INTERVIEW

中小企業

待望の新作リリースで認知度を拡大させている中小企業のこれまでの道のり、そして「仕事」と「音楽」の関係性を語るロング・インタビュー

主催であるTSUBAMEを擁するTOKYO HEALTH CLUBが老舗レーベル〈Manhattan Records〉へと移籍し、所属アクトのZOMBI-CHANGも〈BAYON PRODUCTION〉へ移籍、その他MCperoやJABBA DA HUTT FOOTBALL CLUBなどといったアクトも続々とフィジカル盤をリリースし、様々なイベントへの出演も果たすなど、その勢いは衰えるどころかますます加速するばかりのネット・レーベル、〈OMAKE CLUB〉。

そんな〈OMAKE CLUB〉のダークホースとも言えるのがこの中山信一(Illust & MC)と小山秀一郎(Art Direction & Track Make)からなるヒップホップ・ユニット、中小企業だ。2013年末にフリーEP『CONCHAS!』をリリースし、2015年6月には初のフィジカル盤となる1stアルバム『COOKIE』をリリースした彼らは、その一癖も二癖もあるジャジーかつメロウなトラックと、ステレオタイプなヒップホップとは遠くかけ離れたスタイル&アティテュードで、コアなリスナーからの支持を獲得。しかし、ライブ活動の少なさや本人露出の少なさから、同レーベルの他アクトと比べても、謎多き存在となってしまっている感は否めない。

そんな彼らが先週、JABBA DA HUTT FOOTBALL CLUBと共に待望の2ndアルバム『NESS』をリリースした。昨年、数え切れないほどのライブ数をこなし、その勢いや熱量を上手く落とし込んだJABBA DA HUTT FOOTBALL CLUBの新作とは対象的に、緻密に音のレイヤーを重ねるようにして作り込まれた本作は、〈OMAKE CLUB〉と共にその所属アクト=中小企業自信も飛躍的に成長を遂げたことを確信させてくれるような一枚だ。

今回はそんな中小企業のふたりにインタビューを敢行。バックグラウンドやこれまでの経緯、そして本業である仕事と音楽活動における距離感、関係性など、様々なことを語ってもらった。作品にも滲み出ている彼らふたりのパーソナリティが本記事から伝わらえば幸いだ。

Interview by Takazumi Hosaka


―2ndアルバム『NESS』のリリースおめでとうございます。まず、今回のインタビューでは未だにあまり情報が出回っていない中小企業のパーソナルな情報からお訊きできればと思います。まず、おふたりの出会いと結成について教えて頂けますか?

中山:元々はふたりともTOKYO HEALTH CLUB(以下:THC)のメンバーとかと同じ多摩美術大学のグラフィック・デザイン科出身なんです。小山がTHCの4人と同級生で、僕は学年的には一個下の代なんですけど同い年で。なので、まぁ……普通に大学で出会った友達っていう感じですね。

小山:そうですね。

中山:変わったことと言えば……一緒にカフェをやったりしてたよね。

―カフェを?

中山:そうです。ちょうど多摩美術大学の隣に造形美術大学っていう美大があって、その2校から10数人集まって、相原っていう本当田舎の駅の近くに自分たちでslow boatっていうカフェを経営していて、そこにTHCとか、YOSAくんのMVとか撮ったヤスダタカヒロ君とかも初期メンバーで参加していたんですけど、そこに僕らも入ってて。

小山:学生たちの間でスタッフも代々受け継ぐ形で4〜5年続いてたんですけど、2014年末に閉店しちゃいました。元々あそこの地主みたいな方が、美大生を応援するような形でサポートしてくれて始まったプロジェクトだったんです。自分たちで内装や施工もやって、壁の色一つ決めるのも話し合ったりして。作品の展示とかライブとかもやってましたね。

中山:そこで出会ったんですけど、当時はめちゃめちゃ仲良かったとかでもないんですよね。

小山:そうそう。学生時代はそんな感じだったんですけど、じゃあなんでそんなふたりが今こうして一緒にやってるかって言うと、その、運命の日みたいなものがありまして(笑)。
僕が大学卒業後に、中山くんの卒業制作展を見に行ったんです。そこでもう「天才だ……!」ってやられてしまって。イラストもめちゃくちゃいいし、表現方法も素晴らしいので、僕から声を掛けたんです。なにか一緒にできないかなって。

