終始くだけた様子のインタビューだった。最後に「このバンドでやりたいことは?」と聞いたところ、「この雰囲気のまま行けたら幸せ」と返ってきたが、まさにluvの魅力はそういうところにあるのだろう。ネオソウルやファンク、ジャズやヒップホップからの影響を屈託なくブレンドしていく彼らの武器は、5人のゆるい姿勢と鋭い感性である。
7月にメジャーリリース1弾目となるシングル“Fuwa Fuwa”を発表したluvが、9月4日(水)に早くも次なる新曲“好人紀行”をリリースした。前者は初のスタジオレコーディングで完成した新曲で、ダンサブルなビートと柔らかい歌唱に惹かれるポップナンバー。後者は結成初期からあったという楽曲で、ゴキゲンなロックンロール調のビートが気持ちいい、これまた爽やかなポップソングとなっている。バンドのイメージを拡張するようなキャッチーさが、この2曲に共通したモードと言えるだろう。
結成から1年、ライブシーンやソーシャルメディアを中心に話題を集める関西発の5人組に話を訊いた。
Text by Ryutaro Kuroda
Photo by Takuya Nagamine
メンバー5人の多様なルーツ
――みなさんはそれぞれどういう経緯で出会ったんですか?
Hiyn:Shoは僕の高校の同級生で、大学のジャズ研でZumとRosaに会いました。Ofeenは小学校のときに隣の小学校のサッカーチームにいたんですけど、中学で一緒になって。バンドは高校のときにShoとふたりで始めたんですけど、そこからズルズルいって最終的にこの5人になりましたね。
――Shoさんがドラムを始めたのは?
Sho:10歳ぐらいです。最初の方はホンマに遊びみたいな感じでしたね。
――好きなドラマーはいますか?
Sho:その時々でちゃうんですけど、今はQuestloveを追いかけています。彼はフィルインとかドラムソロもやるにはやるんですけど、基本はビートじゃないですか。主張がないのにすごく安心感があるというか、彼が叩いてるだけでその色になってしまうところは惚れますね。
――Zumさんはジャズ研にいた時から一緒にバンドをやろうと話していたんですか。
Zum:いや、なかったですね。(Hiynが)歌を歌うってことも知らなくて、ジャズギタリストやと思ってました。
Hiyn:ジャズは一切弾けないんですけどね(笑)。
Zum:僕も元々はポップスやファンクなどのベースを弾いてました。ジャズ研はRosaに誘われて入った感じで、いつの間にかふたり共辞めて僕だけが残ったみたいな。
Hiyn:そして今では部長をやってるっていう。
――好きなプレイヤーはいますか。
Zum:ジャズのベーシストでいうとRay BrownとかPaul Chambersが好きで、現代ではChristian McBrideみたいなウッドベースの人が好きです。
――Rosaさんはクラシックからジャズに転身したんですか?
Rosa:いや、ジャズも興味程度にやってみようかな、と思って入ったんです。結局所属はしているもののほとんど続くことはなくて。あんまりジャズキーボーディストという視点で見られると恥ずかしいですね。クラシックは今も趣味で続けています。
――フェイバリットピアニストを挙げるとしたら?
Rosa:クラシックやったらMartha Argerichさん。80歳を過ぎても現役で活動されている方で、彼女の演奏の内容とか表現の仕方、手の動きはかなり研究しています。
――OfeenさんははじめからDJだったんですか?
Hiyn:Ofeenは最初キーボードだったんです。そのときはSho、Ofeen、俺、あと別のベースがいたんですけど。そのベースがライブの当日にキャンセルしてきて、それでZumに電話して来てもらいました。そこからしばらくは4人で活動してたんですけど、急遽Ofeenがキーボードを解雇になって。
Ofeen:(笑)。
Hiyn:ガチの人(Rosa)が入ってきたから。あと、僕は90’sが好きやったこともあって、DJは絶対入れたい、ベースぐらいバンドに必要なものだと思っていて。それでOfeenにDJをやってもらうことにしました。
――90’sというと、Jamiroquai的な発想ですか?
Hiyn:モロにそうですね。あとはErykah Baduもそうですし。
――Hiynさんはどんな音楽が好きでluvを結成しようと思ったんですか。
Hiyn:父親ががっつりブラックミュージック好きだったので、小さい頃からずっと家で流れていて。父はブルース寄りやったんですけど、僕はその中でもJB(James Brown)に惹かれました。それで幼少期はクラシックなファンクやソウルが好きだったんですけど、中高生になった頃に日本でブラックミュージックを上手く落とし込んだ人たちがバーっと出てきて。
――たとえば?
