INTERVIEW

ラッキーオールドサン

「変わらずに歌い続けていくっていうことが一番大事」――新作で迷いを断ち切ったラッキーオールドサン、彼らが目指すその先とは

待望の新作となる2ndアルバム『Belle Époque』を4月にリリースした男女2人組、ラッキーオールドサン。

まるで先祖返りのようにルーツ・ミュージックへの憧憬を全面に出した前作『Caballero』とは一転、本作では再びナナ(Vo.)による素朴ながらも求心力のある歌声を軸に、どこか懐かしい歌心のあるポップ・ソングを響かせている。

ソングライティング、プロダクション共に確かなクオリティの向上を感じさせながらも、その誠実さに由来する不器用さのようなものが強く滲み出ている本作は、きっとこれまで以上に多くの人々の心を掴むはずだ。

公開が遅れてしまったが、今回はそんな本作がどのようにして生まれたのか、その背景を探るためにラッキーオールドサンのナナ(Vo.)と篠原良彰(Vo./Gt.)に話を訊いた。

Interview & Photo by Takazumi Hosaka


―まず2015年7月には1stフル・アルバム『ラッキーオールドサン』を、2016年にはミニ・アルバム『Caballero』をリリースし、そしてこの度待望の2ndフル・アルバム『Belle Époque』をリリースしましたが、この1年ほどの期間はバンドにとってどのような期間だったといえるでしょうか?

篠原:そうですね……。同じところを何周も回っていたような感じというか。1stの時もミニ・アルバムの時も、そしてこの2ndアルバムも、それぞれにおける自分たちがやりたいことっていうものが変わり続けていて。

―2016年にはミニ・アルバム『Caballero』のリリース以降、バンドとして立ち止まってしまった時期もあったとのことですが、それは一体何が原因だったのだと思いますか?

篠原:それがわからないんですよね。ナナさんは大学の卒業とかと被ってたんだよね。

ナナ:昨年大学を卒業して。そのくらいのタイミングで『Caballero』をリリースしたんですけど、その辺りから「(ラッキーオールドサンとして)どうやってやっていけばいいんだろう」っていう風になった時期があって。バンドのこともそうですけど、それ以外の生活みたいな面も含めて。あれは、なんでだったんですかね……(笑)。

篠原:おそらく1stアルバムを出して、若干ランナーズハイみたいな状態になっていたっていうのがたぶんあって。それが一旦落ち着いた時、その反動がきたというか。風を全く感じなくなってしまったんですよね。自然に任せようとしても、その任せるべき流れみたいなものも感じられなくなってしまった……。っていうのが、『Caballero』をリリースして以降に感じていたことですね。

―それは外的な要因だったのか、それとも内的な要因だったのか。どちらだったと思いますか?

篠原:うーん、どちらだったんでしょうかね。個人的には厄年だったっていうのもあったような気がして(笑)。ただ、確かに環境の変化みたいなものもあったと思いますし、自分たちの中での上がったり下がったりっていうタームにたまたまハマっていただけっていう気もします。あとは、作品を出す度にもらう反響というかレスポンスみたいなもので、自分たちを見失っていたっていうのもあるかもしれません。もちろんそういう声をたくさん頂けるのはとても嬉しいことだったんですけど、そういった外から見た僕らのイメージと、自分たちの本当にやりたいこととの折り合いの付け方がわからなくなったというか……。
『Caballero』っていうのはそういう想いを整理するためにも、一旦ルーツ・ミュージックに思いっきり傾倒してみようっていうようなアルバムだったんです。ただ、そこで一回内省してみて、「じゃあ次はどうしようか」ってなった時に、まさかの無風な状態になってしまったっていう。

―そういう立ち止まっていた時期を抜け出すキッカケとして、自分が高校生だった頃に録音したカセットテープとの出会いがあったそうですね。それを抜けた出して以降は、作曲や演奏面で変化は起こりましたか?

篠原:一番大きいのは僕がハーモニカを始めたことですかね。今までやったことはなかったんですけど、そういう新しいことにトライしてみたくなって。そういうわりと泥臭いことに挑戦してみようっていう気持ちになったんですよね。

ナナ:始めたのは昨年くらいからだったよね。

篠原:そうだね。Bob Dylanとかに傾倒し始めたっていうのもありますし、自分たちのそういう核になっているようなものを、もっと恥ずかしがらずに出してもいいんじゃないかって思って。もうカッコつけたりせずに、下手くそでもとりあえずやってみようって。

―その立ち止まっていた時期はゆるやかに脱していったのか、それともどこかのタイミングでバシッと切り替わったのでしょうか?

