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Interview / The Mirror Trap


「SNSは小さな箱の中だけで生きているような気がする。それって自由じゃないよね?」ーー今夏サマソニで初来日を果たすThe Mirror Trap インタビュー

2016.07.01

過去に2枚のアルバムと2枚のEPをリリースし、Placeboのツアーに帯同するなど、既に欧米を中心とした海の向こうでは地盤を築き上げつつあるスコットランド出身の5人組、The Mirror Trap(ザ・ミラートラップ)。

その見かけから最初はエモ、もしくはゴシックなバンドだと思う方もいるかもしれない。しかし、彼らのサウンドはその見かけとは裏腹に、どこか2000年代初期〜中盤のインディ・ロック勢、ちょうど”ガレージ・リバイバル”だとか”ニューウェーブ・リバイバル”といった言葉が蔓延した頃のバンドのようなソリッドなグルーヴ感を擁する。しかし、それでいながら、”インディ・ロック”と呼ぶにはいささかエモすぎるし、ゴシックと呼ぶには骨太過ぎる。さらにそこにポスト・パンク由来のヒネクレた構成や毒気までもが同居するというこの独創性の高さこそが、このバンドの魅力なのだろう。

今年の5月にリリースされた3作目となる新作『Simulations』でようやく日本盤デビューを飾った彼らは、その勢いのまま”Summer Sonic ’16″への出演、そして”SUMMERSONIC EXTRA”としてUKはブライトンの気鋭の4ピース・バンド、Black Honeyとの2マン公演が決定している。

そんな彼らが、初来日公演を前にプロモ来日という形で一足早く日本の地に降り立った。アコースティック編成でのインストア・ライブ、そしてDJイベントへの出演も挟むタイトなスケジュールの中、Gary ‘The Panther’ Moore(Vo.)、Michael ‘John’ McFarlane(Gt.)、Paul Markie(Gt.)というバンドのフロントに立つ3人にインタビューを敢行。バンドのこれまでの道のりや新作のことについて、様々な質問をぶつけてみた。

Interview & Photo by Spincoaster

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L→R:Paul Markie(Gt.)、Gary ‘The Panther’ Moore(Vo.)、Michael ‘John’ McFarlane(Gt.)


ー日本は初めてだと思いますが、どうでしょう? 楽しんでいますか?

Gary:素晴らしいね。童心に返ったように周りを見て驚いていたよ。ぼくたちはスコットランドのダンディー(Dundee)っていう小さな町の出身なんだけど、東京の建物は大きいし、街中が光っててすごい感動してる。

Paul:みんなの服装もクールだよね。みんなすごいファッション・センスがいいと思う。

Gary:そうそう。日本のみんながちょっとクール過ぎて、明日ライブをするのがとても緊張するよ(笑)。

ー明日のインストアライブはアコースティック編成で行いますが、今まで同様の編成でライブをやった経験はありますか?

Gary:先週ロシアのラジオで2曲だけビデオ・セッションをやったんだけど、観客の前でちゃんとやるのは実はこれが初めてなんだよね。いつものライブではたくさん動きを入れてパワフルにやっているんだけど、今回みたいなライブの時はどういう風に動けばいいかわからないから、すごく緊張してるよ。

Paul:ステージの上ではゲイリーはエンターテイナーみたいに動いてるからね(笑)。

ーこのアコースティックライブのための練習や準備は万全ですか?

Gary:もちろん! アコースティック・ライブでも静かな感じじゃなくて、ヘビーな感じのライブに仕上げてるから、楽しみにしていて欲しい。

ーThe Mirror Trapは地元の大学で音楽を学んでいる時に結成されたらしいですね。結成した当初の音楽性はどんな感じでしたか?

Michael:最初は今みたいなヘヴィーな音楽性ではなかったね。

Gary:なんていうか、まだ音楽性が定まっていなかったんだよね。なぜならみんなそれぞれ全く異なる音楽を聴いていたっていうのが大きくて。1人はポップな音楽を聴いていたり、片や他の1人はめちゃくちゃヘヴィーな音楽聴いてたり、そんな感じだったよ。でも、そんなバラバラな音楽的バックグラウンドをもっているメンバーで、なんとかバンドとして1つのサウンドを作り上げようとしていたんだ。

Paul:The Mirror Trapとしてのアイデンティティーは、ここ5、6年で形成されていったと思う。そう言った意味では今回のアルバム『Simulations』は2年かけて作ったし、みんなで「こんな音にしたい」って話し合いながら作った作品だから、今までで一番The Mirror Trapのサウンドが出てるはず。

ーThe Mirror Trapが徐々にヘヴィーな音へと向かって行ったのは、何が要因として挙げられると思いますか?

