ギター・ロックからジャズ、ファンク、ヒップホップ〜ビート・ミュージックまで、多様なジャンルを飲み込みながらも独創性の高いサウンドで注目を集める4人組、um-hum。大阪発の新鋭である彼らは、昨年1st EP『Gum』をリリースし、関西最大の音楽コンテスト『eo Music Try19/20』にてグランプリを受賞。その後もシングルの連続リリースなどで認知を拡大させた。
島村楽器主催『HOTLINE2019』にて全国大会出場 & ベスト・ギタリスト賞の受賞経歴を持つろんれのん(Gt. / Key.)をはじめ、楽器陣はいずれもジャズ研育ちの確かな手腕の持ち主。メンバーそれぞれの多岐に渡るバックグラウンドに裏打ちされたその楽曲の数々は、掴みどころのなさを感じさせると同時に強烈な個性と可能性を感じさせる。2月末にリリースされた1stミニ・アルバム『[2O2O]』では、その振れ幅がより際立たったカオティックな世界観を展開。果たして、um-humの音楽はどのように生まれ、そしてどこへ向かっていくのか。今回のインタビューでは結成の経緯からそれぞれのルーツ、そしてバンドの独特のスタンスについて語ってもらった。(編集部)
Interview & Text by Ryutaro Kuroda
Photo by Yichikawa WANG
「ライブハウスの中で自分たちが浮いてるなっていうのは大分最初の頃から感じていましたね(笑)」
――バンド結成の経緯を伺う前に、皆さんのルーツから聞いていきたいと思います。それぞれ10代の時にのめり込んだ名盤を3枚挙げるとしたらなんですか。
たけひろ(Ba.):ベースを始めた頃の自分にとって、カッコいいベースと言ったらスラップだったので、その頃リリースされたMarcus Millerの『Renaissance』はずっと聴いていました。あとはレッチリの『Californication』も印象に残っています。
――まさにスラップのカッコいい音楽ですね。
たけひろ:最後の1枚はJamiroquaiの『Travelling Without Moving』で、こっちは逆に“スラップがなくてもこんなにカッコいいんや”って衝撃を受けたアルバムでした。中学2年生の頃にベースを始めたんですけど、自分もベーシストとしてやっていくしかないなと、そう思えたきっかけの3枚でした。
ろんれのん(Gt. / Key.):僕は小6の時に聴いたThe Beatlesの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』で、あのアルバムの創作性というか、ジャンル云々ではない音楽性にハマりました。
――今の自分の創作に繋がっているところはあると思いますか?
ろん:十分あると思います。僕の曲はフェードインとフェードアウトを使うことが多いんですけど、ある意味裏切っていくような音楽が好きなのは『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』の影響だと思います。あの時代ではサイケって呼ばれている要素かもしれないですけど、楽曲の中に予想外の音が入ってくるのは、um-humでも表現していることかなと思います。あと、コンセプトがある作品が好きなので、そこもこのバンドで心がけていることですね。
――では、2枚目は?
ろん:たけひろと同じJamiroquaiの『Travelling Without Moving』です。
――おふたりで共有していたんですか?
たけひろ:いや、本当に偶然重なりました(笑)。
ろん:僕はThe BeatlesとかThe Whoとか、UKロックばかり聴いていたんですけど。中学に入ったらジャズ・クラブに入ったんですよね。それまではあんまりジャズが好きじゃなかったんですけど、そこでアシッド・ジャズを知った時にJamiroquaiが刺さって。『Travelling Without Moving』は特に好きな曲が入っているアルバムでした。で、それと同じ時期に邦ロックを聴き出して、ラジオで流れてきたSuchmosの『THE BAY』で衝撃が走りました。当時彼らのような音楽を表立ってやっているバンドはいなかったし、ジャパニーズの音楽性に海外のアシッド・ジャズを組み込んだ楽曲は他では見たことがなかったので、すごいなって思いましたね。
――小田さんはどうですか?
小田乃愛(Vo.):YouTubeで動画を見漁っていた時にRaujikaの「Cry More」って曲が流れてきて、それを聴いた時に“音楽って何してもいいんや”って思えたんですよね。小袋成彬さんの『分離派の夏』にもすごく自由を感じて、とてもハマっていました。
https://www.youtube.com/watch?v=0yl0L2J1AOI
――なるほど。
小田:最後の1枚は韓国の2NE1というグループの『2NE1』。家族がK-POPが好きで私も聴いていたんですけど、2NE1は女の子がとても強く出ているようなグループで、こんなに強気で歌えるなんてすごいなと思って好きになりました。
――今の自分の表現に繋がっていると思いますか?
