INTERVIEW

ANIMAL HACK

テーマは「思春期の葛藤」――予期せぬ写真からスタートしたという新作EPに込められた想い、そしてANIMAL HACKの今後のヴィジョンとは

昨年の4月に1stシングルとなる『Keep Shakin』を〈術ノ穴〉からリリースし、同年9月にセルフ・タイトルとなるEP『ANIMAL HACK』をリリース。
数々のクラブイベントに出演し瞬く間に東京のクラブ・シーンに名前を定着させた新世代エレクトロニック・プロデューサー・デュオ、ANIMAL HACK(アニマル・ハック)。
さらに今年の5月24日(水)には2nd EP『Boy』をリリース。1st EPが名刺代わり的な作品だったとするならば、今作はこれからのANIMAL HACKのポテンシャルを十二分に提示する作品だと言っていいだろう。

先鋭的なクラブ・ミュージックの要素を下敷きにした、ビッグ・フェスで鳴っているかのようなスケール感に加え、キャッチーなメロディや楽曲展開からは、ロックやポップスといった彼らのルーツが垣間見えるようだ。
自らがこれまでにインプットしてきた様々な要素を最新鋭のダンス・ミュージックと組み合わせ、昇華させている様は、まさしく新世代的な感性だと言えるだろう。

そんなクラブ・シーンに突如現れた彼らは一体どこからやってきたのか。クラブ・シーンの中でも一際異質な存在感を放つ彼らは、どのようにしてダンス・ミュージックと出会い、自身のアイデンティティを確立してきたのか。各々のこれまでの活動や彼らのルーツを探っていくうちに見てきたのは、彼らのサウンドに秘められた、壮大なヴィジョンであった。

Interview by Yuma Yamada
Photo by Kisshomaru Shimamura


―まず、2nd EP『Boy』がリリースされて数日経ちましたが、反応などはどうですか?

Masato:まず最初に耳にしてくれていた関係者や、作り手中心にはいい反応が得られてるなって感じです。前作と比較しても、今回は音だけでなくテーマ性やヴィジュアル、アートワークからタイトルなど文字周りまでかなりこだわり抜いたので、そこは大分違うかなと。続いてSNSなどバイラルで少しずつ音が広がっていっているという印象を受けています。

—資料には「ダンス・ミュージックという文化背景の違いを軽々飛び越える強度の高いフォーマットに魅せられ、ジャンルや時代にとらわれない様々な手法を用いた作品制作を行う」とありますが、そのような現在のスタイルに行き着くまでにはどのような楽曲を制作していたのでしょうか?

Masato:僕は最初日本語の歌モノのギター・ロック・バンドをやっていて、そこから英語詞の楽曲を宅録で少し作るようになり。大元にはより多くの人に届くフォーマットは何かということを常に考えていて、色々なスタイルに興味を持つようになりつつも、そこからしばらく音楽制作から離れていたんです。そんな時、高校の友達であるYutaくんと久しぶりに会ったんですけど、そしたら彼がラッパーになろうと思ってトラックも自分で作っていたみたいで。あんまり聴かせる相手もいないってことで、僕に聴かせてくれて。一応僕も音楽をやっていたってこともあって、添削じゃないですけど、意見を聞かせて欲しいみたいな感じで。そういうやりとりを続けていくうちに、一緒になんかやってみようよっていう話になりました。なので、遍歴としては日本語ギター・ロック、英詩のインディ・ポップ的なやつをちょこちょこ。そこから今のスタイル、っていう感じですね。

Yuta:僕はANIMAL HACKの前まではそんなに真面目に音楽をやっていなくて。中学校からギターを始めて、友達とバンドを遊び程度でやってるぐらいでした。そこからANIMAL HACKを始める半年ぐらい前なんですけど、「ラッパーになりたい」って思うようになったんですよね。だけど、誰からトラックを提供してもらえるかとかも全然わからなかったので、それだったら自分で作っちゃおうっていう風に始めたのが音楽制作を始めたキッカケですね。

—では、おふたりとも楽曲制作のスタートはDTMなんですね。

Masato:僕はバンド時代にも作曲はしていたんですけど、Yutaくんの場合はそうみたいですね。のめりこんだ最初の楽器がパソコン、みたいな(笑)。

―Yutaさんがラップを始めたいと思ったのは、なぜなのでしょうか?

