Text by Naoya Koike
Photo by Spotify
Spotifyが主催するイベント『Early Noise Night #14』が11月25日、東京・Spotify O-EASTで開催された。国内の新進気鋭のアーティストをサポートするプログラム『RADAR: Early Noise』の一環として行われる本公演。今回は(sic)boy、tonun、ao、Teleの4組が登場し、新世代ならではのフレッシュな個性を存分に堪能できる夜となった。
『Early Noise Night』は2017年5月よりスタート。これまでCHAI、あいみょん、SIRUPなど、多数のアーティストがブレイク前に出演してきたことでも知られ、コロナ禍で中止となった2020年3月の『Early Noise Night TYO』には、その後大きく躍進を遂げる藤井風、Vaundyをはじめ、JP THE WAVY、 Momが出演予定だった。それ以来、およそ2年半ぶりとなるのが今回の開催である。
会場にはSpotifyのブランド・カラーを軸とした蛍光灯の装飾などが施されていた。そしてフロアを埋め尽くしたオーディエンスたち。演奏が始まったわけでもないのに、その光景に感慨を覚えてしまう。日常から遠ざかった在りし日のライブ・カルチャーが戻ってきた。いよいよ保留され続けた、2020年代最初の『Early Noise』がかき鳴らされる。
最初に登場したのはao。ルーズソックスのようなブルーデニムのレッグウォーマー、ミニスカート、そしてジャケットの出で立ちだ。そんなY2Kファッションに身を包んだ彼女のステージは「チェンジ」で幕開け。歯切れのよい歌を聴かせてから「余所見」へとシームレスに繫がる。紫の照明と幻想的な映像が視覚からも心を動かし、終盤はaoの三連符によるラッシュ。
「高校一年生で、今日は学校から直接ここに来ました。本日は素敵なイベントに呼んでくださって嬉しいです」
あどけないMCだった。しかし目をつむり、年齢を単なる数字と見なせば、彼女の歌声は16歳とは思えない。そして、彼女の脇を固めるミュージシャンは、マニピュレーター・Georgeとドラムス・山下賢。バンドになりすぎない編成も“今”を感じさせた。
それから80’sライクな8ビートに低い音程のスネアが効いた「リップル」、情感を込めた歌声に息を飲む「noTHANKYOU」を披露。さらに初公開となる「瞬きと精神と君の歌と音楽と」を繋ぐ。セクションが変わる部分で効果的に施されたブレイクが冴える。
放課後の課外活動の締めは明るいビートの上で淡いミックス・ボイスが乗る「you too」。30分の短いステージながらも1番手として確かな爪あとを残した。
アーティスト紹介映像に続き、谷口喜多朗のプロジェクトであるTeleが登場。そして2音の合図がトリガーとなり「バースデイ」の1小節ループが走り出した。同時に「ハロー東京!」という開幕宣言のような谷口の呼びかけ。そしてバンドのグルーヴと言葉数多めのリリックが小気味よく響いてから、ギター・馬場庫太郎によるノイズの轟音が空気を切り裂いた。
続いて骨太なギター・ロック「夜行バス」、モータウンっぽい質感の「花瓶」。谷口はフォーク調の語りから、ラップらしい3連符フロウまで幅広い節回しで魅せる。フロアタムのビートから始まる「東京宣言」は間奏で、バンドならではのタイトなアンサンブルを聴かせた。
また「Véranda」では「一緒にクラップしましょう!」というMCに誘われてフロアからクラップが。そしてリピートされる度に演奏の熱量が増す「comedy」終盤の展開はハイライトだった。
最後の「ghost」は、ミュート・カッティングで切なく弾き語って始まり、ピアノに続いてバンドが合流。そしてエモーションを爆発させ、嵐のような演奏の後にきれいなピアノの音色がエンディングに余韻を残す。観客から自然と拍手が起きたのも興味深い。
3番手はtonun。「『Early Noise Night 』、よろしくお願いします!」バック・バンドが演奏する、ヒップホップ的なジャズ・ビートをSE代わりに、ダブルのジャケットのセットアップに身を包んだ彼がステージに現れた。
1曲目の「東京cruisin’ 」に続いて、「Sweet My Lady」ではギターを弾きながらグルーヴのなかを泳ぐ。シンセの音が効いた「真夏の恋は気まぐれ」は爽やかにパフォーマンス。アウトロではtonunの鮮やかなフェイクも。