Hiyn:Suchmos、D.A.N.、cero、WONK、Nulbarichなどですね。それと同時期に、ギターを練習してたときにTom Mischを知って。Tom Mischから辿って90’sを聴くようになり、やっと今になってMother EarthやCorduroy(*1)などもちゃんと聴けるようになりました。
*1:Mother Earth、Corduroy:共に90年代のUKアシッドジャズムーブメントの代表格として知られるバンド。
――なるほど。Ofeenさんは言われてすぐにDJに転身することに納得したんですか?
Ofeen:なんか一緒にやりたいからやろうかな、みたいな。
Hiyn:こいつは普段からバイトも一緒で、今もほぼ毎日一緒にいるんです。OfeenがSpotifyを使い始めたとき、こいつのプレイリストを俺が全部消して、そこにソウルを入れるっていう(笑)。
Sho:エグい(笑)。
Hiyn:そうしたら誰よりも詳しいDJになりました。
――(笑)。
Ofeen:元々好きやった曲が気づいたら全部消えてて、見たことのない人たちばっかりで(笑)。そっからディグっていきました。
Hiyn:でも、元々好きなノリがブラック寄りではあったんですよ。だからちゃんとわかりやすい順にはしていて、最初に『Voodoo』(*2)を教えたんですけど。
D’Angeloが2000年にリリースした2ndアルバム
Sho:入口間違ってない?(笑)。
――でも、いきなりプレイリストでバーっと聴いても、好きになれないものもあるわけじゃないですか。
Ofeen:最初はほとんどピンとこなかったですね。
――最初にその音楽の中でピンと来たものはなんですか?
Ofeen:日本人でブラックミュージックをやってる人を聴いてみようと思って、Kan Sanoさんの『Ghost Notes』(2019年)を聴いたんです。その中に《Don’t You Know The Feeling?》というフレーズだけをいう曲があるんですけど、それを聴いて衝撃を受けました。
それからKan Sanoさんのインタビュー動画とかを見たときに、D’AngeloやErykah Badu、Lauryn Hillについて言及されていて、それでもう1回聴いてみたら段々とハマっていきました。
「明らかに『強い曲』ができた」──“Fuwa Fuwa”制作背景
――luvを結成して1年ちょっとが経ちました。このバンドで経験したことで特に思い出に残っていることはありますか?
Ofeen:昨日の長時間撮影がエグかった。
Zum:更新しちゃったよね。
Hiyn:みんな頭おかしくなってた。
Sho:ラストの方はずっと叫んでたもんな。
――そんなに長かったんですか?
Ofeen:14時間です。
――それはすごい……。
Hiyn:直近の記憶それしかないもんな。あ、あと初めてのRECは?
Zum:そうだ、レコーディングだ。
Hiyn:インディ時代は宅録だったんですけど、“Fuwa Fuwa”では初めてスタジオで録りました。
Sho:東京から車で帰ったときに、Hiynが車の中でずっとギターを弾いとって。そこでそれっぽいのができたんやったっけ?
Hiyn:それ別の曲やわ。
Ofeen:(笑)。
Hiyn:5人ともかなりアホなんです。
――(笑)。
Hiyn:“Fuwa Fuwa”は秒やったな。秒でサビメロができました。
Zum:早かったよね。スタジオに入って演奏してたらすぐにできた。
Ofeen:全員弾きながらヤバいヤバいみたいな感じになって。
Zum:メロディがいいんですよね。
――それぞれ自身のプレイやフレーズで意識したことはありますか?
Ofeen:基本的にDJはスタジオセッションで録音したものを聴きながら、そこに合わせるサンプルを探すんですけど、この曲は大学の授業中に録音したものを片方の耳で聴きながら、もう片方の耳でスマホのイヤホンから合うやつを探していきました。
Zum:ベースは明るい曲やったんで、Stevie Wonderをリファレンスにしようと思いました。バッキングの仕方は結構意識しましたね。
――踊れる曲になってますが、リズムは最初からこの感じだったんですか?
Sho:なんかボサノバっぽいやつやろうって言ってなかったっけ?
Hiyn:ツーファイブ(コード進行)で、みたいな話をして。
Sho:でも結局普通のビートになって。そんなに重たいサウンドではないんですけど、ビートのグルーヴ的なところで言うと、Erykah Baduのライブアルバムでドラムを叩いてるPoogie Bellのようなドシッとした感じを出したくて。その気持ちを込めて叩きました。
Hiyn:あと、ライドな。
Sho:そう。最初はBメロでライドシンバルを使ってて。軽い感じでBメロに落とし込みたいと思ってたんですけど、レコーディングしているうちにここじゃないなと思って。それで最後まで溜めて溜めて。
Hiyn:ラスサビに入れて。
Sho:1番聴かせたいところでライドを使ったらめちゃくちゃ夏っぽいというか、すごく爽やかな感じになりましたね。
――鍵盤では何か意識したことがありますか?