Yuta:元々はトラックメイクよりも歌うことに興味があって、その中の選択肢として自分が得意だったラップを選んだっていうのがあります。あとはソロで活動するとしたら、ギターだけとヒップホップのトラックだと表現できる音の量とか質が違うなっていうのがあって、自分のやりたい音楽に適したフォーマットだと思ったのがラップやヒップホップだったんです。

—では、楽曲を作る以前からのそれぞれの音楽遍歴など教えていただけますか?

Masato:まず最初は日本語詞の歌ものギター・ロックにハマって。そこからそういう人たちがバック・グラウンドにしている洋楽に行き着き、そういった音楽を中心に聴くうちに、もっとコアというか、ニッチな洋楽インディ・ポップなどに辿り着き。さらに色々聴いていくうちに、MadeonとPassion Pitが一緒にやった「Pay No Mind」に出会って、「なんだこれ!」みたいな衝撃を受けて。
Madeonとかパソコン一つで作った楽曲なのに大きな世界が描かれていて、かつ音圧や仕上がりも生演奏では実現できないような楽曲にすごい魅了されて。あと、言語や国籍の壁を越えて大型フェスなどひとつの場所で同時により多くの人を躍らせることができる、ダンス・ミュージックというフォーマット自体への可能性も感じたんです。それまでは打ち込みとかもちゃんとやったことがなかったんですけど、そこからダンス・ミュージックをちゃんと作ってみたいって思うようになりました。なので、ちゃんと(ダンス・ミュージックを)聴くようになったのはちょうどここ1年半ぐらいで。それまではそういった音楽は全然聴いていなかったんです。

Yuta:僕は小学校高学年ぐらいに……マンガの『ジョジョの奇妙な物語』ってありますよね。あのマンガに出てくるキャラクター名って海外のバンドとかアーティストをモジッているじゃないですか。なので、それがキッカケで洋楽を聴くようになって。中学生の時は割りと王道なOasisとかGreen Dayとか、UKロックやメロコアとかを聴いていたんですけど、高校に入ってからはAphex TwinとかJames Brakeといったエレクトロニックな音楽も聴くようになっていきましたね。そこから彼(Masato)が大学でバンド活動を始めてからは、彼のバンド関連の音楽とかも聴くようになっていって。

Masato:いわゆる日本語ギター・ロックだよね。

Yuta:そうだね。ART-SCHOOLとかね。それまではずっと洋楽を聴いてきたんですけど、大学に入ってからそうやってだんだん日本語ロックに寄っていって。その後にラップをやりたいって思うようになってからヒップホップとかも聴き出して。なので、自分もANIMAL HACKを始めるまではダンス・ミュージックはそこまでちゃんと聴いてなかったんですよね。

―ということは、現在のANIMAL HACKに影響を与えた存在という意味では、先述のMadeonやPorter RobinsonといったいわゆるEDM系のアクトの影響が大きい?

Masato:僕はそうですね。ふたりで集まって一緒に何やろうかって話してた時に、最初はスタジオに一緒に入ってYutaくんが打ち込んだビートに、僕がギターでジャカジャカやって合わせたりしたんですけど、「何がやりたいのか全然わからないね」ってなって(笑)。
そこから、当時既にEDMみたいなダンス・ミュージックは海外ですごい大きなムーブメントになっていましたし、国内でもマーケットが育ってきているのが実感できていたので、すごいチャンスのある領域だろうっていう思いと、元々好きだったっていうのもあって、その方向に舵を切ることにしました。

—ANIMAL HACKとしては〈OMOIDE LABEL〉から『TIME EP』でデビューし、その後〈術ノ穴〉に所属してシングル『Keep Shakin』と『ANIMAL HACK EP』をリリースしますよね。それまでかなりスピード感のある活動だったと思うのですが、『ANIMAL HACK EP』を出した時点までで、活動の手応えはどのように感じていましたか?