中山:告白みたいな感じになってますけど(笑)。

小山:その時ってZINEとかが全盛期でめちゃくちゃ流行ってたんですよ。なので、最初は「フリーペーパーみたいなの作るか」っていうような話もしたんですけど、「なんかもっと実験的なことしたいね」みたいな話になり。色々話してるうちに、最終的にはお互いの共通点が音楽だったので、そこに着地しました。

中山:僕も一応DJは遊びでやってて。別にそんなクラブでバリバリやってるっていうよりかは、ただ普通に好きな曲を流すような感じだったんですけど。で、ヒップホップはお互い世代的にも好きだったので、自然とそっちの方向に話が進み。ただ、最初はスチャダラパーとか、有名な人たちのジャケットとかアートワークを僕らでリメイクと言うか、デザインしてみようっていう話も挙がってたんですけど、何かそれも味気ないなってなり、どうせやるならゼロから自分たちのオリジナルを作っていこうって。

小山:せっかく自分たちでプロジェクトをゼロからスタートさせるんだったら、僕たち自身がワクワクするようなことをやらないと意味がないなって思ったんです。なので、結局は自分たちでアートワークから音まで全てを手掛けてみようっていうことでこの中小企業がスタートしました。

中山:僕が大学院に入る時だったので、ちょうど5年前の今頃ですね。

―そこから最初の音源を〈OMAKE CLUB〉よりリリースするまでにはかなり期間がありますよね。

中山:かなりありますね。結局、言ってしまえばノリというか勢いで「ヒップホップやろう」ってなったんですけど、音楽制作の経験がないので、何もわからなかったんです。その時既にTSUBAMEくんたちとも友達ではあるけど、もちろん〈OMAKE CLUB〉もまだ出て来てないし。当時はまだお互い実家住まいで、僕は横浜、彼は横須賀なんですけど、毎週日曜日に彼の実家に遊びに行ったり、カラオケしに行ったり(笑)。

小山:カラオケでラップの練習をね(笑)。

中山:トライブ(A Tribe Called Quest)とかのトラックを流して、フリースタイルの練習したりとか。あとはしまむら楽器にふたりで行って「ヒップホップがやりたいんで、ヒップホップに必要な楽器を教えて下さい」って(笑)。

小山:で、MPCを買わされたり(笑)。

中山:HARD-OFFに行ってキーボードを買ってみたり。本当にそういう活動だけで最初の一年ぐらい過ぎていきましたね。全くのゼロからだったので。でも、そういうのが単純にすごい楽しかったんですよね。

―締め切りとかもないですもんね。

小山:ただただ週末に活動する楽しい部活みたいなね(笑)。

中山:誰からも知られていないのに、ふたりだけでずっとやってたので、最初は本当にロクでもないサウンドしかできなくて。ラップも最初はふたりでやってて、トラックもふたりで作ってっていう形でやってたんですけど、一年くらい経つと、こっちはトラックが得意でこっちはラップが得意っていう、割と特性がハッキリしてきて。そっから今のような分業制が確立してきて。その頃にはボツ曲みたいなものが100曲ぐらいできてたんですけど、もちろん誰にも聴かせず。あ、いつも晩御飯をご馳走になっていた小山のお母さんにだけは唯一聴いてもらってましたね。で、「ちょっとよくわからない」って言われるっていうのを延々と繰り返してて(笑)。
確かそのタイミングで〈OMAKE CLUB〉が動き始めて。当時はまだ今のようなサイトではなかったですけど、THCの最初の「サマースティルヤングボーイ」って曲が公開されてて。その時に初めて彼らの活動を知って、似たようなことを、身近な人がやってる。しかも曲もすごいカッコイイっていうことでかなり興奮しましたね。ただ、正直自分たち自身がそこに加わりたいっていうのは、あまりにもおこがましいというか、レベルが違いすぎるって当時は思っていて。TSUBAMEくんはMYSS(DEXPISTOLS主宰レーベル〈ROC TRAX〉に所属していたダンス・ミュージック・ユニット)で有名で、フジロックとかでもDJやっていたような人だったので。横須賀でボツ曲をひたすら作ってる僕らとは次元が違うなって。なので、別に彼らにはこちらから何も言うことなく活動してたんですけど、どっかの風の噂か何かで僕らの活動が耳に入ったらしく、「とりあえず聴かせてよ」っていう話になって。

