LUCKY TAPESがkojikojiを客演に迎えた新曲「BLUE feat. kojikoji」を8月5日(水)にリリースした。
コロナ禍の真っただ中で制作された本楽曲は、冒頭から「こんな出来損ないでごめんね」という印象的な一節が印象的なメロウな1曲。Kai Takahasiとkojikojiの歌声がどこか夢心地な聴き心地を演出しながらも、そのリリックの端々には時にハッとさせるようなリアリティを感じさせる名作だ。
時代の空気感を取り込んだ今作について、LUCKY TAPESのフロントマン・Kai Takahshiとkojikojiの対談を敢行。ふたりの出会いから制作の裏側を訊いた。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by 遥南碧
「歌とラップの中間みたいなフロウ」――ふたりの共通項
――おふたりの出会いについて教えて下さい。
Kai:最初に会ったのはもう2年前くらいになりますね。ちょこちょこライブに来てくれていて。
kojikoji:大学生の頃からLUCKY TAPESさんのライブは何度も観に行っていて。その後、私が「COS」(2018年発表のアルバム『dressing』収録曲。韻シストのBASIが客演参加している)をカバーさせてもらって。
Kai:あのカバーがとてもよかったのでメッセージを送ったり。その頃にはすでにBASIさんがkojiちゃんのことをフックアップしていて、目にする機会も多くなってきていて。
――最初はどのようなメッセージを送られたのでしょうか。
Kai:確か「カバーして下さってありがとうございます」みたいな感じだったかと。
kojikoji:そうですそうです。LUCKY TAPESは元々好きやったので、すごくビックリしましたね。他のカバー動画にも「いいね」をくれたりして。「めちゃめちゃファンです! こちらこそありがとうございます!」みたいな内容でお返ししたと思います。
――kojikojiさんとLUCKY TAPESの出会いというのは?
kojikoji:学生時代、弾き語り系のサークルに入っていて。その友達にオススメされたのが最初のきっかけだったと思います。
Kai:ちなみに、何の曲でビビッときたの?
kojikoji:たぶん「22」だったと思います。それから普通にファンとしてライブを観に行ったりしていました。
――では、今度はKaiくんにkojikojiさんのカバーを観た/聴いた時の印象を教えてもらいたいです。
Kai:歌声の良さはもちろんなんですけど、それに加えて新鮮なスタイルだなと思ったんです。弾き語りでカバー動画をUPするのって、基本的にJ-POPとか、SSW系の楽曲をチョイスすることが多いと思うんですけど、kojiちゃんはヒップホップだったりR&Bなどのカバーも多いし、たまにある洋楽のカバーもすごく良くて。他のカバー動画をあげている方々とは明らかに違ったし、気になる存在になっていきました。
――kojikojiさんがヒップホップなどをカバーし始めたのは、とても自然な流れだったそうですね。
kojikoji:はい。YouTubeのオススメで出てきたhokutoさんの「Cheep Sunday feat. 唾奇」を聴いた時に、「めっちゃ良い!」ってなって。そこからヒップホップにハマりました。ただ、ラップってほとんどメロディもないし、ギターでカバーするのは難しいかなと思って最初は諦めてたんです。でも、それから1年くらい経った時に、好きな気持に導かれるままに唾奇さんの曲をカバーさせてもらって。
Kai:ヒップホップをカバーする際に、独自のメロディを付けるアレンジ・センスもすごく良いなと思って。自分もそれこそ『dressing』あたりから歌とラップの中間みたいなフロウを取り入れたりしていたので、そういった部分でも共鳴するところがあったりして。
――では、初めておふたりがお会いした時のことについて教えて下さい。
Kai:Billboard Live大阪で開催した、SIRUPとLUCKY TAPESのツーマン・ライブの時だよね。
kojikoji:はい。楽屋に呼んで頂いて、ご挨拶させてもらいました。めちゃくちゃ緊張しましたね……。
Kai:ガッチガチだったよね(笑)。今思うと、タイミングも良くなかったなと。1部と2部の間の休憩時間で、演者もスタッフもみんな楽屋でご飯を食べたりしている時で。
kojikoji:でも、みなさんに優しく声を掛けて頂いて。
Kai:うちのチームの中にもkojiちゃんのことをすでに知ってる人もいて。
kojikoji:そうですねUKOさんはBASIさんとの繋がりですでに知ってくれていました。
――その時はどういう会話をしましたか?
