Mystery Jets
FEATURE

Interview / Mystery Jets


新作のテーマは文字通りの宇宙ではなく、人間のなかの内なる宇宙ーMystery Jets Interview

2016.01.15

今となっては懐かしい、英国古典音楽への回帰的な潮流であるテムズ・ビートの括りの中でドロップされた1st、エレクトロやニューレイヴといった流れともシンクロした2ndを経て、オーセンティックなソングライティングに軸を据えた3rd、そして遠く離れた地であるアメリカにインスピレーションを求め、実際に現地でのレコーディングを敢行した4th……と、このように毎回ガラッとカラーを変えながらも、一本芯の通ったクオリティの高い作品をコンスタントにリリースするという、ある種理想的なキャリアの築き方をみせてきた稀有なバンド、Mystery Jets(ミステリー・ジェッツ)
前作『Radlands』リリース後にはデビュー時から不動だったベーシスト、Kai Fishの脱退があったものの、新たにJack Flanagannという若きメンバーを加えることでバンドのグルーヴは保たれることに。いや、むしろこれまで以上に良好な状態になったとさえ言えるのかもしれない。来年1月にリリースされる予定の新作『Curve of the Earth』を聴いていると、そんな風にも思えてくるのだ。
ちょうど昨日、Gurdianのサイトにてエクスクルーシヴで全曲フル試聴が始まったので是非とも時間に余裕があれば聴いてみてほしい。親密でパーソナルな世界観と、途方もなく壮大なスケール感が同居したこの新作は、これまでと同様彼らの全く新たな一面をみせてくれる作品となっている。
彼らはそんな新作を一足早く、昨年の11月に開催された第11回目となるHostess Club Weekenderでフルで披露してくれた。
ということで、そのHCWから数日後、おそらくキャリア史上最も人間の内面へと深く潜った作品となっているであろうこの新作について、バンドのソングライターでありボーカルのBlaine Harrisonと、前述の新メンバーJack Flanaganに話を訊いた。

Interview:Aoi Kurihara、Takazumi Hosaka
Photo:Hiromi Matsubara

—昨晩のHCWでのライブはとても素晴らしかったです。新作『Curve of the Earth』をフルで演奏し、昔の曲は2曲だけという構成で、まるで新たなメンバーも加わった新生Mystery Jetsの披露会のようでした。実際のところこの久しぶりの来日公演はどのような思いで臨んだのでしょうか。

Blaine:怖かったよ。孤独だったしね(笑)。

Jack:実は彼だけフライト・スケジュールが遅くなってしまったんだよね。

Blaine:渡航の直前まで「Telomere」のMV撮影をしていて。そこでぼくはモンスターに化けるために、粘土みたいなものを体中にくっつけたんだ。それが耳の中とか指輪とかにまだ残ってて……。ほら、こことか(と言って身に付けていた指輪を見せてくれる)。
それでこういう(耳の中などに粘土が残っている)状況で飛行機乗って良いのかってスタッフに相談したら、いや、一応お医者さんに診てもらおうってことになって、ぼくだけギグの当日に日本に着くスケジュールになってしまったんだ……。だから結構ショウの直前はナーバスになっていて。まぁみんなは先について、お酒とか呑んで楽しんでいたんだと思うけどね(笑)。

……と、こんな感じで複雑な状況下でのライブではあったんだけど、発売前の新作を全曲オーディエンスの前でプレイできるっていう環境はなかなかないからもちろん興奮はしてたよ。果たしてどうなるのかっていう不安や、こういったチャンスはもう2度とないかもっていうプレッシャーもあった。でも、お客さんもすごくオープンに構えていてくれて、みんな興味を持って聴いていてくれている気がしたから、そういった人たちの前でプレイできたのはとても嬉しいことだったよ。

https://www.youtube.com/watch?v=byF4DsCCPgE&feature=youtu.be

—その「Telomere」のMVのコンセプトなどについて、言える範囲で教えてもらうことは可能でしょうか?

