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Interview / Ingrid Helene Håvik(Highasakite)


いま注目されるノルウェーの音楽シーンでも台風の目といえる男女5人組バンド、ハイアズアカイトのインタビュー

2014.04.22

ソンドレ・ラルケ&ヤング・ドリームスのカップリング・ツアーも記憶に新しいところだが、いま、ノルウェーの音楽シーンが面白い。キュートなガールズ・バンド=ラジカや、天然色のパーティー集団チーム・ミーといった実力派アクトがメキメキと頭角をあらわす中で、間違いなく台風の目となるのがトロンハイムで結成された男女5人組ハイアズアカイトだろう。

12年の1stアルバム『All That Floats Will Rain』がノルウェー版グラミー賞こと〈スペルマン〉にノミネートされ、ボン・イヴェール=ジャスティン・ヴァーノンが絶賛したことでも大きな話題となった彼らが、この度リリースされる2nd『サイレント・トリートメント』で世界デビュー。リード・シングルの“Since Last Wednesday”(本年度ベスト・トラック候補!)をはじめ、息を呑むほど美しいコーラスワークと幻想的な鍵盤のメロディー、そしてプリミティヴな太鼓のビートがどこまでも高揚感を煽る珠玉の1枚に仕上がっている。

6月には早くも〈Hostess Club Weekender〉で初来日公演が決定。すでに“歌姫”としての風格も漂う中心人物イングリット・ヘレネ・ホヴィック(ヴォーカル、スティールパン、ツィター)に、バンド結成のきっかけから音楽的ルーツ、さらに気になる歌詞のことについて訊いてみた。ノルウェーはブラック・メタルだけじゃないんだぜ!

Ingrid Helene Håvik(Highasakite)インタビュー

(Interviewer Kohei Ueno)

 

―これからハイアズアカイトを知るであろうリスナーのために、基本的な質問を。あなたとドラマーのトロンド(・ベルス)がノルウェー科学技術大学(NTNU)で出会ったことからバンドがスタートしたと聞きましたが、2人の最初の接点は何だったのでしょうか?

当時、トロンドとは恋人同士だったの。彼は複数のバンドを掛け持ちで演奏してたのよね。もっと一緒に過ごしたかったし、自分で書いた楽曲をプレイしたかった。だから、強制的に彼を私のプロジェクトに引き込んだのよ(笑)。何曲かデモを作ってみて、すぐにアルバムのレコーディングに取り掛かったわ。

 

2人ともジャズを専攻していたそうですが、当初目指していた音楽性はどのようなものだったのでしょう? また、結成当時の楽曲やライヴ音源/映像などは今でもチェックすることはできますか?

ジャズ・シンガーになりたかったんだと思う。インプロヴィゼーション(即興)をしたりして、実験的な音楽を目指していた。ライヴ映像はないわね。あっても、絶対に見せないわ(笑)。

 

エイステイン(・スカール)もクラシック・ピアノを学んでいたそうですし、メンバーそれぞれの音楽遍歴が興味深いです。1stアルバム『オール・ザット・フローツ・ウィル・レイン』のリリース後に加わったマルテ(・エベルソン)とクリストフェル(・ロー)は、以前にどういった活動を?

メンバー全員がジャズを専攻していたわ。エイステインはクラシック・ピアノを「学業」としては学んでいなかった。彼も私たちと同じく、ジャズを学んでいたの。

 

バンド名はエルトン・ジョンの“Rocket Man”の歌詞から引用されたそうですが、これは誰の発案ですか? 何かしらの意味は込められているのでしょうか。

これはトロンドと私のアイディアよ。その時、私たちは1曲だけデモをレコーディングしてね。ハイになって雪を探しに行くっていうクリスマス・ソングだったの。当時はしっくりきたのよね。

 

ハイアズアカイトはいわゆる「ロック・バンド」や「ジャズ・バンド」のフォーマットとはかけ離れていますが、その音楽にはとてつもないパワーと高揚感があります。ノルウェーの音楽シーン、もしくは海外でシンパシーを覚えるバンドはいるのでしょうか?

シンパシーを覚えるバンドがいるかどうかは、ちょっとわからないわ。だけどリスペクトして愛してるノルウェーのアーティストなら、たくさんいるわね。ヨナス・アラスカ(Jonas Alaska)、 スザンヌ・サンドフォー(Susanne Sundfør)、Kari Harneshaug、Mikhael Paskalev、プロヴィアント・オーディオ(Proviant Audio)、 ジェニー・フヴァル(Jenny Hval)、ハンネ・ヒュッケルバーグ(Hanne Hukkelberg)、インゲビョルグ・ブラットランド(Ingebjørg Bratland)……。いくつでも挙げられるわ!

 

あなたの母親は指揮者/シンガーだったそうですね。音楽家の道を歩む上で彼女から学んだことは何ですか?