kojikoji:その時、ちょうど音楽を続けていくかどうか迷っていた時期で。その相談をさせてもらったことを覚えています。「やった方がいいよ」って言ってくださって。
Kai:何様だよ、っていう感じだよね(笑)。
一同:(笑)
kojikoji:でも、めちゃめちゃファンで聴いてた人にそうやって言ってもらえたのは、自分にとってはすごく大きくて。自信が付いたというか、本当にありがたい体験だったなって。
Kai:それ以降も何度かライブに来てくれたり、たまにSNSでやりとりしたりという関係でした。
「一種の制限から開放された感覚」
――そのようにして親交を深めていく中で、今作「BLUE」にkojikojiさんを迎えるに至るにはどのような経緯があったのでしょうか。
Kai:とてもシンプルな話なんですけど、デモができた段階で彼女の声が合いそうだなと思ったので、声を掛けてみました。
――曲がある程度形になってきた段階で見えてきたと。
Kai:そうですね、リリックやアレンジもほぼほぼ出来上がった状態でした。最初は自分の声でオクターブ上のコーラスを入れていたんですけど、何かしっくりこなくて。
kojikoji:最初、音源データだけ送ってくれたので、新曲をいち早く聴かせてくれるんやって思って。「めっちゃ良い曲ですね!」ってお返事したら「kojiちゃんに入ってもらいたい」って言ってくれて、「ぜひやらせせてください!」って二つ返事でお返ししました。
――kojikojiさんは最初に「BLUE」のデモを聴いた時、どのような印象を受けましたか?
kojikoji:何ていうんでしょう……シンプルに、めっちゃ好きって思いました。
Kai:確か「ソロっぽい」って話してたよね。
kojikoji:あ、そうですね。最初、LUCKY TAPESの新曲なのか、それともKaiさんのソロでの新曲なのか
――確かに今作はKaiくんのソロ名義の作品っぽさもありますよね。それこそ管楽器も入ってないですし。
Kai:(管楽器が入ってない曲は)LUCKY TAPESでは初めてかもしれない。というのも、今はライブもないしメンバーと一緒にスタジオに入ってアレンジを練ることもできないので、必然的に楽曲制作もよりソロに近いスタイルになってきていて。今作は作業のほとんどを自宅で完結させる作り方になりました。なので、ライブで演奏する際のアレンジに関してはこれからチームと詰めなくてはといった感じなんですけど、逆にそれを意識しなくなったことで、一種の制限から開放された感覚もあります。より自由な制作スタイルが、自分には合っているようにも感じたり。
――コロナ禍での制限で、逆に広がるというのはおもしろい話ですね。
Kai:確かにそうですね。自分のやりたかったことともリンクしていたので、制作もスムーズに進みました。
――メンバーとはInstagramなどでもリモートでコラボしていましたが、今作も各楽器パートは遠隔でやり取りを?
Kai:はい。リモートでフレーズのニュアンスなどを伝えながらギターとベースの演奏データを送ってもらいました。メンバーとはすでに半年近く会えていませんね。
――kojikojiさんとのやり取りも同様のスタイルで行われたのでしょうか。
Kai:いえ、kojiちゃんはちょうど東京の現場があって、その時にレコーディングさせてもらいました。
kojikoji:最初はコーラスで参加する予定だったんですよね。でも、レコーディングのちょっと前に、私のパートも作ってもいいかもねって言って下さって。
Kai:そこからが長かったよね。自分の歌いやすいキーで作っていたので、kojiちゃんのパートを足したことによって、前後との繋がりなどの調整も必要になって。始めてからあっという間に数時間経っていた記憶が。朝方まで作業してたよね。
kojikoji:夜通しやっていましたね。
Kai:最初は1、2時間で終わると考えていたんですけど、甘かった(笑)。
kojikoji:メロディとかフロウ、リリックも若干変更しましたよね。
――今作の「誤魔化し誤魔化されたこの世界では/何が真実かも分からず騒がしい」といったラインは、まさしく今の近況を指し示しているようです。リリックはどのようにして生まれてきたのでしょうか。
Kai:そこまで大きなテーマや強いメッセージがあるわけではないんですけど、やはり世の中の状況的にも、あまり良い雰囲気は漂っていないというか。自分のようにパッとしない毎日が続いている人も多いんだろうなと思い、そういった気持ちを綴りました。
――また、冒頭の「こんな出来損ないでごめんね」という一節も印象的です。歌い出しから特徴的なラインで幕を開けるというのは、これまでのLUCKY TAPESの作品でも用いられてきた手法だと思います。こういった一節は自然と湧いてくるのでしょうか?
Kai:そうですね、あまり意識はしてないです。日頃から気に入った言葉や言い回しが思い浮かんだらメモを取るようにしていて。それを曲作りの最中に見直して、雰囲気や世界観に合う言葉を取ってきたりもします。
――kojikojiさんはこのリリックに対してどのようなイメージを抱きましたか?
kojikoji:何ていうんでしょう……シンプルに言うと、主人公がすごくダメっぽいじゃないですか(笑)。でも、そういうダメな部分って、個人的にはすごく共感できるんです。自問自答して悩んでいるような部分とか、「幸せが何だかも分からないまま/考えれば考えるほど遠のく」などなど、思わず「自分のこと?」って思ってしまうくらいで。Kaiさんの本音なのかフィクションなのかはわからないですけど、すごく魅力的なリリックだなって思いました。
Kai:ありがとうございます(笑)。
――今、本音なのかフィクションなのかという話が出ましたが、実際はどうでしょう?