Rosa:皆さんのノリを邪魔しないように、謙虚に演奏することです。
Sho:(笑)。
――それは普段から意識してることですか?
Rosa:基本的にずっとそのスタイルですね。他の4人とは音楽の出自が違うところもあって、我を出すというよりかは、なるべく歩調を合わせていく感じでやってきました。
――でも、luvはどの曲も鍵盤が効いてますよね。
Hiyn:マジでそうなんです。
Rosa:僕はここで話すのが恥ずかしいぐらいブラックミュージックのことを何も知らないので、そこは色々と資料を集めてやっています。その中で自分の持っているクラシックの緻密さを活かすみたいな感じですね。ちゃんと構成を考えて、前後の文脈を読み取っていくというか。何回も使うフレーズと1回だけで出し切るフレーズをちゃんと分けて、そこからそのフレーズを発展させたり、オクターブ上で弾いてみたり。最初は上行形やったから2番では下行形にしようとか、そういうところを考えてます。なので自分のパートだけですけど、大体の曲は自分で譜面を書いてみて、そこで整理して音符を紙の上で動かしながら詰めていく感じですね。
――その結果、楽曲の中ですごくいいアクセントが生まれていると。
Hiyn:(Rosaは)いつもマジで予想外な感じでアレンジしてくれて、それが一番熱いところですね。こいつのキーボードで曲の雰囲気が決まるみたいなところもあります。
――“Fuwa Fuwa”について、Hiynさんはギターで意識したことはありますか?
Hiyn:一瞬でわかると思いますけど、山下達郎さんのカッティングをリファレンスにさせていただきました。
――ルーツにあるんですか?
Hiyn:日本人の必修科目やと思うので。家ではよく母親が流していて、昔から耳にしていましたね。luvの他の曲では結構裏からカッティングが入る感じが多いんですけど、ちゃんと表から恥ずかしがらずに行くっていうのを、山下達郎さんから学びました。
――歌詞はどうですか?
Hiyn:明らかに「強い曲」ができたと思ったので、これまで以上にメッセージや意味までこだわりました。僕はNHK信者で『フックブックロー』という教育番組が好きなんですけど、そのオープニングの歌詞がすごくて。人生焦らずゆっくり行こう、というメッセージを子どもたちに伝えるような曲なんですね。“Fuwa Fuwa”を作っているときはメンバーみんな「就活どうする?」ってタイミングだったから、ゆっくり行こう、焦らず頑張っていこう、みたいなことをメンバーに向けて書きました。
ー“Fuwa Fuwa”にそういう「強さ」を感じたのはなぜですか?
Hiyn:僕ら史上がっつりポップスをやるのは初めてで。今までは結構ポップスを作ろうとしてもシャバくなるというか、どこか冷めてたんですよね。でも、これはアツい感じで行けたと思っていて。あとはメロディもわかりやすいし。
――もう少し自分のペースで生きてもいいんじゃないか、というメッセージにも取れますし、そうしたスローライフは現代社会におけるいいテーマだと思います。
Hiyn:そうなんですよ。マジで東京、全員急いでるよな?
Zum:車もな。
Hiyn:車は危ない。
「こういう曲もできるよ」──バンドの懐の広さを提示する“好人紀行”
――9月リリースの“好人紀行”ですが、この曲はかなり前からできていたんですよね?
Hiyn:そうですね。めちゃくちゃ古参です。
Ofeen:1stシングルの“Motrr”の次くらいに完成してたよね。
Hiyn:で、出し時を失うっていう。
――でも、これこそポップじゃないですか。
Hiyn:これはマジでポップっすね。“Fuwa Fuwa”よりポップ。既存リスナーがどう思うかはわからないんですけど、「こういう曲もできるよ」っていうのをみせるというか。窓口を広げる感じなので、その分アルバムでは90’sのヒップホップとか、違うことをもやろうって考えています。
――以前からあったということは、スタジオで作る前の曲ということですか?
Hiyn:そうですね。“好人紀行”は結構宅録の感じです。これはもうシンガーソングライターみたいな感じで作って、それをみんなに投げました。
――このポップさはHiynさんの中のどういうチャンネルが働いているんですか?
