D.A.N.

Tempest

D.A.N. / Tempest
花は椿、命は海。そこにたゆたふ美々しきシンボリズム。資生堂の送るショートフィルムと、溺れゆく私の心と

資生堂の『花椿』秋号とのコラボレーション企画にて、D.A.N.「Tempest」を題材に、石田悠介氏の監督のもとショートフィルムが制作されたようです。音楽と映像の2つが紐づいているのは今季のテーマ、”美とリズム”。これまで私たちの脳裏に浮かんでは消えていった楽曲の美しいイメージが、ついにMVという形で現実化しましたね。

今回の内容は大きく分けて、次の2つの流れで。こちらの映像についてと、D.A.N.の音楽性そのものについて。

大洋と青年。海が呑み込み、肺が飲み込む、寸前――彼を主人公のように見せかけておきながら、実はこれ、他の若者たちに共通する”心象”なのでは。つまり、彼らの心の海原で漂う、とある実体なき存在なのかもしれません。そして、このシンボリックで主人公不在の作品からは、私たちはカタルシスを獲得し損なうことに。でも、それでいいんです。きっとこのフィクションはこの現実と地続きで、消費の対象ではない気がするので。

突き放すような終わり方のために、この群像劇は完結せず、物語としての気持ちよさも味わえない。(繰り返しますが)でも、それでいい。誰かの眼差しに立ち、追体験することはできなくとも、全員の気持ちをそれとなく察することは、不可能じゃありませんから。
だってこの時代、1人のストーリーを一方的に味わうよりもずっと、互いに傷を舐め合う方がリアルじゃないですか。でも実際には自分で現実に向き合うしかなく、たとえ何かに縋っても波は容赦無く……。だから、私たちは溺れかける。

また、そこから先の指南は供されていないことからも、かなり冷徹に現実が捉えられているのが窺えます。それこそ、安易なカタルシスで誤魔化されてはいません(快感が描かれているとすれば、それは唯一、冒頭で波が逆再生されている箇所:これはたぶん”忘却”)。ですから讃えるべきは、画面上の映像美以上に、石田監督の洞察力・表現力かと。

続いては、”美とリズム”というテーマをより追究して、D.A.N.の創り出す音楽そのものの美しさについて。
映像について考察してきたここまでの部分から、文脈、思考ともに区別したいので、サポートメンバーである小林うてなの「HABI」を一旦お聴きください。アクセントとして最適ですし、彼女自身の織りなす世界観こそ同様に、上記のテーマへ通じているはず。

さて、先ほどは人生の苦難として”波”という言葉を用いました。他方で『花椿』を実際に捲ってみると、D.A.N.の音楽について”異なる音同士が連なってひとつの波になる”と書かれています。音としては確かにそうですね、決して直線的じゃない。メンバー間(の違い)に生じる”ゆらぎ”はやがて、オーディエンスを巻き込む”うねり”へと増大してゆきます。

これは快楽、もうそれ以外にありません(ショートフィルムの内容はここに反するが、歌詞と同期している)。彼らのライブでゆらゆら踊る時の、恍惚で脳がシビれるあの感じ。恐らくその最中に命を奪われても、己の死すら気付かぬ次元で、音色の中へ溶け込んでゆく陶酔感。
霞がかり、ひんやりとした印象のサウンド・スケープを描くものは彼らの楽曲に少なくありませんが、その気持ち良さは曖昧ではないんですよ、全能感でカラダが火照るほどで。この爆発力を何かに喩えるならば……「ヴィーナスの誕生」ですかね。

しかしながら、これが”美しい”となるためには、メロディの雰囲気やその快感への言及だけではまだ足りておりません。喜びに奔放で在ることは魅力的かもしれないが、誘惑的なだけかもしれない。だから”律する”ことが必要なのです。全てを調和するために欠かせないのは、まさしく、リズム(律動)だと言えます。彼らはそこが実に秀でている。
メロディ/音色、テンポ/リズム、歌詞/歌唱法における相関性や、印象/現象、本質/実存、苦難/快楽などの対照性。そうした凡ゆる要素が二枚貝として噛み合った時、その中で、美の女神は命を宿すのです。
(まあ実際の絵画には1枚のホタテ貝しか描かれてませんけどね。笑)

“対比”の概念でさえハーモニーを奏でてしまうD.A.N.――本当に恐ろしい。


D.A.N. 『TEMPEST』
Release Date:2017.04.19 (Wed.)
Label:SSWB / BAYON PRODUCTION
Cat.Np.:SSWB-005
Price:¥1,800 + Tax
Tracklist:
1. SSWB
2. Shadows
3. Tempest
4. Tempest _Neutral edit_

ru_kawa

Curator

ru_kawa

内省的で知性美のある音楽を贔屓にしています。が、バイオレントなものも好きです。普段は暗く涼しいところに保管されたい