音楽を取り巻くテクノロジーは日々進化し、インターネットやSNSによる人や社会と音楽との関わり方も急速に変化し、音楽の未来は予想できない。そんな時代と音楽の関係性を敏感に捉えて、作品に落とし込み、新しい試みにチャレンジし続ける、サカナクション 山口一郎から見える2015年の音楽とこれからの音楽とは。
Red Bull Music Academy presents Lost In Karaoke「NF Room」終了直後の山口一郎に「VR(仮想現実)」「サブスクリプション」「ハイレゾ」という3つの時代のキーワードと共に、胸の内を語っていただいた。これはミュージシャン、リスナー、音楽に携わる全ての人への問題提起でもあると思う。
(Text By Kohei Nojima / Photo by Takazumi Hosaka)
-今回”Lost In Karaoke”という企画で、カラオケの一室でオーディエンスもスタッフや関係者のみという中で、DJをやってみていかがでしたか?
まず、カラオケって風営法としてはクリーンで、ここで歌って踊る分には法に引っかからないと。そういった場所でダンスミュージックをやるというのは、面白いなというか、盲点だったなというところがあります。また、上野のカラオケというオーバーグラウンドなビジネスが成り立っている場所の中で、アンダーグラウンドな音を鳴らすっていう違和感みたいなものもすごくあったし、Red Bullは先見の明があるなぁと思いました。また、そういった違和感が配信で世界のどこでも体験できるというのは素晴らしいことだなと思います。
(C) Suguru Saito / Red Bull Content Pool
VR(仮想現実)
ー世界に先駆けて実施された、NF Roomの360°パノラマライブストリーミングは体験してみていかがでしたか?
まだ、音がついてきていないというのはあったのですが、来年には音も360°体験できるようになると聞きました。画質もどんどん改善されていくと思うし、テクノロジーの進化によって音楽の楽しみ方も変化していくと思うんですけど、ひとつ変わらないなと思ったのは、実際その場にいるのと、カメラ越しに体験するのは、やはり違うなということです。今後、その違いみたいなものとの戦いになってくるんじゃないかなと思いました。
例えば、ライブになると立ち位置によって全然聴こえ方も見え方も違うけど、同じ場所で同じ時間を共有するというのはとても特別なコトです。逆にそれが家の中だけで完結する面白さもあるし、楽しみ方は全く違うものになるけど、それぞれが競い合って進化していくことが音楽シーンにとって大事なことだと思います。
テクノロジーというものは僕らが利用するものであって、利用される側にいると大変なことになる気がしていて、自分たちが求めるものをテクノロジーの進化によってこういう使い方ができるんじゃないかな?って探していくことが、こっち側の使命なんじゃないかなと思っています。
サブスクリプション
-今年が元年と言われている、サブスクリプションサービス(Apple MusicやLINE MUSIC、AWA等の定額聴き放題サービス)についてお伺いしたいと思います。
若いインディーズのアーティストと話すと、あそこに自分たちの曲がないともはや厳しいという意見が多いですが、セールスのあるアーティストの間では意見が二分化しています。メジャーレーベルに所属し、セールスもあるアーティストにとってどういう存在だと捉えていますか?