Hiyn:母親の影響ですね。昭和歌謡は母から教わったので。この曲では日本っぽさを出したいっていう思いがあって。僕はおばあちゃん子で和食も好きだし、もちろん日本生まれで日本育ち。それを今の時代にポップスとしてどうやって聴かせるかってことを考えて、雰囲気としては中高生の頃から聴いていたカネコアヤノさんなどを参考にさせてもらって。ギターも歪ませてはいるんですけど、フェーザーかけて丸くしていて、歌に馴染むようにしました。
――途中DJのパートが入ってますけど、音がチャーミングですね。
Hiyn:あれが入って一気にソウル感が増したように感じます。ソウルポップというか。
Ofeen:夕方感のある曲だったので、少年時代の下校時間というか。明るくてちょっと騒いでいる感じを出そうと思いました。
――そしてビートはロックンロールぽいというか、ご機嫌なリズムです。
Hiyn:そうですね。それこそ必修科目的な感じでThe Beatlesは何周かしていて。ビートはデモの段階から結構意識していました。The Beatlesに寄せといて何も言及せんかったら怖いなと思って、歌詞にも《All my loving》と入れたり。
――そういうことなんですね(笑)。
Hiyn:《All my loving 哀憂る羨you》というのも、ビートルズの《All my loving, I will send to you》を少年心で文字って歌っています。
――“好人紀行”はライブでやるとき、どのようなアレンジになると思いますか?
Hiyn:「マジでどうしよう?」ってなってます。
Zum:アコースティック編成とかやったら可愛いかな。
Hiyn:そうそう。テンポ落として、夕方にチルする感じというか。アートワークの雰囲気でやれたらいいな。
――バンドとして今後やってみたいことはありますか。
Ofeen:野外フェスに出たい。
Hiyn:マジでそれやな。
Ofeen:海付近のええ感じのやつ。
Hiyn:横浜あたりでやってる……。
――『GREENROOM FESTIVAL』ですね。
Hiyn:そうです(笑)。
Ofeen:音楽やる前から行ってたフェスなんで。出てるアーティストさんもよすぎるし、1日中楽しそう。
Hiyn:僕らの青春を担ってきた人たちがみんな出演してきたので……いや、Rosa以外の僕らでした(笑)。
――クラシック畑ですからね。
Rosa:僕の青春は京都コンサートホールですから。
――Zumさんはどうですか?
Zum:みんなバックにあるルーツがバラバラやから、おもしろいバンドになるかなって思います。それぞれのルーツを活かした、いろんなジャンルの音楽を作っていきたいです。そしてそれをゆるくやっていけたらなって思います。
Sho:僕もずっとこの雰囲気でいたいですね。もちろん売れたり飯食えるようになることも大事なんですけど。やっぱこの雰囲気のまま、ヘラヘラした感じでいけたら幸せですね。
――“Fuwa Fuwa”のスローライフ的なメッセージにも通じますよね。自分たちのペースで行くっていう。
Hiyn:マジでそう。
Rosa:僕らのアイデンティティを失うことなく活動し続けることが一番ですかね。それは音楽的な部分もそうですし、ふざけな部分もそう。ストレスなく活動できるのが一番やと思います。
――luvの音楽的なアイデンティティってどういうところにあると思いますか?
Hiyn:サウンドと歌詞の変さ、ですかね。luvはやっぱり語感重視だから。俺が歌詞先行で曲作りだしたらみんな止めてくれ。
――(笑)。
Hiyn:でも、よく見たらさすがにマジで意味ないもの書いてないんですけどね。
――去年リリースされた“Gum i”ではシリアスなテーマを綴っていますよね。
Hiyn:作っているうちにそういう内容になりました。差別について歌っているんですけど、我々もアジア人なのに欧米派生の音楽を志向しているわけで、バンドが世界に出たときにそういった差別を受けることになるかも知れない。そういうのはやめて、別け隔てなくいこうよっていう歌詞にしました。あと、僕は『ジョジョ』(ジョジョの奇妙な冒険)が大好きなので、“Stevlay”には『ジョジョ』ネタを入れています。
――『ジョジョ』で一番好きなキャラは?
Hiyn:それはマジで悩みます……。ポルナレフもいいけど……やっぱりアブドゥルですね。
【リリース情報】
luv 『Fuwa Fuwa』
Release Date:2024.07.24 (Wed.)
Label:Warner Music Japan
Tracklist:
1. Fuwa Fuwa
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luv 『好人紀行』
Release Date:2024.09.04 (Wed.)
Label:Warner Music Japan
Tracklist:
1. 好人紀行
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