
福富:なんとなくソウルっぽい方向性で作っていったところで、半分くらいできた時、今までの自分たちらしい曲もアルバムに入れておきたいなと思って作りました。シンプルな8ビートをベースにしながらも、アクセントとしてギターの単音を入れていて、ノリが変わって聴こえるようにしています。それこそソウルを聴くことでいろんなリズムを工夫できるようになって、今までの作風の中に、新しいリズム・アプローチを取り入れることができました。
「こんなに4人で作ったアルバムはなかった」
――制作自体はどのように進んでいったんですか?
福富:今回はリモートで作っています。スタジオに入ってセッションするのとは違って、みんなそれぞれの作業に集中する感じでしたね。
畳野:なのでひとりで作業をする時間が多くて、デモも初めてひとりで1から10まで完成させました。いつもだったらそれぞれがスタジオでフレーズを考えて、レコーディングまでに仕上げてくる感じでだったんですけど、今回はリモートで作ったものをメンバーに投げて、返ってきた意見を取り入れつつフレーズを練っていく。それによって1曲1曲時間をかけて作れましたし、たとえばトランペットだったり、いろんな楽器を試せたのも大きくて。濃い内容のアルバムになったのかなとは思います。
福富:スタジオでやっているとドラム、ギター、ギター、ベースの4つで、トラックは増えても7とか8つになるくらいだったんですけど。今回は彩加さんがデモの段階で無限に試すことができたのがすごくよくて、足し算や引き算してできたものを録る感じだったので、レコーディングはすごくスムーズでした。
――ボーカルで意識したことはありますか?
畳野:『WHALE LIVING』はキーが低めというか、男の人が歌っているような歌を意識してたんですけど、今回は自分が出せるギリギリの範囲を行ってみようと思っていました。
――というのは?
畳野:去年くるりの『音博』に呼んでいただいて、「ひこうき雲」(荒井由実)のカバーを歌ったんですけど、そこでいろんな人から「よかったよ」って感想をいただいて。あの曲はめちゃくちゃキーが高いので、もしかしたらそこから得たものなのかなって感じます。
――前作では日本語で歌うこと自体がHomecomingsにとって挑戦だったと思いますが、すっかり馴染んでいますね。
畳野:確かに『WHALE LIVING』では新鮮な気持ちでやっていましたが、何本もライブをやっていくうちに、日本語を歌うことに不自然さがなくなっていって。今回のアルバムは日本語のよさを実感した上で取り組めたので、メロディと言葉の当て方もこだわって作れました。全部の曲で何十通りのメロディを作り、それをトミとやり取りしながら進めていきました。
――がっちりとしたデモをひとりで作ったということは、ギターのフレーズも畳野さんが作られているんですか?
福富:そうです。本当に彩加さんは才能が溢れているんですよ。
畳野:(笑)。
福富:デモに入っているギターのフレーズがすごくよかったんですよね。僕はコードの理論に縛られちゃうところがあるんですけど、彩加さんはそういうところから逸脱したフレーズを作るので、オルタナっぽいギターをポップスの形で表現したり、本当にすごいなと思います。なので『Moving Days』での僕の役割は、隙間を埋めるソロのフレーズを考えたり、アクセントになるギターを付けることでした。
――『Cakes』ではアクセントとして打ち込みを取り入れている印象でしたが、本作では「Tiny Kitchen」、「Pet Milk」、「Blanket Town Blues」のように、打ち込みがサウンドの中心を担うような曲もありますね。
福富:打ち込みはずっとやりたいと思っていた要素で、今作では夜の風景を表現するのにその音が合うと思って取り入れました。あと、そうやってテーマにも合っていただけではなく、技術的にできるようになったのも大きいです。エンジニアさんにお願いしているのではなく、彩加さんやなるちゃんが打ち込みを作っているんですよ。
――何かきっかけがあったんですか?