この間、僕も取材を受けたSWITCHという雑誌で、水曜日のカンパネラのコムアイさんの記事を読んで、若い人たちは音楽の聴かれ方が移行するなら早くして欲しいと思っていることがよく分かったし、僕もどちらかと言うとそれに賛同です。今の音楽ビジネスは団塊の世代の人たちが構築したシステムから、30歳を過ぎた団塊の世代ジュニアである僕たちが、新しいシステムを構築していく時代に来ている最中でサブスクリプションみたいなものが出てきているというのは、僕らにとってみればすごくチャンスで。CDが売れなくなってきたからこそ、新しいビジネス形態みたいなものを音楽で考えていかなければならないと思うし、「こんな時代の中でCDの価値を高めていくためにはどうしたらいいだろう?」って、僕らは色んなアイデアを出していかなきゃいけいないタイミングに来ています。
「原盤権ビジネスが壊れてきている中でCDを売るにはどうしたらいいだろう?」って考えた時にCDはやはりモノなので、モノとしての価値を高めていくしかなくて。僕らがNFを立ち上げたのは、そこにうまく着手しながら、クリエイターと一緒に音楽に関わる音楽以外のモノへの興味をどう持ってもらって、音楽の価値をどうやって高めていくか?ということに取り組むためでもあって。
サブスクリプションはまだ始まったばかりなので、コンテンツも少ないし、音楽の探し方も老若男女全員が理解できているかというとそうじゃないと思う。これから、もっと分かりやすくいい音楽を手に入れられるようになれば「難しくて理解できないものは面白く無い」と思われるのではなくて、「難しくて理解できないものほど面白い」と思う人が増えるような気がしています。それは素晴らしいと思うけど、そこでお金稼ぎのことを考えると…色々と難しい問題が出てくるのかなと。
僕らミュージシャンが考えることじゃないんだけど、自分たちが面白いと思うことをやりながら生活ができるという方法論があるハズだと思っています。
ハイレゾ
-それではもうひとつ今、音楽業界の中で旬なワードとして「ハイレゾ」があります。今年の3月に過去作である6枚のアルバムをハイレゾでリリースしましたが、ハイレゾについてはどう思いますか?
音質を求めるとういうのは日本人の性質上すごく重要なものだと思うし、ヨーロッパの配信サイトで一番高音質なものをダウンロードしているのは日本人だというデータもあるくらい、日本人には求められているものなのかなと思うけど、僕は音質を求める時に「データ量が多いから良い音」じゃなくて「自分の好きな音が良い音」と思っていて、それはカセットテープかもしれないし、MDかもしれない。「あなたが好きな音ってどんな音?」っていうことをこの機会に再提示する必要があるんじゃないかなと。
-ハイレゾとアナログレコードの同時期リリースにはそういった狙いもあったと?
そういうことです。本当はカセットテープでも出したいんですけど。ベルギーに行った時、ベルギーのレコード店って殆どカセットテープテープなんです。それって自然な流れだと思っていて、テープって劣化するんですよ。摩耗して、経年劣化するからその「尊さ」みたいなものってこれからの時代は重要だなって気がしていて。そういうことに気付くためにもハイレゾというものは存在すべきものだと思います。
音楽のこれから
-Spincoasterではハイレゾとアナログレコードが聴けるMusic Barを運営しています。お客さんは自分のアナログレコードを持ち込んだり、好きな音楽をリクエストしたりして、大きな音、良い音で音楽を楽しんでいます。この空間は山口さんが2年前のFuture Timesのインタビューで10年以内にできると予言していたものというか、あの記事が実現の後押しにもなっているのですが、今、山口さんが、音楽の未来に対して予想しているコトや、こういう楽しみ方があると良いなと思っているものはありますか?
