INTERVIEW

冨田ラボ × 井上銘(talk about TOKYO LAB 2017)

「ジャズという言葉に怯まないで欲しい」――新世代ジャズ・プレイヤーが一堂に会する話題のイベントの見所・楽しみ方を訊いた

Robert Glasperを筆頭にした新世代ジャズ・ミュージシャンの活躍により、ヒップホップやR&B、ソウルといった他ジャンルとの密接な結びつきも見せながら大きな盛り上がりをみせる現代ジャズ・シーン。

長い歴史を持つが故に形骸化したイメージをもたれやすくもあるジャズを、未来へと推し進めようとするかのような新鋭ミュージシャンの登場は、決して海外だけのことではなく、ここ国内でも巻き起こっているようだ。

そんな国内のジャズ・シーンの先鋭たちが一挙に出演する異例のイベントが、6月21日(水)に渋谷クラブ・クアトロにて開催される。
“TOKYO LAB 2017″と題された本イベントは、「beyond JAZZ」と「beyond NEXT」の2部構成。1部「beyond JAZZ」では、若手No.1トランペッター・類家心平と、CRCK/LCKS(クラックラックス)の一員としての活躍でも知られる若き天才ジャズ・ギタリスト・井上銘、そして昨年リリースされた初リーダー作『Espoir』でも大きな話題を集めたRM jazz legacyのリーダー・守家巧、井上と共にCRCK/LCKSにも在籍し、昨年リリースのWONKの1stアルバムにも参加していた当代随一の若手ドラマー・石若駿の4名が、それぞれのバンドを率いたステージを披露することに。国内ジャズ・シーンの「今」を体感できるまたとない機会となるであろう。

さらに、「beyond NEXT」と題された2部ではポップ・マエストロ、冨田ラボこと冨田恵一の元に実力派ミュージシャンが集結し、書き下ろしの組曲を演奏するというこちらもまたとない貴重なショウが実現。冨田ラボと言えば、昨年リリースした最新作『SUPERFINE』にSuchmosのYONCE、never young beachの安部勇磨、水曜日のカンパネラ・コムアイ、cero高城晶平……などといった若手ボーカリストを招いたことでも大きな話題となっていたが、この日も松下マサナオ(Yasei Collective)、石若駿、角田隆太(ものんくる)、類家心平、井上銘、江﨑文武(WONK)などといった若手が彼のも元に集い、一夜限り(?)のスーパー・バンドを結成する。

今回は先述の冨田恵一と井上銘の両者に、この話題のイベントの内容、狙い、そして見所を訊くことに。筆者と同様にジャズに精通していないリスナーでも、近年目まぐるしい進化、拡張を遂げていることは十二分に伝わってきているであろう新世代ジャズ・シーンについて改めておさらいしつつも、来るべきイベントについて、そしてさらには今後のジャズの行く末が楽しみになるような、そんな刺激的な話をたくさん語ってもらった。

Interview by Takazumi Hosaka
Photo by Haruka Nishi


―まずはこの度6月21日(水)に開催される”TOKYO LAB 2017 S/S~beyond JAZZ, beyond NEXT !!”という一風変わったイベントは、どのようなアイディアの元開催に至ったのか、その経緯から教えてもらえますか?

冨田:今回のイベントの共催であるクリエイティヴ・ユニット、CANALIZEのプロデューサーの方にお声掛け頂いたのがキッカケで。それまでは何かお仕事を一緒にしたことがあったわけではなかったんですけど、前々から「何かやろう」みたいなことはずっと話していた仲で。で、今回は「今、日本のジャズ・シーンがすごいおもしろいことになっているから、そういう若手ジャズ・ミュージシャンたちを集めて一緒にやるのはどう?」って言われて。僕も今の日本のジャズ・シーンには興味があったので、「是非!」っていう感じで。そのプロデューサーの方――柴田さんっていう方なんですけど、今回のラインナップもほぼ全部柴田さん発信で招集してくれたんですよね。こんな素晴らしいメンツを集めてくれて、最高だな〜って思ってたら、今度は「じゃあ冨田さん、組曲を書いてほしいんだけど」って言われて(笑)。
組曲っていうか、メドレーみたいな、シームレスに何十分って続くやつを。期間的にはかなり厳しかったんですけど、それでもアイディアとしてはすごいおもしろいなって思って。僕は冨田ラボとして今年2月にワンマン・ライブを開催したんですけど、その日のオープニングをインストにしたんですよ。即興で作曲していけるようなプログラムを組んで、そこからサンプルやエレクトロな音色満載になってから、次第にバンドも入ってきて……っていう。まあプチ組曲というか、プチ・メドレーみたいな感じ。どうやら柴田さんはそれを観て、ああいう色々な要素が混ざり、繋がり合っていくのがおもしろいと思ってくれたらしいんですよね。でも、あの日のオープニング曲は5分くらいだったんです(笑)。
なので、全く新規の状態から20分超えの組曲を書き上げるのは大変で。ようやく譜面については今日帰って仕上げられるかな、っていうくらいなんですけど(笑)。