小田:思います。男性陣に負けないように頑張ろう感はありますね。女の子って、か弱いイメージがあるじゃないですか。でも、そんなんじゃなくて強気でいれたらいいなと思います。
――Nishiken!!さんのフェイバリットは?
Nishiken!!(Dr. / Samp.):僕はChris Dave and The Drumhedzっていうバンドの『Chris Dave and The Drumhedz』。今20歳なんですけど、18、19の頃に特に聴いていたアルバムです。
――と言うことは、今のプレイに直接影響を受けてそうですね。
Nishiken!!:まさにそうですね。ビートをずらすプレイは多用していますし。Chris Daveはビジュアルから入ったんですけど、彼の叩くドラムは、ドラムだけどドラムではないみたいな……。音を鳴らす道具としてドラムをみている感じがすごくよくて。バックで鳴っているザーッていう低い音をドラムで出したり、急にバーンってスネア叩いて曲の雰囲気を変えたり、型に囚われないドラミングが刺さりましたね。
――2作目は?
Nishiken!!:Bill Evans Trioの『Waltz for Debby』。ジャズ・ピアニストのBill Evansが結成したジャズ・トリオのライブ録音なんですけど、彼のピアノは無駄がなくて、すべての音を正解の位置に置いている感じがしたんですよね。なおかつ、それをジャズっていう心地良いリズムの上でやっているのがすごくよくて。で、最後の1枚は上原ひろみとコロンビアのEdmar Castanedaっていうハープ奏者のデュオが、『モントリオール・ジャズ・フェスティバル』に出た時の録音作品『Live in Montreal』です。この作品にも音楽の有機性を感じたというか、この音楽に1足しても1引いても崩壊してしまいそうな繊細な積み重ねに影響を受けました。
――つまり、それぞれ音楽的には異なるルーツを持っている4人だと思いますが、どのような経緯でバンドを結成したのでしょうか。
ろん:結成したのもたまたまというか、当初は1回限りのつもりで組んだんですよね。当時は僕もバンドのサポートをしていて、基本はリーダーの言うことを聞くだけのプレイヤー的な生活を送っていて、その頃出会ったのがベースのたけひろで。自分のバンドをやりたいという気持ちもあったので、高校からの知り合いだったNishiken!!とたけひろに声を掛け、そして偶然出会ったボーカルの小田を誘ってラフな感じで結成しました。
――こうして続くことになったのは、何か手応えがあったからですか?
ろん:ライブハウスの店長が気に入ってくれて、「続けてみれば?」と言ってもらったのがきっかけで。小田も誘った時にはど素人やったんですけど、思ったよりもボーカリストとしてのアプローチが上手くて、プレイヤーの演奏とも上手いことハマっていたので。「おもしろいかも」と思って続けることになりました。
――2019年に始動して、すぐに音源の制作には取り掛かったのでしょうか。
ろん:いや、バンドをやり出したと言っても、音源を出そうとは思っていなかったんですよね。あくまでも呼ばれたイベントに行って、そこで楽しむくらいのもので……ただ、ライブハウスの中で自分たちが浮いてるなっていうのは大分最初の頃から感じていましたね(笑)。
――なるほど(笑)。
ろん:音楽的にも僕が普通の邦ロックを聴いていたこともあって、最初はギター・ロックのバンドやったんですよね。それが4ヶ月くらい経った時に大きく変わってきて、Erykah Baduを知り、海外のジャズとヒップホップが混ざった音楽やR&Bを聴くようになったことで、このバンドの音楽もだんだんと変わっていきました。
Nishiken!!:その頃から僕も自分が持っているものを投げやすくなりましたね。1stシングルの『Gum』をリリースした辺りからジャズの要素も注ぎ込むようになって、そこから上手く叩けるようになってきたかなと思います。
「これからどこにでも行けると思った」――名刺代わりにして変化球な1stミニ・アルバム『[2O2O]』
――新作の 『[2O2O]』はいつ頃から制作に入ったんですか?
ろん:去年の4月くらいです。僕は枠組みから作るタイプで、メンバーに持っていく時には8、9割完成している状態です。『[2O2O]』では8曲まとめてみんなに出して、あとはメンバー個人個人でしか表現できないフレーズや歌詞を詰めていく感じで作っていきました。
――有り体な言い方をすれば、今回の作品は名刺代わりになるようなアルバムとも言えますが、制作の時に意識したことはありますか?
