FEATURE

Interview / Cullen Omori


「失われた週末」から再起の道へーSmith Westernsの元フロントマン、Cullen Omoriインタビュー

2016.03.18

2016年3月18日、Smith Westernsの元フロントマン、Cullen Omori(カレン・オオモリ)のソロ・デビュー・アルバム『New Msiery』がリリースされる。
みなさんはこのSmith Westernsというバンドのことを覚えているだろうか。青臭いティーンエイジ・ラブを歌ったファースト・アルバム『Smith Westerns』、ノスタルジーを爆発させ、一気にインディーズ界に名を知らしめたセカンド・アルバム『Dye it Blondie』、そして最後の作品でもある、成熟した甘さが漂う『Soft Will』。
シカゴから出てきてた若者たちのへろへろな演奏で歌う青春ソングは、青春の痛みを抱えたインディーキッズと大きく共鳴し、また、大人たちにはそれぞれの青春の痛切を思い出させた。
そして2014年にたった3作品だけを残し、突如儚く散ったSmith Westernsというバンドは、歴史に残るビッグ・バンドではないが、2010年代のインディー・ロック界に確かな痕跡を残したバンドであったと思う。

さて、そのフロントマンであったCullen Omoriが2015年になってソロ活動を発表した。10代のころからSmith Westernsで活動し、当時彼の人生の全てであったバンド解散と盟友であるギタリストのMax Kakacekとの決別から約2年。しばらく音楽活動から離れ、退廃的な生活をしていた(Cullenはそれを「失われた週末」と呼んでいる)ようだったが、この解散と決別を乗り越えて彼が辿り着いたのは、またもう一度音楽を作るという道だった。

一度絶望し、そしてその苦難を乗り越えた彼の創り出す至福なポップ・ミュージックを聴いていると、まるで天国にいるのではないかと錯覚してしまうほどだ。しかし、それと同時に青春の傷跡をえぐられるようで胸が苦しくもなる。
彼の作る甘くノスタルジックな音楽は、Smith Western時代とは変わらず、いやむしろ輝きは増したように思う。甘くて、切なくて、儚くて、キラキラした世界観には目眩がするほどくらくらする。
そして、何よりもCullen Omoriの存在感。カリスマでもヒーローでもないけれど、繊細で美しいその存在感が彼の作る世界観を更に魅力的にしているようだ。実際に私は19歳で彼の音楽と出会ってから、今までずっと魅了され続けている。

Interview & Text by aoi

Cullen Omori promo photo


ー私はSmith Westernsの大ファンで、2012年のアメリカツアーにも行っているぐらいなので、あなたが戻ってきてくれて嬉しいです! バンドを解散した後は何をやっていたのでしょうか?

バンドが解散してからしばらく、ぼくは消えることにしたんだ。ぼくはバンドに自分の人生を投資していたし、Smith Westernsにアイデンティティがあったから、これが終ってしまったとき、ぼくはどこから始めればいいのかわからなくなったんだ。
バンドは2014年の終わりに解散を公にしたけれど、実は2014年の1月にはもう事実上解散している状態だった。だからぼくは2014年のほとんどはシカゴで大人しくしてたし、「失われた週末」的な旅もしていたんだ。色々なバーで呑んだくれながら育ち、学生の時から10年近くいつも同じやつらと遊びながらロックンロール的な放蕩三昧を繰り返してきて、普通に働くことも知らない24歳の若者が、まさに何者でもない存在になることになったんだからね。
そこから新しい現実を対処するために、曲を書き始めた。それがぼくにできる唯一のことだったからね。そしてそれはぼくの人生で初めて1人で音楽を書いてみる経験だった。全て1人でやることで、急速にたくさんのことを学んだよ。文字通りレコーディングからも音楽それ自体からもね。

ーなぜバンドではなくソロ活動を選択したのでしょうか?

スタジオでレコーディングしているよりも前から新しいバンド名は何にしようか話し合っていたんだけど、自分の名前でやるのが自然だと思ったんだ。ぼくはアルバムが歓声する前に名前が必要ではあったんだけど、その時点では何か他の名前はどうもしっくり来なかったから、自分の名前を付ける形になったんだ。ぼくは”ソロ・アーティスト”という名称が嫌いなんだ。だってそれって「自分を見て!」っていうプライドの高い態度だと思うから。
でも、”バンド”って本当は1人の人が曲を書いていたりするんだよね、Tame Impalaのように。個人的にはバンドvsソロという比較はしたくない。ぼくは自分の名前をユニークだと思うからこの活動の名前には良いと思うだけで。ぼくの名前のCullenはアイリッシュで、Omoriは日本からきてる。すごいエキゾティックな名前だよね。

ーあなた自身も述べているように、Smith WestersというバンドはMaxとあなたのコラボレーションですよね。Cullen Omoriとしての活動とSmith Westernsは具体的に何が違いますか?

