FEATURE

Interview / Dornik


「自分がMichaelやPrinceと一緒に語られる価値のあるアーティストだということを、一生懸命自己証明する」ーDornikインタビュー

2015.11.30

Mark RonsonとBruno Marsがタッグを組んだ「Uptown Funk」の大ヒットにも象徴されるように、ソウル、ファンク、ヒップホップと様々なサイドから賑わいを見せているブラック・ミュージック界に水星の如く現れた、サウス・ロンドン出身のシンガー・ソングライター/プロデューサーの、Dornik(ドーニク)。もともとドラマーとしてJessie Wareのバックバンドに参加していた彼は、趣味で制作していたデモ音源がJessieの耳に止まったことがきっかけとなり、DisclosureSam Smithらを輩出したPMRからデビューが決まったという経歴の持ち主だ。

 セルフタイトルとなったデビュー作の『Dornik』は近年のトレンドとも言える、内省的なR&Bサウンドをベースに、往年のMichael JacksonやPrinceを彷彿とさせる歌声や、Frank OceanMiguelよりもキャッチーでポップ寄りなメロディが特徴的なブラックミュージックへのリスペクトが溢れた一枚となっている。

 今回SpincoasterはHostess Club Weekenderで初来日を果たした彼に、ライブの翌日にインタビューを敢行。彼の生い立ちから制作のインスピレーション、将来への展望までを語ってもらった。是非ご一読いただきたい。

Interview:Hiroki Toyama
Photo:Takazumi Hosaka

Dornik


ー初来日ということですが、日本はいかがですか?

すごく楽しんだよ。もう少し時間があれば、色々なところを見て回れたんだけどね。もうちょっと滞在したいよ。

ー昨日のライブは15分ほど巻きで終わってしまいましたが、何か理由があったのでしょうか?

実はあれは秘策なんだよ(笑)。
みんながもっと観たいと思ってくれたら、また日本に戻ってこれるからね。

ーなるほど(笑)。
ではまずはあなたのソロ・ミュージシャンとしてのキャリアをお訊きしたいと思います。
あまたが趣味で録り溜めていたデモ音源が、ドラマーとしてサポートしていたJessie Wareの耳にとまったことが、PMRからのデビューの経緯らしいですが、そのプロセスについてもう少し詳しく教えてください。

Jessieとやることが決まって、リハーサル2日目のことだったんだけど、彼女と世間話をしているときに「ドラム以外にも何かやる?」と聞かれたんだ。「実はプロデュースもしているよ」ということを伝えたら「聴かせてよ!」と言われたから、彼女にデモを渡して。そしたら特にボーカルを気に入ってくれたみたいで、「誰が歌っているの?」って聞かれたから、僕が歌っていることを伝えたら、彼女がレーベルに連絡してくれたみたいなんだ。それで後日レーベルから「シングルを出す気はないか?」と言われて、「Something About You」をリリースしたんだ。そこからトントンとアルバムの話が決まった……って感じだね。

https://soundcloud.com/dornik/dornik-album-sampler

ー作曲活動自体はいつ頃から始めたのでしょうか? 何か明確なキッカケなどはあったのでしょうか?

15歳くらいの時から作詞作曲はしていたんだけど、それ以前からプロデュースという形で音作りはしていたんだ。だからなんとなく頭のなかで鳴っている音や歌はあったりすると、友達で歌える人に歌ってもらったりしてたんだけど、それだとどうしても自分のイメージ通りにはならなかったんだよね。だから人には聴かせずにこっそりと自分で歌ってたんだ。音楽をやっている従兄弟には唯一聴かせていて、「お前結構歌えるじゃん!」って言われたんだけど、人前で歌うのは自信がなかったんだよね。だけどドラマーとして活動していくうちに経験した数々のセッションや、Jessieと出会ったことがきっかけとなって、人前でも歌うようになったんだよ。