中山:その時はまだグループ名すらも決めてなかったので、僕が中山、彼が小山なのでもう中小企業でいいかって、取り急ぎな感じで作り。それでTSUBAMEくんに聴かせたんです。全部で10曲ぐらい投げたんですけど、そしたらら何曲か引っかかってくれたみたいで。それからちゃんと作って、1回EPを出してみようよって話をくれて。それで3年前に4曲入りのフリーEP『CONCHAS!』を出したっていうのが、一応外から見た中小企業としての出発点ですかね。

―同じ大学の友だちだったTHCの活動は、リリースされてから知ったと。

中山:完全にリリースされてから知りましたね。

小山:「あー!」と思いましたもん。すごい近いところで、同じようなことをやってるっていう。

中山:レベルは違いすぎたけどね(笑)。

小山:でも、水面下での活動のタイミングが同じ過ぎて、かなりびっくりしましたね。

―大学時代にTHCのメンバーと音楽の話とかはされていたのでしょうか?

小山:いや、それがしてないんですよね。普通に話す仲だったんですけど、いつも一緒にいるグループではないというか。

中山:全然してないよね。僕はまあ学年が1個下なんで、彼らは一応先輩に当たるので。もちろん音楽の話とか、最新のヒップホップ事情とか、そういうのを話す機会も全くなく。普通の生活の中での話くらいしかしてなかったので、今一緒にこんなにガッツリと、近い距離で一緒に音楽をやってるっていうのは本当に不思議ですね。

―ひと言で「ヒップホップ」と言っても色々あるわけですが、その中でもTHCと中小企業は参照点のようなものも近い気がしています。もちろんそれは同世代というのも大きいと思いますが。

中山:どうだろう。やっぱりTHCも僕らもリアル・ハーコーっていうか、ストリート育ちではないのでどうしてもアウトプットする方法で考える部分が近いというか。僕らみたいないわゆるヒップホップ的なアウトサイダーな部分を体験してない人間が、ヒップホップをやるっていうことに対するジレンマというか。最初期のボツ曲なかは本当にブレブレで、めっちゃ無理してリアル・ハードコアみたいなことを言ってみたり、逆にすんごいナヨナヨした感じのも作ってみたりして、いろいろやってみたんです。そういうのも経て今のスタイルに落ち着いたんですけど、結局当たり前のこと、僕らにとってリアルなことしか言えないっていう結論に行き着いて。今回の2ndアルバムも、結構当たり前のことしか言ってないんですよ。

小山:っていうか、逆にそれがめっちゃいいなって思う。

―逆にその、各々のリアルというか、背伸びをしない等身大の表現。それが突き詰めてくとヒップホップになるっていうロジックもありますよね。

中山:そうですね。結局はそれが健全な形なんじゃないかなと思って。今作にはマッサージの曲(「Massage Time」)とか入ってるんですけど、それもただ単に僕がマッサージが好きだっていう気持ちをリリックにしただけの曲で。MVが公開された「FUGA」だったら現実逃避の話とか、あまりヒップホップでは扱わないようなテーマも積極的に取り入れてやっていきたいって思ってますね。そこはたぶん、THCも同じような姿勢だと思いますね。

―では、おふたりの音楽遍歴みたいなものを教えてもらえますか? 遡るところまで遡って、なんだったら原体験のようなところから。

小山:僕は完全にThe Beatlesですね。僕はもうめちゃくちゃ影響を受けていて。

中山:ヒップホップ聴いてなかったんですよ、彼は元々。

小山:元々中学の時に3年間ずっとBeatles漬けで。実家にもダンボールで何箱もあるぐらい資料があって、Paul McCartneyのライブも観に行ってますし、そこが自分にとっては基本的なベースになっていて。もちろん今振り返れば、その途中ではハイスタみたいなメロコアとか、ちょっとヒップホップとかも聴いていた時期もあるんですけど、原体験としてはBeatlesが圧倒的にデカくて。あの、実験性の高い部分というか。

―後期ら辺の。

小山:そうですね。その感じは未だに自分が曲を作る上では大きく影響されている部分で。僕の制作データをTSUBAMEくんに見せた時、「おもしろい組み合わせで作ってるね」みたいなことを言われたことがあるんです。このサンプリングとこのサンプリングを繋げてるんだって。そういうコラージュと言うか、どこか新しい組み合わせみたいなものは結構意識してしまうんですよね。基本的にサンプリングをそのまんま使うみたいなことはなく、むしろそれを一旦壊して、新しいものに作り上げるというか。