大きな違いはMaxの不在だね。Smith Westernsの時から音楽的にも歌詞的にもぼくが考えていて。ぼくがメインでコードやメロディー、歌詞を書いて、骨組みを作り、その骨組みをMaxがアレンジして肉付けしてくれていたんだ。

でもこのソロの活動は1人でアレンジまで手掛けなければいけなかった。『New Misery』を作り始めるまで、ぼくは自分自身でリード・ギターやベース、キーボード、シンセなどをレコーディングで演奏したことがなかったんだ。だから、今回は目を見張るような経験だったよ。ぼくのことをアシストしてくれる”テクニカル”なミュージシャンが必要だと考えていたけれど、ぼくの曲を更に肉付けしてくれるような人はぼく以外いないと思ったんだ。『New Misery』を作る上での懸念は、ぼくが影響を受けてきた全てのものを統合したような、Cullen Omoriにしかできない音楽を作りたかったということだね。

ーバック・バンドのメンバーとはどういった経緯で出会ったのでしょうか?

ギタリストのAdam Gilとは共通の友人を介して出会ったんだ。彼はこのバンドだけで演奏しているわけではないんだけれど、『New Misery』のオリジナルのデモをレコーディングするところから手伝ってくれて。彼はとても協力的であり、レコーディングで曲をどのように作っていくかも教えてくれた。ドラムのMathew RobertsとはSmith WesternsでMaxがプレイした最後のショウでドラマーとして参加してくれてたり、その後も時々会ってたね。Smith Westernsの最後の2公演、NYでの2014年の大晦日とシカゴではAdamがMaxの代わりに入ってMatがドラムを叩いたんだ。

ー『New Misery』は病院で働いたときの経験を基にしているそうですね。そうのようなダークな経験を、どのようにして多福感のあるノスタルジックなサウンドに落とし込んだのでしょうか?

確かに、ぼくは「失われた週末」の間にいくつかの病院で清掃の仕事をしたりはしたけれど、この経験が今作のベースになっているわけではないから、これは誤解だよ。2014年の経験が基になっているのかな。ぼくの音楽で重要なことは、ポップであるのと同時に、痛みを反映させていたり、シンセサイザーを使って作り上げたということ。なぜならぼくはこの奇妙でキャッチーなポップソングに、ダークな音景を塗り重ねたかったから。

ープロデューサーはShane Stonebackですが、彼との仕事はどうでしたか?

素晴らしい経験だったね。Sheneは友達のCultsのRyanから推薦してもらったんだけど、Shaneとぼくはすぐに打ち解けたよ。 彼は『New Misery』を作るに当たってのヴァイブスや世界観を考え、広げてくれる助けになった。他のプロデューサーたちのように、彼自身のサウンドをぼくの曲に強制することはしなかったし、むしろぼくの曲自身がもつ魅力をさらに伸ばしてくれるようだった。

ー「Cinnamon」についてですが、この曲を聴き、歌詞を読んだときに、このタイトルはまさにこのコンセプトを表現していると感じました、シナモンというスパイスは香りは甘いけれど、実は苦い味をしています。実際のところ、この曲のコンセプトは何なのでしょうか?

ぼくは、最初にこの曲の1フレーズ、「taste like sin, cinnamon(罪のような味、シナモン)」を書いたとき、そこからこの曲の歌詞の全貌が見えてきたんだ。ぼくにとってこの曲は、ありきたりなダークな言葉からインスパイアされた陳腐な歌詞だった。この曲は自身への非難であり、自己認識なんだ。
もしもう一つ他の設定があるとしたら、物質としてのシナモンとシナモンを味わう前後での感情としてのシナモンがあるということかな。

ーAbigail Briley Beanが監督した「Cinamon」のMVが大好きです。なぜこのビデオの中でSmith Westernsのポスターを燃やしているんですか?(笑)