Masato:手応えというか、いいなって思ったところは、SpotifyにUPした時に海外のプレイリストにいくつか入れてもらったんです。そこから一気に再生数や月間リスナー数とかがグンと伸びて。SNSとかでも海外の人とかが言及してくれたりして、その時に割と日本とか海外とか関係なく通用するのかもしれないっていう小さな手応えは感じましたね。

Yuta:イベントに出た時に、海外から来たお客さんの方とかが「Spotifyでこの曲聴いたぜ」って声かけてくれたりして。元々海外で通用する音楽を作りたいっていう想いはずっと頭にあったので、それはすごく嬉しかったですね。

Masato:「もしかしていけるのでは?」みたいなね(笑)。だから、(自分たちの音楽の)フォーマットとしての可能性と、ストリーミング・サービスでの広がりのチャンスっていうものはすごくあるんだなっていうのは感じました。

―では、今回のEPの話に移りたいと思います。まず今回のEPは先に曲がストックしてあったものをパッケージングして出したものなのでしょうか? それともEPに合わせて楽曲の制作を始めたのでしょうか?

Masato:ストックとして曲は先にありました。その中でちゃんと自分たちのカラーを強く出せるようなパッケージングをしようってことで、その中から曲を厳選していって。タイトルとかも実は仮決めのものがいっぱいあって、曲が揃ったタイミングで改めて全部のタイトルを付け直しました。

―楽曲を選定していく上では、どのようなことをテーマに?

Masato:話が遡るんですけど、実は今回のEPの中身がシッカリと固める前にアーティスト写真の撮影があって。今回のジャケットとアーティスト写真をお願いした写真家の嶌村吉祥丸さんと打ち合わせをしていく中で、自分たちの馴染みのある場所で撮りましょうってなって、僕らの高校のある横須賀で撮影をしたんです。そこで撮影をしていたら、今回のジャケット写真にもなった少年が頭をもたげてるような写真がたまたま撮れて。少年っていうかYuta君なんですけど(笑)。
その、本当に遊び心で生まれた写真からググッとテーマが湧いてきて。僕らは昔から割とよく一緒に音楽を聴いたりしていた友達だったので、高校時代の思春期の葛藤とか、そういう若い頃の想いみたいなものとか、そういうところを押し出せるようにしようって。1曲目の「Frany」はお互いに共通して読んでた『フラニーとゾーイー(原題:Franny and Zooey)』っていJ・D・サリンジャーの小説から取っていたり、「(500)days of Inosence」もふたりが共通して大好きな映画『(500)日のサマー(原題:(500) Days of Summer)』からつけていて。
流れとしては、写真発信で今作のテーマができて、それに紐付いた一貫した文字表現になるようにタイトルをつけていきました。ダンス・ミュージックだとあまり歌詞とかがない分、タイトルとかでしか文字でメッセージを伝えられるところがない。だから、タイトルから僕たちのバックグラウンドに気づいてもらい、何らかの興味やシンパシーを持つキッカケになればと思い、慎重に言葉を選びました。

—ちなみに、そのアーティスト写真も前作の頃とはかなり雰囲気が変わりましたよね。前作の頃はまだ方向性を探っていた時期だったのでしょうか?

Masato:最初はそうですね。曲がある程度できてきたっていう状態で、改めて「自分たちをこういう風に見せていきたい」っていうところがそんなに強く定まってなかった。別に普段からサングラスとかかけてないですし(笑)。
そういう時期を経て、もっとしっかり考えなくちゃなってなった時に、いわゆるダンス・ミュージックを作ってる人たちがあまりやっていない見せ方でパッケージングしていくべきだなって。そういう見せ方をするために誰と組むべきかって考えたときに、嶌村吉祥丸さんは考えさせる写真というか、思想を背景に感じさせる写真表現にすごく卓越しているなって思っていたので、この人にお願いするしかないなって。

―曲のタイトルの由来をもう少し詳しく教えてもらえますか?

