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INTERVIEW / TOKYO HEALTH CLUB


「『未知との遭遇』っていうのは、自分たちにも当てはまる言葉」――未知の領域へと足を踏み入れた新作はどのようにして生み出されたのか

2017.05.18

昨年老舗ヒップホップ・レーベル〈Manhattan Records〉へ移籍し、3rdアルバム『VIBRATION』をリリースしたTOKYO HEALTH CLUB(以下:THC)が早くも待望の新作とともに帰還!

『MICHITONOSOGU』=「未知との遭遇」と名付けられた本作では、これまで以上にクールかつソリッドなヒップホップを展開。これまでの色彩感覚豊かな景色から、一気にモノクロの怪しげな世界へと足を踏み入れたかのような作品となっている。

自らのパブリック・イメージを常に刷新し続けようという姿勢を一貫するTHCが今作で思い描いた世界観とは、果たしてどのようなものなのか。また、レーベル移籍を機に、活動のフィールドが拡大したことは作品にどのような影響を与えたのか――今回はTSUBAMEの自宅兼〈OMAKE CLUB〉のスタジオでインタビューを敢行。この異色の新作『MICHITONOSOGU』がどのようにして生まれたのかを訊いた。

Interview by Takazumi Hosaka
Photo by Yuma Yamada


―THCの新作についてお聞きする前に、まずは4月1日(土)のエイプリルフールに開催された”オマケのイベント”についての感想をお聞きしたいと思います。東京で〈OMAKE CLUB〉所属アクトがあれだけ大々的に集まるのおそらく初めてですよね。

TSUBAME:そうですね。僕はレーベル・メンバー全員知ってるんですが、客演参加の方には初めて会う人もいて。

DULLBOY:chop the onionさんとか、客演してくれたカイオンザマイクさんとかNOPPALさんとかは初対面だったよね。

TSUBAME:カイオンザマイクさんは僕ですらも初めてでしたからね。あとTAKUMA THE GREATさんもちゃんと喋ったのはあの日が最初かな? っていう感じで。

―昨年に静岡で集まった”OMAKE NIGHT”以来にして、過去最大規模のイベントになったと思いますが、やはり感慨深かったんじゃないでしょうか。

JYAJIE:レーベル始めたばっかの頃、渋谷Star loungeで”OMAKE NIGHT”っていうイベントをやったんですけど、スカスカで。

TSUBAME:全然認知度もなかったので集客ができず。「もうイベントなんてやらねぇ」って、懲り懲りしてたんです(笑)。

DULLBOY:知り合いしか来てくれてなかったもんね。

TSUBAME:静岡の”OMAKE NIGHT”は向こうのオーガナイザーさんにお呼ばれする形だったので、自主的にやったのはそれ以来ってことになるんですかね。う〜ん、感慨深かったかなぁ……。如何せん、あの日は風邪が酷くて(笑)。フィナーレでステージ上で話していたときとかも、朦朧としていてあまり覚えてないんです(笑)。

JYAJIE:打ち上げもソッコーで帰ったもんね(笑)。

TSUBAME:翌日39度の熱が出てました(笑)。

―そうなんですね。個人的にはあんなにエモいTSUBAMEさんを観れたのが貴重だったなと思ったのですが(笑)。

TSUBAME:でも、やっぱり感慨深かったと言えば感慨深かったと思います。ようやくこれだけ集めることができたなって。

SIKK-O:自分のレーベルから発信した人たちだけを観に、あれだけの人が集まって来てくれたんだからね。

TSUBAME:そうだよね。あと、ジャバ(JABBA DA HUTT FOOTBALL CLUB)をトリにしたのはレーベル的にとてもよかったと思いました。お陰でイベントがちゃんと締まったよね。

―なるほど。では、THCの新作ミニ・アルバム『MICHITONOSOGU』についての話に入らせてもらえればと思います。そもそもミニ・アルバム/EPという形態でのリリースっていうのはかなり久しぶりですよね。

SIKK-O:そう言われてみればそうですね。そもそものキッカケは前作(3rdアルバム『VIBRATION』)から1年近く経つので、何かアクションを起こさないといけないねっていうムードが出てきて。

TSUBAME:ムードとプレッシャーがね(笑)。

SIKK-O:あとはライブの本数も結構こなしていたので、そうすると自分たちも「そろそろ何か新しいことをやりたいな」って思ってくるんですよね。

JYAJIE:ただ、フル・アルバムを作る気力はないよっていうね(笑)。

―これまでのペースに比べると、なかなかに早いペースでのリリースとなるような気もします。

SIKK-O:正直、〈Manhattan Records〉に在籍しているっていうのが一番大きいですね。たぶんそうじゃなかったら、もっとのんびりしちゃってたと思います(笑)。

TSUBAME:今はいい感じに火を着けてくれる方々がいるので、「じゃあ、やろうか」って。

―では、今作のタイトル・トラックにもなっている「MICHITONOSOGU」という曲はどのようにして出来上がった曲なのでしょうか?