彼のステージをサポートするのは、ギター・磯貝一樹、ベース・安田照嘉、キーボード・大樋祐大、ドラムス・神田リョウ、マニュピレーター・高橋剛。それぞれが数多くの現場で活躍する腕利きである。つまり演奏に関しては“Early Noise”ではなく、プロによる職人芸。聴きどころが多いステージだった。
ピアノの独奏から「今夜のキスで」へ。その歌唱はモノローグのようで、先ほどまでのアーバンな雰囲気と良いコントラストを生む。最後はtonunがひとり、スポットに照らされてエンディング。
「よかったら僕とダンスを踊ってください!」と呼びかけて、セットリストのギアが再度上がる。サンセットの映像をバックに演奏された「琥珀色の素肌」ではラップ調の歌や、アウトロでtonunと磯貝が交互にソロをトレードするなど見せ場が満載。軽やかなパフォーマンスに熱さが加わって音源とは違う、ライブならではの迫力があった。
とどめはフロアを巻き込む、4つ打ちのダンス・ナンバー「Sugar Magic」。楽しそうに歌うtonunの表情が、この30分の充実度を物語っていた。
そして本日最後となる4組目のパフォーマンス。「(sic)boyです!よろしくお願いします!」金髪ブレイズの青年は礼儀正しかった。トリを務める(sic)boyは「Akuma Emoji」で出撃。4組のなかで一番ミニマルなDJ・sathiとの2人体制ながら、ステージ上を広く動きながら歌っていく。
興味深かったのは出音の低音が4組のなかで一番鳴っていたことだ。そしてアンプから鳴らされないロックなディストーション・ギターの音が入ったビートが異彩を放つ。
「爆撃機」ではストレート・スタンドにしがみつくようにパフォーマンス、さらに「living dead!!」ではスクリームからメロディアスなパートまで自由自在。ビートのタイプも含めて、ジャンルの垣根を囚われないポテンシャルを感じさせた。さらに「Ghost of You」、「落雷」、未配信曲「dark horse」と繋ぐ。
ここでMC。「2年ぶりに開催されたと聞いて『そうか、コロナからこんな年月が経っているんだ』と気付いたりもして。このようにパンパンに人を入れてライブができる状況になり、すごくやりやすいです」
流暢なMCに続き、米アーティスト・nothing,nowhere.を迎えた最新曲「Afraid??」でフロアを揺らした。「眠くない街」では右手にマイクを、空いた左手はリズムを取りながら自分の世界を表現。さらに「(stress)」、「Last Dance」と感情をマイクに吹き込んだ。
クロージングは「Heaven’s Drive」。気持ちのいいライムで紡がれたメロディを歌い上げる。さらにステージ前面に出て、体を揺らしながら歌いオーディエンスにアピール。そして「O-EAST、最後みんなで盛り上がっていきましょう!」と巧みなアジテーションで会場を盛り上げ、この日のすべてのパフォーマンスが終了。温かい拍手が(sic)boyに贈られた。
この4組がこの先どう進化していくのか、日本の音楽界にとってどのような存在になっていくのか、それを見守っていきたい。もしこの先に彼らが大成し、ライブがプラチナ・チケット化したとすれば「昔『Early Noise Night』で観たよ」と言える日が来るかもれない。
そんな未来を楽しみにしつつ、新たな才能がますます『Early Noise Night』から輩出されることにも期待している。
01. チェンジ
02. 余所見
03. リップル
04. noTHANKYOU
05. 瞬きと精神と君の歌と音楽と
06. you too
【Tele】
01. バースデイ
02. 夜行バス
03. 花瓶
04. 東京宣言
05. Veranda
06. comedy
07. ghost
【tonun】
01. 東京cruisin’
02. Sweet My Lady
03. 真夏の恋は気まぐれ
04. 今夜のキスで
05. 琥珀色の素肌
06. Sugar Magic
【(sic)boy】
01. Akuma Emoji
02. 爆撃機
03. living dead!!
04. Ghost of You
05. 落雷
06. dark horse
07. Afraid??
08. 眠くない街
09. (stress)
10. Last Dance
11. Heaven’s Drive