Blaine:それはトップシークレットさ(笑)。

Jack:え? 別にちょっとくらい言ってもいいんじゃないの?

Blaine:う〜ん、そうだね。じゃあちょっとだけ。ワールド・エクスクルーシヴということで(笑)。

Jack:「Telomere」のビデオは……

Blaine:これで説明しよう(笑)。(といって足を机の上にあげる)

Jack:(Blaineの靴紐を摘んで)この靴紐で説明すると……まず「Telomere(テロメア)」っていうのはDNA構造のひとつで、染色体の末端を保護する役割をもつんだ。ちょうどこの靴紐の先端にあるシューレースパイプのようにね。それは生物が歳をとっていくにつれて徐々に解けていってしまうんだけど、それがいわゆる寿命っていうことになるんだ。映像でそれを表現するにはどうしたらいいのか、監督とともに話し合ったんだけど、人間っていうのは色々苦しい思いをしながら生きていく過程の中で、型にハメられていくことになる。で、その型っていうものを粘土で表現することに決めて……ありがたいことにBlaineがその役割を担当してくれてね(笑)。
粘土で覆われたモンスターの周りにコンテンポラリー・ダンサーがふたりいて、それがいわゆる「Telomere」、彼を守っている存在として踊っているんだ。そのうちに彼女たちが彼から離れたり、逆にまた戻ってきたりを繰り返すんだけど、その過程でモンスターの方にも変化が生じて、最終的には素の自分の姿が顕になっていくんだ。要するに「Telomere」が綻びて、素性が見えてくるわけ。人生における苦しみや凝り固まった状況っていうものを表現している粘土を自らの力でボロボロと剥がしていくんだけど、そうして現れてくるものが、本来の自分の姿だと思うんだ。それが血の中に流れていて、次世代の子孫たちに受け継がれるDNAのような存在だってこと。まだ仕上がりを見ていないので、細かいディティールは変わるかもしれないけれど、あの曲で伝えたかったそういうイメージを映像で表現できていればいいなと思うよ。

Blaine:ほら、(手の指の爪をみせてくれる)こことかにもまだ粘土が残ってるだろ (笑)。

—公開前の貴重な情報をありがとうございます。
では、ちょっと時間を遡るのですが、今回のこの来日公演の前、11/10に久しぶりにロンドンでギグを行っていますよね。このギグでも新作をフルで披露したのでしょうか?

Jack:イエス! しかも向こうでは新作以外の曲は一切なしだったよ。

—アルバムを曲順通りにフルで、しかもリリース前にもかかわらずライブでプレイするというのは、今までになかった試みだと思います。今作はアルバム全体の流れなどに強いこだわりがあるように感じました。

Jack:そうだね。このアルバム『Curve of the Earth』は曲順を変えたら全てが変わってしまうような、そんな作品なんだ。

Blaine:コンセプト・アルバムっていう考えはあまり好きではないんだけど、ある意味今回のアルバムはそういった側面もあるんだ。全体でひとつという形で提示してこそ意味がある、そんな作品といえるかもしれない。もちろんゆくゆくは曲をバラして、過去の曲と一緒にライブに組み込んでいかなければならないと思うけど、最初にお披露目するスタイルとしては、アルバムをトータルで聴いてもらうのが最適なんじゃないかと判断した結果、こういった今回の試みにトライすることになったんだ。

—ではアルバムについてもう少しお訊きしたいのですが、今回の『Curve of the Earth』というタイトルは、今作に大きなインスピレーションを与えたというStewart Brandの著作『全地球カタログ(原題:Whole Earth Catalog)』からきてるのでしょうか?