中山:だから、いわゆる90年代の、例えばDJ Premierみたいなトラックだけだと、僕らは物足りなく思っちゃうんですよね。切ったり貼ったりして、ちょっと外したり、ギリギリのラインで留めたりっていうのが一番ちょうどいい塩梅で。最初期のボツ曲の時とかはそれこそ壊れすぎちゃって、曲になってないっていうか、アンビエントみたいになってしまってましたけど。だから、小山くんのルーツがThe Beatlesっていうのは納得だなって僕は思いますね。

小山:あと、BECKとかも好きなんですよね。初期の頃のごちゃ混ぜ感というか。

中山:あ〜、わかるわかる。

小山:わけわかんないタイミングで、全然違う音がドーンって入ってきたりとか。なんかそういう暴力性みたいなものが結構好きで。だから今回のアルバムもわりとメロディとかラップに寄り添いつつ作ったつもりなんですけど、そういう異物感みたいな要素も所々に入れたつもりですね。

―なるほど。では、中山さんの音楽遍歴はどうでしょう?

中山:僕はそんなにガッツリ音楽にハマったっていうことはあまりないんですけど、一番最初にガツーンときたのはJamiroquaiですね。中学生の時に「Canned Heat」がすごい流行ってたんですよ。それまでは本当に19とか、いわゆるテレビの音楽番組のランキング上位のものを聴いてる、みたいな感じで、洋楽も全然聴いてなかったんですけど、Jamiroquaiはなぜかハマっちゃって。それから「Virtual Insanity」が入ってる『Travelling Without Moving』と、「Canned Heat」が入ってる『Synkronized』を永遠に2年間くらい聴き続けるっていう期間があって(笑)。
その後、中3くらいでどうやらJamiroquaiはアシッド・ジャズっていうジャンルらしいぞってことを誰かに教えてもらって、そっからフュージョンとかジャズ、あとはちょっとダンス・ミュージックにも行って。そこでエレクトロというか、Daft Punkにも出会いっていう感じですね。

―おふたりともヒップホップが出てきませんね(笑)。

中山:そうなんですよね(笑)。ただ、ヒップホップを聴く機会も当然あって。Dragon Ashとかは聴いてたんですけど、当時自分の中ではJamiroquaiとは別ベクトルのものとして聴いてましたね。

―流行りの音楽として?

中山:はい。「Grateful Days」が中2の時にすごい流行ってたんですよね。なので、ZEEBRAとかラッパ我リヤとかは一通り聞いていて。あと、RIP SLYMEはもちろん聴いてましたね。

中山:あとは高校から多摩美に入るまでの浪人期間で結構ブラックミュージックを聴くようになっていきましたね。というのも、美大受験の予備校にすごいヒップホップ好きなBボーイがいて。そいつは10年以上前から駅前とかでフリースタイルしてるような生粋のヒップホッパーなんですけど、彼が僕に大量のCDを貸してくれたんです。2PacとかPublic Enemyとか王道辺りからそれこそジャジーなやつまで。そこでいわゆるヒップホップにもかなり色々な幅があるというか、多様性があることを知ったんですね。元々Jamiroquaiが好きで、ジャズとかも聴いてたんで、そこから自然とジャズ・ヒップホップを聴くようになっていきました。当時はNujabesとかも流行ってましたし。あ、あとは高校の時にブレイクダンスもかじってたので、そこでもヒップホップの文化を色々吸収することが出来たと思います。ダンス・ミュージックの流れでFatboy Slim、The Chemical Brothers、Daft Punk、Basement Jaxxら辺は全部好きでしたし。

―いわゆるビッグ・ビート系というか。

中山:ビッグ・ビートって曲によってはラップ的な要素も入ってくるのも多かったので、それを聴いてると自然とラップに対する経験値みたいなものが上がっていくんですよね。最初は全部呪文みたいに聞こえてたラップでも、上手い下手とか、住んでる地域での言い回しの差とかがわかってくるとおもしろいんですよね。そういう流れで、大学入る頃には普通に「ヒップホップ好き」って言えるぐらいにはなってた思いますね。

−こういう自身の音楽ルーツ的な話って、おふたりでしたことありますか?