SIKK-O:今回のミニ・アルバムの制作に着手する前に、「今までやったことない感じに挑戦しようね」っていうのはみんなでなんとなく話していたことで。元々この「MICHITONOSOGU」は最初は全然違うトラックだったんだよね?

TSUBAME:名残はあるけど、結構ガラッと変えたね。

SIKK-O:もっと怪しいというか、暗い感じで。それを聴いたとき、「これいいじゃん!」ってなって、テーマを決めるべく色々と話し合ったんです。「宇宙っぽいよね」とか、「昔の映画っぽい」とか。そこから「じゃあ『未知との遭遇』にしようか」って言ったら、思いの外みんなシックリきて。この「未知との遭遇」っていうのは、新しいことに挑戦しようとしているおれらにも当てはまる言葉だし、これを1曲目に持ってきて、アルバム・タイトルにもしちゃおうっていう話になりました。この一曲が決まったことで、作品全体の方向性が見えてきたっていうか。

JYAJIE:前作はわりとポップに寄せていった感じもあったので。

SIKK-O:単純にその延長線上の作品にはしたくないっていう想いはみんなあったと思います。

JYAJIE:これは後々気付いたんですけど、1stの『プレイ』を出した頃にやりたかったけど、技術とかが追いついてなかった部分を改めてやっている感はあります。

SIKK-O:確かに。これまでの作品でいうと1stに一番近いかもしれないね。

―なるほど。

TSUBAME:今JYAJIEが言っていたように、前作とかは体外的な面も意識して作っていた部分もあると思うんです。でも、今作は本当に自分たちの内から湧いてくるものだけで作ったというか。「未知との遭遇」の「未知」は、言うなれば自分たち自身の内面にある、まだ曝け出したことのなかった部分なのかなって。メンバーやスタッフも含めて、そういった自分たちが挑戦したかった部分に恐れずに切り込むことが出来た。今作はそんな感じの作品ですね。

JYAJIE:だからかわからないけど、制作期間も結構短く、サクッといけたよね。

SIKK-O:今年の1月くらいからだから、3ヶ月くらいでなんとかね。

TSUBAME:まぁ、それでも〆切はかなりギリギリだったけどね(笑)。

JYAJIE:でも、今回はここ(〈OMAKE CLUB〉のスタジオ)でレコーディングできたっていうのが大きかったですね。原点回帰的な。

SIKK-O:前作はちゃんとしたレコーディング・スタジオを借りて、エンジニアさんにもついてもらって。それはそれで自分たちにとっては初めてのチャレンジだったので、やってよかったなって思うんですけど、今回はTSUBAMEが自宅にいい機材を揃えてくれたので、「じゃあ、ここで録ろうぜ」って。

TSUBAME:外部の方と一緒に仕事できて、録り方とかミックスの方法とかの部分でかなり勉強できたんです。そうやって知識を得たので、今度はそれを活かしつつ、また自分たちだけでジックリと作り上げていこうって。


―ちなみに、映画の『未知との遭遇』のファンだった、ということはなく?

DULLBOY:いや、全然。昔、観たことあったかな〜っていうくらいで(笑)。

JYAJIE:映画の存在はもちろん頭にあったんですけど、そこ発信ではなくて、あくまでも言葉先行でしたね。自分たちのやりたいことともリンクしていたっていう。

―そこからアートワークと、このアー写に繋がっていったと。

SIKK-O:そうですね。ただ、モノクロっぽい世界観っていうのはなんとなく楽曲を作っていくなかでみんなの中で共有できていた部分で。

TSUBAME:ちょっとクールにしたいというか。これまでのカラフルな感じとは少し違う感じにしたかったんだよね。

DULLBOY:今回はあまりユーモラスになり過ぎないように、正面からヒップホップを作ろうっていう想いがあって。

―そんな本作においても、先行配信曲である「supermarket」は一際ポップでキャッチーな一曲となっていますよね。

TSUBAME:クールな感じで先に3曲くらい固まり始めていたんですけど、「キャッチーな曲が1曲はないと安心できない」ってSIKK-Oに言われて(笑)。

SIKK-O:ただ、トラックはポップなんですけど、リリックの面では内面的なことに言及しているというか。そういうところで新しい一面を出せたんじゃないかなって。

―「supermarket」は、プレス・リリースによると「意味のない欲には勝てない日々を、日常目線で綴った」とのことでしたが、個人的にはMC陣3人が自分たちのこれまでを振り返っているかのようなイメージを抱きました。

DULLBOY:そうですね。自分たちのことに深く突っ込んだのは初めて……なのかな?