―では、井上さんも柴田さんからお声が掛かったと。

井上:そうですね、半年くらい前に僕もお声掛け頂いて、「僕でよければ是非!」っていう感じで承諾させて頂きました。最初は冨田さんが中心になることも知らされていなかったんですけど、その後お会いした時とか、メールとかで柴田さんがちょいちょい伏線を出してくるんですよね。「今回はとあるプロデューサーを招いて、普通じゃないことをやります」みたいな(笑)。
その時、実は僕も「もしかしたら、冨田さんなんじゃないかな」って思ってたんですよ。本当に、僕個人的にも冨田さんの大ファンで。『Shipbuilding』とか『Joyous』とかもすごい愛聴してましたし、最新作の『SUPERFINE』もすごく好きで。いつか一緒にお仕事してみたいな、というのが漠然とした夢としてあって。でも、本当にそれはこの先10年くらいのどこかで〜っていうくらいの長い目で考えていたことなんですけど、意外な形でパッと決まってしまったんですよね(笑)。
で、イベントに話を戻すと、その後しばらくして柴田さんと直接お話した時、率直に「プロデューサーの方って誰なんですか?」って聞いたんですけど、その時はまだ確定はしていなかったらしく、「それはまだ言えないんです」ってはぐらかされそうになったので、「いやいやいや、教えて下さいよ〜」って言ったら、「実は冨田ラボさんです」ってなって。「え、マジですか!?」って(笑)。

冨田:なんとなくまだ決まってなかった時期ね。

井上:そうなんです。その時はいよいよこれから最終的な話を詰めるっていう段階だったらしいんですけど。僕的には冨田さんがやられている音楽って、自分たちがやってる音楽とすごく近いんじゃないかって勝手ながらも前々から感じていたので、柴田さんが冨田さんのお名前を出した時も、「やっぱりこの人はわかってくれてるな〜」って思いましたね(笑)。

―最初にお話を頂いた段階で、冨田さんだと思った推理要素としては何があったのでしょうか?

井上:ジャズ・ミュージシャンとすごい近い感覚を持っていて、かつ様々なフィールドでも活躍されているプロデューサーっていう点で、冨田さんかなって言うのが一番最初に頭に浮かんできたんですよね。

―本イベントの2部制という特殊な構成も、プロデューサーの柴田さん発信だったんですね。

冨田:そうですね。僕も最初は何組か出るうちのひとつとして声を掛けてくれたのかなって思ったんですけど、話してみたら若手の名立たるミュージシャンたちと僕が一緒にやるっていうことで。組曲に関しては、そこで色々な曲をやるっていうよりかは、シームレスに一曲にまとめた方がコンセプトみたいなものをわかりやすく提示できるんじゃないかなって思ったんじゃないですかね。あとはさっきも言った通り、2月の僕のライブを観てくれたのがたぶん大きいんじゃないかなって思っていて。最初ひとりから始めて、その後徐々にバンドが入ってきて、様々なパートを見せつつも、最後にボーカリストに繋げるっていう。実はあの日も僕は最初、1ステージ全部繋げたいって思ってたんですけど、よく考えると一曲ずつボーカリストが入れ替わるので、紹介とかもしなきゃなっていうことに気づいて(笑)。本当はMCなしで終わりから最後まで全部繋がっているっていうのもおもしろいんじゃないかなって思ってたんですけどね。

井上:「冨田さんに30分くらいの組曲を作ってもらうことになりました」っていう話を聞いたのが3月の頭くらいだったと思うんですけど、イベントは6月なので、結構無茶ぶりされてるなって思いましたね(笑)。

冨田:本当ですよ(笑)。それにかかりっきりになるならまだしも、その他にも色々な仕事もある中で、なんとか仕上げました(笑)。
だから、バンドで合わせるのもこれからなんですよ。井上くんとも実は今日が初対面だし。

―バンドのメンバーも、柴田さんの選抜で?

