昨年に続き俳優・女優、監督の部門全ての候補者が白人だったことで、式への欠席者が出たり、SNS上で「#OscarSoWhite」というハッシュタグが流行ったりするほど多方面から、その “人種の多様性の欠如”を批判された今年のオスカー(アカデミー賞)。もちろん、候補のリストに入ることなかったマイノリティは黒人だけではない。最近は映画『攻殻機動隊』のハリウッド実写版の主役にスカーレット・ヨハンソンが起用されたことに批判が集まったことも話題になったが、ハリウッドにおける「ホワイトウォッシュ(元が白人以外の役を白人が演じること)」が以前から問題になっているように、アジア系もまた、決して正当に扱われてきたとはいえないマイノリティだ。
このオスカーを一つの例にとり、ハリウッドにおけるホワイトウォッシュやアジア系の扱われ方全般、そしてアメリカにおけるアジア人やアジア系アメリカ人へのステレオタイプに、ユーモアを交えながら闘ったのが、ロサンゼルス在住の韓国系ラッパー、Dumbfoundead(本名:ジョナサン・パク)の新曲「Safe」だ。
After the last Academy Awards and the regular whitewashing of hollywood roles, i wrote this song out of frustration.
「今回のアカデミー賞やハリウッドの配役における慣例化したホワイトウォッシュを受けてのフラストレーションからこの曲を書いた」-
(DumbfoundeadのSoundcloudページから)
先日オスカーを見たけど、リストの中で唯一の黄色人種はオスカー像だったよ
俺ら(アジア系)は(世界の)人口の4分の1なのに、(オスカーでは)1%しか場所がない。
(「Safe」のヴァースより)
まず、そのリリック以前にKing KnobbyとHarley Macプロデュースによる洗練されたトラップ・ビートが耳を惹くし、そして、リリックの内容的に地声でラップしたくなかったのかボーカルをオートチューンによって加工することで一趣向加えたのもまた面白い(ここでのオートチューンといえば、元カノへの未練たらたらのリリックが恥ずかしかった(?)『808’s & Heartbreak』におけるカニエ・ウエストがリファレンスの一つとして挙げられるだろうか)。
何よりこの曲をネクスト・レベルへと押し上げているのが、先日公開されたミュージック・ビデオだ。パクの顔がハリウッドの人気映画や、アメリカの人気ドラマの役者の顔(レオナルド・ディカプリオ、ジョニー・デップ、ジャック・ニコルソン、ジョン・トラボルタなど…)に挿入される、という何ともユーモアに満ちた演出でこちらを楽しませてくれている。
『パルプ・フィクション』のジョン・トラボルタ演じるヴィンセント・ベガの顔に挿入されたパク
『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジョニー・デップ演じるジャック・スパロウの顔に挿入されたパク
Dumbfoundeadはアルゼンチンで韓国難民の子として生まれ3歳の時からLAのコリアンタウンで過ごしている。高校時代からフリースタイルで実力を上げ、アンダーグラウンドでの活躍に留まりながらもこれまで3枚のアルバムをリリースしてきたラッパーだ。
同じく韓国系のLA在住のラッパー/シンガーで、今年初頭にリリースしたアルバム『Malibu』で大ブレイク中のAnderson .Paak(名義は当時のBreezy Lovejoy)らとコラボしたり、昨年英米で大きく話題になり、またここ日本からもKOHHが参加し、アジア系ラッパーのヒップホップシーンにおける地位向上にも大きく貢献したKeith Apeのトラック「It G Ma」のリミックス版に参加したりとここ数年着実に実績を積んでいる。
Dumbfoundead自身も約3年ぶりとなるニュー・アルバムの発表に期待がかかるが、Anderson .Paakや今年初頭ミニ・アルバムをリリースしたDEAN(DΞΔN)(今年のSXSWではSPINによって「最高のオープニングアクト5組」の一組に選出された)など、アメリカ在住・非在住様々だが、やはり韓国系のアーティストの北米ヒップホップ・R&Bシーンでの活躍・接近が目覚ましい。
(Text By Daichi Yamamoto)