SIKK-O:今までは自分たちの外の風景だったり話しだったりを綴ることが多かったと思うんですけど、そろそろ自分たち自身に向き合ってみたというか。

JYAJIE:やっと本性が見えた感があるよね。血が通ったというか。

TSUBAME:MC陣それぞれの性格がわかるような曲になってますよね。

SIKK-O:そういうのって結構恥ずかしい部分もあるし、今まで中々できなかった部分でもあるんです。でも……

JYAJIE:やってみたら意外と大丈夫だったよね。

―この曲のテーマ自体はどのような話の流れで決まったのでしょうか?

SIKK-O:これも言葉先行で、ふと近くのスーパーマーケットの前を通った時に、「『スーパーマーケット』っていう言葉、使いたい」って思って。

JYAJIE:同時に「虚無感」みたいなものをテーマにした曲を作りたいって話しも出ていて。それを直接言うのも何か違うなってなり、それを言い換える言葉としてその「スーパーマーケット」が浮かび上がってきたんです。ちょうどその頃くるりの「琥珀色の街、上海蟹の朝」とかを聴いていて、ああいうフックで突拍子のない言葉を歌うのって、何かグッとくるなって思って。

SIKK-O:猿岩石も「コンビニ」っていう曲歌ってたしね(笑)。基本的にこの「supermarket」はみんな散歩の風景を歌ったものなんですけど、タイトルをそのまんま「散歩」にしちゃうのも芸がないというか。それよりも、MC陣それぞれがスーパーマーケットまでの道のりを綴るっていう風にした方が、何か全体的に締まるって思ったんですよね。

―個人的にはtofubeatsの「SHOPPINGMALL」とリンクする部分も感じました。

DULLBOY:他の人にも言われて聴いてみたんですけど、確かにリンクする部分がありますよね。

JYAJIE:世の中的にああいう「虚無感」みたいなものが蔓延しているってことなのかもしれないですね。

DULLBOY:そういう世相を読み取るSIKK-Oのアンテナみたいなものがね、tofubeatsさんと同じような鋭さを持ってるってことで(笑)。

―MVにもその「虚無感」みたいなものが反映されていますよね。あれは完全に古屋蔵人さんのアイディアで?

JYAJIE:そうですね。実は僕ら的には物語仕立てな感じの方がいいんじゃないかなって思ってた部分もあるんですけど。

TSUBAME:でも、これやりたいんですっていうプレゼンをしてくれて。気づいたら高所作業車に乗ることになってました(笑)。

DULLBOY:実際に撮影した際は思いの外強風が吹いていて、死の危険を感じましたね(笑)。

―なるほど(笑)。話をミニ・アルバムに戻しますが、2曲目の「TAXI」はジャジーなトラックで、これも今までのTHCにはなかったような要素と言えると思います。

TSUBAME:はい。これはDULLBOYのせいというか、彼のおかげです。元々違う候補曲があったのですが、「何かこのトラック、嫌なんだけど」、「もっとカッコいいのでラップしたい」って言い始めて。それに少しカチンときて、「じゃあカッコいいの作ってやるよ」って言ってできたのが「TAXI」ですね。

DULLBOY:ある程度ミニ・アルバムの全貌が見えてきている中で、その曲だけ何かピンとこなかったのでイチャモン付けてみて(笑)。「もっと何か違うのあるだろ!」って突っついてたら最高のトラックが出てきました。

JYAJIE:急にこの曲でテンション上がっちゃったもんね(笑)。

TSUBAME:普段は中々リリック書いてこないくせに、この曲に関しては他の2人にもディレクションとかしたりして。責任感持ってやってたよね(笑)。

DULLBOY:でも、この曲もテーマはSIKK-Oのアイディアでワード先行でしたね。「タクシーって言葉を使いたい」っていう。

SIKK-O:最初はおれらがタクシーに乗って、それぞれどこかへ行くっていう内容にしようとしたんですけど、それだと何か今までと変わらないような気がして。最終的にはDULLBOYの案で、「タクシーでおれらのライブに向かう女性の視線」でリリックを書くことにしました。

JYAJIE:そうすることによって、映像がパッと浮かんできたんですよね。

―続く「東京Swingin’」はWEGOとのコラボ企画へ向けての楽曲ですが、これもミニ・アルバム収録に際して録り直していますよね。

SIKK-O:おれらの中ではもう別の曲って言えるくらい大幅に手を加えていて。リリックも考え直しましたし、レコーディングもやり直して、このアルバムに相応しいように仕上げました。

―では、「Skit -キャトルミューティレーションPart.2-」は先程も少し話に上がった1stアルバム『プレイ』に収録されていた「キャトルミューティレーション」の続編的な一曲ですが、これはやはりタイトルそのものが本作の世界観とリンクするから?