冨田:はい。ついでにバンド名も柴田さん案です(笑)。でも、本当に皆さんスター・プレイヤーというか、凄腕の方ばかりなので、ラインナップに関してはもちろん何の心配も文句もなかったですね。ただ、僕の方からひとつだけオーダーさせてもらったのが、サックス2本とトロンボーンを加えてくれっていうことで。最初、管楽器は類家さんのトランペットだけだったんです。
というのも、僕はホーン・セクションとかストリング・セクションとか、何かひとつセクションが欲しかったんです。僕はずっとジャズが大好きだけど、それでもジャズ・フィールドで活動してきた人間ではないわけで、そんな僕が書いた曲を皆さんに演奏してもらうっていう時に、僕が書いた部分と、皆さんがそれぞれ解釈した部分の差異がハッキリ見えた方が絶対おもしろいだろうなと思っていて。そういう時にホーン・セクションとかのアンサンブルみたいな部分が欲しくて。それだけは要望としてお伝えしました。

―では、冨田さんが最近のジャズに「おもしろいな」って思ったキッカケだったり、ポイントっていうのは、一体どのような部分なのでしょうか?

冨田:僕は自分の作品ではドラムをプログラミングで作っているんだけど、本当に生のドラムが大好きで。観るのも聴くのも好きなので、ドラマーに関してはずっとリアルタイムで追っていたんです。で、たぶん2008年か2009年かな、Mark Guiliana(マーク・ジュリアナ)っていうすっごいドラマーに出会って。ちょうどRonald Bruner Jr.とかもその頃に知ったんですよね。特にMark Guilianaは、何かリズム的に刷新されたような気がしたんですよね。その後にChris Daveを好きになったので、順番が普通とは逆になっちゃいましたけど。それまでもドラマーのスキルやアプローチ法はどんどん進化していたんですけど、彼らの場合は何か、その積み重なった進化というだけじゃなくて、「刷新」っていう言葉が相応しいくらいの大きな変化に感じたんです。今も昔もずっとジャズは聴いてきたけど、ここ最近の新世代と言われるような人たちに注目し始めたのは、やっぱりリズム面でのおもしろさが最初だったかな。

―その新しさっていう部分は、どのように言語化することが出来ますか?

冨田:もう市民権も得ていると思うので、それが新鮮っていう時期は過ぎたんですけど、やっぱりマシーン・ドラムとか、ループのような変なリズムを人力でやるっていうところ。しかも、それを付け焼き刃のアイディアとしてではなく、自分たちの中で消化してやっている感じがしたんですよね。テクノロジーの影響が人間の感覚にハッキリと見てとれたのが新鮮だったんです。
今、それ自体はもう普通のことだと思ってしまいますけど、やっぱり当時はリズムがなまっているというか、あとはマシーン・ドラムのように叩くとか、それを人力でやる、ループの変な感じを人力でやる、っていうことをちゃんと自分で消化してやってる感じがおもしろくて。自分としては、それまでずっと70年~80年代の音楽がベースにあるっていうことに自覚的だったんですけど、そういった新しいリズムのおもしろさに気づいてからは、リアルタイムの音楽、リアルタイムの新譜をより楽しめるようになって。それが自分の中では一番大きな変化でしたね。

あとは、たぶん一般の方が思い描くジャズっていうモノとは全然違う、一聴すると「R&Bじゃん」、「ソウルじゃん」とか「ロックじゃん」って思うような音楽でも、実は演奏しているのがジャズ・ミュージシャンだったっていうことが増えたりね。まあ昔からスタジオ・ミュージシャンはジャズ・ベースの人が多いんだけど、スタジオ・ミュージシャンという括りが以前ほど強力ではなくなったので、「ジャズ・ミュージシャンが他のジャンルの音楽を演奏している」という見え方になってきた感じかな。だからそういったサウンドまでもがジャズに含まれ始めた感じがするんですよね。現代において一言で「ジャズ」って言っても、僕らは別に4ビートとかを指したりしていないと思う。音楽に詳しい人とかジャズの現場の人の中では、既に「ジャズ」って分母みたいになっちゃった感じ、イメージがありますよね。

―それはまさしく今回のイベント・タイトルにも含まれている、「beyond JAZZ(ジャズを超える)」という言葉にも繋がってきますよね。

冨田:そうですね。本当に2000年代の後半から2010年代になると、ジャズってものを意識してない状態で、「あ、これいいな」って思った作品を調べてみると、誰かしらジャズ・ミュージシャンが関わってるっていうことが頻発したりして。そういう状態を経て、色々なものがジャズに含まれ始めたっていう意識になったのかな。

―では、方や井上さんは15〜6歳の頃からジャズ・ミュージシャンを志望するようになったとのことですが、それからこの10年間ほどの中で、ジャズがどのように変化していったと感じていますか?