中山小山:ないです(笑)。

中山:作り始めてからは、それこそ参考資料とかをお互い共有しないといけないので話したりはしましたけど、ルーツ的な部分は話してないですね。でも、基本的にトラック作ってラップしつつも、目標というか目指すべきところっていうのが本当に見えてなくて。真っ白なキャンパスにゼロから絵を描くというか、グラフィックを作るっていう感覚に近かったですね。

小山:最初はそうやって暗中模索しながらなんとなく作ってたんですけど、途中からLAのBlu & Exileっていう人たちの曲に大きく影響されて。「こういう怖くない素敵なヒップホップもあるんだ」みたいな感じで、僕にとってはかなり大きな存在でしたね。

中山:Blu & Exileっていうユニットは、Exileっていうトラックメーカーと、Bluっていうラッパーからなるふたり組で。たぶん年齢的にも僕らのちょい上ぐらいで、すごいメロウでジャジーで、トラックとラップもカッコイイんですよ。別にハードコアじゃなくて普通の人っていう感じなんですけど、ラップも上手くて。そこで初めて「自分たちが目指すべきヴィジョンに近いのはこれじゃないか」っていうのを見つけることができて。トラックとかも思いっきり真似したりして、試行錯誤していくなかでできたのが「スワロー」っていう曲で。

―1st EP『CONCHAS!』収録の。

中山:その「スワロー」が、本当に初めて「他人に聴かせられるかも」って思った曲なんですよ。そのキッカケがBlu & Exileだったっていう。

小山:僕は今デザインの仕事をやってるんですけど、曲作りも仕事も似ていて、ゼロから生み出していくっていうことは苦手なんですよね。最初はやっぱりある程度のベースが必要というか、色々な要素を組み合わせたりして作っていくのは得意なんですけど。

―それでその「スワロー」も含めたデモをTSUBAMEさんに送ったと。

中山:そうですね。僕ら自身は「やっといいのできた!」って思ってるけど、既に音楽の世界で活躍してる人たちはどう思うんだろうなって、恐る恐る渡したのは覚えてます。そしたらTSUBAMEさんも「いいね」って言ってくれて、EPを出せるってなったんで、そこでかなり自信がつきましたね。

―ちなみにそのEP『CONCHAS!』を2013年末にリリースし、そのおよそ1年半後となる2015年6月には1stアルバム『COOKIE』をリリースします。この初のフィジカル盤リリースの経緯というのは?

中山:EPをフリーで出して、評判も悪くなくて。それでTSUBAMEくんの方から「CDを1枚出してみないか」っていう話をもらい、そこで提示されたのがそのスケジュールで。今までボツになった曲も改めて精査して、練り直してっていう形で、結構パンパンなスケジュールで作ったのを覚えてますね。すごいお尻叩かれたよね? まぁ今回もそうだったけど。

小山:納期があるなかで楽曲を制作していくっていうのが初めてだったので。

中山:なので『COOKIE』も「マルジェラ」、あと「伊香保温泉 -湯巡り旅路-」の2曲は本当にギリッギリで作った曲で。元々温めていたとかではなくて、あと2曲いついつまでに入れないともう間に合わないってなって、もう大急ぎで作ったんですけど、結果的にその2曲が一番評価が高いっていうか、「好き」って言ってくれる人が多くて。

小山:「伊香保温泉」は今でも完成した瞬間を覚えていますね。彼とスカイプで「どうしようどうしよう」って相談しながら、「今作ってみよう」ってその場でババっと作って。

中山:彼がサンプリングしてるのを聴いて、「今のサンプリングのところ良いと思う」とか意見をスカイプで言って。それを1回書き出し、mp3で送ってもらって。30分だけスカイプ切って僕のラフのラップを入れて送り直して、またスカイプで意見交換する、みたいなのを深夜3時ぐらいにやってできた曲です。

小山:だから、良い曲は意外とすぐできるし、逆にダメなものはいくら粘ってもダメっていうのを学びました。

―なるほど。そこから今回のアルバム・リリースまでは、およそ2年という期間が空きましたよね。その間の中小企業としての活動は?

中山:僕らはTHCとかジャバ(JABBA DA HUTT FOOTBALL CLUB)とかと違って、あんまりライブとかもしてないんですよね。なので、基本的には音源制作を進めていましたね。たまたまお話を頂いたYCAMという山口情報芸術センターのCMソングを作ったりっていう課外活動もしたり。だから「(中小企業は)外にあまり出てこなくて、存在が謎だ」ってよく言われるんですけどね(笑)。
今作はちょうど去年の今頃くらいに、TSUBAMEくんが「そろそろ2枚目どう?」って連絡してきてくれて、そこから丸1年ぐらいかけて作っていった感じですね。それでも今回もギリギリでしたけど。

―リリックに関してお訊きしたいのですが、中山さんはどのようなことを意識して書いているのでしょうか?