JYAJIE:そうですね。唯一SF的なエッセンスのあった曲だったので、また引っ張り出してきました。

SIKK-O:この曲は最初はリリックもなしで、インストのスキットにする予定だったんですけど、トラックもいい感じに仕上がったし、ラップも乗せやすそうだねってことになり。

JYAJIE:TSUBAMEが「ラップ入れてみてよ」って言い出して。

SIKK-O:わりとサクッと、1日くらいでみんな完成させたよね。前回のワードを引っ張ってきつつ、あの当時よりもラップが上手くなったおれらの成長ぶりを発表するっていう(笑)。

DULLBOY:僕ら全員、何だかんだこういうB級SF映画みたいな雰囲気が好きで。何か収まりがいいんだよね。

―「IT’S ALL RIGHT」にはkiki vivi lilyさんをゲストに招いていますが、彼女は中小企業のアルバムにも参加していましたよね。これまでのTHCの楽曲に女性ボーカルとして参加していたMCperoのキュートな声とはまた違った、大人の色気を湛えた歌声が本作のカラーにも合っていますよね。

TSUBAME:そうですね。”オマケのイベント”にも出演してくれましたし、〈Manhattan Records〉的にも唾奇くんとSweet Williamくんのアルバムにも参加していたりと、何かと繋がりがあったっていうのと、あとは単純に僕が彼女の声をすごい好きで。

―全体的にクールなカラーで統一された本作において、ポジティヴに振り切ったこの楽曲のリリックはある種のギャップを感じられます。

SIKK-O:わりとみんな性格的にはネガティヴというか、内向的な人種のおれらが、逆にめちゃくちゃポジティヴなことを言い切るっていう、ある種の皮肉というか。でも、意外とやってみると難しくて。一番この曲が時間かかったかもしれないですね。

JYAJIE:フックもフックで時間がかかって。最初は完全に僕が歌ってたんですよ。でも、それが全然よくなくて(笑)。なので、そこに女性ボーカルを入れたらいいんじゃないかなって、kiki vivi lilyさんにお声がけして。最初に返ってきたデモの段階で「コレでいこう!」ってなったもんね(笑)。

TSUBAME:kikiさんの声が入ったことで完成しました(笑)。

―今回のこの『MICHITONOSOGU』で自分たちの新たな一面=未知なる一面にも遭遇できたとのことですが、それを踏まえてTHCの今後の歩行性というか、展望みたいなものは何か見えていますか?

SIKK-O:今後の展望は苦手なんですよね……(笑)。でも、基本的には「こういう曲をライブでやりたい」っていうのを念頭に置いて作っている部分があるので、ライブで披露したりして、その反応次第で次の動きが決まるのかなって。
あとはこれまでもそうだったんですけど、例えば「CITY GIRL」のMVで知ってくれた人とか、前作『VIBRATION』から俺らの作品を聴いてくれた人たちに、今回の作品がどう響くか。そういうところは素直に楽しみですね。

JYAJIE:わりとそういう想いは毎回あるよね。

―作品やライブに対するリアクションが、次の動きや方向性を決める要因になっていると。

TSUBAME:むしろそれが原動力と言ってもいいくらいで。僕ら的には毎回延長線上じゃなくて、違うことをやってるつもりなので、「こんなのどう?」って提示したものに対して、どういった反応が返ってくるのか。もしくは「こういうのを作ると、こういう風に解釈されるんだ」っていうことを受けて、次はもっとヒネクレたことやってやろうとか。根がヒネクレものなので、そういうところが作品を作り出すエネルギーになったりしていますね。


【リリース情報】

TOKYO HEALTH CLUB 『MICHITONOSOGU』
Release Date:2017.05.17 (Wed.)
Label:LEXINGTON Co., Ltd. / OMAKE CLUB
Price:¥1,500 + Tax
Cay.No.:LEXCD17009
Tracklist:
1.未知との遭遇
2.TAXI
3.東京Swingin’
4.Skit -キャトルミューティレーション Part.2-
5.IT’S ALL RIGHT
6.supermarket

■TOKYO HEALTH CLUB オフィシャル:http://tokyohealthclub.com/


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