井上:やっぱり僕はギタリストなので、すごくギターに特化した話になるんですけど、高校生でジャズ・ギターを始めて、その時の東京はトラディショナルなものだったり、ファンキーなジャム・バンドぽいサウンドだったり、どちらかというとシンプルなギター・サウンドで演奏するミュージシャンが多かった気がするんですよね。だから、当時NYのジャズ・ギタリストを聴くとみんなすごいディレイとかをかけて、湿気の高いサウンドを作り出してるなぁっていう印象で。その後、日本でもそういうサウンドがわりと一般的になり、世界的に見てもひとつのスタンダードになったと思います。ただ、個人的にひとつ問題点として感じていることは、みんな似たような音色になりやすいということ。なので、2017年の今はその出来上がった型からどう自分らしく脱却していこうか考えているギタリストが自分を含め、世界的に結構増えてきていると思うんですよね。だからこの2、3年でまた新しいギター・サウンドがどこかから生まれると思います。それがジャズの次の発展に繋がったらおもしろいですね。エレキ・ギターのおもしろさっていうのは、エフェクターとかを使った色々な表現方法にもあると思うんですけど、そういう実験的なおもしろい部分が、ジャズのフィールドでも今はすごく寛容に受け入れられる時代になっていると思います。だからこそ、逆にエフェクトを使わないストレートなサウンドが気持ちうおかったりということもありますし。すごい雑な言い方をすると、カッコよかったら何でもアリな時代になってきているなっていう感じがしますね。

―トラディショナルなジャズを通ってきてない身からすると、最近急に来たという感じがしますが、ジャズの変化は実は徐々にだったのでしょうか。

冨田:どうだろう。でも、やっぱりRobert Glasperのヒットは大きいんじゃないかな。あれだけの特大ヒットが起こると、やっぱり色々な部分が変化していくよね。

井上:変な話になるんですけど、僕たちみたいなジャズの現場の人間がRobert Glasperに夢中になってたのって、結構昔の話なんですよね。それが、最近例えば服屋とかに行って店員さんとかと話してたら、「昨日ビルボードにRobert Glasper観に行ってきたんですよ〜」って言われたりして。だから、今ようやく一般の人々に浸透したんだなって感じがするんですよね。そういう現場と世間ではやっぱりタイムラグみたいなものがあって、今僕たちがすごいRobert Glasperっぽいコード進行とかビートをやるのって、実はちょっと恥ずかしかったりもするんです。でも、求められてるのは結構そういうところだなっていうのも感じていて。そういうフラストレーションもあったりするかもしれないですね。

冨田:それは確かにあるよね。Twitterとか見てても、宇多田ヒカルがChris Daveとやったっていうのとか、柳楽さん(柳樂光隆:『Jazz The New Chapter』の著者としても知られる音楽評論家)が「『Jazz The New Chapter』の1(『Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平』、2014年2月初版)で書いていたことが、今ちょうどいいのかもしれないって」って言っていて。もうあの本も4冊目ですよね。だからそういうタイムラグはいつの時代でもあるんだなって。

井上:でも、そうやって広い層に伝わってきた、浸透してきたっていうことは、本当に素晴らしいことですけどね。

冨田:そうだね。

―自身はずっとポップ・ミュージックに身を置いてきた冨田さん、そしてポップス・シーンの異端としても注目を集めたCRCK/LCKS(クラックラックス)のメンバーとしても活躍する井上さん。おふたりはジャズをずっと愛してきた身でありながらも、そこだけに留まらず、様々なジャンルへの造詣も深いと思うのですが、やはりジャズをもっと広い層へと浸透させたい、届けたい、といった想いは昔からあるのでしょうか?

冨田:僕は本当にずっとジャズが好きなんだけど、僕自身はポップスのフィールドに身を置いている。だからこそ、そこでは自分の好きなジャズ・イディオムっていうものを、たぶん日本の音楽の中ではずっと出し続けてきた人間だと思います。

井上:本当にそう思いますね。

冨田ポップスのフィールドで考えると、「あそこまでアリなのか!?」っていうハーモニーとか、そういうのが結構あるんですよ(笑)。

井上:僕の中でも、冨田さんはすっごいキワキワなところまで攻める人っていう印象ですね(笑)。

冨田:ジャズ・ミュージシャンたちの中でのイディオムを、どうやったらポップスの中に落とし込めるのか。どうやったらポップスとして聴かせられるのかっていう部分をずっと意識し続けてきた人間で。例えば非常に厳しいハーモニーが僕にとっては心地よかったりするんですけど、この心地よさはたぶん何度も聴いてもらえれば、ジャズを通ってない人にもわかってもらえるだろうと思っています。でも、それをいきなりドーンって出すと驚いちゃうから、その前々から伏線というか流れを作っていって、この心地よさをわかってもらいたい、とか。そういうバランス感覚でずっと自分の作品を作ってきたんです。それは何故かと言われると、ジャズが好きだから。そういう身から見ても、ポップスとか他のジャンルの中に忍ばされたジャズ・イディオムに対して、世の中的には大分寛容になったというか、当たり前になってきたんじゃないかなって思いますし。