中山:最初の方にも言った通り、リリックは結局自分の体験、体感したことでしか書けないなって。僕は別に貧しい家庭でもなく、かといってめちゃめちゃお金持ちでもなく、普通に育ってきたつもりなんですけど、その普通っていうのも実はそれぞれの人にとっては特別なことで。さっきの「伊香保温泉」も、僕が温泉とか旅行が好きっていうだけの発想なんですけど、それがヒップホップかどうかは気にせずに、自分にとってのリアルで好きなことのみを綴っているつもりです。だから、エッセイを書いているような感覚に近いかもしれないですね。

―例えば「FUGA」や「NESS」でもそうだと思うのですが、どこか聴いてるこちらをリラックスさせるような、そんな雰囲気のリリックが多いですよね。

中山:そもそも自分が常にリラックスした状態でいたいっていう理由が大きいんですけど、「働く」ってことに対してもちょっと懐疑的な部分があるというか、みんな働きすぎなんじゃないかなって思ってる部分があって(笑)。
僕は基本的にだらしない人間なんで、周りを見るとみんなすごいしっかりしてて、負い目を感じてしまうときもあるんですよ。みんなちゃんと時間守るし、ちゃんと出勤して、文句も言わずに働いてって。そういうキッチリとしたところにリスペクトの気持ちがある一方で、でも、どうなんだろうっていう懐疑的な思いもやっぱりあって。めっちゃビシッとしてる人が、仕事から帰宅するなりスーツを全部脱ぎ捨てて、パンイチでビールを飲む、みたいな、僕はそういう気の抜けた一瞬がすごい好きなんです。外ではみんなすごいビシっとしてるけど、やっぱお前もおれと同じだよな、みたいな。だから温泉とかマッサージとか、そういう素が出る瞬間をよくリリックに書いてしまうんでしょうね。

―まさしくチルアウトですね。

中山:世間的には若干否定されるような、ダメな部分こそが愛しくて。絵も完全にそれをベースにして構築してるので、同じような感覚なんですよね、ラップもイラストも。

小山:でも、それは中山くんのラップや歌がのるからこそなんだと思うんですよね。結構僕の作ってるトラック単体でみると、結構イメージが違うと思う。

中山:そうだよね。意外とハードというか、ドープだよね。ゴリゴリなのもあるし。

小山:それを中山くんに投げてみると、ちょっと違ったニュアンスになって返ってくるんですよね。柔らかくなるというか、まろやかになるというか。それがおもしろいし、僕らの音楽のオリジナリティみたいな部分とか、ふたりでやる意味みたいなところに繋がってくるのかなって。

中山:マルジェラとかもそうだよね。

小山:普通にゴリゴリのラッパーに歌ってもらうよりも、僕のトラックは中山くんみたいなタイプに歌ってもらった方がちょっとおもしろいというか、ちょっとクリエイティビティを感じるというか。最近ではそういう風に客観的に見れるようにもなってきましたね。

―今おっしゃられたような中山さんの姿勢というか性格は、今回のアルバムのアートワークにも表れているような気がしますね。

中山:アートワークもあんまり「作り込みました!」っていう感じのものにはしたくなくて。どうしても美大出身なんで、すごいクオリティを高めるっていうことに意識がいきがちなんですけど、僕はそういうのはあんまり好きじゃないっていうか。なんか裏での努力が見透かされたようなことを言われるのが苦手で。

小山:ドヤ顔感が滲み出てるのが嫌なんだよね(笑)。

中山:イラストとかもそうなんですよね。「バカにしてんのか」っていうぐらいのゆるさで。でも、実は裏ですごい色々考えたりしているんですけど、パッと見た時にはそういう情報とか、力の入った感じが浮き出てこない方がいいなって個人的には思っていて。あとは『NESS』っていうタイトル自体も意味がありそうでない。ほぼ語感で決めてるので、具体的なものよりかは抽象的なものがいいかなっていうので、ああいうアートワークになりました。

―今作には「ALICE feat. kiki vivi lily」にて、〈OMAKE CLUB〉のメンバー以外では初のゲストとなるKiki vivi lilyさんが参加していますが、彼女との出会いは?