Kai:最近は等身大や身近な人々を描くことが多いかもしれません。あまり自分に自身が持てなくて悩んだりもするけど、それでいながら自由奔放に生きているような若者。今作はそんなイメージをテーマに書いているので、kojiちゃんに歌ってもらったのは、そういった意味合いでもバッチリでした。
――kojikojiさんの参加によって変化したという部分について、少し具体的にお聞きしてもいいですか?
kojikoji:主に変えたのはメロディとフロウですね。最後の「それなら夢くらい見させてよ」は語尾を変えた記憶があります。
Kai:もともと自分が歌う予定だったので、「それなら夢くらい見てもいいだろう」と書いていたんですけど、kojiちゃんと何度も歌いながら、言い回しを変えていきました。あと、「迷惑だってかけちゃうし」とかも変更した部分だよね。
kojikoji:そうですそうです。何回もトラックを流して、色々なパターンで歌ってみてしっくりくる言い回しを探していきました。
Kai:自分だったら出てこない、使わないような言い回しで、kojikojiらしさがしっかりと表れているかと思います。
新世代との自然なコラボ
――The Peach of Girlさんのイラストを使用したアートワーク、リリック・ビデオも印象的ですよね。彼女にオファーしたのはどのような経緯で?
Kai:I’mさんという福岡のシンガーがいて。ジャケットを誰が制作しているのか気になって調べたんです。そうしたらThe Peach of Girlさんに辿り着きました。今回の楽曲のイメージにもすごく合いそうだと思ったので、連絡してみたところ、現在18歳の現役高校生で、LUCKY TAPESのことも聴いてくれていたみたいで快く引き受けて下さいました。
――kojikojiさんの参加も含め、今作は新世代とのコラボという側面もありますね。
Kai:最近は新しい世代の活躍をすごく顕著に感じていて。我々は、いわゆる“シティ・ポップ”というか、R&Bやヒップホップといったブラック・ミュージックが国内で盛り上がり始めた頃にリアルタイムで活動をしていたので、そういったブラック・ミュージックの要素が自然と血肉化しているような新世代のアーティストたちが活躍しているのは、見ていてすごく嬉しいです。今回の様に異なる世代のアーティスト同士がコラボすることで、お互いのリスナーが混じり合う機会になったら素敵ですよね。
――個人的な印象ですが、今作は上の世代が新世代をフックアップするという感じではなく、すごくナチュラルにコラボしている感じがして。それも含めてLUCKY TAPESらしいなと思いました。
kojikoji:実際、めちゃくちゃ自然体でコラボすることができました。ティーザーの撮影やレコーディングでも、一緒に作業している時はフラットな関係性で接することができて。お話していてもKaiさんすごく若いなと感じますね。音楽的な好奇心に溢れているし、常にセンサーを張っている。会話の中でも私の知らないことをいっぱい教えてくれるし、やっぱり最前線で活躍している方は違うなって思いました。
Kai:最前ではないよ(笑)。
kojikoji:いやいやいや(笑)。
Kai:でも、確かに自分も下の世代と一緒にやっているという特別な感覚はなかったですね。オファーの段階から、ただただ良い作品を作っている才能あるアーティストと一緒に音楽がしたいという想いだけで。
――なるほどです。まだライブなどは中々に厳しい状況が続くと思いますが、このコロナ禍において、おふたりは今後どのような活動を予定していますか?
kojikoji:私は音楽活動の中でライブをしている時が一番すきなんですけど、やっぱりまだまだ難しくて。お客さんのいない、配信ライブもやってみたんですけど、やっぱり何か……ちょっと違いますよね?
Kai:我々は実はまだやっていないんです。自宅からの個人的な配信ライブはやりましたけど。
kojikoji:虚しいとまではいかないんですけど、やっぱりお客さんの顔を見ながらのライブが今は恋しいですね。ただ、嘆いていてもしょうがないので、今はYouTubeやSNSでの発信に力を入れていきたいです。元々そういう活動も好きでやっていたことなので。
Kai:以前から話していることなんですけど、自分は元々人前に出るようなタイプではなくて、コンポーザー/プロデューサー気質なところがあるんです。もちろん、バンドを始めてからはライブも大好きになりましたけど、家に籠もって曲作りに没頭する生活も嫌いではないので、最近はたくさん曲を作っています。LUCKY TAPESとしては作品のリリースが今後続いていくと思います。
kojikoji:すごく楽しみにしてます。
――ライブでのアレンジはこれから考えなければとの話でしたが、いちファンとして、ライブでの「BLUE」の披露も待ち遠しいです。
Kai:そうですね。制作の時、kojiちゃんとアコギで練っていたこともあって、ミニマムな編成なんかも合うのではないかと考えています。それこそ弾き語りとかもどこかで披露できたらいいよね。
kojikoji:早くライブで歌ってみたいですね。
【リリース情報】
LUCKY TAPES 『BLUE feat. kojikoji』
Release Date:2020.08.05 (Wed.)
Label:JVCKENWOOD Victor Entertainment
Tracklist:
1. BLUE feat. kojikoji
2. BLUE (Instrumental)
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