―冨田さんの場合は、ジャズ・フィールドにガッツリ身を置いていないからこそできる手法ですよね。

冨田:あと、僕の場合は楽器も色々弾きますけど、基本的にはプロデューサー、アレンジャーなので、録音物として作品を仕上げるっていうのが仕事の本懐で。そこにジャズの成分を注入するっていうことに関してはずっと意識的でしたね。

井上:僕が冨田さんにお訊きしたかったことに対しての回答みたいなものが聞けて嬉しいですね。例えば個人的にすごい衝撃だったのが、『Joyous』収録曲の「やさしい哲学 feat.椎名林檎」っていう曲で。あの曲のサビのメロディとかは、ポップスとしてはかなりありえないなって思っていて(笑)。
でも、今冨田さんが語ってくれたように、それはジャズ・ミュージシャンじゃないからこそできたことなんだなって思いましたね。そのサビまでの流れとか、スパイスを加えるポイントの気持ちよさとかが上手くて。プロデューサーさんだからこそできる、ポップスにおけるジャズ・イディオムのバランス感覚というか。そういう部分に憧れてきたんですよね。だから、今回のイベントで冨田さんの書いた曲を演奏できるっていうのがすごい楽しみなんです。

―ちなみに、その冨田さんによる組曲は、既にデモが関係者には配られているということですが、井上さんも聴かれましたか?

井上:もちろん聴きました。まだリハをやっていないので、全体像は見えてきていないんですけど、僕がこれまで聴いてきた冨田さんの作品の、ボーカルとかの後ろにあるテクスチャの部分、そういったものが凝縮されているなって思いましたね。あと、すごく細部まで精密に書かれた曲だと思うんですけど、それと同時に各パートが自由に解釈、表現できるような余白も設けられているなって。だから、すごいワクワクしています。

冨田:譜面見たらもっと余白あって驚くと思います(笑)。

井上:ハハハ(笑)。

―では、冨田さんを中心としたT.O.C BANDで組曲を演奏する2部「beyond NEXT」の前に行われる、1部「beyond JAZZ」に出演する4バンドについては、冨田さんはどのような印象を持っていますか?

冨田:リアル・タイムのジャズをやっている人たちばかりなので、単純にみなさんのパフォーマンスを観るのは個人的にも楽しみにしていて。国内のジャズ・シーンももちろんチェックしているけど、あまり僕はライブ・ハウスとかに通うような人間ではないので、それぞれのバンドについて僕の方から詳しく語れるような話はあまりないんです。ただ、80年代、90年代、2000年代と、折々の日本のジャズ・ミュージシャンの演奏を観てきているんだけど、例えば以前まではアメリカのミュージシャンと国内のミュージシャンの違いっていうのは、割りと明確にわかったんです。それはリズムとかフレージングとか作曲とか、様々な点から言えることで、もちろん優劣の話ではないんですけど、確実に違うなって。それが、最近はあまりそう思わなくなってきて。一聴して「これは日本人の演奏だ」とか、「これはアメリカ人の演奏だ」っていうのがわかりづらくなってきた気がするんですよ。それはネットの普及とかも色々ある中で、日本のミュージシャンも世界のミュージシャンも同時に変化してきた結果なのかなって。もちろんそれぞれの個性もありつつも。

―まさしく日本の新世代ジャズ・シーンの渦中の人物ともいえる井上さんは、今の話を聞いてどう思われますか?

井上:すごい個人的な意見になっちゃうんですけど、例えばすごいNYのミュージシャンに憧れた時期もあったんですけど、結局は自分自身でしかないっていうことに気づいたというか。もちろん海外のミュージシャンへの憧れはすごい強くありますけど、自分が日本人であるっていうことは当たり前ですけど変えられない。なので、そういう自分の出自にも誇りを持てるようなミュージシャンになれればなって思います。

冨田:世界中でそういう意思を持つ人が増えてきたのかもしれないね。だからこそ差異が少なくなる。

井上:そうかもしれないですね。

冨田:例えばNYへの憧れを強く出した日本人ミュージシャンがいれば、それはやっぱりオリジナルとコピーみたいな差異が出てしまう。そうではなく、それぞれが興味や関心を共有しながらも、自分のオリジナリティを意識的に出そうとすることの方が、結果的には世界的に見て差異がなくなってくるのかもしれない。それは言うなれば、マインド的には世界中のミュージシャンと対等になるというか。今の井上さんの話を聞いてそんな風に思いましたね。あの、すごい憧れたプレイヤーとかいました?