Yuta:「Franny」はさっきも言ったサリンジャーの小説が由来で。思春期の葛藤とはまたちょっと違う話なんですけど、精神の葛藤、哲学的な思想が書いてあるもので、今回のアルバムのテーマにも通ずるっていうことで名付けました。

Masato:僕たちは歌メロとかは既存の素材をカットアップして使っているんですが、「Moment」はその声素材から着想を得たもので。「Live this Moment」っていうこの瞬間を大事にするみたいな歌詞が気に入ったんです。「この瞬間を大事にする」っていう言葉は、青春っぽいんじゃないかと。
最後の「Reverie」は、ドビュッシーの「夢想(原題:Reverie)」っていう曲の質感とか音色の感覚とかがすごく好きで、それを現行のダンス・ミュージックで表現したらどうなるのかっていうアイディアから生まれた曲なんです。なので、そのまんまそれをタイトルに持ってきたっていうのと、あと、10代の頃って夢想しがちじゃないですか、そこもテーマに合っているなと思って。だから、1曲目の「Franny」で自分と世の中の折り合いに葛藤しつつ、2曲目の「Moment」でこの瞬間を大事にすることに気づき、3曲目の「(500)days of Inosence」で『(500)日のサマー』のような恋愛のほろ苦さも味わい、そして最後には4曲目の「Reverie」で未来を思い描き夢想するっていう(笑)。

—『ANIMAL HACK EP』ではAMUNOA、そして今回のEPではNor、SEKITOVAがリミキサーとして起用されています。お三方ともインターネットを中心に頭角を表した若い世代のトラックメイカーですが、彼らにリミックスをお願いした理由は?

Masato:まず、AMUNOAさんはYuta君の強い推薦で。

Yuta:インターネット感とか、インターネット世代みたいなことを強く意識して選んだわけではなくて、単純にその音楽が好きなひとたちにお声がけしていて。AMUNOAさんの曲も以前からずっと好きで聴いていて、彼が自分たちの作った曲をリミックスしたらどういう風になるのか、単純に聴いてみたかったんですよね。特にAMUNOAさんはエレクトロニック・ミュージックっていう言葉だけでは片付けられない音使いポップ・センスがすごいなって思っていて。

Masato:「Blow (AMUNOA Remix)」は全然原曲と違う形になっていて、ドロップに金属叩いてるみたいな音も入ってて、いい意味でビビりましたね(笑)。

—では今作『Boy』のリミキサーについてはどうでしょうか。

Masato:まずNorさんなんですけど、彼とは一回共演したことがあったのと、banvoxさんとのコラボ曲「Flux」がめちゃくちゃカッコよくて。曲の中に彼独特の若さとちょっとした可愛さみたいなのがあって、リミックスお願いする前から間違いなくいいものになるだろうなって確信してました。「Franny」は割りとハード目なシンセの曲になったので、Norさんのフィルターを通したらどうなるんだろうかっていうワクワク感もありつつ(笑)。
その一方でSEKITOVAさんはしっかりとしたテクノ畑というか、とてつもなく緩急をつけるような曲じゃなくて、小さく積み上げていく曲、ミニマルな反復性を大事にするような人で。僕たちは割りと緩急をつける方だから、そういった全然違った性質や哲学を持った人がどう曲を作り変えるのかを知りたかったので、お願いしました。

―今作は全体的に海外のフューチャーベースやトラップなどの先鋭的なクラブ・ミュージックの要素と、ロックやポップス、さらに音ゲー楽曲のような日本的なエッセンスが組み合わさったような楽曲が多いと思います。敢えて国内のクラブ・シーンでシンパシーを感じるプロデューサーなどを挙げるとしたら誰になるでしょうか?

Yuta:クラブ・ミュージックを作っているアーティストって、結構海外への進出を念頭に置いている人が多いと思うので、そういうところでは多くの人にシンパシーを感じてはいるんですけど、自分たちの音と他のアーティストの音が一緒だったらあんまり意味がないと思うんですよね。なので、姿勢としてはシンパシーは感じるけど、サウンドとしてシンパシーを感じているアーティストっていうのはパッと思いつかないですね。僕たちは僕たちの音でやりたいっていう想いが強くあるので。

—では、ANIMAL HACKらしい部分っていうのを自分たちで言語化するとしたら?

