Interview

MMOTHS

「自分で音楽を作り始めた時は、これがエレクトロニック・ミュージックだっていう認識をしていなかった」ーー若き孤高の音楽家、MMOTHS

アイルランドを拠点に活動するプロデューサー、MMOTHSことJack Colleranはまだ23歳の早熟な音楽家だ。
弱冠18歳でデビューし、リリースした2枚のEPがチルウェイブ以降のエレクトロ・シーンで大きな評価を得て、その後あのAphex TwinやThe xxの前座を務めたという異色の経歴の持ち主である。
今年3月にリリースした待望のフル・アルバム『Luneworks』は、前述のEP以上に幻想的・逃避的で、シンセやストリングスの轟音はシューゲイザーに匹敵するほどであり、まさに「進化」というより「深化」を遂げた1枚と呼ぶのに相応しいだろう。

5月末に代官山UNITにて深夜に行われた一夜限りの来日公演では、サポートのギタリストを従えた二人体制で行われ、MCや挨拶は一切なく、ひたすらストイックに演奏が展開。ステージ上に焚かれたスモークと照明に、シンセサイザーとギターが織り成す轟音やノイズが加えられるそのパフォーマンスは、視覚的にも聴覚的にもまさに観客をクラブから森の奥深くへとトリップさせるようだった。
また、深いリバーブのかかった、”歌”というよりも楽器の一部として取り入れているかのような自身のボーカルや、鍵盤を前にしたその佇まいは、確かにあのJames Blakeを彷彿とさせるモノがあった。

今回、一夜限りの貴重な来日公演前に敢行したインタビューでは、彼自身の職人気質なアーティストとしてのこだわりをはじめ、アルバムのことから近年の音楽シーンについてまで、様々なことを語ってくれた。

Interview by Hiroki Toyama
Photo by Takazumi Hosaka

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―まず、とても初歩的な質問になってしまうのですが、あなたのアーティスト名であるMMOTHSの読み方は、「モス」で合っているのでしょうか? また、これには何か由来があるのでしょうか?

そうだね。普通に「モス」だけで合ってるよ。前は普通にMOTHSっていう名前で活動していたんだけど、似た名前のアーティストに訴えられそうになったから、頭にもうひとつ「M」を付けたんだよね。由来に関しては何もおもしろい話はないな(笑)。
ただ、小さい頃から自分の頭の中で印象に残っていた言葉ってだけだよ。

―あなたの音楽との出会い、そしてトラックメイクを始めるきっかけを教えてください。

もともと4歳のときからピアノをやっていて、10代のころは普通にバンドで演奏をしていたんだ。トラックを作り始めたのは、PCの作曲ソフトを触るようになったのがキッカケだね。それが17歳くらいの頃かな。

―トラックメイキングにおいて影響を受けたアーティストなどはいますか?

もともと自分で音楽を作り始めた時は、これがエレクトロニック・ミュージックだっていう認識をしていなかったんだ。
周囲に聞かせるようになってから、「誰々っぽいね」と言われるようになって、Boards Of Canadaとか色々なアーティストを教えてもらったんだよ。そこからエレクトロへの理解を深めていった。だから、普通の人とは順序が逆なんだと思う。

―普段はどのような音楽を聴きますか?

実は普段は音楽自体あまり聴かないんだ。誰かのミックスとかは聴くこともあるけど、大体作業しながらとかだからね。聴くことよりも作っていることのほうが多いから、作業していないときは休憩したいんだよ。だから極力他の音を聴かないようにしているんだ。

―デビュー作『Luneworks』についてお訊きします。どういった経緯でフランスの名門レーベル〈Because Music〉と自身のレーベル〈OYAE〉とのジョイント・リリースという形になったのでしょうか?