井上:僕はいっぱいいましたね。10代くらいの時は誰かひとりにフォーカスして、1年くらいその人の作品ばっかり聴く、みたいなこともしていたんですけど、20歳超えたくらいから割りと特定のヒーローを持つというよりかは、同時に色々な人に興味をもつようになって。昨年、Kurt Rosenwinkel(カート・ローゼンウィンケル)っていう10代の時から憧れ続けたギタリストと共演させてもらったんです。そのオファーをもらった際、確実に自分のサウンドの血肉になっているような人を目の前にして、自分はどういったプレイをしたらいいんだろうって悩んだんです。そこで悩んだ挙句、さっきみたいな話に辿り着いて。結局は自分でしかないっていう。

冨田:いい話だね。本当に好きで何度もコピーとかしていたら、絶対に自分の一部になっちゃってるもんね。でも、別にそれは隠さずに、その上で自分をどうやって表現できるかっていうことが大事だよね。

井上:そうなんですよね。

―ちなみに、このイベントが開催される6月21日(水)は、井上さんが率いるMAY INOUE STEREO CHAMPの3枚目となる新作『STEREO CHAMP』のリリース日ですよね。

井上:はい、本当に偶然なんですけど。

冨田:リリパだよね(笑)。

井上:ハハハ(笑)。MAY INOUE STEREO CHAMPは、バンド・サウンドを大切にしているので、基本的には必ず固定メンバーでの活動になっているんですけど、この日だけはどうしてもドラムの福森康さんの都合がつかず、石若駿くんが叩いてくれることになりました。基本的にはシッカリと楽曲を演奏するバンドだとは思っているんですけど、その中で、さっき冨田さんがおっしゃっていたように、書かれている部分と自由な部分のバランスにもこだわっていて。そういうところに注目して観て頂けると嬉しいです。色々な方に届きやすいんじゃないかなって個人的には思っているので。

冨田:僕、作品を聴かせて頂いたんですけど、今おっしゃっていたような意識を、その作品からも感じましたね。イントロダクションから始まるっていうアルバムの構成も含めて。平たい言葉で言うと、ポップであることを意識している。リスナーを無視していないというか、自分の表現を曲げるわけではなく、どうやったら広く伝えられるかっていうところに重きを置いているというか。あとは、単純に「演奏が上手い」とか、当たり前の感想も受けましたけど(笑)。

井上:それは本当に嬉しいお言葉です。でも、そういう部分って、僕の中ではかなり冨田さんから受けた影響が大きいと思っています。

―井上さんは同じく1部に出演する3バンドは、どのような印象を持っていますか?

井上:類家さん(類家心平)のバンド、RS5pbはCDも聴かせてもらっていて、僕個人も共演させて頂くことが多いんですけど、何ていうんだろうな……なかなか体験できない混沌とした世界が魅力のバンドだと思います。「これはこういう音楽です」ってひと言で言えない美しさがあるというか。他では絶対に味わえない音楽だと思います。
石若駿くんのバンド(Clean Up Trio)は、僕も一緒にギターを弾かせてもらうんですけど、彼はすごいユニークな曲を書くんですよね。具体的に言うと、今までの長い音楽の歴史において、パターン化されてきた部分から離れようとしつつも、エゴイスティックではないというか。それはきっと彼の人間性からきてる部分もあると思うんですけど。ハーモニーの部分とか、すごい自然かつユニークなんですよね。そこは楽しみにしていて欲しいですね。演奏するのはすごい難しいですけど(笑)。
で、最後は守家さんのバンド(Takumi Moriya Les Six)なんですけど、実は僕はまだ面識がなくて。もちろん他のメンバーはよく知っている方ばかりなんですけど、だからこそどんな音楽になるのか、とても楽しみですね。

―冨田さんは最新作『SUPRFINE』にて、様々な若手をフックアップしてきました。今回のイベントの人選はCANALIZEのプロデューサーである柴田さんによるものとのことですが、同じく若い気鋭のミュージシャンと共演することで、それも一種のフックアップすることに繋がると思います。そういった、若いミュージシャンをフックアップすることに対して、どのような意識を持っていますか?