Gary:ぼくのボーカルのスタイルの変化が大きいかもしれない。自分の気持ちや日頃のフラストレーションを吐き出すために、徐々にシャウトする感じになってきたから、バンドのサウンドもそれに伴ってヘヴィーな音であったりノイジーなサウンドになってきたんだと思う。

Paul:あと、ゆったりした感じのメロディーを静かに演奏するより、より速い曲を爆音で演奏するほうが純粋に楽しいんだよね(笑)。

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ーなるほど。先ほどメンバー5人それぞれ音楽的バックグラウンドが異っていたとおっしゃっていましたが、各々の初めて買ったレコードを教えてもらえますか?

Paul:生涯で初めて買ったアルバムはEminemの『The Marshall Mathers LP』だね。

Gary:ぼくはBlurの『13』で、初めてライブ観たアーティストもBlurだったよ。

Michael:Pixiesの『Surfer Rosa & Come On Pilgrim』だね。

ー過去のインタビューの中で、バンド・メンバー全員共通して好きなバンドの一つにRadioheadが挙げられていましたが、この前リリースされた新作の『A Moon Shaped Pool』はどうでしたか?

Gary:ごめん、実はまだ聴いてないんだ。Radioheadのアルバムはいつもとてもハイレベルなモノだから、フィジカルでジックリ聴きたいと思って、ネットでのストリーミングなどにはまだ手をつけていないんだ。

Michael:ぼくはアルバムを1回通して聴いただけなんだけど、それだけでもわかるぐらいとても壮大な仕上がりになっているアルバムだよね。あと、作品全体を通して感じたのはドリーミーな世界観だったっていうことかな。

ー地元の大学で音楽の勉強をしていたとのことですが、具体的にどんなことを勉強していたのでしょうか?

Gary:マイケルとは同じ時期に同じ大学に通っていたんだけど、ぼくは特に詩を書いたりするクリエイティブな勉強をしていたんだ。

Michael:音楽にまつわるテクニカルなことや、ギターのスキルであったり色々なことを学んだよ。

Paul:ぼくはギターに関しては好きな曲を聴いたりTab譜を見たりしながら独学で学んだよ。時間はかかるけど、自由に学べる方がいいからね。今までに何回かギターレッスンを受けに行ったことがあるんだけど、すごくプレッシャーがかかるし、先生に間違いとかを指摘されることが嫌だったから、独学で学ぶことにしたんだ(笑)。

Michael:ぼくもポールと同じようにTab譜を見て練習したな。例えばNirvanaとかRed Hot Chili Peppersのような有名なバンドから練習していったんだ。

Gary:でも、一番熱心に音楽の勉強をしていたのはベースのBenかな。彼はぼくたちよりもっと詳しい音楽的な知識を学んでいて、そのおかげで曲作りの時とかにも「ここはこうした方がいい」とか指摘してくれるんだ。

ーMichaelの勉強していたテクニカルなことというのは、音響的なことですか?

Michael:サウンドエンジニアであったり、レコーディングの知識であったり、CubaseのようなDTMソフトの扱い方とかそういう専門的なことが全部含まれていたかな。それから演奏的なこともね。

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ーThe Mirror Trapは2009年の結成から7年ほど経ちますよね。同じメンバーでバンドを長く続ける秘訣のようなものがわかってきた頃なんじゃないでしょうか?

Gary:実は結成した当初は4人編成だったんだよね。だからぼくはベース兼ボーカルを担当していて。途中で現在のベーシストであるBenが加入して、The Mirror Trapが5人編成で再スタートしたんだ。

Paul:そうそう。2年前は時々キーボードとかパーカッションとかのサポート・メンバーを入れた6人体制でライブしていた時もあったよね。

Gary:バンドを長く続ける秘訣か……。う〜ん、他に友達があまりいなかったことかな(笑)。特に仲良かったのがバンド・メンバーの4人だったんだよね。

Paul:みんな同じ情熱をお互いに持っているし、だからこそお互い同じ時を過ごしたいんだ。たぶん、ぼくたちが本当にやりたいことや行きたい方向と食い違ったメンバーがもしいたら、半日としてもたないと思うよ(笑)。

Gary:そう、だから僕たちは互いに素直に意見を言い合うようにしているんだ。楽曲制作の時も「これは違うかな」とか素直に意見してくれるけど、そういうのは同じ方向性を持っているが故の、”良い思いやり”なんだよね。

ー長く活動している中で、喧嘩のようなことはないんでしょうか?