篠原:個人的にはパキッと切り替わったっていう印象ですね。初めてハーモニカを吹いたライブくらいから、なんとなくやっているんじゃなくて、「今、自分たちがやりたいことをちゃんとやってる」っていう気持ちが強く湧いてきて。

ナナ:確かに。ハーモニカ入ってから変わったっていう感じはありましたね。もっと言ってしまえばその前の、ハーモニカを初めてスタジオに持ってきた時から、何か変わっていきそうっていう雰囲気があって。

―なるほど。では、今作『Belle Époque』はいつ頃から決まり、いつ頃から制作に臨んだのでしょうか。

篠原:音楽的な部分で、「こういう作品を作りたい」っていうようなイメージは大分前からあったものなんです。今作の中では「さよならスカイライン」っていう曲が一番古いんですけど、アノ曲は1stをアルバム作っていたのと同時期くらいから既にあって。その時からなんとなく構想はあったんですけど、それをずっと寝かしていたような感じで。実際に録り始めたのは……いつくらいだったっけ?

ナナ:レコーディングは昨年の11月とか。

篠原:じゃあ動き始めたのは昨年の夏くらいからだよね。実はアルバムを作り始める時に、レーベルの方にウソをついて。とにかく作りたいっていう想いが先行していたので、「もう7〜8割方できてます」って言って説得したんですけど、実は4割くらいしかできてなくて(笑)。
それでも無理矢理作ったっていう感じでは全然なくて。できなかったら延期させればいいんじゃないかって勝手に思ってたんです。でも、これは冗談じゃなくて、今回は本当に徹底的に作り込んでやろうって思っていて。極論、納得いかなかったら絶対出さない。できなかったら来年でも再来年でもいつまでも待とう、みたいな。それくらい強い想いをもって制作に臨んでいました。

―「さよならスカイライン」を作った頃から考えていた構想というものは、言語化するとどのようなものになりますか?

篠原:ユーミン(荒井由実)の『COBALT HOUR』(コバルト・アワー)っていうアルバムの存在が一番大きくて。特にドラムの音に対するこだわりですかね。あの当時、70年代とかの「パスパス」っていうデッドな音。あれを今やったらおもしろいんじゃないかっていう思いがあって、そこから膨らませていったっていう感じですね。
元々『COBALT HOUR』はずっと前から好きな作品で。やっぱり参加ミュージシャンもその当時の凄腕の方たちが集まっていますし、ひとつの時代を象徴するような作品でもあると思うんです。

ナナ:単純に、好きな曲がいっぱい入ってるんですよね。「ルージュの伝言」とか。

―今作『Belle Époque』とは違い、『Caballero』では自分たちのパブリック・イメージみたいなものを変えたいという想いがあったのでしょうか?

ナナ:というよりかは……渋いことがやりたかった。

篠原:そうですね。あの時は「今やらなくてもいいようなことを敢えてやってみたい」っていう想いがあって。それを経て、今度は「今しかできないことをやろう」っていう気持ちに戻ってきたというか。

―その「今しかできないこと」という部分を、もうちょっと具体的にお訊きしてもいいですか?

篠原:例えば「さよならスカイライン」にしても、曲自体は前々からあったんですけど、それをアルバムっていう大きい単位に落とし込むことができなかった。その曲に自分たちのメンタリティが追いついていなかった気がするんですけど、今作はそれがようやくできた。逆に、今それをやらないダメだっていう気持ちにもなったんです。

―意識がバシッと切り替わって以降、おふたりの曲作りなどに変化は起きましたか?

篠原:ナナさんの曲はいつも詩でハッとさせられることが多くて、今回もやっぱりそれはありました。ただ、1stとかの頃とはまた違って、なんだろう……。例えば今作には「ツバメ」っていう曲に「坂の多い街」っていう一節が出てくるんですけど、それは1stの頃ともリンクする世界観で。でも、そこから時が経ち、今の視点でそれを描き出しているような気がして。それが「今しかできないこと」っていう部分に通ずる変化なのかなって。

ナナ:驚いた点っていうと、今回は「フューチュラマ」っていう曲で初めて転調する展開を入れてみました。それはすごい新鮮なことでしたね。

篠原:僕らにとっては人生で初めての転調だよね。それも奇を衒ったりしたわけではなく、自然流れでそういう風になって。

―その「フューチュラマ」は篠原さんの歌い方の変化を強く感じさせる曲になっていますよね。

篠原:正直、最初の頃は自分が歌うことにちょっと抵抗もあったくらいだったんです。まぁ、今でも僕は「歌いたい!」っていう感じではないんですけど(笑)。
ただ、自分のそういう少し歪なボーカルが入ることも良しと思えるようになったというか、そういう部分も誇りをもって外に出していこうっていうメンタリティに、今回はようやくなれたんですよね。「フューチュラマ」には特にそういう精神が表れていますよね。

ナナ:もっともっと歌った方がいいと思うよ。

篠原:ハハハ(笑)。

―今作の『Belle Époque』というタイトルはどこからきたのでしょうか?