向こうがアプローチしてくれたのは最終段階のところで、アルバム自体はとっくに仕上がってて、自分たちのレーベルから出そうと決めてたんだ。でも、〈Because Music〉の人たちと会った時に、自分たちのやりたいことや実現したいことに対して深い理解を示してくれたから、「じゃあ、一緒にやろう」ということになったんだ。

―では、作品自体はセルフ・プロデュースになるのでしょうか?

そうだね。
 
―本作を制作するにあたって、なにかテーマやコンセプトのようなモノはありましたか?

人によっては元々テーマを決めて制作する人もいると思うんだけど、ぼくにとってそういう方法っていうのは、自分自身をとても制限してしまう行為のように思えるんだ。だから曲をとりあえずたくさん書いて、その中から共通する流れを見つけていって自然に作り上げていくっていう感じかな。最初からテーマとかは特に決めてなかったね。

―楽曲単体の中には、それぞれ何かメッセージや喜怒哀楽といった感情を込めていますか?

一曲一曲というよりはアルバム全体を通して感じてもらいたいモノがあるかな。作品として全体を作り上げるために繋げていった作業に費やした時間も多かったから、あまり一曲一曲で独立しているという感じではないね。

―過去の2枚のEPと比べて、シンセサイザーの歪みやノイズなどが強くなって、より幻想的になったように感じました。これまでの作品と、本作では制作環境の変化などはありましたか?

もともと最初のEPを作っていたときは、自分が何をやっているのか分かってない状況が多かったから、必然的にミニマルになっていったんだと思う。躊躇することも多くて、どうやっていいのか分かってなかったからね。そこから自分も成長する部分があって、例えば色々な楽器や機材を扱えるようになったり、色々な音の層を作るのにも慣れてきたから、より音の密度を濃くすることができたんだと思うよ。

―使用した機材でいうと、PCを通したソフトシンセが多かったのでしょうか? それとも実機のシンセサイザーですか?

最初の頃はソフトウェアしか使ってなかったけど、今ではハードも含めた様々な楽器を使用している。オルガンだとかシンセとか……今作ではツアー・メンバーでもあるJosh Marshalがギターを重ねてくれたりもしたしね。実際の楽器を多く使うようになったことも、より濃い音が作れたことに繋がってるんじゃないかな。

―今作はBoards Of CanadaやFenneszのような音響系の楽曲が多くを占める中で「Eva」という楽曲はビートも4つ打ちであなた自身のボーカルも入っていて意外に思いました。これはどういった意図で作られたのでしょうか?

あの曲はアルバムで最初に書き上げた曲なんだけど、他の曲とは違って一つの作曲作業で出来上がったものなんだ。他の曲は、ものによっては色々なデモから様々な要素を引っ張ってきて作ることが多いんだけどね。あの曲は最初にできたということで、もちろんアンビエントやノイズも入っているけど、アルバムの他の曲をどういう風に作るかという指針になった曲でもあるから、そういう意味では確かに少し違う流れになっていると思うよ。

―前作『Diaries』ではYoung & SickとHolly Mirandaという2組のアーティストをゲスト・ボーカルに招いていましたが、今作では自身のボーカルを取り入れていますよね。そのキッカケや理由があれば教えて下さい。

実は「Eva」のように分かりやすくはないけれど、アルバムに入っている他の曲もボーカルは全て自分が歌ったものなんだ。途中から作品自体が自分にとってパーソナルなモノになっていったというところで、他の人に参加してもらうというよりは、歌はそんなに上手くはないけれど、自分だけでやってみたいと思うようになったんだよね。

―アルバムの最後のトラックに「Naoko Part1」、「Naoko Part2」というものがあります。Naokoというのは日本人女性の名前ですが、これは何を意味しているのでしょうか?

アルバムの作業をしている時に、村上春樹の『ノルウェイの森』を読んでいて、その作品に出てくる登場人物の直子のキャラクターと、自分がこのアルバムで表現したかったこととの間に共鳴する部分を強く感じたんだ。それが理由だね。

―なるほど。村上春樹が好きなんですか?