冨田:もちろん世代的に、自分は今回共演するような若いミュージシャンをフックアップしなければいけない立場になっていることは自覚していて。ただ、そこで大事にしなければいけないポイントとしては、本当に自分が良いって思えるミュージシャンと、対等な関係で良い作品、良い演奏をするっていうことだと思っていて。それが結果的にフックアップするっていうことに繋がるのかなって。今は若くていいミュージシャンがいっぱいいると思うんだけど、彼らを見ていると、その音楽活動に対する姿勢が、非常に真っ当というか、効率もよく、理想的な在り方だなって個人的に思うことが多くて。音楽活動していく上では、感情だけではいけない部分もあるじゃないですか、そういうところも含めて。
なので、『SUPERFINE』も、本当に僕が共演したいっていう人を呼んだし、今回も声を掛けたのは僕じゃないけど、僕もひとりのミュージシャンとして一緒に演れるっていうのが楽しみで仕方ない面々が揃っていて。そういう時は、彼らを有名にしてあげようとか、応援してあげようとか、そういうおこがましい意識ではなくて、一緒にいい音楽を奏でる。一緒に自分たちが感動できる音楽を作る。それが一番大事なことなんですよね。

―なるほど。例えば冨田さんの最新作『SUPERFINE』で初めて冨田さんの存在を知った若い音楽リスナーもたくさんいるかと思うのですが、そういった若いリスナーに、今回のイベントの楽しさを伝えるとしたら、どのような言葉で伝えますか?

冨田:タイトルに「ジャズ」って入っているだけで、「自分とは関係ない」ってシャットダウンしてしまう人もたくさんいるんじゃないかなって思うんですけど、さっきも話した通り、今僕らがジャズと呼んでいる音楽はそんなに間口の狭い音楽ではないんですよね。例えば『SUPERFINE』を聴いて、あの作品を気に入ってくれた人なら間違いなく楽しめるイベントだと思うんです。だってあのアルバムは、僕が新しいジャズに感銘を受けて作った作品なわけだから。だから、ジャズという言葉に怯まないで欲しい。今「ジャズ」って呼ばれている音楽を演奏している人たちが、どれくらいカッコイイことをやっているのかっていうのが、一度にわかるイベントなんじゃないかな。みんな繋がっているけど、これだけ一度に集まることは中々ないと思うので。

井上:そうですね。本当に貴重な機会だと思います。

冨田:もちろん昔からのジャズ好きの人も来るべきだけど、そうじゃない、「ジャズ」っていう言葉に壁を感じてしまっているような人も、実際に来てもらえれば楽しめるんじゃないかなというか、損はしないんじゃないかな(笑)。

井上:冨田さんみたいな方にそう言ってもらえるのが本当に嬉しいですね。心強いというか。

冨田:音源聴くだけでもいいけど、ライブを観るとよりその現代のジャズの楽しさってわかると思うので。

井上:アメリカとかではR&Bやヒップホップを聴いても、そこにジャズ・ミュージシャンが参加している、ジャズの要素が混ざり合っている、っていうことがもはや当たり前になってきていると思うので、さっき冨田さんがおっしゃった通り、「ジャズ」っていう言葉に怯まずに、気軽に楽しみに来て頂ければなって思いますね。


 beyond JAZZ × BNJF2017 特別プレイリスト

“TOKYO LAB 2017″、そして来る”Blue Note JAZZ FESTIVAL 2017″へ向けて、冨田ラボこと冨田恵一がセレクトしたプレイリストを公開! 進化、そして越境していくジャズの「今」が詰まったプレイリストになっています。

※コメント by 冨田恵一

1. Moonchild / Voyager – Intro

2. Moonchild / Cure

ネオソウルよりさらに遡った(というかその大きなオリジンでもある)70年代中期ニューソウル~80年代初頭AOR~90年代初頭SADEなアプローチを魅力的に聴かせるMoonchild。Eryka的アーティキュレーションを非ブラックな声音で奏でるから新鮮です。是非オーヴァーチュアから繋ぎで楽しんで。

3. Jacob Collier / Saviour

現代ジャズにおいて一人多重録音を徹底したアプローチは稀といえるが、そんな彼の作り出す音楽がもっともポップスに近い現代ジャズとして響く。クインシーやハービーが彼に注目する理由もそこにあるのではないか。ポップネス、いやいや音楽そのものの成り立ちさえ考えてしまいますな。さらに一人ライヴの手法を眼の当たりにして驚こう。

4. Kamasi Washington / Change of the Guard

コーラス、弦セクション、ツイン・ドラムという大編成は迫力とともに音楽に整然とした構成を与える。だからこそ3枚組というヴォリュームも飽きずに聴けてしまうのだ。

5. Donald Fagen / Snowbound

『Nightfly』収録曲は一般教養だろうからこの曲を。93年リリース作で唯一のW・ベッカーとの共作曲であり人気曲。BNJFで『Nightfly』全曲+この曲みたいなメニューを用意してくれないだろうか。