Gary:そんなにないけど、ベースのBenとドラムのPaulは結構口論してるかな。同じリズム隊だし、それぞれ本当に楽曲を良くしようと思っているからね。

ー今作『Simulations』はこれまでの中でおそらく最も攻撃的でアグレッシブなサウンドになった作品と言えると思います。こういった変化には何かキッカケや要因があるのでしょうか?

Gary:世界に対するフラストレーションが今回のアルバムのサウンドを形作ったのかなって思うよ。特に2016年は混乱していると思うんだ。

Paul:特に故郷の政治的なこととか、イギリスのことについて曲とか歌詞にしてみたんだ。「New Trance」という曲に関しては、スマートフォンで写真を撮って「これ見ろよ、すごいだろ!」とか言っている人たちに対して、それはあくまでも携帯やタブレットで切り取られた部分の世界であって、決してリアルなものではないっていう思いを描いている。

Michael:現代の生き方に対してのフラストレーションとか、投げかけだよね。

Gary:そうそう。ぼくたちの社会は街であったり食料が必要であるのと同じように、SNSのコミュニティーではみんな世界と繋がることを求めていて、それがまるで小さい箱の中だけで生きているような感じがする。それって自由じゃないよね?

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ー日本よりも欧米などの海外での方が顕著だと思いますが、現在では多くのオーディエンスがライブをスマホで撮影しながら観ているような環境も当たり前になっていますよね。

Gary:そうだね。そういうのを露骨に嫌うバンドやアーティストもいるよね。特にSavagesなんかはスマホで撮ることをやめてくれっていうステイトメントも出してたよね。でもぼくはそこまで気にしないかな。舞台の上では逆にパフォーマーとして撮られたいって思っちゃうね(笑)。

ー今作の製作中によく聴いていた作品などはありますか?

Gary:たくさん聴いていたよ。とくにポップ・ロックを聴いていたね。例えばJimmy Eat World、Ash、Weezer、Suedeとか。ぼくの場合はみんなが口を揃えて「名盤だね」って言うような、有名な作品を聴いていたかな。

Paul:ぼくはできるだけ新しいことをしているようなバンドを聴いていたんだ。特にギターに関して、他のギタリストとは何か異なることをしているような作品かな。それに刺激されて新しいリフが浮かんだり、作品を作る上でのいい刺激を受けるんだ。例えばRadioheadのJonny Greenwoodとか、Rage Against The MachineのTom Morelloみたいなギタリストがそうだよね。他のバンドとは明らかに違うことをしていて、未だに世界中から高く評価されている。そういうギタリストが関わっている作品を聴いていたな。あとはお気に入りのBloc Partyを毎週聴いて和んでいたよ(笑)。

Gary:ベースのBenはR.E.Mの作品をレコーディング中に聴いていたかな。

Michael:FugaziやManic Street Preachersとか聴いていたかな。あとはGang Of Fourだね。

ーPaulはBloc Partyがお好きなんですね。昨年リリースされた彼らの新作『HYMNS』は結構ダンス寄りの作品になっていましたけど、あれはどうでした?

Paul:うーん、最初は正直「なんだこれは!?」って思ったよ(笑)。でも、5回くらい聴いていたら少しずつ魅力を発見できてきて。でも昔みたいな感じの曲はなかったよね。前作の『Four』の時はまだメンバーが変わる前だったから、昔ながらのBloc Partyっぽさもあったよね。だけど今回のアルバムではリズム隊のメンバーが変わったことで、サウンド全体が変わったと思う。やっぱりどうしてもぼくは(1stアルバムの)『Silent Alarm』の時のようなインディーロックなサウンドに戻って欲しいなって思ってしまうんだよね。もちろん今回の作品も今は「良い作品だな」って素直に思うんだけど。昔の作品が好き過ぎて、どうしてもね(笑)。

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ーわかります(笑)。ちなみに、今回のレコーディングはタイで行われたらしいですね。なぜ遠く離れた地でレコーディングを?

Gary:ぼくたちのマネジメントをしている会社のオフィスがロンドンとタイのバンコクにあるんだ。それもあって「バンコクでレコーディングしないか?」っていうアイディアを出さてれて、2つ返事でOKしたんだ。場所を変えることで色々な刺激があるし、バンドとしてもまた違った成長ができると思ったからね。

ータイってロック的な文化があまり根付いていない感じがしますが、実際はどうでしたか?

Gary:そうだね、タイにはあまりロックっていう文化は根付いていなかったよ。スコットランドとタイでは本当に何もかも文化が違ったんだけど、逆に無人島に放り出されたみたいな環境で。他に邪魔するものもなく、レコーディングにとても集中することができたよ。だからかえってぼくたちにはいい環境だったといえるね。

ーじゃあ結構スタジオとホテルに缶詰みたいな1ヶ月だったのでしょうか?