Masato:僕らはそもそも曲の作り方からして結構特殊で、共作じゃなくてふたりとも別々に作っているんです。もちろんふたりで共通のルールを持ちながら、アルバムにしているんですけど、僕が捉えるANIMAL HACKだと、いわゆる”EDC”とか”Ultra”とか、大きなフェスでも使えるビッグ・チューン的な重たいビートの上に、僕らならではのこれまで通過してきたインディ・ポップ的な要素とか、大好きな80’sのポップスのようなきらびやかで柔らかいシンセだったりとか、わざとらしく派手なシンセが乗っかっているところが特徴なのかなと。容れ物は現行のダンス・ミュージックなんですけど、上に乗っけているモノは僕らならではの通過してきたものを入れてます。

―楽曲の展開の仕方も、どこかバンドっぽさを感じますよね。

Masato:そういうところは結構大事にしてます。あと、アウトロがないダンス・ミュージックって結構あると思うんですよ。2番、ドロップ、終わりみたいな。そういうのとは違って、僕らは1曲としてちゃんと聴けるようにしたいねっていうのはよく話していて。歌モノの手法で、2番のドロップ後半がちょっと変わってるとか、閉じに行くアウトロがあるとか、Cメロにいくとか、そういうところは意識的に作り込もうとしています。

Yuta:クラブ・ミュージックとして聴くっていうだけでなくて、純粋に曲としていいなっていうモノを作りたいっていう思いがすごくあって。Masatoくんはインディ・ポップ的なアナログ・シンセ、ギターとかを乗せて作ってるんですけど、僕はヒップホップとかエモとか、そういう影響が強くて。ビートはヒップホップのビートなんですけど、上に乗ってるのはエモっぽいメロディとかコード進行とか、そういう意外な組み合わせを強く意識しています。

Masato:エモさを大事にしている(笑)。

—今おっしゃったクラブ・ミュージック的な要素というか、踊らせる、盛り上げるっていう機能性と、ポップ・ソングとして聴かせるっていう部分の割合、バランスに対してはどのように意識してますか?

Masato:定量的に何対何とかはあんまり話したことはないですが、どうだろうなぁ……。でも、踊れないってことに対しては確かに指摘し合うんですよね。例えばお互い別々に作ってはいるんですが、もちろん作ったものに対して細かくフィードバックし合うんですよ。そのフィードバックを受けて、完成に向けてそれぞれ作っているんですが、僕はビートより旋律重視な歌モノ出身なだけあって、踊れない曲を作りがちなんです。なので、Yutaくんに「これだと踊りづらいよ」ってよく言われる。踊れるか踊れないかチェックは厳密ですね(笑)。

Yuta:気持ちとしては踊れるか踊れないかっていうのはそんなに意識したくないんですが、その中でも最低限踊れるラインを意識して、その上でどれだけいい曲を作れるかっていう考えですね。

―では、実際のおふたりの楽曲制作のプロセスは?

Masato:僕はまずお品書きじゃないけど、「こういう内容で作ります」みたいなものを自分で書き起こすんです。例えば、「この曲のこの質感を最大限活かした曲にします」みたいなのを書いて、その曲のURLがあって、Aメロはこの感じでBメロはこうで、みたいな一通りの流れ、設計書みたいなものを作る。それをバッと打ち込んだら、「こういう方針で作るよ」っていうのを一旦聴いてもらう。その大まかな方針に対してもフィードバックをもらうけど、そこでは細かい意見とかは受けずに、ある程度の方針が定まったらそこから細かく作りこむっていう感じですね。

―なるほど。お互いの楽曲データに手を入れることはしないんですね。

Yuta:その理由として、個人で最後まで作り上げた方がひとりのエゴが強く出るなっていうのがあって。個性を貫くことが楽曲の良さに表れると信じているので、そういうところは大事にしています。

Masato:下手に中和するみたいなことはしないというか。だから、「この曲はこうしたいんだよね」っていうのに対して、「だったらもっとこうした方がいい」とか、目的を聞いてそのために必要な参考音源を送りあったりする形です。あくまでひとりのエゴが最初から最後まで貫かれるようにやっています。

―ではYutaさんはどのように楽曲を作っていますか?

Yuta:僕も大体同じなんですけど、ちょっと違うのが設計書作り終えて楽曲が一旦出来上がったあとに、結構グチャグチャに壊しちゃうことが多くて。それを再度作り直す……っていうのを、自分の納得のいくものになるまで繰り返す。

—壊すっていうのは?

Yuta:Aメロができて、ドロップができても、「このAメロはシックリこないな」とか、「このドロップはなんか違うな」っていう感じで、パーツパーツで何度も作り変えたくなっちゃうんですよ。

—ボツにしたパーツを他の曲で使ったりとかはしますか?

