Rootscoaster Vol.46 / 齋藤あきこ

Rootscoasterももうすぐ50回。46回目の今回ご登場いただくのは、フリーランスのライター/エディターとして色んな場所を飛び回りご活躍されている齋藤あきこさん。最初に彼女の存在を知ったのはとあるトラックメイカーさん方のInstagram上でのこと。それ以来インターネット上で気になって仕方なく、ルーツを聞きたくて仕方がなかったのです。つい先日にご自身のnote.で公開された “ベストミュージックオブジイヤー2014” 記事からも、もちろん今回の選曲からも知らなかった新しい音楽と出会うきかっけをいただけるかも。ナイスな音楽の鳴るフロアで心から楽しまれている彼女の姿もとにかく魅力的！後半のメッセージにも、痺れてくださいね。（Written by Ayumi Ota）

1. DEEE-LITE / Thank You Everyday

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私が生まれ育ったのは宮城県のど田舎で、コンビニどころか一番近い信号機まで車で15分かかる。そんな私が初めてダンスミュージックに触れたのは、宮城のローカル深夜番組でかかっていた、テイ・トウワが在籍した「ディー・ライト」の音楽。中学生の時だった。七三分けの地方アナウンサーが「これはハウスという音楽なんだそうです」と語っている。ニューヨークから５万キロ離れた田んぼの真ん中にいても、この音楽が面白いのはわかる。こういう感じの音楽をもっといろいろ聴きたいけど、その方法がわからない。塾に行くお小遣いを誤魔化したりしながら一枚でも多くCDを買っては中古CD店に売り払うループを何百枚と繰り返した。20世紀の音楽の聴き方はそんな感じ。

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2.Prefuse 73 / Radio Attack

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21世紀になって私は東京に引っ越した。ジャイルス・ピーターソンが勧めるイーストロンドンあたりの曲は全部買うし、レコード屋でバイトしてUnderground Resistanceに始まるデトロイトテクノ教に入信したり、ジャズボッサに傾倒したり、テクニクスのターンテーブル２台とミキサー１台を買ってDJにチャレンジするもハードミニマルすら繋ぐことができずに速攻売り払ったりしていた。しかし21世紀になって最初の衝撃はPrefuse 73の「Radio Attack」だった。そこでは20世紀には分断されていたジャズとテクノとヒップホップとロックが一緒に鳴り響いていたから。

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3. 坂本美雨と蓮沼執太クルー / Waving Flags

テン年代も半ばになったいま、インターネットによって、かつてからは考えられないほど音楽の聴き方が代わった。レコード屋は渋谷や下北沢ではなくインターネットに存在し、NinjaTuneやWarpやLuckyme、BrainfeederとかHyperdubとかお気に入りのレーベルの音源がタイムラグなく聴ける。かつて夢見たことが全て叶う夢の時代がやってきた。そんな時代に蓮沼さんという音楽家のお手伝いをすることになった。音楽の世界を見て思うのは、そこに居続けるには才能というものがほんとうにシビアに問われ続けるということだ。基本的に天に選ばれし者が平和に暮らしている的なところである。いまも音楽の現場に足を踏み入れるたびに、なんだか映画「ロード・オブ・ザ・リング」のエルフの村にいるような感じがする。

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Message

フランスの哲学者、アレクシス・フィロネンコが、音楽は「世界の精髄」と言っていた。世界の真理の本質中の本質がたった一曲に収まってしまうこともあるからだ。かつて平民にとっての音楽は、農作業の苦しさを忘れるために口ずさむものでしかなかった。それがいまではIT土方ですら死んだ音楽家を墓のなかから引きずり出して、最高の演奏を意のままに何度でも再生することができる。なんて贅沢なことだ。音楽のいいところは、いろいろなものと組み合わせられるところ。音楽を好きになると行けるところが増える。もう一本の足が増えるみたいに。何かを作る人にとっては、その人がより長く歩き続けていくための支えになってくれる。わたしがライターを続けていられるのは、一人で文章を書く時に好きな音楽を聞くことができるからだと思う。

Profile

フリーランスのライター／エディター。Webマガジン「コロカル」、雑誌「GINZA」にて「召しませメディアアート」連載中。雑誌「Switch」、「Popeye」、「MdN」ほかに寄稿。
編著書「Beyond Interaction改訂第2版」、「地域の魅力を伝えるデザイン」（BNN新社）、「宮城のおきて」（泰文堂）が発売中。

https://note.mu/akiko_saito