篠原:それも自然な流れなんですよね。「ベル・エポック」っていう言葉自体は元々知っていて。

ナナ:結構最初の頃の段階からタイトルは決まってたよね。

篠原:うん。最初は「平成」って書いて、「ベル・エポック」って読ませようと思っていたんです。「ベル・エポック」はフランス語で「佳き時代」っていうことを意味する言葉なんですけど、今が本当に良い時代なのかっていう疑問は確かにありつつ、それでもこういう言葉を今言っていかないといけないんじゃないかなって思って、このタイトルを付けました。
さっき言った個人的な変化にも繋がると思うんですけど、「今はこれしかできない」っていうようなことを、恥ずかしがらずにちゃんと出すっていうことがすごい大事なんじゃないかって。そういう意味での、「今が一番いいんだぞ」っていう想いも入った言葉になります。
ある意味では『COBALT HOUR』の時代っていうのも、佳き時代=「ベル・エポック」だなっていうことで、当時の音楽の力を借りてみたいっていう部分もあったり、色々な視点からこの言葉を捉えることができると思うんですけど、最終的に僕らにとっては過去を振り返るよりかは今を肯定する意味合いで使いたいんです。

―では、今作におけるサウンド面での挑戦を教えてください。

篠原:やっぱり一番こだわったのはドラムの鳴りで。全部ミュートして、タオルを巻いて、わざわざ天上の低いスタジオを選んで箱鳴りも抑えて、さらにバスドラの中にレンガとかを詰めたりして……。正直これだけデッドなドラムの音は、今流行ってるポップ・ミュージックを考えると、かなり違和感あるんじゃないかって思うんですけど、だからこそそれを今やるのがアツいんじゃないかなって個人的には思ったんです。初期のユーミンとかの作品に影響を受けている人は今もたくさんいると思うんですけど、ここまで音像を忠実にやろうと思って作られた同世代の作品っていうのは中々ないんじゃないかなって。
あとは、歌詞の面においても、今までこだわっていた部分とかを敢えて捨てるというか、解放してみたりしたんです。ササッと一筆書きで書いたようなリリックにより惹かれるようになったというか。

―そのこだわりというのは?

篠原:俳句とか五・七・五みたいな言葉のリズムっていうものを、これまではすごい大事にしていて。もちろん今でもその気持はあるんですけど、でも、そのリズムからはみ出す部分も、時にはそのまま入れてもいいんじゃないかって思うようになりました。今まではそういう部分も上手く調整して、リズムを重視していたんですけど、今回はもっとその瞬間瞬間の勢いみたいなものを大事にしたくて。
例えば「ベースサイドストリート」っていう曲だったら、本当に福生ベースサイドストリート(米軍横田基地に面する国道16号沿いの商店街)に行って、帰ってきた日にそのまま作りましたし、「フューチュラマ」も青梅に行ったその日に書いた曲なんです。そういう部分をとても大事にしました。

ナナ:篠原さんの書く詩は、いつも篠原さん自身がいる詩だなって思っていて。主観的過ぎず、客観的過ぎず、何か絶妙なんですよね。

―なるほど。

ナナ:あと、さっき篠原さんが言っていたのと同じように、私も曲を作るのがドンドン早くなっていってるなって感じていて。今作の曲も1日でできたのがほとんどで。何か、そうやって考えると、その瞬間瞬間を曲に出来ているのかなって思います。

―話を遡ってしまうのですが、今作『Belle Époque』にとって、そして今のラッキーオールドサンの精神性に大きな影響を及ぼしたであろう、低迷期間の脱出。そのキッカケとなった篠原さんの実家にあったというカセットテープについて、改めて詳しくお訊きしてもよいでしょうか。

篠原:正直、非常に恥ずかしいことなんですけど……(笑)。実家に帰って、昔のデモ・テープとかを整理していた時に、「2010」みたいな年号だけ書いてあるテープを発見して。「これは何だ?」と思って再生してみたら、突然過去の自分が語りだして……(笑)。

―それは自分で録ったことも覚えていなかったのでしょうか?