Yuta:それはないです。その曲はその曲で完結させたいってのがあるので。

Masato:今制作中の曲も、ドロップが何回変わったかわからないもんね(笑)。Aメロも変わってる(笑)。

—ちなみに今作でいうとどの曲がどちらの曲ですか?

Masato:「Franny」と「(500)days of Inosence」がYutaくんで、「Moment」と「Reveire」が僕ですね。

—本作を聴いた時、個人的には動、静、動、静といった感じに、緩急がついているなと思っていたので納得がいきました。この構成には先述の設計書も影響しているのでしょうか?

Masato:そもそも設計書ありきで作ったというよりかは、作った曲を寄せ集めたので、そういう合意のも動と静が別れたというよりかは、自然と別れてたっていう感じですね。たぶん、お互いがそれぞれ自分の好きな方にいったみたいな感じなのかな。

Yuta:曲のバランスはよかったよね。

—ボーカルのカットアップに使われているの声の素材はどのような基準で選んでるんでしょうか。

Masato:そういうサイトがあったりとかして。そこでボーカル・パックを購入したりとか、色々あるんですけど、基本は質感重視で選んでますね。

Yuta:僕もそうですね。楽曲と同じでエモーショナルな感じのボーカルを選びます。いかにもエモっぽい男性ボーカルとかが好きで、今作の「(500)days of Inosence」のボーカルもそういう基準で選びました。

Masato:僕はいわゆるEDMでいう歌い上げる感じの、歌姫みたいなのは極力避けて、ぼそぼそ歌ってるのとか、いかにもダンス・ミュージックっぽくない素材を探してますね。ちなみに前作『ANIMAL HACK』に収録されている「IDIOT」って曲のAメロとかは、個人的にはGrimesが歌ったらっていうテーマで声を選びました。

―お互い別々で曲を作ってるとはいえ、ANIMAL HACKとしてふたりで活動しているわけじゃないですか。ふたりでやっていくことのメリットってなんだと思いますか?

Masato:メリットはお互いの軸足を置いてるところとか、すごく関心を持ってる音楽ジャンルとかがそんなの被っていないので、広いところからアイディアを持ってきてこれるっていう点にあるのかなと。
例えば僕は実はそんなにヒップホップとかいわゆるダンス・ミュージックに精通している方じゃなくて、どっちかというとロックとかバンドの方に詳しい。逆に彼でいうと、ヒップホップとかダンス・ミュージックとかの方に詳しかったりして、僕がビートのセオリーとかを全然わかってないときは、そういうところを指摘してくれる。
逆に彼はビートには精通してるんですけど、音色感覚というか音感、音の組み合わせとかに関しては僕は結構自信を持っているので、「この音とこの音が組み合わさるのはおかしい」とか、「もっとこうするべき」っていう感じで、割とフォローできてるんじゃないかなって。そういう違った強みを持っているっていうところが、一緒にやるメリットかなと。

Yuta:今聴いてる音楽のジャンルはお互い結構違うんですけど、元のルーツはお互いUKロックとかにあって共通しているんです。だけど、その後に広がっていった幅が違うので、それが組み合わさった時により大きな振れ幅を持たせられるんじゃないかっていうのはあります。

—ちなみに、衝撃を受けたというMadeon以降、最近ではどのようなダンス・ミュージックに影響を受けましたか?

Yuta:僕は最近でいうとCashmere Catのアルバム『9』にすごい衝撃を受けましたね。

Masato:間違いない。

Yuta:あれはめちゃくちゃ良かったですね。既存のポップ・ミュージックやダンス・ミュージックの形式に捉われないで、まだ誰も作ってない音楽を作ってるって所にすごい共感できます。

Masato:僕はLouis The ChildとMura Masa。Louis the Childとかは僕がやりたいこととすごく近いというか、大きな会場でも通用するビートの上に、インディ・ポップ的な要素を乗っけて、聴く人が聴けば「あぁ、いいのやってるね〜」みたいな(笑)。音楽に詳しくない人でも踊らせる強い求心力もありつつ、詳しい人にも「オッ」と言わせるような反応ポイントがある。だからLouis The Childの曲とかはめちゃくちゃ曲の強度が高いし、様々な人から聴かれてるんじゃないかなって。

—そういったLouis The Childのような幅広い層にアプローチできるサウンドっていうのは、きっとANIMAL HACKとしても目指すところですよね。

Masato:僕はすごく意識しています。そもそも今やってるフォーマット自体が、そういうものを実現しやすい形態だと思っているので。

―今回のEPがコンセプチュアルなものだったということですが、今後の作品もそれぞれコンセプトを決め、ビジュアルと共に作り込んでいくと思いますか?