Michael:そうだね、1ヶ月間同じ部屋で寝てたりしていたよ。ほとんどの時間バンドメンバーと一緒にいたね(笑)。

Paul:最初入った時に「うわ、めちゃくちゃ小さい」って思ったんだけど(笑)、機材とか設備はかなりしっかりしていたし、場所もよかった。プールが近くにあって泳ぎにも行ったりしたけど、あいにくモンスーンのシーズンで雨の日ばかりだったんだ(笑)。

Gary:ぼくたちがレコーディングしたスタジオはイギリスのAbbey Road Studioをベースに作られていたみたいなんだよね。

ー『Simulations』のアルバムのアートワークにはロゴのようなものが入っていますよね。あれはどういう意味が含まれているのでしょうか?

Gary:ぼくたちの友人の一人にデザイナーがいるんだけど、彼と話した時にテクノロジー的なものであって、同時にシンプルなものがいいって伝えたんだ。そしたら彼が、「Macのキーボードのコマンドキーのマークを、シンボル的な意味で使ってみるのは?」って提案してくれたんだ。そこに、George Orwellの小説『1984』のカバーに描かれていた顔を埋め込んで色々コラージュをした結果、今回のアルバムのジャケットになったんだよね。

■参考記事:George Orwell’s 1984: A Visual History via.Flavorwire

Paul:今回のアルバムのジャケットを見たときに、「これは誰なんだ?」とか、「これは何をイメージして作られたんだ?」とか、そういう風にちょっと思わせぶりにしたかったんだよね。サウンドだけじゃなく、見た目も注意深く見て欲しいんだ。

Michael:『1984』は何度も映画化されているんだけど、その映画からもすごいインスピレーションを受けたんだよね。今回のアルバムの中にもそれにインスパイアされて作った曲もあるんだ。

Gary:そう、彼の作品に影響受けたのもあって、今回のアルバムのジャケットにGeorge Orwellの作品を組みこんだんだ。

ー最後に、あなたたちは今夏に開催される”SUMMER SONIC ’16″への出演が決定していますが、そのサマソニへの意気込みを教えてもらえますか?

Gary:うーん……たくさんのお客さんが来てくれることを願うよ(笑)。あとはぼくらのライブを観て、踊ってくれたりダイブして楽しんでくれたら言うことなしだよね。

Michael:あと、終わったらパーティーしたいね(笑)。

Gary:もちろん。あと、個人的に観たいアーティストもいっぱい出るみたいだから、そっちも楽しみにしたい(笑)。Radioheadは絶対観たいし、他にもSuedeやUnderworld、Weezerは観たいな。あとThe 1975も。

Michael:そうだね。日本のバンドはあまり知らないから、新しくお気に入りのバンドを見つけたい。イギリスでBo Ningenを観てすごくカッコ良かったから、他にいい日本のバンドがいないか探しに行きたいよ。

ーそういえばサマソニ本編の前に、”SUMMERSONIC EXTRA”という形でBlack Honeyとの2マン・ライブも決まりましたね。

Michael:イエス! 実はまだ彼らの音源をちゃんと聴いたことはないんだけど(笑)、これから予習するつもりだよ! すごく楽しみだね!

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【イベント情報】

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“SUMMER SONIC EXTRA THE MIRROR TRAP / BLACK HONEY”
日程:2016/8/19(金)
場所:東京・原宿ASTRO HALL OPEN 18:00 / START 19:00
詳細:http://www.creativeman.co.jp/artist/2016/08mirrorblack/

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“SUMMER SONIC 2016”
日程:2016年8月20、21日
場所:QVCマリンフィールド&幕張メッセ(東京公演)、舞洲サマーソニック大阪特設会場(大阪公演)
Official Site:http://www.summersonic.com/2016/

※The Mirror Trapの出演は21日東京公演のみ。


【リリース情報】

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The Mirror Trap 『Simulations』
Release Date:2016.05.18 (Wed)
Label:Vinyl Junkie Recordings
Cat.No.:VJR-3193
Price:¥2,267
Tracklist:
01. Under The Glass Towers
02. New Trance
03. No ID
04. Something About Forever
05. Piranhas
06. Joyride
07. Second Life
08. Muscle Memory
09. Elixir
10. Bleach Your Bones
11. Mt Olympus(日本盤ボーナストラック)
12. Processed Air(日本盤ボーナストラック)
13. All or Nothing(日本盤ボーナストラック)


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