6. Gregory Porter / Holding on

歌声のディテールから音楽を感じたければ迷うことなくこちら。

7. Lianne La Havas / Midnight

境界にある音楽はいつも魅力的だ。ソウルとフォーク、米英、ブラックネスと非ブラックネスなど、彼女の音楽もさまざまな境界に隣接し、そしてそれは美しくたくましい。

8. 上原ひろみ / Wake Up And Dream

上原さんが演奏している動画に偶然遭遇し、そのまま曲が終わるまで見入ってしまうことがよくある。見聴きするのを止められなくするあの力、凄い。

9. Marcus Strickland / Talking Loud

近年のサックス奏者のリーダー作では一番好きかな。とてもよくできたアルバムなので全曲おすすめ。M・ンデゲオチェロPRO。

10. Chris Dave / Hurry

数年前からリーダー作制作中との情報があったが一向にリリースがなかった中、この一曲が。彼のリーダー・グループであるThe Drumhedzが普段ライヴで演っているのとは違ってしっかりとフォームのある楽曲。録音物はこれでよい。

11. Thundercat / Show You The Way

サンダーキャットの音楽性はそのベース・プレイやルックスから想像されるよりもずっとメロウ。M・マクドナルドとK・ロギンスをフィーチャーしたこの曲に象徴的なAORテイストは、以前から通底している主要なファクターだ。

12. Killiam Shakespeare / DRIVE ME CRAZY

13. Killiam Shakespeare / DIFFERENT

14. Killiam Shakespeare / ALPHABET BOYS
柳樂光隆編『Jazz The New Chapter 4』でも大々的に特集されていたフィラデルフィアは、現代ジャズと(広範囲な)ブラック・ミュージックとの関係を紐解くのに重要な地域なのは間違いないだろう――特にいま。そのフィリーに拠点を置く彼らを3曲続けて。

15. Lourenço Rebetez / Ímã
ロウレンソ・ヘベッチスはブラジルの音楽家だが、僕らが感じる伝統的なブラジリアンとコンテンポラリーのバランスがとてもよい。もちろん彼の世代を考えれば頷けるバランスだが、それ以上に、プロデューサーであるアート・リンゼイのバランス感覚によるのかも知れない。カエターノはじめ、アートPro諸作の通じるバランス感覚だ。

16. Shai Maestro Trio / A Man,Morning,Street,Rain

17. Shai Maestro Trio / The Stone Skipper
イスラエル・ジャズに共通する硬質なリズム表現とセンチメントのバランスがよいピアニスト。たとえ扱うのがシンセ音であってもその音楽性がブレることはない。”ジャズ・ミュージシャンが演奏すればなんでもジャズ”みたいな言説に近いですかね――これは乱暴な言説かも知れないが、現代ジャズを考える上では重要だろう。

18. JAMIRE WILLIAMS / Futurism
ほぼドラム・ソロというアルバムだが、質感やエフェクトとそのプレイだけでアルバム一枚聴いていられるという希有な作品。みんなビートが大好きだからね。傑作。


【イベント情報】

CANALIZE★INVISIBLE PARTY and Mikiki presents
TOKYO LAB 2017 S/S~beyond JAZZ, beyond NEXT !!

日時:2017年6月21日(水) 開場18:00 / 開演19:00
会場:渋谷 CLUB QUATTRO
料金:¥4,500 (税込み/1D別)
出演:
beyond NEXT :
・T.O.C BAND
[冨田恵一(冨田ラボ)、松下マサナオ(Yasei Collective)、石若駿(ds)、角田隆太(ものんくる)、類家心平、井上銘、江﨑文武(WONK) and more・・]

beyond JAZZ:
・RS5pb
[類家心平(tp)、田中タク(g)、鉄井孝司(bs)、吉岡大輔(ds)、中嶋錠二(p)]

・MAY INOUE STEREO CHAMP
[井上銘(g)、類家心平(tp)、渡辺ショータ(key)、山本連(bs)、石若駿(ds)]

・Takumi Moriya Les Six
[守家巧(bs)、加納奈実(sax)、坪口昌恭(key)、西田修大(g)、横山和明(ds)、Omar Gaindefall(per) ]

・Clean Up Trio
[石若駿(ds)、井上銘(g)、須川崇志(bs)、Niran Daiska(tp)]

DJ 大塚広子

■イベント詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/tokyolab2017/

共催:CANALIZE★INVISIBLEPARTY / Mikiki
制作:LDL inc. / CANALIZE
制作協力:クリエイティブマン / PARCO co.,ltd / LOW End Theory

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