Masato:それはもう、徹底的に。今作まではアイディアを考え尽くしたので、この反応を見てから次の方針を構築していきたいと思っています。

Yuta:写真の質感としては今後も今のところはアナログっぽい質感にこだわろうと思ってますね

—こういうサウンドでこういう写真の質感って、あまりない組み合わせですよね。

Yuta:クラブ・ミュージックの人って白バックに顔ドーンみたいな人が多いと思うので、そこは結構差がつくところかなって思ってます。

Masato:あと、よくある3Dグラフィックっぽいジャケットとかは避けたかったりするよね(笑)。他の人たちがあまりやってないやり方、僕たちが通過してきたような背景とか、インプットしてきたものを活かせるやり方、それをこんな風に昇華することができるんだっていう形で作っていきたいって考えていますね。

―ちなみに、お互い曲のフィードバックをもらう時に技術面だけでなく曲のイメージや世界観的なことって話したりしますか?

Masato:そういうこともしたりはします。最近なんかあったっけ?

Yuta:最近は今作ってる新曲とか。

Masato:「どう聴かれる曲にしたいのか」みたいなのは話すよね。

Yuta:「自分はこういう世界観にしたいんだ」っていうのを相手に伝えて、本当にそれが実現できてるかって感じの話はしますね。

—その世界観のチョイスとかについては、お互いに任せている感じですか?

Yuta:基本は任せてます。それが本当にいいかっていうのをお互い話して決めて。

Masato:確かに思い返してみると、あんまり世界観に関してのフィードバックってしてない気がした。

—そこらへんはビジュアルも含めて、今後固まってくると。

Masato:そうですね。

Yuta:やっていきたいってことは最近だんだん見えてきて。重たいビートの上にインディ・ポップ的要素を乗せるとか、そういう話をいま話し合ってる最中です。

—その詰めていくコンセプトって、ANIMAL HACKとして一貫したものでやっていくか、作品毎にカラーや表情を次々と変えていくのか、どっちだと思いますか?

Masato:たぶん、大上段のところでのコンセプトはブレずにいくと思っていて、その時の時流とか気分とかに合わせて、作品毎にアウトプットの方法は変えていくと思います。次の作品では何かひとつのコンセプトやテーマにフィーチャーして作るとか、逆にその次は極端にアナログなテイストに寄せてみようとか、もしかしたらDTMを使わずに作ることもあるかもしれない。それはわからないですけど(笑)。

—ちなみに、今後ボーカルをフィーチャーしてみたりとかは?

Masato:それもゆくゆくはやってみたいですね。今まではカットアップばっかりなので、海外のバンドのボーカルとかと一緒にやってみたいですね。イギリスにFickle Friendsっていう個人的に大好きなバンドがいるんですが、僕的にはあのバンドのボーカル(Natassja Shiner)と一緒にやりたいって思ってます。

—最近ではRINNE HIPの『裏原ンウェイ.ep』収録曲、「Ready make some noise feat. DOTAMA」へのトラック提供も手掛けましたよ。そういった外部仕事で得られたものとかってありますか?

Masato:まず日本語詩が乗るダンス・トラックを作ること自体が初めてで。

Yuta:素材じゃない生のボーカルを扱うのも初めてだったよね。

Masato:最初RINNE HIPさんだけのトラックだったんだけど、あとからDOTAMAさんのラップを入れることになって、その分伸ばすっていう(笑)。

-どうでしたか? 初の生ボーカルをいじってみて

Yuta:楽しかったですね。単純にサンプル素材って短いのが多いんですけど、それとは違って尺のちゃんと長い一曲通したものを手掛けたので。ボーカルのミックスとかもやったんですけど、カットアップだとどれだけ元の素材と違ったものにできるのかっていう美学もあったりするので、元のボーカルを活かした上で楽曲を作り上げたられことはすごいいい経験になったと思いますね。楽曲の終盤ではこれまでやってきたようなカットアップでの遊びも入ってたりするんですが。

Masato:確かに。

—他にANIMAL HACKとしてやってみたいことや、考えていることとかってありますか?