中山:これはTSUBAMEさんがある時「中小企業は誰か外部の人をフィーチャリングして一緒にやった方がいい」っていう提案をしてくれて。それで紹介してもらったのがKiki vivi lilyさんなんです。

―さすがプロデューサー気質というか(笑)。

中山:僕らだけでは中々生まれない発想だったと思います。ずっとふたりだけで作ってきたので。それで、僕がラップ部分を作った段階で、サビの部分をお願いする形でお渡ししたんですけど、予想を超える素晴らしいものが返ってきて、それで一気に花が咲いた感じがしましたね。本当に感動しました。

小山:あの曲もドラムとかは結構暴力的なんですよね。でも、ああいうガシガシなものに、Kiki viviさんのキレイな歌声が良い差し色になるのではないかと思って作りました。

中山:結構無骨なトラックだよね。それがKiki viviさんの歌声が乗ったおかげで洗練されて、都会っぽくなるっていう。今回のアルバムのなかでも異質な存在になっていると思います。

―今作の中で、制作プロセスで特に印象に残った曲を挙げるとするならば?

中山:僕は「Massage Time」が一番気に入ってますね。僕がマッサージに行ったっていうだけの内容を自分なりにシュールでちょっとおもしろいリリックにすることができたかなって。あまり韻も踏んでませんけど、耳障りのいいフロウができたんじゃないかと。誰も「いいね」って言ってくれないですけどね(笑)。

小山:僕はもう「車と雨」ですね。何でかっていうと、中山くんは結構このままでいいんじゃないかって思ってるかもしれないけど、僕はもうちょっとワーキャー言われたいんです(笑)。

中山:単純にモテたいっていう(笑)。

小山:そう(笑)。でも。「ワーキャー」っていうのは、要はもうちょっとわかりやすいレスポンスが返ってきそうなものに挑戦してみたいっていうことでもあって。まぁ、裏を言ってしまうとTSUBAMEくんから「最後にもうちょっとポップな曲もほしい」っていう要望もあったんですけど、それに上手く応えることができたんじゃないかなって。
この曲を作る前に、「ポップって何だろう」って考えたりしてたんですけど、その時にたまたま三代目 J Soul Brothersの曲を聴いてたら、自分の頭のなかでバチッと化学反応のようなものが起こった気がして。
やっぱりポップで売れてる音楽って、ちゃんと普遍的な魅力というか、人を惹き付ける要素っていうのがしっかりとあるんだなって。トラックも聴く人のことをすごい考えてるから、テンポとか盛り上げ方とかが巧みなんですよね。それをじっくり聴いてみて、「こういう風になってるんだ」っていう風に分析して、自分の中で一回咀嚼して。そこに、「中山くんが歌うんだ」っていうのを念頭に置いた上で、辿り着いたのがあの曲なんですよね。

中山:完成した時、めっちゃ喜んでたよね。あと、思い入れという意味ではやっぱり「FUGA」もね。

小山:「FUGA」は単純に長い時間かけて作り込んだ曲で、すごい緻密に仕上げていきました。中山くんはかなり好きだよね。

中山:最初にビートが上がってきた時に、過去300曲ぐらいのボツも含めた曲の中で僕は1位だなって思ったんです。「ついに僕たちも、このくらいできるようになったね」って。なので、僕もフックのサビからラップまで、かなり気合いを入れて作ったのを覚えていますね。

―そうやって気合いが入っているのに、リリックのテーマが「逃避」っていうところが中小企業の魅力ですよね(笑)。

中山:そうなんですよね(笑)。完全に僕の性格というか、キャラクターというか。

−最後に、〈OMAKE CLUB〉のみなさんもそうだと思うんですけど、日々仕事をしながらその傍らで音楽活動を行っていますよね。非常に現代的な在り方だと思うのですが、その「音楽活動」と「仕事」の距離感というか、関係性というものは、どのように考えていますか?