篠原:全く覚えてなかったんです(笑)。「東京に出て、ロックをやってやるぜ」みたいな、ものすごくエモくて、ものすごくエゴイスティックなことをずっとひとりで語ってるだけで……最初は笑って聴いてたんですけど、最後らへんで、「もうテープが終わりそうなのでそろそろ止めますが、これをもし未来の自分が聴いているとしたら、最後の悪あがきをズッと続けていてください」って言った瞬間に本当にプチって切れて。何ていうんだろう、その時にすごくハッとしたんですよね。何もわかっちゃいない――今もわからないことだらけですけど、外の世界を全く知らないのに、気持ちだけで喋っているような過去の自分と確かに目が合ったような気がしたんです。彼に負けてられないっていうか、ここでまだヘラヘラしてたらすごい情けないんじゃないかなって。そこから戻ってきて、ハーモニカを始めて。「Railway」って言う曲はその時に書いた曲ですね。

ナナ:何か篠原さんって度々そういうエモい話をしてくれるんですけど、この話はこれまでの中でも特にグッとくるエピソードでした(笑)。

篠原:いや、そりゃそうだよ。曲を書いたりする人間はロマンに生きないとダメだと思うんです。

―そのカセットテープがキッカケとなり、心機一転し、傑作と言える2ndアルバムをリリースしましたが、今後のおふたりにとっての、音楽と生活のバランスは変化していくと思いますか?

篠原:ちょっと話がズレてしまうかもしれないんですけど……昔、小池重明っていう真剣師(お金を賭けて将棋を指すギャンブラー)がいて、その人は将棋が鬼のように強かったらしいんですけど、その他のことには難アリで。波乱万丈な人生を歩んでいたらしいんです。それで最後は病床に伏せてしまったそうなんですけど、最後まで将棋にこだわって、将棋に生かされ将棋で死んでいったような人物なんです。それと、高田渡も言っていたように、「死ぬまで歌う」のが歌い手であって、自分たちもそうでありたいなって思います。僕ら自信も変化し続けるし、僕らを囲う環境もドンドン変化していくとは思うんですけど、それでも変わらずに歌い続けていくっていうことが一番大事なんじゃないかって。

ナナ:うん。どういう生活をしていても、歌うっていうことは私もやめないと思う。

―では、最後にラッキーオールドサンとしての今後の展望などを教えてください。

篠原:色々なところへ行って、色々な人に会いたいです。すごい地道な活動になるとは思うんですけど、それが何よりも一番大事なことなんじゃないかなって。何か具体的な目標のために音楽をやっているという以上に、今の気持ちを忘れずに、その時その時で自分たちがやりたいって思うことを素直に発表していけたらなって思います。

ナナ:私も色々なところへ行きたいです。遠くにライブをしに行っても、毎回色々な方が観に来てくださって。そういうひとたちに、会いにいけるのが嬉しいんです。

―意地悪な質問かもしれませんが、今後順調に活動の規模が大きくなっていったとしたら、そういったリスナーとの距離を保つっていうのことは難しくなると思いませんか?

篠原:それくらい活動が大きくなったら、それはやっぱり嬉しいことですけどね。でも、極論を言えば曲自体が僕たちの目線、思っていることだったりするので、例え物理的な距離が離れていってしまったとしても、曲を通すことでお互いに繋がっていられるはずなんじゃないかなって。僕らの曲を聴いて、何かを感じ取ってくれるひとたちとは絶対に目が合うと思うんです。それこそ高校生時代の僕と、今の僕がカセットテープを通して目が合ったのと同じように。そこはどんなに活動の規模が大きくなっても信じ続けていたいことですね。


【イベント情報】

2nd full album『Belle Époque』Release Tour
~ 佳き時代に生まれたね ~東京編(単独公演)

6/3(土)@下北沢シェルター
18:30開場/19:00開演
前売2500/当日3000円(+1D)
出演:
ラッキーオールドサン(DUO&BAND SET)

予約/問い合わせ
kiti label : info.kiti@gmail.com


【リリース情報】

ラッキーオールドサン 『Belle Époque』
Release Date:2017.04.12
Label:kiti
Cat.No.:ARTKT-014
Price:¥2,000 + Tax (CD)
Tracklist:
01.さよならスカイライン
02.ベースサイドストリート
03.フューチュラマ
04.写真
05.夢でもし逢えたなら
06.ツバメ
07.I want you baby
08.すずらん通り
09.Railway
10.Tokyo City Brand New Day

■ラッキーオールドサン オフィシャル・サイト:http://luckyoldsun2013.tumblr.com/

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