畳野:以前『STAIRS』というボックス・セットを作った時、特典として「手紙を書く時に聴いて欲しい1枚」というテーマで、自分たちで作ったCD-Rを付けたんです。4人がそれぞれ宅録で作った楽曲を2曲ずつまとめたものなんですけど、その時の経験によってやれることが明確になったというか。ドラムのなるちゃんも家でここまでできるってことがわかっていたので、今回は打ち込みにもチャレンジしてみようって思いました。
――なるほど。
福富:具体的な影響源で言えば、たとえば制作中に『はちどり』のサントラを聴いていたり、ほなちゃんが好きなK-POPのBTSの『BE』を聴いていたり、そういうところから得た影響もあるんですけど。打ち込みのサウンドもリモートでデモを作るようになったことの良さというか、スタジオでいきなり打ち込みをしようって言っても、実現しなかった気がするんですよね。この作り方だからこそ気軽に試すことができたと思いますし、作品全体でリズムに幅が生まれていたり、ほなちゃんとなるちゃんのプレイヤーとしての力を活かせる曲もあって、こんなに4人で作ったアルバムはなかったです。
――図らずもHomecomingsに合った創作になっていったと。
福富:僕らって大学の延長線というか、スタジオで演奏している時より、一緒にご飯食べたり移動している時間の方が楽しいタイプなので。「せーの!」で音を出して生まれるケミストリーっていう感じではなかったのかもしれないですね。
「優しさを持ってストレートに表現」――自然と浮かび上がってきたバンドとしてのアティチュード
――「Good Word For The Weekend」で歌われる、<優しさをはなさないで>という言葉が、このアルバムの中心にあるメッセージなのかなと思いました。今こうした言葉を綴るのは、どういう気持ちの表れだと思いますか。
福富:自分が社会に対して思っていることを書きたかったし、社会に対して少しでも作用するものを作りたかった。そこで“優しさ”っていうのが自分の中のテーマになってきて……。やっぱりそれが足りないと思うし、たとえば京都アニメーション放火殺人事件の犯人が、病院で治療を受けた後に「こんなに優しくされたのは初めてでした」ってコメントを残したのも印象的で。もし事件を起こす前にあの人がそういうものを持っていたら、あんなことにならなかったかもしれないとも思ったんです。今回は僕ができる提案として、“優しさを手放さないこと”、そして“変化していくこと”をテーマに作品を作ろうと思いました。
――“変化”というは?
福富:最初に話した引っ越して風景が変わったことにも重ねているんですけど、僕がイメージしたのは柔らかく変わていくこととというか……。ニュースを見ていて思うんですけど、社会が変わらないことで、何かが棘となって表に出てくることが多いなって感じるんですよね。なのでちゃんと変化していくことを歌にしたかったし、それを街の風景が変わることにも重ねて表現しています。
――街の風景を描くという作風は、Homecomingsのキャリアを通して一貫していますが、フィクション性の強かったここ数作に比べると、リアリティのある感情が音や言葉になっているように感じました。
福富:そうですね。『WHALE LIVING』はフィクション性をフィルターにして描いていましたが、『Moving Days』は自分が住んでいる現実の街が情景としてありましたし、それは東京の郊外でもあり、この社会のことでもあるように思います。街という舞台を設けつつ、ちょっと現実のことを歌にしたい気持ちがありました。
――それも社会に何か投げかけたかった気持ちの表れかもしれないですね。
福富:僕はお笑いが好きで、よくライブに行ったりテレビで観たりするんですけど。“人を傷付けないお笑い”っていうキーワードが出た時も、それが形になる前にもうイジる対象にされていたり、先日の報道ステーションのCMでも、ジェンダーの平等が達成されていないのに逆張りの姿勢が出ていたり、そういうことをいろんなところで感じます。僕はそこで真っ当に表現したかったというか、ひねくれている表現じゃなくて、優しさを持ってストレートに表現したかった。その上で、そうした意味合いが伝わらなくとも音楽として成立するものにしたかったので、そのバランス感を考えながら作詞をしていましたね。
――メンバーとはどういう会話からそうした感覚をシェアしていましたか。
福富:スタジオに向かう電車の中だったり、ラジオで曲を紹介する時だったり、音楽や映画の話をする中でシェアしていますね。たとえばみんなNetflixで『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』を観ていたり、自然と共有している気がします。2017年に出した『SYMPHONY』くらいからそういう話はしていて、バンドとしてのアティチュードとしてはあるのかなと。
――メジャー移籍作という意味でも、『Moving Days』はHomecomingsにとって転機になる作品になるかと思います。この作品をリリースしてから、どんな活動をしていきたいと思っていますか。