中山:なんでこんな大変な思いをしてCDとか出してるんだろってことですよね。仕事を圧迫してまでやることなのか、と。

―でも、ちゃんとしたCDを流通させてる時点で、それも仕事ですよね。儲かる儲からないは別として。

小山:そうですね。完全に仕事です(笑)。

中山:僕はイラストレーターっていうのが自分の職業としてあるので、ともするとラップ、音楽っていうのがどうしても副業になりがちじゃないですか。サラリーマンが土日にライブする、みたいな。でもせっかく2枚もアルバム出して、ライブもやって、時間もすごい費やしてるのに、それを「趣味」って割り切るのはもったいないというか。 実は1枚目出した時に、これでやめてもいいんじゃないかなって思った時期も正直あったんです。音楽作るのってすごい大変だし、形として1枚残せたからいいかなって。
でも、次第に音楽から僕らの存在を知って、最終的に僕のイラストレーターとしての面にも辿り着いてくれた人が出てきて。そういう人たちって普通にイラストレーターだけやってたんじゃなかなか出会えないひとたちだし、こういう自分を知ってもらう窓口みたいなものは何個もあってもいいのかなって。むしろ多ければ多いほど得だなって思うようになりました。音楽がキッカケで実際にイラストの発注があったり、逆にイラストがキッカケで音楽の仕事が増えたり、っていうのが一回体感できたんで、そこからはポジティブに、自分のイラストをジャケットとかMVにも使ったりするようにもなりました。正直、それまでは音楽やってることを隠してたんですけど、今は2枚看板の方が楽しい事故が起きる気がしていて。

■中山信一 オフィシャル・サイト:http://nakayamashinichi.tumblr.com/

―今は使い分けたりはせず、イラストレーターとしての自分と、ラッパーとしての自分が、自然な形で両方あると。

中山:そうですね、前は分離させてたんですけど、今は全部中山信一がやってることっていう感じでひっくるめてます。それまでは1本しかなかった楽しい「軸」みたいなものが、2本に増えたっていう感覚ですかね。だから、お得なんじゃないかなって。その分大変な時は大変ですけど。

―なるほど。方や企業に務めてらっしゃる小山さんはどうでしょうか?

小山:中山くんの話はすごい共感できます。僕の場合はサラリーマンなんですけど、今の時代だと一個の職業だけでやってくと結構限界があるんですよね。僕は元々グラフィックの、紙の広告をずっとやってたんですね。一番最初の会社ではいわゆるポスターとかを作ったりとかしていたんですけど、次に入った2社目ではインタラクティブ・コンテンツの企画・制作に携わらせてもらったんです。そうすると「紙もできるし、WEBの納品も出来ます」みたいに、単純にできることが2つになった。その時に「あ、こうやって違った能力が2つ合わさると、個性になるんだ」っていうのを実感できたんです。
音楽も一緒で、デザインを軸足に様々なものに”ピボット”する感覚でディレクションできる、みたいな。そうやって紙の広告もWEBもできますってなった上で、今度はさらに音楽もやってるっていう、それくらいの感覚で仕事をしてないと、今はもう新しい人って思われないんですよね。会社内でも外部からも。それで、これからどうやって自分が生き残っていくかっていうところを考えると、やっぱり何かしら他の人にはない能力の組み合わせがないとなって思うんです。幸いにも今の会社でも音楽活動のことは公表できてるんですけど、そうすると「小山くんってCD出してるじゃん。曲作れるよね?」って言われたりとかして、今までなかった仕事がもらえたりするんです。だから、自分の場合も中山君と同じで、仕事を邪魔するどころか、むしろ活きていますね。

―おふたりとも、しっかりと相互作用があると。

中山:そうですね。というか、それがなかったら本当にやめてたかもしれない。別に「ラッパーになりたい!」っていう想いが強かったわけでもないですし、今でもイラストレーターとしての自分の方が強いのは確かです。でも、「イラストレーターになるなら、音楽やめなきゃ」とか、「ラッパーになるんだったらイラスト捨てなきゃ」みたいな考え方って、僕はちょっと違うなって思います。別に両方できるんだったらそっちの方がそりゃおもしろいいんじゃないかなって、単純に思うんですよね。


【リリース情報】

中小企業 『NESS』
Release Date:2017.03.15 (Wed.)
Label:OMAKE CLUB
Price:¥1,111 + Tax
Tracklist:
1 intro
2 NESS
3 FUGA
4 午後の人
5 Wonder
6 Massage Time
7 ALICE feat. Kiki vivi lily
8 Through sodafish
9 車と雨
10 outro
11 伊香保温泉-湯めぐり旅路- YOSA remix

■中小企業 オフィシャル・サイト:http://chushokigyo-web.com/


【イベント情報】

“オマケのイベント”
日時:2017年4月1日 (土)
会場:代官山UNIT
出演:
TOKYO HEALTH CLUB
中小企業
YOSA
JABBA DA HUTT FOOTBALL CLUB
MCpero
UKR
chop the onion
munnrai
TOSHIKI HAYASHI a.k.a. %C

■詳細:http://www.omake-club.com/omakenoevent2017/

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