ろん:名刺代わりに出す作品にしては、変わったものを作ろうと思いました。
――それは何故?
ろん:心が歪んでるからですかね?(笑)。『[2O2O]』は捻くれている曲が多いと思っているんですけど、そういうアルバムを敢えて1枚目に持ってくることで、これからどこにでも行けると思ったんですよね。
――なるほど。
ろん:それになんだかんだメンバーがちゃんと演奏して歌ってくれるので、このバンドでは変な曲を持っていく方がおもしろいかなと思います。
――作曲者はこう言っていますが、メンバーの皆さんは上がってくる曲に対して、どんな感想を持っていますか?
小田:ほんまに難しい曲が多いです(笑)。「芥」は心斎橋かどっかのクラブで初めてやった曲やったんですけど、その時点ではどうやって歌ったらいいかわからなかったですね。
たけひろ:俺は「JoJo(2O2Over.)」が未だににわかってない。
――(笑)。でも、そういう曲だからこそ演奏し甲斐を感じていたり?
たけひろ:そうですね。確かにその方がやり甲斐は感じます。
Nishiken!!:デモテープの段階から聴いたことのない音が入っていたり、変な曲だけどスゲえと思わせるところがあって。これを形にできたらおもしろいよねっていう気持ちで臨んでいました。
――ドラマーやベーシストとして、このアルバムで意識したことはありますか?
Nishiken!!:僕はこのバンドで成長したところがあって、それまではプレイヤーとしてやりたいことを詰めて、フィルインを多用するみたいなことをやってきたんですけど、um-humではボーカルのメロディを活かすことや、その時何を聴かせたいのかを考えるようになりました。それも影響を受けた音の有機性ってところに繋がってくるんですけど、このバンドに入ってからは、引き立てるところは引き立てて、出るところは出るようなドラミングをするように変わりました。
たけひろ:僕もこれまではインスト中心のバンドをやってきて、悪く言えば好き勝手弾くようなプレイをしてきたんですけど、このアルバムは歌ものとして聴けることも考えて、バンドとしていいものを作ろうっていう意識に変わりました。
――なるほど。
たけひろ:なので割と引き算のレコーディングでしたね。僕らは音を足すのはめっちゃ得意なんですけど、引くのは今までやってこなかったので、そこは衝撃的でした。
――ろんさんは自分のギターに関して、何かイメージしていることはありました?
ろん:いや、ないです。僕はあまり前に出るプレーをしないので、元から引き算のプレーだったんですよね。高校のジャズ研にいた時に一番ギターを練習していたんですけど、その頃に知ったのがJamiroquaiやSuchmosなので、いわば引き算のギターに出会ったのがその時なんですね。なので「Ungra(2O2Over.)」みたいなギター・ロックの曲では弾きますけど、基本の思想は引き算で、そんなに意識しなくても休符がメインになるというか。その前提で作曲しています。
――そういう意味では冒頭の「Ungra(2O2Over.)」はギターが印象的で、ロック色の強い曲ですね。
ろん:そうですね。「Ungra(2O2Over.)」は今作の中で唯一ポップにしたつもりの曲です。元々別の歌詞があって、メロもプレイも今とは違っていたんですけど、リードにするために組み直して今の形になりました。
――一方「芥」は、プロダクションにジャズやヒップホップからの影響を感じる楽曲ですね。
ろん:このバンドの音楽性の変革期を代表する曲です。「芥」はイントロがふたつ合って、イントロのイントロみたいなフレーズはRobert Glasper Experimentの曲をイメージして付けました。
――歌詞は小田さんとろんさんが書かれた曲が大体半々で入っていますが、それぞれ言葉にはご自身のどんな感覚が表れていると思いますか?
小田:私が書いたものは直感で書いているものが多い気がします。今回のアルバムで一番思い入れがある曲は「続予報」なんですけど、この曲はとにかく身の回りのものを書いたものですね。普段から素直でいたいと思っているので、思ったままのことが書かれていると思います。
ろん:僕は逆ですね。自分から何か書こうという気持ちはなくて、メッセージがあるわけでもない。たとえば作品のコンセプトに合わせて歌詞を書いたり、制作に必要だから書いています。でも、そういう意味でも僕と小田の書く歌詞は全然タイプが違うので、そこがおもしろいなって思います。彼女が書く歌詞の方が文学的だと思いますし、それが作品性を高めることになっていたらいいですね。
――「20??」のクエスチョンにはどのような意味が?