アルバム制作中はまだ『ノルウェイの森』しか読んだことがなかったんだけど、その後で『アフターダーク』も読んだよ。読んでる最中に色々な感情を掻き立ててくれるような、他の芸術作品でも経験したことのないような感情にさせてくれる作家だと思うね。

―確かに村上春樹作品に顕著な、「幻想的・逃避的」なイメージはあなたの曲ともマッチしていると思います。

自分と村上春樹を比べることは到底及ばないけど、幻想的な作品から受け手がそれぞれ違った何かを発見するという構造は似ているのかもしれないね。

―『ノルウェイの森』の映画版のように、あなたの曲のMVには美しい自然が多く収められています。Instagramでも度々植物や風景の写真などをアップしてますよね。そういった自然の草花や風景からインスパイアされることは多いのでしょうか?

直接的に影響を受けたとは思わないかな。単純に美しいものに感銘を受けることはあるけれども、それについて曲を書こうといったことはないね。でも、そういった美しいものを吸収して、無意識の中で曲に反映されてる部分はあるんだと思う。振り返ってみたら、「これ(楽曲)とこれ(自然や風景)が繋がってたのかもしれない……」っていう感じでね。

―ではビジュアル面に対してのあなたのこだわりを教えて下さい。

映像的な部分は自分にとってもすごい大事で、そこにたくさんの時間を費やして作業をするということが多いね。どういう人と一緒に作業をするかという点でもすごいこだわりを持っているし、たぶん一緒に作業をする人からしたら、ぼくは気難しくてめんどくさい人になると思う(笑)。
自分の作った音がどういった形で映像になっていくのかという点ではすごいこだわりがあるし、これまで素晴らしいビジュアル・アーティストの方々と一緒に作業できたことに関してはとても恵まれていたことなんだなって思ってる。
今回のアルバムのMVも1つ自分で監督しているし、今ではより自分自身が(ビジュアル・ワークに)深く関わるようにもなったね。

―過去のライブ映像を観るとギターやドラムがサポートで入っていますが、こうした生楽器を導入するに至った経緯は?

自分が曲を作っている時にはライブでどうやるかは全く考えてないんだ。というのも、それを考え始めてしまったら曲自体が変わってしまうからなんだよね。
ぼくのライブは常に変化しているんだけど、実際できた曲をいざライブでどう演奏するかっていう話になったときに、全く別の解釈を生むという点において、生楽器を導入するということはとても意義があることだと思ってる。
今回ツアーについてきてくれたギタリストのJoshと2人でぼくの曲を表現する際、毎回全く異なった解釈が生まれるっていうことが重要であり、面白味のひとつなんだ。

―では、そのツアー・メンバーのJoshと出会った経緯を教えてください。

5年前くらいにぼくが最初のEPのリリース・パーティをやった時に、Joshはその会場のエンジニアとして働いてて、そこで仲良くなってから楽器で参加してくれるようになったんだ

―ライブについてこだわっているポイントは?

ぼく自身がライブ演奏をするのに慣れていない……というか自分自身は決してパフォーマーっていうタイプの人間ではないと思うから、そういった点による居心地の悪さみたいなものは未だに感じるんだ。
その負担を軽減する意味でも、ライブでは一種の激しさみたいな、客を圧倒させるような世界観を生み出そうというこだわりはある。ちょっとそれが過剰になり過ぎたときもあったから、最近では抑えめにしている部分もあるんだけどね。でも、常に自分自身にスポットライトが当たらないくらいの音像を作ろうとは思ってるよ。

―ご自身と同じようなラップトップを使ってライブをするようなアーティストのライブで、印象に残っているモノや衝撃を受けたモノはありますか?