ーパーソナルな質問になりますが、あなたのプロのミュージシャンになるまでの遍歴や音楽体験についてお聞かせ下さい。

小さいころからレゲエ、ソウル、ジャズ、アフリカ音楽、クラシックとなんでも聴いていたよ。父親がDJをやっていたから、父親にくっついて行ったパーティーでスピーカーの隣で寝てしまうような子供で、常に音楽に囲まれて育ったんだ。あとは楽器がなくても鼻歌を歌ったり、物を叩いて音を出すのが好きだったね。従兄弟に何人かミュージシャンがいて、ドラムやベースをやっていたんだけど、彼らの楽器をいじったりね……そういう感じで13〜14歳くらいから自分でトラックを作り始めて、15歳から作詞作曲をスタートさせた。あとは僕には「教会」というバックグラウンドがあって、ドラムも最初は教会で始めたんだ。教会は僕にとって音楽を覚える場所だったんだよ。

ーあなたは現在24歳ですよね。10代の頃はどんな音楽に夢中になっていましたか?

UKガラージやヒップホップを聴いてたね。特にグライムに関してはあの辺のビートが大好きだったし、友達でMCをやってる奴もいたから一緒に作ってたりもしてたよ。ただその一方でソウル系の音楽も好きで作ってたりもしたし、ロックも好きだったから、僕の場合影響源はかなり幅広いんじゃないかな。

ーデビュー・アルバムの制作過程と、制作環境についてお聞かせください。

ベッドルームだよ(笑)。
基本的にベッドルームで書いた曲が多くて、レーベルと契約してアルバムの制作が決まってからはウエスト・ロンドンのスタジオで完成させたんだけど、「Something About You」に関してはレコーディングもベッドルームで完結させたからね。

Dornik

ーアルバムを完成させるのにどれくらいの時間がかかりましたか?

あんまりかかってないと言いたいところなんだけど、複雑な過程があってね……。曲のアイデア自体はJessieとツアーを回る前からあったモノがほとんどで、デモを録ってハードディスクに保存していたモノが元になっているんだ。その後はJessieとのツアーがあったから、自分の作品に専念する時間が取れなくて、アルバムを完成させるのには結構時間がかかったんだよ。だから曲を書き始めてからアルバムを完成させるまでは4〜5年かかったけど、実際にスタジオで制作作業をしたのは1年ぐらいかな。

ーデビュー・アルバムをセルフタイトルにした訳は?

単純に名前を覚えてほしかったからだよ。よくある名前ではないからね。このアルバムで僕の名前を覚えてもらうには丁度いいと思ったんだ。

ーDornikというあなたの名前の由来は、両親の名前をミックスしたものらしいですね(DrothyとNick)。 先ほど父親がDJをしていたとおっしゃってましたが、あなたの両親はどのようなお方でしたか?

父は音楽が大好きで、子供の頃は父が隣りにいると、とにかく「細かい所を聴け」ってよく言われたんだ。ベースラインやドラムの鳴り方、コード進行とかね。子供の頃はそれがうるさくて嫌だったんだけど、今になってみるとありがたいことだったと思うよ。もちろん母も音楽好きで、母方の親族に音楽関係の人が多くて。なかにはアフリカ音楽の”ハイライフ”というジャンルを始めたうちの一人と言われてる人もいて。だからそういった関係の血も僕には流れてるみたいだね。シエラレオネ共和国の人なんだけど、マーチングバンドで演奏もしているんだ。

ーアルバム全体を通して、コンセプトのようなものはありますか?

コンセプトというものは特にないかな。ラブソングがたくさん入っているっていう意味ではみんなが共感してくれる部分は大きいかもしれないけどね。曲を書いたとき、僕はすごく若かったからこれといって訴えたかったことがたくさんあったわけではないんだ。ただ、「Strong」という曲に関しては友達にすごく苦しんでいる人がいて、その人に元気を出してほしいと思って作った。また、辛い思いをしている人にインスピレーションを与えられるような曲になってほしいという思いもあったよ。

ー曲を作るときに、どのようなものからインスピレーションを受けますか?

なんでもインスピレーションになり得るよ。もちろん聞いてた音楽に触発されて、自分が作る音楽に自ずと影響が出てくるとはあると思うけど、インスピレーションの源は音楽だけではないよね。例えば、旅や環境の変化とか、初めて行く場所に車を走らせた時の風景がヒントになる時もあるんだ。「Mountain」という曲があるんだけど、あれは家族を訪ねて島に行った時に見た風景がメロディやリフになってできた曲なんだよ。あとは映画のような映像作品、写真の色合いなんかにも影響を受けるよ。

ー「80年代生まれのMichael Jackson」と評されることもあるように、あなたの歌はMichaelPrinceに通じるものがあります。それについてはどう思いますか?