楽しみ方とはちょっと違うんですけど、これからのライブってツアーの形が変わるかもしれないと思っています。劇団四季みたいなロングランのライブが各地であるといいなと。
例えば、「アリーナで何万人集めました!」みたいなスケール感ってフェスが存在した時点であまり価値の無いものになってしまっていると思っていて。一夜で何万人も集めるんじゃなくて、1ヶ月間千人規模の場所で毎日公演するとか、週末だけ開催するみたいな形態になれば、もっと演出にお金がかけられるし、もっとインスタレーション的なものとか、ワークショップ的なこととかライブへの体験がより深いものにできるんじゃないかなって思います。そういった形がこれから主流になるんじゃないかなと。そうなるとフェスとワンマンとの差異も大きくなっていくし、演出家の存在価値も上がってきて、音楽に関わる音楽以外の人やモノのスキルが問われることで、日本にもグラミー賞みたいなものができ上がってくるんじゃないかなって思っています。
-長期でやると空間も含め、コストを抑えながら色々なものが作り込めますよね。その考え方はNFの取り組みともつながっていますね。
本当にミュージシャン以外の職業に対して音楽シーンは全然評価がなされてなくて、それはすごく問題。例えばYouTubeの再生回数が上がったらそれは全部ミュージシャンの手柄になるでしょ? それは間違っていると思っていて。映像ディレクターの面白さとか、スタイリストやヘアメイクの技術とかも理解した上でリスナーは評価すべきだと思う。逆にダメなものには「音はいいのに、そこはダメだよね。」って言われるようにならないと。
ミュージシャン側としては(音楽以外の表現は)運になってくるから。そうなると今度はミュージシャンはクリエイターに好かれるものを作るようになってくるでしょ。そうなると今度は、音楽がどんどん広告化(目的を達成するための手段化)していくから。現にそういう状況になってきていると思う。作品がどんどん子供向けになっていっている。
もっとアーティスティックなものが評価されるために、音楽に関わる音楽以外のこともちゃんと評価がなされるような状況を作って行かなければならないと思っています。
-先ほど音楽の広告化という話がありましたが、今回のRed Bull Music Academyのように音楽業界以外の企業の支援やサポートも音楽が厳しい時代には必要になってくると思うのですが、企業と一緒になにかやっていくということに対して、アーティストとしてどう考えていますか?
僕はRed Bullはメディアだと思っているんですが、Red Bullのような企業と、音楽という文化にあまり触れてきたことのない人が重役にいる会社とではやり方が全然違う訳じゃないですか。僕は一緒に何かをやるとなった時は、志が一緒じゃないといけないと思っていて、志が一緒であればどんな企業であっても面白いことがやれると思う。音楽を利用しようとするんじゃなくて「音楽にもっと触れたい!」とか「音楽の力を借りたい!」っていう企業が増えてくれるといいですね。
-最後に、Spincoasterで紹介しているバンドや読者の中には、日本の音楽の未来を担うかもしれないような、若いアーティストがたくさんいます。彼らに期待していることや、何か伝えられることがあれば。
伝えるなんて、おこがましいですけど……。最近びっくりしたことがあって。フェスの会場で若いバンドの子たちに「どんな音楽を聴いてバンド始めたの?」って聞くと「フェスでなんとかを見て、」とか日本のバンドを聞いて音楽を始めたって言う子が多いんですね。僕らの世代は洋楽を聞いて始めた人たちが多かったんですよ。そこに自分たちとの大きな差を感じてしまって。フェスが与える影響の大きさを痛感しました。全部が純日本製になってくるのは、それはそれで面白いのかもしれないですけど、リスナーが求めるものがよりシビアになってくると思うんです。同じようなものの中の些細な差異が変化になってくるので、それ以外のものをどう聴いたらいいか分からなくなると思うんです。
フェスに対応する「浴びる音楽」をつくろうとするんじゃなくて、自分が好きだと思う音楽を見つける作業、音楽の探し方みたいなものを研究して音楽をつくっていく方が、これからの時代を生き残って行けるような気がするし、僕もそういう音楽を探しています。
でも、現状そういうミュージシャンが、どんどんインディーズになっていて、音楽を発信できる場所がフェス以外の場所になっていって、どんどん美しい音楽がアナーキーな存在になっていっている。そういう美しいものがアナーキーになっていくことって文化の衰退につながっていく気がするんです。で、それをなんとか救い上げなきゃいけないのがメディア側のハズなのに、メディア側からはそういう気配が見えなくて。それはフェスがビジネスとして成功しているから仕方のないことなんですけど。だからこそ、そことは違った場所をミュージシャン自らが作って行かなきゃいけないんじゃないかなと思っています。
山口一郎(サカナクション)
twitter | Instagram | BLOG
サカナクションWEB
SAKANAQUARIUM2015-2016 “NF Records launch tour”