畳野:ストリングスを入れた去年の有観客ライブ『Blanket Town Blues』は自分たちとしても成功した実感があって。自主企画イベントでは、これからも自分たちらしい要素をたくさん入れてやっていきたいです。あと、ライブができない状態になったことで、配信ライブをすることも当たり前になってきましたが、私はこの先も配信ライブがあっていいと思っています。子供がいてライブに行けない人や、その他のいろんな理由でそうした場に足を運べない人にもなるべく届けられるように、家にいても私たちのライブを観れる状況を作っていきたいです。
――なるほど。
畳野:こんな時だからこそできることはあると思いますし、せっかくポニーキャニオンと一緒にやることなったので、周りの人にも協力してもらいながら規模を大きくしていきたいけたらなと思います。
福富:僕もこれまでやってこなかったことを積極的にやっていきたいですね。「Herge」がドラマの主題歌になっていて、それも僕らには初めての経験でしたし、これから機会があれば僕は劇伴もやってみたいです。
――すごく合うと思います。
福富:進めているものを挙げれば、次のアートワークもサヌキさん(サヌキナオヤ)と一緒に詰めていて。『WHALE LIVING』から今作までは空いちゃいましたけど、次の作品はもうちょっと速く出したいなって思っています。
【リリース情報】
Homecomings 『Moving Days』
Release Date:2021.05.12 (Wed.)
[初回限定盤](CD + Blu-ray) ¥4,950 / PCCA-06031
[通常盤](CD Only) ¥2,970 / PCCA-06041
Tracklist:
01. Here
02. Cakes (Album Version)
03. Pedal
04. Good Word For The Weekend
05. Moving Day Pt. 2
06. Continue
07. Summer Reading
08. Tiny Kitchen
09. Pet Milk
10. Blanket Town Blues
11. Herge
・Blu-ray収録内容(初回限定盤のみ付属)
『BLANKET TOWN BLUES』 December 25, 2020
01. Corridor(to blue hour)
02. Blue Hour
03. Hull Down
04. Lighthouse Melodies
05. Smoke
06. ANOTHER NEW YEAR
07. LEMON SOUNDS
08. HURTS
09. Special Today
10. Moving Day Part1
11. Continue
12. PLAY YARD SYMPHONY
13. Cakes
14. Songbirds
15. Whale Living
16. I Want You Back
※法人別特典
特典は先着の付与となりますので、なくなり次第終了となります。 予めご了承ください。
一部店舗に取扱いのない店舗がございますので、ご予約・ご購入時にご確認ください。
ECサイトでご予約の場合、特典付き商品をご希望の場合は必ず特典付きカートからご注文下さい。
(一部ECサイトでは予約済み商品がキャンセル不可の場合がございますのでご注意ください)
・Amazon.co.jp:ポストカード(音源DLコード付) TYPE-A
・タワーレコードおよびTOWER mini全店、タワーレコード オンライン:ポストカード(音源DLコード付) TYPE-B
・全国HMV/HMV&BOOKS online:ポストカード(音源DLコード付) TYPE-C
・その他法人:ポストカード(音源DLコード付) TYPE-D
※タイプによりポストカードの絵柄が異なります。
※ダウンロードできる音源は共通です。
※絵柄、音源の内容等、詳細は後日お知らせいたします。
【イベント情報】
『Tour Moving Days』
日時:2021年7月17日(土) OPEN 17:00 / START 18:00
会場:愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
日時:2021年7月18日(日) OPEN 17:00 / START 18:00
会場:大阪・梅田 CLUB QUATTRO
2021年7月23日(金・祝) OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京・渋谷 CLUB QUATTRO
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料金:¥4,500 (1D代別途)
※ライブ当日会場にて学生証提示で¥1,000キャッシュ・バックあり
※チケット整理番号付き
※4歳以上チケット必要
TOTAL INFO:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999