Blaine:なんだかぼくら、あの本についてものすごい宣伝しちゃってるよね(笑)。
実はこのタイトル自体はあの本に出会う前からあったんだ。もちろんあの本は今回のアルバムの歌詞やアートワークなど、至る所にとても大きな影響を与えてくれたと思う。でも、あのタイトルになった言葉だけは前作用に書いたデモ曲のタイトルからきてるんだ。上手く前作にハマらなかったから外したんだけど、今度のアルバムにもハマらなくて。実はまだどこにも収録されていないんだ。だからいつかシングルのB面とかに入れて発表できればって思ってる。
で、あのタイトルをどうやって思いついたかはもう思い出せないんだけど、なんとなく頭に残っていたその言葉を、新作の仮タイトルとして作業を進めていて。制作中から今作は宇宙をテーマにした、“スペース・アルバム”だなって思っていたんだけど、完成してから1週間ほど休暇を取り、再び集まった時にみんなでアルバムを聴いて、「これは実は宇宙のことじゃなくて、人間のことをテーマにした作品だね」っていう話になったんだ。一旦宇宙という途方もなく広大なところまで視点を引いて、そしてまた地球へと視点を戻したことでわかってくる人間の在り方とか……。そんなようなことがこのアルバムで描かれているんじゃないかってね。だからタイトルはそのままにすることにしたんだ。

Jack:そういう風に一回離れた視点……客観性っていうのかな。そういうモノを得たおかげで、逆により大きなスケールで人間や地球を捉えることができたような気がするんだよね。

—そういった客観性や、スケールの大きな視点で物事を捉えるという点も、先ほどの『全地球カタログ』に通ずるポイントですよね。

Blaine:そうだね、その通りだと思う。Stewart Brandのことを知ったキッカケはやっぱりSteve Jobsのあの有名なスピーチで。あのマントラのように語っていた「Stay hungry, Stay foolish.」っていう言葉が『全地球カタログ』の背表紙に載っていたモノだということを知り、その言葉に学生時代のJobsが大きな影響を受けたのと同じように、それはぼくらにとってのマントラにもなったんだ。ものすごく大きな影響を受けたよ。突き詰めればそれは「無垢な心を失うな」、「世界をみて、驚いたり不思議に思う心を忘れるな」っていうことだと思うんだけど、ぼくらのソングライターとしての使命っていうのも、まさにそれと同じことなんだよね。常に目を見開いて、自分の身の回りに起きたことすべてを記録していく。それができなければダメだと思うんだ。Stewart Brandはまさにそれをライフワークとして実践していた人で。自分の思うことを言葉にして、それを大勢の人たちと分かち合うっていうことを、今も実践し続けている。
今作の制作に際して、実は彼と手紙のやり取りをしたんだけど、「もうとにかくあなたの作品が大好きなんだ」って言ったら彼も喜んでくれてね。「自分が考えていたことを、あなたたちの作品を通すことでより多くの人へと届けられたら嬉しい」とエールを送ってくれて。『全地球カタログ』がやろうとしていたこと、同じような考えを持った人々を繋ぐということをぼくらの音楽で実現できたら最高だよね。

—あなた方のその外に開かれた、開拓思考とでも言えるような考え方は、とてもアメリカ的なモノのようにも思えます。これは前作製作時にアメリカに滞在していたことが影響源となっているのかなとも思ったのですが……。

Jack:ぼくは最近バンドに入ったばかりだから、あまり昔のことはわからないけど、ぼくらはそもそもポジティヴな考えの人間なんじゃないかな。その時その時で自分が正しいって思ったことを追求していくタイプの人間が集まっているんだと思う。

Blaine:前作製作時にアメリカで過ごした経験っていうのは、確かに僕らの今の人格に変化を与えてくれたかもしれない。ただ、あの時ぼくらがやりたかったのは、ある意味これまでの現実とはかけ離れた、ファンタジーを生きるっていうことなんだ。だからテキサスで家を借りて、そこでアルバムを作ることにした。テキサス州のオースティンに滞在していたんだけど、オースティンってすごくリベラルな街で、政治的に言えばテキサスは保守的な地域なんだけど、その真っ赤な地域にポツンとある青い点のような街がオースティンで。街全体にとても開かれた空気感があったし、カルチャー的にもとても熱いものがある。あと、気候も暑かったしね(笑)。
そういうものに影響された結果、今作のアルバムにおけるテーマを思いつくに至ったのかもしれないね。

—今作のレコーディングに際して、東ロンドンに自分たちのスタジオを建てたそうですね。その際にMatthew Twaitesという人物の協力を借りたそうですが、彼は一体どんな人物なのでしょうか?