最近見た中ではHolly Herndonだね。今はRadioheadの前座を務めてると思うんだけど、ラップトップのみですごいパフォーマンスをしていて、衝撃を受けたよ。

―最近の音楽シーンについてお訊きしたいのですが、日本では昨年、代官山Airという有名なクラブが閉店しました。ロンドンでもここ10年でクラブの数が半減したそうです。取締りの強化など理由は様々ですが、結果として若者のクラブ離れが顕著になっているように感じます。それについてはどう思われますか?

実際ぼくの故郷ダブリンでもクラブの数が減ってるんだ。ぼく自身はあまりクラブに行くような人間ではないから、直接影響を受けることはないけど、そういう場所が減るっていうのは寂しいよね。
でも逆に、音楽を求める人たちは絶えないと思うし、例えば倉庫で音楽をかけたりだとか、自宅でパーティをしたりだとか、そういったクラブの成り立ちというか、クラブというスペースが出来上がるにあたっての原点みたいなところに立ち戻ろうとする流れが生まれ始めているような気がするんだよね。だから、必ずしも全部が全部悪い方向に進んでいるっていう風には思わないんだよね。

―ライブハウスやクラブなどにはあまり行かれないんですね。

ライブはちょくちょく観に行くんだけど、ぼくはライブで音楽を体験したいというよりは、家でレコードをじっくり聴きたいタイプなんだ。おじいさんみたいだけどね(笑)。

―最近聴いたレコードなどで良いものはありましたか?

昨日BIG LOVE RECORDSでDean Bluntの『The Redeemer』を買ったから、それを聴くのが楽しみだよ。

―ここ数年でインターネットやSNSが急速に普及し、新しいジャンルは次々と生まれ、音楽が消費されるペースがどんどん早くなっていってるように感じます。そのことについて、また現在のクラブ・シーンについて思うことはありますか?

ネットの普及によって想像力のハイブリットが猛スピードで生まれるような環境が存在する反面、シーンの移り変わりがすごい短期になってしまって、本当に「消費」のように音楽が聴かれている傾向は見ていて寂しいものがあるよね。
僕もSoundCloudを使うんだけど、そうした楽曲も数年後には多くがそのサーバーからなくなってしまうかもしれないっていうことを考えると、「何のために音楽を作るんだろう?」とか、「そもそも音楽作品ってなんなんだろう?」っていうことを考えちゃうよね。
自分は幸運にもヴァイナルやCDで作品をリリースできる環境にあるけど、そうしたフィジカルの作品を残すことはとても大切なことだよね。だから、そういう環境が変わってきていることは残念に思う。

―最後の質問ですが、ご自身の今後のミュージシャンとしてのプランを教えてください。また、一緒に仕事をしたいミュージシャンやアーティストはいますか?

当面は、この次の2枚目のアルバムを作るのが目標だし、それにはしばらく時間がかかると思う。一緒にやりたいアーティストというのも、まず自分で何をやりたいのか把握してからだと思うから、今は全く考えてないね。

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MMOTHS 『Luneworks』
Release Date:2016.03.27
Label:Because Music / Wordandsound / ritmo calentito
Cat.No.:RTMCD-1183
Tracklist:
1. You
2. Deu
3. Phase In
4. Para Polaris
5. Verbena
6. Scent
7. Eva
8. Lucid
9. Body Studies
10. 1709
11. Phase Out
12. Ohm
13. Naoko Pt. 1
14. Naoko Pt. 2

ARTPL-029

MMOTHS 『Mmoths』
Release Date:2012.09.26
Label:PLANCHA
Cat.No.:ARTPL-029
Price:1,886yen + Tax
Tracklist:
01. THNX
02. Summer (feat. Superhumanoids)
03. If Only
04. Heart (feat. Keep Shelly In Athens)
05. Breaking Through
06. Blues*
07. Feel*
08. Folding*
09. Data Romance – Caves (MMOTHS remix) *

*=CDのみのボーナス・トラック

※正方形紙ジャケット仕様
※解説付き
※日本のみでCD化!

■商品詳細:http://www.artuniongroup.co.jp/plancha/top/releases/artpl-029/

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