Masato:ライブに関してなんですけど、今やってるB2Bのスタイルだけじゃなくて、色々な楽器を使ったパフォーマンスとかもやってみたいです。

Yuta:ライブっぽいライブというか、有機的なパフォーマンスにしたいですね。

Masato:あとは大きな会場で自分たちの曲が鳴るのを聴いてみたい。スタジアムとかでどうやって響くのかっていうのを(笑)。

—やはり規模感みたいなものってすごく重視されていますか?

Masato:そうですね。前にちっちゃいラウンジっぽいところで自分たちの曲だけをバーっと流したことがあるんですが、「ラウンジっぽくない」って言われて(笑)。

Yuta:みかん箱の中で爆弾が爆発してる、みたいな(笑)。

Masato:だから自分たちの曲は大きな場所を求めてるけど、実際にはまだそこで鳴らせてないっていう現実があるので、早くそれをできるようになりたいですね。

—そういう壮大なサウンドになるのは、やはりMadeonなどから受けた影響が大きいのでしょうか?

Masato:あるかもしれないですね、自然とそういう風になりたいって思ってしまうというか。

—そういえば、ルーツにOasisとかもあるとおっしゃっていたので、そういったところからの影響もありそうですね。

Masato:そういわれてみればそうですね。あと、僕はKasabianとかKings of Leon、The 1975なんかも大好きなんですよ。なので、スタジアム感のあるサウンドって言われたりして、「何だよスタジアム感って」って思ったりすることもありつつ、でも確かにスタジアム感のあるものが好きなんですよね(笑)。

-これまでお話を伺ってきて、かなり対外的な活動に貪欲な印象を受けたんですが、今後ANIMAL HACKとしてはどういう活動がしたいですか?

Masato:2人で共通してよく話してるのは、当たり前に海外とかで聴かれている状態を作りたいっていうのがあって。僕たちは当たり前のように海外の最新の音楽を聴いているので、それを聴いて作ってる以上は、それと同じ土俵でに聴かれたいっていう思いはあります。

Yuta:あとは、シンプルにコーチェラとか出たいよね(笑)。

Masato:フェスは出たいね。

Yuta:大きい目標を言ってしまえば、海外のビルボード・チャートに載ったり、もしくはそこに載ってる人のプロデュースをしてるとか、そういう状態になっていたいです。住んでるところも音楽を作るところも渡り歩きながら。

Masato:それ、最高だね(笑)。

—あまり日本や東京といった土地、カルチャーに対する執着などはないと。

Masato:あまりないですね。あと、別に「kawaii」系とか、アニメとか、そういうサブ・カルチャーを活用してどうこうしたいっていう思いはないですね。

―では最後に、6月10日(土)に出演される渋谷VISONの”Trackmaker”でのパフォーマンスがどのようなものになるのか、我々にヒントをもらえますか?

Masato:間違いなく新曲はかけます。ちょっと治安悪い感じの曲も流すかもしれない(笑)。
結構僕ら、何だかんだ言いながらもクラブとかでは悪い曲を流したりするんです。「ここはスラムか?」みたいなゴリゴリな曲とか。なので、『Boy』の曲みたいなのばかり流れると思ったら、そうはいかないぞって(笑)。

Yuta:ハハハ。それいいね(笑)。


【リリース情報】

ANIMAL HACK 『Boy』
Release Date:2017.05.24 (Wed.)
Label:術ノ穴
Cat.No.:sna-024
Price:アルバム¥900 単曲¥250
Tracklist:
1.Franny
2.Moment
3.(500) days of innocence
4.Reverie
5.Franny (Nor Remix)
6.Moment (SEKITOVA Remix)

■ANIMAL HACK オフィシャル・サイト:http://animalhack.tumblr.com/


【イベント情報】

“track maker”
日時:2017年6月10日(土) OPEN:22:00〜
会場:渋谷SOUND MUSEUM VISION
料金:
ADV ¥2800
DOOR ¥3500

■詳細:http://www.vision-tokyo.com/event/track-maker-9?event=club&lang=

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