あれはジョークだよ(笑)。ぼくはしばらくインディ・メディアを気にしていなかったから、彼らがジョークでも深読みすることを忘れてたよ。ぼくは映画のように、過激な演出をしたら面白いと思ったんだ。みんなぼくがSmith Westernsを解散させて、このバンドのことを憎んでいると言うんだけど、もちろんそんなことはないよ。このMVでの演出はただの演技なだけだよ。ぼくは”Axl Rose(Guns N’RosesのVo.)が自身のソロシングル第一弾を低予算でやった感じ”にしたかっただけだよ(笑)。

ーアルバムの表題曲である「New Misery」は美しいアコースティックの曲です、なぜこの曲を最後に置いたのでしょうか?

ぼくは「New Misery」をこのアルバムの行動指針のようなものとして考えていたから、この曲でアルバムを終らせたいと思ったんだ。ぼくはこのアルバムのタイトルを付ける前に「New Msiery」を書いていたんだけど、なんとなく(アルバム・タイトルに)しっくりきたんだよね。これは、Smith Westernでのギターを弾いていた頃のぼくと、シンセサイザーを演奏している今の自分をミックスした曲だと思う。

ーアルバムのアートワークについてお伺いします。『Dye it Blonde』では花、『Soft Will』では果物、そして『New Misery』では苗がジャケットに使われています。この3作品には植物という共通点がありますが、反対に今作『New Misery』はヴィヴィッドな赤が使われていて、青春やノスタルジーを彷彿するあなたの音楽性とは真逆に思います。今作のアートワークはどういったコンセプトでしょうか?

ぼくは以前から小さなポートレート写真に興味があったんだけど、それがこのプロジェクトにとってピッタリなコンセプトだと思ったんだ。正直に言うと君が指摘したような繫がりは考えていなかったけど、よく考えると一つのスレッドになっていたのかもしれない。Sith Westensのカバーは全て同じJaason Leeというアーティストが手掛けていたんだけど、『New Misery』はぼくのガールフレンドであるAlexa Lopezが手掛けているんだ。アルバムの内側のカバーはOmori家の家紋のデザインを使ってぼくがデザインをしたんだ。

ーあなたはBritney Spearsのような”ポップスター”が好きだと公言していますが、最近の”ポップスター”も好きですか? インディーロックをプレイするあなたにとって、”ポップ”とはどのように定義されるべきものなのでしょうか?

HOT100に登場するようなポップスターが好きなんだよね! 一部の例外ーーAriana Grandeとかを除いてさ。Rihannaは大好きだよ! ぼくにとってのポップは、とても身近でどこでも手に入れることができる音楽という認識なんだ。みんなが楽しめる、繋がれる音楽が、ポップだね。

ーすでにアメリカツアーが始まっているようですが、感触はどうでしょうか。日本にくることも考えていますか?

ツアーは良いけれど、やっぱりSmith Westernsのときとは明らかに違うね。
もし日本でショーができて、呼んでくれるのであれば、今すぐにでも行きたいね。2011年のSummer Sonicで演奏したのは素晴らしい経験だったけれど、たったの3日間という短い滞在だったんだ。ぼくの人生で日系アメリカ人であるということは大きなウェイトを占めているわけだから、日本に行くことは素晴らしいことだと思っているよ!
ぼくの言ったこと、安っぽく聞こえないと良いな。

ーアメリカのインディーシーンはどうでしょう。気に入っているアーティストはいますか?

LAのFatal Jamzが最近気に入っているね。彼はLAメタルにおいて新しい方向性でアプローチをしていて、陳腐な言い方かもしれないけど、本当に”ポスト・ポスト・モダン”っていう感じで大好きなんだ! みんなチェックすべきだよ!

ー2016年はどのような年にしたいですか?

マジックのような年にしたいね! ぼくの大きな野望が現実になって、誰かの心をつかんで、チャートでも上位にいきたいな!


Cullen_Cover_FINAL

Cullen Omori『New Misery』
Release Date:2016.3/18
Label:TRAFFIC / SUB POP
Cat. No.:TRCP-191
Price:¥2,100(+Tax)
Tracklist:
01 No Big Deal
02 Two Kinds
03 Hey Girl
04 And Yet the World Still Turns
05 Cinnamon
06 Poison Dart
07 Sour Silk
08 Synthetic Romance
09 Be a Man
10 LOM
11 New Misery
+Bonus Track


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