私はただ歌うことに対して喜びを覚えただけよ。母は音楽を聴くこと、歌うことを楽しくさせてくれたの。クリエイティヴになることもそうだし、私に自信も与えてくれたわ。

 

敬愛するアーティストにメアリー・マーガレット・オハラ、ディアマンダ・ギャラス、PJハーヴェイ、そしてフィーバー・レイといった面々を挙げていますね。シンガーとして、ミュージシャンとして、彼女たちのどこに強く惹かれるのでしょうか?

彼女たちが作る音楽が好きなの。それだけよ。

 

ツィターは非常に演奏難易度の高い弦楽器だと言われています。いつ、どのようなきっかけでツィターを手にされたのですか?

ツィターが難易度の高い楽器だとは思わないわ。他にもたくさんあるでしょ? それか、私が間違った弾き方をしてるのかも(苦笑)。ツィターは私が子どもの頃からずっと家にあったんだけど、その素晴らしさには5年ほど前まで気づけずにいたわ。それからツィターを修理して、演奏し始めたの。

 

最新作『サイレント・トリートメント』の収録曲は、ほとんどが米ニューヨークのイサカとトルコ・イスタンブールで書き溜められたと聞きました。もともとソングライティングが目的でそれらの街に訪れたのですか? それとも、旅の過程で強くインスパイアされる出来事があったのでしょうか。

歌詞を書くためにイスタンブールまで行ったわ。ヨーロッパの都市の中でもちょっと異質な雰囲気を持つところに行ってみたかったから。東と西が混じり合うような中間地だから自分の故郷を思い出すんだけど、それと同時にちょっと不思議な感じもするの。英語が喋れる人があまりいなかったし、何千人も何万人もいる中で独りぼっちだったのよね。だから歌詞を考える時間は山ほどあったわ。あと、私をちょっぴり狂わせる時間も

 

リード・シングルの“Since Last Wednesday”を初めて聴いた時、あまりにも優しく美しいメロディーに、一瞬で恋に落ちました。《先週の水曜日》とは何かのメタファーなのでしょうか?

違うわ。サビの歌詞で《no one has seen or heard from him since last wednesday”(先週の水曜以来彼を見かけていない、彼について聞いてもいない》って歌ってるの。タイトルにするには長すぎたから、その最後のフレーズをタイトルにしたのよ。

 

我々日本人にとって、もっとも気になる曲が”Hiroshima”です。これはやはり、広島市への原子爆弾投下にインスパイアされたのでしょうか。この事実を、あなたはどのように知り、なぜ歌にしようと思ったのでしょうか?

みんなヒロシマのことは知ってるわ。「ヒロシマ」って口にすると、きっと大半の人は原爆のことを思い出すでしょ? 名前を発するだけでそのイメージが浮かび上がってくるの。だからこそ、ひとつの町としてヒロシマの描写を書き上げたかった。ただ歩き回るだけでも、すごく美しい場所なんだってことをね。けれど同時に、ヒロシマの原爆との関連性を踏まえた描写もきちんと書きたかったの。

 

『サイレント・トリートメント(Silent Treatment)』はマジックのひとつでもあり、「無視」という意味もありますね。あなた達がストレートに「反戦」や「世界平和」を歌おうとしているようには思えませんが、このアルバムにおいてもっとも表現したかったことは何ですか?

このアルバムに何か特別なメッセージがあるわけじゃないの。あればよかったと思うけどね(笑)。だけど、ないの。私の視点から見える世界を表現したかっただけよ。

 

6月には〈Hostess Club Weekender〉で初来日を果たしますね! 日本に訪れたら行きたい場所、やりたいことは何かありますか?

ライヴはもちろん、新しい人々に会えることがとても楽しみよ。初めての日本だから興奮を隠せないわ! あと、ショッピングには絶対行きたい!!

Highasakite (ハイアズアカイト)

ノルウェー出身の男女5人組バンド。12年に本国とデンマークでデビュー・アルバム『オール・ ザット・フローツ・ウィル・レイン』を発表。13年、EP「イン・アンド・アウト・オブ・ ウィークス」で世界デビュー。ノルウェー版グラミー賞において「最優秀新人賞」にノミネートさ れる。ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンが彼らのサウンドを大絶賛し、今世界から注 目を集める新人バンド。14年4月、世界デビュー・アルバム『サイレント・トリートメント』を 発表。ここ日本でも同アルバムが4/23にリリース。そして6月にはHostess Club Weekenderで初来日を果たす。

■リリース情報
HAKアーティスト名:Highasakite(ハイアズアカイト)
タイトル:Silent Treatment(サイレント・トリートメント)
発売日:2014/4/23(水)(海外発売:2014/3/4)
流通品番:HSE-60183
レーベル:Hostess Entertainment
価格:2,371円+税
*日本盤はボーナストラック、ライナーノーツ、歌詞対訳付 予定

<トラックリスト>
1. Lover, Where Do You Live?
2. Since Last Wednesday
3. Leaving No Traces
4. Hiroshima
5. My Only Crime
6. I, The Hand Grenade
7. Darth Vader
8. Iran
9. The Man On The Ferry
10. Science & Blood Tests
※ボーナストラック収録予定

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