小田:物語のある歌詞にしていて、前半は2020年のことを書いているんですけど、本当は未来の人が2020年を思い出している歌なんです。なので今から先の未来という意味で、下二桁を「?」にしています。
――楽曲としても近未来感がありますね。
小田:私はゲームの『サルゲッチュ』が好きなんですけど(笑)、デモを聴いた時から「20??」にはゲーム音楽の印象があって、それは意識していましたね。ちょうど『攻殻機動隊』を見ていたのも、歌詞には影響されているかもしれないです。
――<お前らに任せた時代>というフレーズで終わりますが、何か未来に期待したい気持ちが小田さん自身にあったのでしょうか。
小田:すごくありました。2020年は色々なことが停滞していたじゃないですか。私の周りには表現者の方が多いんですけど、みんな昨年は停滞感を味わっていたと思うので。今頑張っている人への応援と、“大丈夫だよ”って気持ちを込めています。音楽って、寄り添うものだと思うんですよね。単に曲が好きで聴く人もいれば、嫌なことがあったから音楽を聴くって人もいると思うんですけど、私は歌詞を書く人としては救済のメッセージを書いてみたいと思います。
「シーンを作りたいとは思わないですけど、釘を刺すくらいのことはしたい」
――アルバムを1枚作ってみて、um-humの音楽に対するイメージが固まってきたところはありますか?
たけひろ:みんなにとって、すぐには受け入れがたい音楽やろなとは感じています。
――でも、それがこのバンドの特徴になっている。
Nishiken!!:そうですね。他の音楽とは似ても似つかない音楽だと思いますし、そこがある意味独自性になっているのかなって。いい意味でふわふわしている感じがあります。
――先程もライブハウスで浮くことが多いと言われていましたね。
Nishiken!!:どこでやっても浮いているので、そこに関しては諦めています。これまでもオープニング・アクトで僕らが出て、ぶち壊した回が多々ありました(笑)。
――それが快感だったりします?
ろん:そうですね。……楽しかったよね?
Nishiken!!:そうだね。僕も嫌いじゃない(笑)。
ろん:上手いこと変わり者のメンバーを集めたので、だったらおもしろいことをやらないともったいないですよね。そこはこれからも揺るがないと思います。
――国内外の様々な音楽からの影響が伺えますが、ろんさんは時代性やシーンとの繋がりを感じるところはありますか。
ろん:いや、このバンドを始めた時も、シーンの上でやっていこうとは考えなかったです。自分で言うのもなんですけど、唯一無二過ぎて、同じシーンを作ろうというバンドがいないんですよね。僕らはジャンルレスに思いついたことをやるだけで、その中で部分部分でシーンとリンクするところは当然あるので、色々なところに乗っていけたらと思います。
――では、今年から来年にかけて見据えているものは?
ろん:ちょっとだけ受け入られるようになってきていると思うので、今作から次作を作るまでの間に、もう一回り大きい受け皿を作れるような活動をしていきたいです。僕はシーンを作りたいとは思わないですけど、釘を刺すくらいのことはしたいですね。
――小田さんは何かこのバンドで思い描いていることはありますか。
小田:私はむしろシーンを作ってみたい派です(笑)。確かに似た音楽性の人がいないので、シーンを作ろうと言っても、どこにアプローチしたらいいかもわからないんですけど。でも、すごくいいバンドがum-humの周りにはいっぱいいて、たとえば4月のリリース・イベントに出るバンドたちにはシンパシーを感じています。彼らとはジャンルは違えど、一緒に釘を刺していけるんじゃないかなと思いますね。
【リリース情報】
um-hum 『[2O2O]』
Release Date:2021.02.26 (Fri.)
Label:um-hum Japan
Tracklist:
01. Ungra (2O2Over.)
02. 芥
03. Yawning
04. JoJo (2O2Over.)
05. 続予報
06. 20??
07. space interval
08. secret track
【イベント情報】
um-hum&vijon pre.[2O2O] リリース・パーティー 堀江編
日時:2021.04.02 (Fri.) OPEN 17:30 / START 18:00
会場:大阪・北堀江club vijon
料金:入場 ¥2,500 (1D代別途) / 配信 ¥2,000
出演:
um-hum
ステエションズ
Rainscope
トライコット
Shotgun Marriage
夕方の豊野
・チケット
入場チケット(TIGET):2月26日(金)正午〜
配信(ツイキャス):2月26日(金)正午〜
※チケット:会場販売無し
※スタンディング・ライブ:80名限定名
※アーカイブ視聴:2021年4月16日(金)23:59まで