Blaine:The Electric Soft Paradeっていうバンドのベーシストでもあるんだけど、長い付き合いのあるぼくらの友人もであり、義理の兄弟みたいな感じのやつなんだ。
アルバムを制作するにあたって、過去の経験を踏まえるとやっぱり自分たち以外の人間がそこに立ち会ってくれて、客観的な意見を言ってくれるっていうことがとても重要なんじゃないかと思ってね。もちろん技術的な面でのサポートっていう意味もあるし。

Jack:彼の音楽的趣向にはぼくらみんな全幅の信頼を置いているんだ。っていうのも、彼はほとんどの音楽に対して否定的でね。何を聴かせても大概気に入ってくれないんだ(笑)。
だから、そんな彼が「良い」って言ってくれるような音楽なら、それはもう最高に素晴らしいってことになるだろ?(笑)

Blaine:あとはそういう人物が制作に際して近くにいてくれると、バンド内で揉めて話がこじれるようなこともなくなるし、逆に敢えてメンバー内で議論させて、それを良い結果へと導いてくれるようなこともしてくれるんだよね。
あと、そういうスタジオを持ったっていうことで、自分たちの今後の作品制作における拠点を築けたっていうのもあるし、今後は他のバンドのプロデュースみたいなこともできるようになるかもしれない。自分たちのスタジオを持ったことによって、ぼくらのミュージシャンとしての活動の幅が広がるかなって思うんだ。Mystery Jets以外での活動も、最終的には必ずバンドに還元されると思うし。

—Mystery Jetsは今作に限らず、これまでの作品でも毎回それぞれ違ったコンセプトのようなものが明確に存在しているように感じるのですが、そういったコンセプトや、それが生じるに至るアイディアをメンバー内でどうやって共有しているのかを教えていただけますか?

Blaine:実は毎回完成するまで、コンセプトみたいなものって全然見えていないんだよね。コンセプトを決め、それに沿ってアルバムを作っていくのではなく、僕らの場合まず状況や環境を作って、その中でアルバムを作ってみるっていうやり方なんだ。だから完成するまではどういったものが出来上がるのかわからない。今回は自分たちのスタジオっていう環境を作って制作に臨んだけど、もしかしたらもっとガレージ・ロックなアルバムが出来上がったかもしれない。でも、今作がこういうアルバムに仕上がった要因としては、ぼくらがそれぞれ今までに至るまでの経験が発想の元になって、それが反映された結果なんだと思う。
まぁ今回に関しては確かに制作に入る前から“宇宙”っていうのを意識していたっていうのはあるけど、それは文字通りの宇宙で。実際に完成したアルバムが表現しているのはさっきも言った通り、内なる宇宙というか。そしてそっちの方が、本物の宇宙よりももっと深いんじゃないかっていう風に思うようになったよ。

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Mystery Jets / Curve of the Earth (jake-sya)(HSUY10058)

Mystery Jets『Curve of the Earth』
Release Date:2016/1/15(Fri)
Label:Caroline / HOSTESS
HSU-10058

Tracklist
1. Telomere
2. Bombay Blue
3. Bubblegum
4. Midnight’s Mirrior
5. 1985
6. Blood Red Balloon
7. Taken by The Tide
8. Saturine
9. The End Up
10. Spiralling (日本盤ボーナストラック)
11. Kickass (日本盤ボーナストラック)
※日本盤はボーナス・トラック2曲、歌詞対訳、ライナーノーツ付
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