Michael JacksonもPrinceもどっちも大好きだし、二人と同じ文脈の中で自分が語られるのはすごく嬉しいことだけど、同時にちょっと怖いところもあるよ。Michael Jacksonは自分にとってのナンバー1だし、Princeも偉大な存在だからね。自分がそういう人たちと一緒に語られる価値のあるアーティストだということを一生懸命自己証明するようなものなんだと思うよ。

ーバックバンドでドラムを叩いたり、シンガーとしてデビューしたりと、マルチプレイヤーであることが窺えますが、今後ミュージシャン/アーティストとしてどのような姿を目指していますか?

基本的には自分でしかできないことをできるミュージシャンになりたいね。やっぱり楽器を扱うということは自分にずっとついていくことだと思う。この先は成長が窺えるミュージシャンでいたいかな。常に学ぶべきことはあるし、より上手くなることを目指してやっていきたいね。

ー理想としているミュージシャンはいますか?

D’Angelo。彼は文句なしの天才だね。あとはStingやStevie Wonderかな。

ー昨日のライブを観た日本人のお客さんから、「D’Angeloみたいだった」という感想も挙がっていました。

ハハハ(笑)。
それはクールだね。何年か前に彼に会う機会があったんだけど、すごくいい人だったよ。

ーここ数年でIndie R&B、Alternative R&B、PBR&Bという言葉が生まれたことにも象徴されるように、Frank OceanやMiguel、The Weekndのような内省的なR&Bが主流になりましたが、あなたの曲には明るくキャッチーなものも目立ちます。内省的な部分とポップな部分のバランスについてはどうでしょうか?

バランスというものは特に意識していないね。あくまで自然な成り行きで出来たものだから。ぼくは彼らの曲が大好きだし、それぞれ素晴らしいことをやっていると思う。でも、彼らは彼らの道を行っているし、ぼくはぼくでやるべきことをやっているだけだと思うよ。

ーではMark RonsonとBruno Marsによる「Uptown Funk」や、Daft Punk「Get Lucky」の大ヒットに象徴されるような新世代によるファンク〜ソウルの再評価、そしてRobert Glasper以降の新世代ジャズなどについてはどう思いますか? 刺激を受けますか?

Robert Glasperは聴いているよ。Bruno Marsは素晴らしいし、(「Get Lucky」に参加している)Nile Rodgersはレジェンドだよね。もちろんDaft Punkも既にその域だし。
ただ実はそういった音楽は自分ではあまり熱心には聴いていないんだ。話に聞いてる程度で、実際に曲も聴いたことはあるし凄いなとは思うんだけど、僕は僕のバブルの中で生きているからね(笑)。
だから、あえて聴こうとは思わないかな。

ーここ1年でブラック・ミュージック界隈では、先程おっしゃったD’Angeloの『Black Messiah』とKendrick Lamarの『To Pimp A Butterfly』が最も大きな話題になったと思います。彼らの曲には強いメッセージ性がありますが、あなたは曲にどのようなメッセージを込めますか?

確かにすごいメッセージ性があるよね。さっきも言ったように僕のアルバムの曲はほとんど10代の時に作ったモノなんだけど、それから現在に至るまで、何年か生きてきて考えたことや思うことは色々あるんだ。だから、次のアルバムでは自分なりの主張がもっと出てくると思う。今の世界情勢を踏まえると、尚更ね。

Dornik

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Dornik_Album

Dornik 『Dornik』
Release Date:2015/10/23
Label:PMR / Hostess
Price:¥2,100+Tax
*日本盤はボーナストラック(4曲)、歌詞対訳、ライナーノーツ付

Tracklist:
1. Strong 
2. Blush 
3. Stand In Your Line 
4. Shadow 
5. Second Thoughts 
6. Mountain
7. Chain Smoke 
8. Something About You
9. Drive 
10. On My Mind
11. Rebound**
12. Drive (BadBadNotGood Remix)**
13. STAND IN YOUR LINE (JUNGLE’S EDIT)**
14. Drive (Kito Remix)**

**=日本盤ボーナストラック


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